【秘酒の塔】2階のボール



<オープニング>


「ボールのようなモンスターです」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)が簡潔に述べた。塔の2階に潜む敵についてである。1階の魔獣に比べるとやや変わっている。もしかしたら階を重ねるごとに奇天烈なモンスターになるのかもしれない。
「その体を生かした体当たり攻撃が強烈です。弾力もあり、壁や柱で反射しての攻撃もしてきます。どうやって動きを止めるかが肝でしょう」
 しかしいかなる敵でも冒険者は屈しない。そこに美酒があるのならば!
「葡萄酒の次はなんでしょうかね。みなさんの帰還を待っていますよ」

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参加者
風色の灰猫・シェイキクス(a00223)
蒼浄の牙・ソルディン(a00668)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
氷の魔狼・ハヤテ(a01075)
華麗なる翔剣士・リリィ(a01132)
ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)
緋天の一刀・ルガート(a03470)
エルフの翔剣士・シェルト(a11554)
彷徨猟兵・ザルフィン(a12274)
終末誘う言霊遣い・スフェラ(a17718)
紫優想笑・ルー(a17874)
レディーハチェット・イルマ(a36060)


<リプレイ>


 入口の扉が、乾きに満ちた音を立てて開かれた。日にちを置いて再度訪れたこの秘酒の塔は前回と何ら変わりはない。1階に居座っていたモンスターがいないことを除けば。
「まったく変わったやつだね、こんなのをおっ建ててまるごと酒蔵にしようとは」
 今回初参加のレディーハチェット・イルマ(a36060)は内装を見渡しつつ唇を三日月形にした。何しろ彼女は酒場の女主人にして無類の酒好きである。
「今回も楽しみですよ。戦いがなければもっといいのですが」
「ま、勝利したご褒美って考えればより楽しめるだろうさ」
 紫優想笑・ルー(a17874)と終末誘う言霊遣い・スフェラ(a17718)の会話に相槌を打ちながら、奥にある螺旋状の階段を一列になって上り、2階へと至る。
 壁も床も天井も点在する柱も、1階とまったく同じ構造であった。そして――。
「なるほど、ボールですね」
 華麗なる翔剣士・リリィ(a01132)が中央に転がっている敵の容姿について述べた。そうとしか言い表しようがなかった。直径2メートルはあろうかという赤い球形が今回の相手。弾力がありそうだった。
 すぐさま戦闘の火蓋が切って落とされた。ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)が様子見なしにホーミングアローを放つ。敵の表情はまるで伺えないが攻撃を察知したらしく、ごろりと横に移動する。されど、いかに避けようとも必中する光の矢。軌道を変えて敵の体に食い込んだ。
「先手は取ったか。油断せずにいこう」
 氷の魔狼・ハヤテ(a01075)はハイドインシャドウで身を隠し、敵の観察に徹する。
 ボールモンスターが冒険者に向かって回転してきた。標的は定めない、当たれば誰でもいいという風な、愚直にもほどがある体当たり。しかし速い! 12人は慌てて陣を解いて猛突進を避ける。
「こういう時は本当に役立つな!」
 風色の灰猫・シェイキクス(a00223)が体を流しながらホーミングアローを射る。自動的に追尾するこの技はどんな体勢でも撃てて、勝手に命中してくれる。だが若干威力には欠ける。これだけではいつまで経っても致命傷にはなりえない。現に敵の勢いは少し弱まっただけだ。千見の賭博者・ルガート(a03470)は側面から一撃加えようと、今は機会を待つ。
「あれは受け止めるのは無理だな」
「だね。しかし――放っておくとさらに加速する」
 緋の剣士・アルフリード(a00819)は絶対食らわないようにとイリュージョンステップを駆使する。敵は停止しないまま旋回し始めた。
「うらあ! ゴロゴロうるさいんだよ!」
 イルマが事前にウェポン・オーバーロードで変形強化させた手斧を投げつけた。ブーメランの特性を持つそれは体の一部を削って戻ってくる。
 モンスターの体から蒸気が出た。沸騰したやかんのような、かん高い音が。
「……あれは怒っているようですね」
 蒼浄の牙・ソルディン(a00668)は眉をひそめながらソニックウェーブで追撃する。こういった形で相手の心理がわかるのは収穫だ。
「っと! 来た来た。まさしく怒りに任せた猪突猛進だ」
 全方位猟兵・ザルフィン(a12274)が居合い斬りの構え。すれ違いざまに攻撃しようと足腰を緊張させる。
「? しまっ……」
 敵は直前で加速し、そのせいで目測を誤った。ザルフィンは直撃は避けたものの、左半身にダメージを負う。
「ちっ。本当に接近戦は難しいな」
 飛翔せし飛燕・シェルト(a11554)は安全を優先し、ソニックウェーブを放った。わずかにかするばかりでダメージは小さい。
「いち早く動きを封じなければ長期戦になりますね。そうなれば体力で勝るモンスターに有利でしょう」
 ルーはザルフィンの怪我を見る。ヒーリングウェーブで何とか回復はしそうだが、次に同じのを食らったらどうなるかわからない。
「……気をつけろよ」
 スフェラはマッスルチャージで己を強化しながら、呼吸を整えるリリィを見る。
「ありがとうございます。……ではこちらに引きつけます。皆さん、お願いしますね」
 命を賭ける覚悟を決めた。彼女の頭上からまばゆい光――スーパースポットライトが照射された。
 敵はすぐさまリリィに向かって一直線。単純にして強力な体当たりはまさに砲弾であった。
 しかしそれは着弾することなく、さらに強い力に停止させられた。
 リリィが立っている場所は2本の柱の間。そこにハヤテの粘り蜘蛛糸が仕掛けられていた。よしと握り拳を作るハヤテ。戦闘に夢中のモンスターは彼の行動とその細い糸に気がつかなかったのだ。
「今こそ好機! やってやろうぜ」
 シェイキクスの気合に無言で応えるジースリー。ふたりが同時に射た矢は同時に命中する。
「これなら真横といわず正面からでOKだな」
「ま、球体の敵に横も正面もない気がするけどね」
 ルガートは堂々と接近しデストロイブレードで闘気を叩き込み、アルフリードはミラージュアタックの連続撃を浴びせた。敵の体から再び蒸気が噴出する。
「はは、さぞ悔しいだろうねえ!」
「まだです。手を休めずにいきましょう!」
 イルマが電刃衝を見舞ってさらに麻痺させ、ソルディンもリングスラッシャーで容赦なく刻んでいく。
「ふっ――! せい!」
 ザルフィンは今度こそ居合い斬りを炸裂させた。
 モンスターはようやく糸から離れ、よろよろと揺れている。一気呵成の集中攻撃は相当の傷を負わせたはずだ。冒険者たちは勝利を予感した。
 ――と、モンスターが跳躍した。落下スピードを存分に利用したのしかかりだ。しかも着地してもその弾力によりまた跳ね上がる。
「それほどの力を使うことはなく連続攻撃が可能、か」
 どのように迎え撃つかシェルトは思考する。体力切れを待つのは得策ではない。ならばやることは変わりない。隙を見つけて叩くだけだ。
 敵が頭上に迫ったその時、シェルトは分身した。同時切り上げのミラージュアタック。
 鋭い斬撃。攻撃に力を傾けすぎていたシェルトは上手く受け身を取れずに落ちた。
 ――そして、敵の体から体液が撒き散らされる。跳躍が鈍る。
「もはや囮は不要ですね! はあ!」
 洗練されたリリィの動きに、敵はついていけない。ゴージャス斬りがクリーンヒットした。シェルトを診ながらルーが叫ぶ。
「相手はもう瀕死ですよ!」
「わかってる! おおおああ!」
 スフェラの突き出した巨大剣が敵に深々と突き刺さった。
 瞬間、大きな破裂音がした。ボールモンスターは内部から爆発して絶命したのである。
「……手強くも妙な敵だったな」
 シェイキクスが床に腰を下ろし、深々と息をついた。天井を見上げ、この上のモンスターは何なのだろうと思った。
「ともかく、晴れて勝利だね」
 アルフリードが元気よく言う。
 しばしの休息のあと、一同は西側にある扉に目を向けた。きっとあの部屋に、この階の酒が秘蔵されているのだ。


 星が瞬きを見せる頃に木樽を持ち帰った冒険者たちは、酒場の扉をくぐった途端に熱烈な祝福を受けた。前回のことが噂として知れ渡り、今夜大勢の人々を集めたのだ。
 どん、と樽が皆の前に置かれる。
「さて、今回は何かね」
 シェイキクスが舌なめずりする。
 いよいよ樽を開けた。
 そうして姿を現したのは――琥珀色の液体。鼻を爽やかに突くピート香。生命の水とも称されるウイスキーだった。
「――何と美しい色でしょうか」
 ソルディンが感嘆するというよりは敬意を表する。完璧な熟成と呼んでよかった。まさに自然の為せる業だった。
 すぐさま大量の水と氷が用意された。ウイスキーは葡萄酒よりも度数が強く、水割りや氷を入れて飲むのが一般的だ。
 かくして冒険者たちは、それぞれの楽しみ方を決めてウイスキーで乾杯する。
「まずは匂いを楽しまないとね」
 アルフリードがグラスに鼻を近づけ、静かに息を吸い込む。飲んでもいないのに、芳醇味わいが口内に広がっていった。
「ウイスキーを一番美味しく飲む方法は、ウイスキー1に対し水が2.5とか聞いたことがあるな」
「そうなんですか。後で試してみましょう」
 ハヤテは水割りで、リリィはオン・ザ・ロック。もちろんどれが一番などと決めず、それぞれの方法で楽しむのがいいことは言うまでもない。
「お、ジースリーはストレートかあ。豪快じゃん。俺も挑戦してみよ……。うへえ! こりゃきつい」
 ひとり悶えるルガート。無口なジースリーは黙々と、度数を問題にしないように飲んでいる。恐るべし、とルガートは思った。
「ふう、確かにきつい。俺はほどほどにするよ」
 シェルトは酒に強くないことを自覚している。ザルフィンも頷く。
「自分のペースで飲んでこそ酒は美味いもんだ。……ところで彼女はどうしたのかね」
 彼女、とはイルマのことである。さっきまで中央で騒いでいたのだが今は隅で泣いている。さすがに気にかかり、ルーが声をかけた。
「あのう、どこかお体の具合が悪いのですか。……いや」
 これは、もしかして泣き上戸というヤツではあるまいか。イルマは酔いに垂れた目を向けた。
「うう。あたしゃ前は歌姫なんてのをやっててさあ。その頃を思い出すたびに若いっていいなあと気づくんだよ!」
 おいおいと涙に濡れる元歌姫。しばらく愚痴に付き合おうか、とルーは考えた。
「くく、面白えなあ」
 そして皆の様子を肴にするスフェラ。
 とまあ、楽しく賑やかな酒宴はますます盛り上がっていくのだった。


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