全ての人に愛の手を〜迷子の黒猫〜



<オープニング>


 ミアちゃんの一番の親友は、黒猫のベリー。額の白い星と、首に巻かれた真っ赤なリボンがトレードマーク。
 どこへ行くにも二人は一緒。一緒に遊んで、一緒に食べて、夜は一つの布団で眠る。そんな仲良しさん達も、時には喧嘩もしたりする。
 事の発端はミアが大切にしていた人形だった。その人形をちょっとあちこち毛皮の剥げたベリーが『そっと』口にくわえて持ってきたのだ。人形には無数の歯形が刻まれ、綺麗だった金髪もグシャグシャ。流石のミアもこれには怒った。
「ベリー!」
 しかし、ベリーはキョトンとミアを見上げるだけ。収まらないミアは怒りにまかせて、近くのクッションを投げつけた。
「ベリーの馬鹿!」
 ベリーはそのまま窓から逃走。お昼を過ぎても戻らない。
「ベリーの馬鹿」
 日が沈んでも帰らない。
「ベリーの、馬鹿」
 夜が更けても帰らない。
「ベリーの……馬鹿……」
 ミアは寂しく一人ベッドに入った。

 その辺境の小さな町に黒衣の閃迅・レオニード(a00585)がふらっと姿を現したのが偶然だとすれば、そんな彼が町角で泣いている少女に目を留めたのは、なんと呼べばいいのだろう。
「ヒック、ヒック、ヒック……」
「どうした? なぜ、泣いている?」
 静かな口調で話しかけるれレオニードに、少女―ミアは、しゃくり上げながら、必死に言った。
「ベリーが、ベリーが、いなくなっちゃったの。戻ってこないの……」
 まだ幼い少女の話。ましてや泣きながらの話を聞き取るのはなかなかに骨の折れる作業だが、レオニードはゆっくり時間をかけて、少女から詳しい事情を聞き出した。
「どうしよう、ベリーが帰ってこなかったら、どうしよう……」
「わかった。まかせろ」
 レオニードは少女の頭にそっと手を乗せた。

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参加者
黒衣の閃迅・レオニード(a00585)
涼音蒼銀月・エリアノーラ(a10124)
窺天鳥・カシエル(a32061)
無垢なる盾・プリマ(a32347)
夢幻の彷徨い人・エリシャ(a34062)
緋なる薄き境界の騙り手・ラクナク(a34086)
儚の護師・クリステラ(a34383)
傍を通り抜けるそよ風・ジュエル(a36859)


<リプレイ>

●少女の泣き顔
「この子が今回の依頼人だ」
 そう言って黒衣の閃迅・レオニード(a00585)は、目を真っ赤に晴らした少女―ミアの肩をポンと叩いた。
 ミアは上目遣いに、八人の冒険者の顔を覗き込む。涙に暮れる少女を威圧しないように気をつけながら、窺天鳥・カシエル(a32061)は少女に微笑みかえした。
「よろしくね、ミアちゃん。それでベリーの事、もう少しだけ詳しく教えてもらえないかな」
「うん……ベリーはね、真っ黒で、目が緑で、頭がちょっだけ白くて……」
 辿々しいながらも一生懸命説明を続けるミアに、 涼音蒼銀月・エリアノーラ(a10124)はフンフン頷きながら、その特徴を逐一メモに取る。
 同様に絵心のあるカシエルは何度か首を傾げながら、ベリーの姿を絵に描いていく。やがて出来上がった絵を見て、ミアは「うん、そんな感じ」と首を縦に振った。
「そうじゃ。何かベリーのものがあったら貸してもらえぬか。そういうものがあればベリーの警戒も少しは和らぐと思うのじゃ」
 そう言いだしたのは、儚の護師・クリステラ(a34383)だ。ミアはちょっと考えた後、走って家の中に戻ると、ちょっと古ぼけたタオルを持ってきた。
「これ、ベリーのお布団。ベリーいっつもこれで寝てるの」
「借りるぞ、必ず返す故」
 クリステラはそのタオルを受け取った。その間にエリアノーラはベリーの特徴を書き記したメモを複数枚作成し、全員に配る。
 再度確認したが、ベリーの行きそうな場所は三カ所、すなわち「裏路地」「住宅街の屋根の上」「村はずれの林」に限られるようだ。一行は、予定通り三手に分かれて行動することとなった。
「それじゃあ、昼過ぎに公園で合流しよう」
 レオニードの言葉を合図に、一同はそれぞれ三方向に散っていった。

●裏路地
 商店街の裏路地。細く曲がりくねった路地の左右は家屋に囲まれ、日差しはほとんど差し込まない。裏に積んである生ゴミを目当てに、野良猫や野良犬の姿がちらほらと。
 裏路地にやってきた、レオニード、エリアノーラ、無垢なる盾・プリマ(a32347)の三名は、手分けして聞き込みを開始した。
 レオニードが持参した魚や骨の臭いに釣られ、あちらこちらの物陰から、野良犬、野良猫が姿を見せる。
 レオニードがそれを放ると、しばし警戒心露わに周りのウロウロしたあと、一匹の痩せた野良猫が魚にかぶりついた。十分に魚が猫の腹に収まったところを見計らい、レオニードは「獣達の歌」を使う。
「ちょっと聞きたいんだが、良いかな♪」
 猫は何だとばかりに、こちらに顔を向けた。
「この辺りで黒の飼い猫を見なかったか? 赤いリボンをしている緑の目の猫だ♪」
「……見ないな」
 野良猫は首を傾げた後、すぐに食事を再開した。
「そうか、ありがとう♪」
 いきなり当たりが引けるわけもないと考えていたレオニードは特に落胆するでなく、その猫との会話をうち切った。
 その時、飲食店らしき店の裏口から、店員らしき姿をした青年が姿を現した。
 早速、エリアノーラが青年に尋ねかける。
「ちょっとよろしいかしら?」
「あ、ああ。なんだい?」
 声をかけられちょっと驚いた様子で、青年は答える。
「私たち、猫を探しているのですが、このような猫に見覚えはありませんこと?」
 そう言ってエリアノーラはベリーの特徴を書き記したメモを青年に見せた。
「ふんふん、黒猫で、赤いリボン……ん? んん? ひょっしてこの間小虎と喧嘩したやつのことかな?」
 小虎とは、大きな虎毛の野良猫で、この辺りのボス猫のことらしい。
「その猫、ひょっとして金髪のお人形をくえてませんでした?」
 勢い込んで身を乗り出すプリマに青年はちょっと首を傾げた後、ポンと一つ手を合わせた。
「そうそう、確かそうだよ。何か金色のものをくわえてた。あれ、人形だったのか」
 レオニード達は目を合わせて笑みをこぼした。どうやら、こちらの予想通り、ミアはベリーのことを誤解していたようだ。
「お忙しいところ、ありがとう御座いました」
 エリアノーラの礼を受け、青年は「あいよ」とかえし、裏口へと消えていく。
 人間の証人がいたのは実にありがたい。後はその「小虎」という猫と、ベリーを見つければ、問題は全て解決だ。
 レオニードの持参した魚と骨に釣られ集まる犬猫に、三人は交代で「獣達の歌」を使い、聞き込みを続ける。
「この中に、ベリーと小虎の喧嘩を見た人はいませんか♪」
 その結果、小さな黒猫と大きな虎猫の喧嘩を目撃したという証猫、証犬が多数見つかった。さらに、その喧嘩で小さな黒猫に負けた小虎は、ボスの座を追われこの地域から去っていったらしい。
 それらの事を聞きだしたレオニードはお礼に持ってきた魚と骨を全て配った。
「ありがとう、じゃあね♪」
「獣達の歌」を使っていたプリマは最後に礼を言った。
 しかし、仔猫、子犬と思しき数匹は、クンクンニャアニャア泣くだけでその場を去ろうとしない。
「ま、世の中ギブアンドテイク。こいつらの引き取り手を捜すくらいはしてもいいか」
 レオニードはそう言って仔猫の一匹抱き上げた。

●住宅街の屋根
 一方、夢幻の彷徨い人・エリシャ(a34062)、緋なる薄き境界の騙り手・ラクナク(a34086)、クリステラの三名は、住宅街で聞き込みを行っていた。まず、ラクナクが辺りに穀物を撒き、「獣達の歌」で小鳥たちに呼びかける。
「鳥さん鳥さん、ご飯があるよよっといで♪」
 集まってきた小鳥達に、ラクナクは訊ねた。
「猫のよくいる屋根、知りません?」
 穀物をもらった小鳥達は機嫌良く、猫のいる屋根を教えてくれる。
「ありがとう。そこに赤いリボンをつけた黒猫はいなかった?」
 その問いには、色好い答えは返ってこず、結局三人はそのまま、その猫のいる屋根に向かうのだった。

「猫さんいらっしゃい〜美味しいお魚ですよ〜」
 焼きたての魚の匂いを振りまきながら、エリシャが「獣達の歌」で猫達に呼びかける。
 流石に野良だけあり、無警戒に飛びつく者はいないが、その匂いは魅力的なのか、あちこちから野良猫が集まってくる。
 その群にラクナクは魚の干物を放り込んだ。
「ちょっと教えてくれませんか? 教えてくれたらもっとご飯上げますよ♪」
 ラクナクの言葉に、猫達はニャゴニャゴと同意を示した。
「首に赤いリボンを付けた黒い猫を見ませんでしたか?」
 ラクナクの問いに猫達は顔を見合わせるが、どうやら心当たりのある者はいないようだ。
 続けてエリシャが問いかける。
「最近喧嘩をした猫はいなかったですか? 人形を取り合った猫に心当たりはありませんか♪」
 今度は反応があった。最近この辺りに越してきた「虎毛の大きな猫」がどうやら喧嘩をしたばかりらしく、身体のあちこちが剥げていたという。しかし、見渡してもこの辺りにそれらしき姿は見あたらない。
 その時クリステラが物陰でふてくされたように、傷を舐めている大きな虎猫を見つけた。
「ふむ、お主か」
「フギャアァ!」
 警戒心も露わに、虎猫は覗き込むクリステラに全身の毛を逆立てて、威嚇する。
「そう警戒せずともよい。「癒しの滴よ」」
 クリステラはなだめるようにそう言うと、「癒しの水滴」で虎猫の傷を尚して見せた。
「フウゥ……」
 突然痛みが引き、戸惑っている虎猫にクリステラが「獣達の歌」で問いかける。
「お主が、ベリーと喧嘩をしたのじゃな。ミアの人形を持っていったのもお主じゃろう?」
 虎猫はふてくされたように横を向きながらも、肯定の意を示す。
「これに懲りたら二度と、人形を持っていたりせぬ事じゃ。良いな」
 虎猫は分かったというように、首を縦に振ると、クリステラのまいた魚の干物を一尾かっらさい、そのまま消えていった。
「どうやら、ここにはベリーはちゃんはいないようですね。そろそろ時間ですし、戻りましょうか」
 エリシャは太陽を確認して、そう言った。

●村はずれの林
 カシエルと傍を通り抜けるそよ風・ジュエル(a36859)の二名は、村はずれの林にやってきていた。もう冬と言うこともあり動物の姿はあまり見られない。
 しかし、木の上で丸くなっている一匹の猫を見つけたカシエルは「獣達の歌」を使い話しかけた。
「ねえ、この辺でこんな猫さん見なかった?」
 猫相手に似顔絵が通用するかちょっと疑問だったが、自分で書いたベリーの似顔絵をその猫に見せる。
 猫は眠たそうにしながらも似顔絵を見て、首を縦に振った。
「見た? どこで?」
 勢い込んでジュエルも訊ねる。猫はめんどくさそうにニャーと鳴いた。
「なんて?」
「獣達の歌」を使っていないジュエルには分からない。
「向こうにいるって」
 カシエルはそう言うと、早足で猫が教えてくれ方に向かった。ジュエルも後に続く。
 やがて二人は古木の根元で小さく蹲っている黒猫の姿を見つけたのであった。
 すかさずジュエルは「獣達の歌」を使い、黒猫に話しかける。
「お前がベリーか♪」
 首に赤いリボン、額に白い星、瞳はグリーンの黒猫。間違いはないと思いつつも、確認する。
「ニャア」
 黒猫―ベリーはそうだと答えた。
 カシエルも再び「獣達の歌」を使い、会話に参加する。
「ミアちゃんが泣いてる。大事なオトモダチが帰ってこないから〜ミアちゃんをもう一度笑わせてあげられるのは真っ赤なリボンの黒猫さんだけ〜♪」
 カシエルの言葉に、ベリーはすねたように首を横に向けた。
 カシエルは説得を続ける。
「君はミアちゃんの人形を守ろうとしたんだよね? 言えばきっと分かってくれる。伝えて上げる。だから一緒に帰らない?」
 ベリーはその緑の瞳でジッとカシエルの方を見た。
「そうだ。帰ろう。俺達がお前の言葉を伝えるから♪」
 ジュエルも説得言葉を重ねる。
 やがてベリーはニャアと鳴くと、カシエルの胸に飛び乗った。
「おっと」
 どうやら、傷が痛むのでこのまま連れて行け、ということらしい。
「それじゃ、戻りますか」
「ああ」
 無事、ベリーを確保したカシエルとジュエルはこうして林を後にした。

●合流、説明、ハッピーエンド
 ベリーを連れたカシエルとジュエルが戻ってきたときには既に、他の二組は戻っていた。
 カシエルの胸に抱かれたベリーを見て、ミアは喜びの声を上げる。
「ベリー!」
 ベリーはピョンと地面に飛び降りた。
「ゴメンね。ベリーゴメンね」
 ミアは泣きながら数日ぶりに親友を抱き上げた。
 既にミアは詳しい話を聞いていた。
 ミアの人形をボロボロにしたのは本当は別の猫で、ベリーはそれを取り返してくれたのだということを。
「ニャア」
 ベリーはザラリとした下で、ミアの涙を舐め獲った。
「もういい、気にするな。と言っておるぞ」
「獣達の歌」を使い、クリステラがベリーの言葉を通訳する。同時に横からエリシャが「癒しの水滴」でベリーの傷を癒した。
「凄い、ベリーとお話しできるの?」
「冒険者じゃからのう」
 目を丸くするミアにクリステラが微笑む。
 ミアは傷の癒えたベリーをしっかりと抱いたまま、みんなに向かった丁寧に頭を下げた。
「本当にありがとう御座いました」
「はい、またのご利用、待ちしてます」
 ラクナクはそう言って微笑む。
「それじゃあ、いくか」
 レオニードは連れてきた子犬、仔猫を引き連れてその場を後にする。
「ちょうどいい時間だし、このままどこかの喫茶店で祝賀会としないか」
 ジュエルの提案に皆、賛成の声を上げる。
「小さな笑顔がなによりの報酬。冒険者冥利に尽きるよね〜」
 カシエルは嬉しそうに微笑んだ。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/12/24
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