≪恋愛探求旅団 『赤い糸』≫愛色温泉・恋色粉雪



<オープニング>


「冬と言えば温泉だと思うのです!」
「なぁんv ジルちゃんは色々判って来たみたいなぁ〜んvv」
「ふふふ……メアリーさんの薫陶あってこそなのですよ……!」
 誰とは言わないが深雪の優艶・フラジィル(a90222) と壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)に良く似た人影が、旅団の片隅でぼそぼそと言葉を交わしている。ふふふ、と言う怪しげな笑みを洩らしている為か、何かの気配を嗅ぎ取ってか、他の団員たちは近付こうとしない。
「と言うわけで、ジルちゃんに御願いしたいのはやっぱり『冬』と『恋愛』って言うキーワードを満たした地元案内なぁ〜ん♪ もう直ぐフォーナも来ることだし、ホワイトガーデンで愛を深めるチャンスを作るなぁ〜ん♪ そしてメアリーはスバルちゃんと……はぁはぁv……」

「ところでメアリーさん、何故だかジルは前もこんなことがあったような気がします」
「きっと気のせいなぁ〜ん」

 そしてフラジィルが紹介したのは、ホワイトガーデンの優しい不思議パワーでピンク色の温水が沸いている場所だった。混浴ではあるが濁り湯であるため、余り色々を気にせずに入ることが出来るだろう。その温泉から少し離れた小さな山の頂には、時折、ほんのりとピンク色をした雪が降るのだと言う。
「これはとてもロマンティックで有名なのです!」
「なぁんv 素敵なぁ〜んvv」

 しかしフラジィルはやっぱり知らなかった。
 世界にはまだまだ知られていない秘密が沢山あるらしい。

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参加者
射手・ヴィン(a01305)
青想う朱狼・ヴァル(a01783)
堕落論・スバル(a03108)
天壌之劫火・ヴィス(a07278)
暁に誓う・アルム(a12387)
壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)
朱想う青猫・コーシュカ(a14473)
黄紗の片翼・アイシャ(a18420)
凶狼・ヴォルグ(a24791)
凶殲姫・ルルティア(a25149)
影刃影迅・アギリ(a27358)
盾となりし白雛菊・シトリ(a30012)
碧海の聖女・シルフィーナ(a35952)

NPC:深雪の優艶・フラジィル(a90222)



<リプレイ>

●何だか大変なことになりそうだ
「……女性の涙と肌は……切り札だと……思うんだ。そう簡単に……見せるのは……どうかな?」
 温泉の手前で悲しみ絶ち切る刃となる・アルム(a12387)が諭す。
 ふむふむ成る程確かに、と納得する女性陣。一部血涙を流す者も居るが、大半が安堵の息を吐いた男性陣。
 実際に行ってみると深雪の優艶・フラジィル(a90222)が知らなかったせいなのか、言わなかったせいなのか、世界の法則なのか運命なのかは判らないが、混浴露天風呂の他に簡素な脱衣所やら、身体を清める掛け湯の辺りは一応男女別々らしい。それなりに豊かな暮らしをしているエンジェルたち御用達なのかもしれない。
「でもタオルを温泉に持ち込んだりするのは、お湯を汚すのでやめましょう」
 変なところで真面目なフラジィルがそう結び、取り合えず一行は更衣室へ入る。

 腰に手拭いを巻いた影刃影迅・アギリ(a27358)が、露天風呂の清掃を頑張っている頃。

●貞操の危機と言う話
 皆が露天風呂に胸を高鳴らせつつ、赤い顔をしたり青い顔をしている頃。
 皆はまず掛け湯で身を清めていた。ふわふわの泡を立てて身体を洗う。ぷるりんぽよりらと大回転していた壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)は、「お背中洗ってあげるなぁ〜ん♪」とフラジィルに近付いた。柔らかなタオルで背を拭って遣りながら、ふと思いついて首を傾げる。
 フラジィルは照れた様子ながら嬉しそうだ。翼を洗う方法などを話題にするが、途中からメアリーは、何かを考えるように沈黙する。不思議に思ったフラジィルが振り返ろうとすると、
「なぁんv」
 迷わず後ろから抱き付いて胸を鷲掴む団長。
「ひああっ!?」

 女性用掛け湯の方角から聞こえて来た声に、アルムは静かに合掌した。序でに耳も塞いで置く。紳士のマナーと言う奴だ。
 以下、立派な人には聞こえていない会話。
「めめめめめありーさん何をっ……ふあ……」
「胸を大きくするおまじないなぁ〜んv」
「にゃ。や、ひあっ……ひゃめー!」
「なぁんv ジルちゃん可愛いのなぁ〜ん♪」
「んうっ、だ、だめですうっ……にゃ、ひゃああっ」

「お嬢、無事で居てくれ……!」
 モップを放り、思わず祈り始めるアギリ。
 祈りの声に興味を惹かれたか、元凶はフラジィルを放り出してひょこひょこ露天風呂に遣って来た。
「何してるのなぁ〜ん?」
 何処かを隠すメアリーでは無い。
 呼ばれたアギリが思わず顔を向けた瞬間、
「うおっしゃあああッ!」
 色々を防ぐべく蒼穹の守護者・スバル(a03108)の拳が舞った。力の限り舞った。
 ――男が恋人と男友達、殴り飛ばすとすればどちらであるか。
 アギリは何かを諦めたようなイイ笑顔で吹き飛んだ。

 ほぼ全員――温泉に入らぬ者も居るし、フラジィルは掛け湯の時点でリタイアした――が露天風呂に移動した頃、タオルを確りと巻きつけた静謐なる碧き女神・シルフィーナ(a35952)がこそこそと男性用掛け湯場へと移動する。
 目当ての人物は未だ其処に居た。
 ペットであり友人でもある狼たちの身体を洗って遣っていたようだ。
(「……うん、頑張って私!」)
 シルフィーナは拳を握ると、思い切って彼、天壌之劫火・ヴィス(a07278)に声を掛けた。
「あ、あの……宜しければ、御背中流しましょうか……?」
 正直に言えば、幾らバスタオルを巻いているとは言え、ほんのりと湯に当てられ色味を帯びた肌は目のやり場に困る。顔を見るのも気恥ずかしく、何処に視線を向けたものか判らなかった。かと言って、頬を染めながらも申し出た彼女の親切を断るには忍びない。
 掛け湯場には二人きり。
 頭の奥で響くほど高鳴った胸の鼓動。
 ある意味で――恐らく常識に照らし合わせれば、付き合っても居ない男女の関係としては非常に大胆なものであったのだろうが、この旅団の中では非常に――初々しい二人は顔を朱に染めながらもときめく時を過ごす。
 其の頃の露天風呂はと言えば――

●何だか凄いことになってしまった
 凶狼・ヴォルグ(a24791)はおたおたしている。鈍いと言われれば其の通りだが、混浴だなどとは聞いていなかった。
「そうそう簡単に素肌を晒すな……私以外の奴には、見せたくない」
 視線を逸らしつつ、ぼそぼそと言うも、
「……」
 一瞬、嫌な間を置いて、
「温泉で水着を着るのはマナー違反じゃぞ。タオルを湯に付けてもいかん」
 殺迅姫・ルルティア(a25149)は平らな胸を張って答える。確かに温泉は濁り湯で、肩まで使ってしまえば見えて問題になるものは何ら見えないのである。だが、見なければ良いと言う問題でも無い。
 彼の好意を確認し、ルルティアは放蕩の宴を使うことを決意した。
 ヴォルグはあたふたしている。
 ルルティアは獰猛な笑みを浮かべると、淫靡な紫煙をたゆらせた。

 ざばざばと音を立てて白き花を守り抜く桜・リヴェル(a35508)の頭に湯が振る注ぐ。
「うはは。ピンクの滝に打たれた気分はいかが?」
 子供っぽい笑みを浮かべながら、忠義に生きる白い花・シトリ(a30012)が桶に汲んだ湯を掛けたのだ。放蕩の宴の効果が出ているのか、随分と幼稚だ。仕掛けられた彼も驚いたように目を瞬くも、幾らか不機嫌そうな顔になる。
「主殿にも見せたかったなぁ……」
 はらはらと白雪が降り注ぎ始めたのを見上げ、シトリは溜息混じりに呟いた。
 中々に無神経な一言であるが、此れも理性が奪われているのが悪いのだ。彼の仏頂面も益々不機嫌染みて来た。それでも一番はリヴェルだと告げる彼女は我儘で、けれど、其れで十分と思えるほどに惚れた弱みと言うのは大きなもの。
「可愛いリヴェル……愛してるよ」
「俺も愛してるよ」
 軽いキスを交わし、肩を寄せ合って湯に沈む。
 穏やかに入浴を楽しんでいる者たちも居れば、放蕩の宴の効果が無い者たちも居る。
「温泉の効能はきっと恋愛成就・安産祈願・子孫繁栄とかなぁ〜ん!」
 根拠も無いが、無闇に明るい声が響く。
「メアリー、男の子がほしいのなぁ〜ん!」
 偽らない素直な感情が声音に溢れていた。
「スバルちゃんを洗ってあげたり、洗ってもらったりしたいのなぁ〜ん。メアリーが綺麗にしてあげるのなぁ〜ん♪ はぁはぁv」
 ピンク色の靄の向こうで一体何が起きているのか。
 少なくともスバルが色々と窮地に追い込まれていることは間違い無い。しかし、温泉に居る者たちは彼に救いの手を余裕を持っていなかった。
 旅団屈指の良識人アルムも、今や己の欲望に忠実だった。放蕩の宴の効果を受け、先程からばしゃばしゃと温泉の中を泳ぎまわっている。頭の上の手拭いは湯に落ちない。器用なものだった。此処に相手の居ないアルムとしては、残念ながらと言うべきか危機に晒されることも無い。
 彼女が此処に居れば殺気立って居ただろう自分をぼんやりと想像しつつ、アルムは濁り湯を泳ぎ続けた。

●理性が吹き飛ぶと言うこと
 ヴォルグはどぎまぎしていた。
 興奮し過ぎたのか、砂糖菓子のレシピを口走っている。如何現実逃避をしたところで、彼の膝の上にルルティアが座っていると言う事実は変わらない。滑々した肌の感触は甘美で、目や手のやり場に困窮する。
「理性の限界点というものが眼前に迫っているのだが……」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふ♪」
 理性で己を縛ることを放棄してしまっているルルティアは、慌てる彼を前に妖しい笑みを洩らした。
「ここまで近づくと……胸が当たって大変かなぁ〜?」
「……? 胸?」
「当たってるもん! 当たってるんだもん!」
 半ば泣きたくなりながらも主張するルルティア。
 此れでもかとヴォルグにぎゅうと抱きついた。
 危険だ。
 ゲージは真っ赤だ。
 こうなったら鼻血を噴いて気絶するしか無いのでは無いか。茹った頭でヴォルグは必死に考えた。

 アギリは普段、惚れた相手の年齢を其れなりに慮っている。
 歩調は当然合わせるつもりだった。一足飛びにあんなことやこんなことを、と言うのは思わないでも無いが相手の意思が最優先だ。
「皆さんも盛り上がっているので、楽しいことをしましょう?」
 そんな甘い声で囁いて、首に腕を回して耳に息を吹きかけるなんて、黄紗の片翼・アイシャ(a18420)に限ってまさかそんなことは在り得ないだろうと思ったことが、今実際に起きている。エマージェンシー。頭の中に警報が鳴り響く。
 先程まで彼女は、彼に熱燗を注いでくれたり、湯を掛け合ったり、所謂お風呂のお供アヒルさんで遊んだりしていただけだった。
 あわよくば抱き締めてしまおうと考えていたアギリとしては、アイシャが抱きついてきた挙句、
「……まだ、子供だから駄目ですか?」
 なんて上目遣いで言い出した場合、一体如何すれば良いと言うのか。
 ――据え膳喰わぬは男の恥。
「ち、違う!」
 ぶんぶんと首を振って邪念を振り払わんとするも、濡れた金の髪は甘く香り、彼の神経を刺激する。

 放蕩の宴の効果が終わる頃には、色々が限界を超えていたことだろう。

●平和に雪景色
「ジルは、ジルは、温泉がこんなに怖いものとは知らなかったのです……」
 ぐったりしているフラジィルを支えながら、樹上の射手・ヴィン(a01305)は弱く苦笑を洩らす。
「け、決してヴィンさんと一緒にお風呂に入るのが嫌とかでは、無くてですね……!」
 何やら切羽詰った様子で息も絶え絶えに主張するフラジィル。
 此の侭では浪漫も何も生まれてくれない。「落ち着こうね」と彼女を宥め、冷えぬよう上着を掛けてやった。山の頂でぼんやり空を見上げていると、桃色の粉雪が降って来る。
「僕はジルちゃんが好きだから……独占したい気持ちがあるから。他の人にジルちゃんの裸は見られたくないから、こっちに連れて来ちゃったけど……」
 唇からすらすらと言葉が零れる。フラジィルは慌てたように手を振って、「じ、ジルも皆にジルの裸を見せたいわけではないのですよっ!」などと少しズレた言い訳をした。
「それに、ジルはヴィンさんと一緒に雪を見るのは凄く楽しいでぷぎゃ」
「ぷぎゃ?」
「雪合戦ですの〜♪ うふふふ、なんだかとても楽しいですわね〜♪」
 ほわほわと地に足がつかないくらいに浮かれた朱に染まりし蒼猫・コーシュカ(a14473)が、両手にいっぱいの雪玉を抱えている。きっと随分楽しいことがあったのだろう。例えば恋人に、「温泉に入るとしても誰もいない時にしてくれないか? 他の人にコーシュカを見られたくないな」のように滲んだ独占欲も嬉しく感じられるような優しい言葉を掛けられたとか、だ。ヴィンがそんな風に思っていると、雪に塗れた青想う朱狼・ヴァル(a01783)が追いついて来た。
 すまないと謝罪しながらコーシュカを保護して何処かへと去って行く。兄の背を見送ると、ヴィンは慌ててフラジィルを雪の中から助け起こした。

 お姫様のように抱きかかえられて行ったコーシュカが見たのは、ほんのりピンクに輝く可愛らしい雪室だった。「かまくら」とも呼ばれ、親しまれているアレだ。幻想的な絵本の中に自分の家を書き足せたような、不思議な臨場感が胸に浮かぶ。
 二人は穏やかに微笑みあって、可愛らしい雪ウサギを作り始めた。
 何故だかとても楽しくて、何故だかとても嬉しくて、我に返った頃には足の踏み場も無いほどの雪ウサギが「かまくら」の中と言わず外と言わずに満ちている。「かまくら」の中に座って、コーシュカが用意して来た暖かいお茶で身体を癒した。
 コーシュカは本当に幸せそうに笑って、不意にヴァルへと抱きついた。
「ヴァル様、大好きですの」
 頬に柔らかな唇の感触。
「――」
 不意に、彼の瞳が真剣な色を帯びる。コーシュカの細い身体を優しく抱いて、柔らかい髪を愛しむように幾度も撫でた。
「愛してるよ……コーシュカ」
 ゆっくりと顔を近付ける。彼女が拒みたいと思うなら、拒むことも出来るように。吐息が触れる距離に、彼女はきゅうと目を瞑る。桃色の雪よりも尚甘く染まった少女の頬に指先で触れ、唇で触れた。慈しむように、優しく。

 柔らかな粉雪の降る場所で、シルフィーナは口を開いた。
「……好きです」
 美しい恋の歌を紡いだ後に、耳まで真っ赤に染めて彼女は言った。
「貴方が、誰よりも……」
 想いに願いを掛けようとして、だから、と震えた声で言葉を継ぎ足す。
「……付き合って、くれませんか?」
 ヴィスは照れたように微笑んだ。
「私も告白したいと思っていたんです」
 好きだと言う事実を好きだと言う言葉で告げて、ヴィスは彼女の手を取った。

「ラブができる瞬間は、何回見ても飽きませんなぁ〜ん」
 何故か雪山の影から二人の様子を見守っていたスバルが呟く。語尾は放蕩の宴の影響である。癖になって残ってしまったようだ。
「……邪魔は……しないように……そろそろ帰ろう……」
 何故か付いて来ていたアルムが彼の袖を引く。
 温泉は今頃如何なっているのかと思うと、少しばかり空恐ろしくもなった。


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参加者:13人
作成日:2005/12/14
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