愛のかけらを探して



<オープニング>


「今回は皆さんと山登りをしたいと思いまして」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)の言葉は意外だった。彼女がこうして冒険者を誘うのはあまりないことである。
「ただの山登りじゃありませんよ。その山の頂上には不思議な大岩がありまして、それを砕くとハート型のかけらを手に入れることができるんです。おかげで特に若い方には大変な人気が出まして『愛のかけら』なんて呼び名がつけられているそうです」
 縁起物としてこの上ない贈り物になるらしい。世の中にはまだまだ未知の不思議があるものだ。
「だからですね、恋人やお目当ての異性がいる方と一緒にそれを採りに行きたいなあと。ひとりじゃ面白くないですから、大勢で楽しく。どうでしょう?」
 もちろん同行すると声があった。シィルがホッとしていると、すかさず質問が飛んでくる。
「……え、私の意中の人は誰かって? 今はいないんですけど、いつかできたら、すぐ渡せるようにって。私みたいに今は恋人がいない方でも、ぜひ参加していただきたいです」

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参加者
NPC:ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)



<リプレイ>


「まあ、こんなに」
 晴天の朝、登山道入口に集合した冒険者たちを見て、シィルは顔を綻ばせた。集まりも集まったり24名。予想を超える人数の同行者がとにかく嬉しかった。
「おふたりには申し訳ないですが……」
「いや、こちらこそ気を使わせてしまったようだ」
 カイリュートはそう答えた。キミとカイリュートはできるならふたりだけで来たかったのだが、今回は大勢でというシィルの頼みを受け入れることにした。
 一行はいよいよ張り切って登山道に足を踏み入れる。すると、フィレオとルルローズが競争するように駆け始め――ではなく、本当に競争を開始した。
「男が体力勝負で負けるわけにはいくまいよ!」
「言ったね。絶対あたしが勝つんだから」
 どひゅーんとハイスピードで消えていく。シィルは微笑みながら先頭に立って残りを先導する。あとはそれぞれ好きに喋りながら、楽しく進む。
「男女カップルが多いようだけど、君たち仲良し友達グループなんだね」
 サラスが視線を送るのはイーリス、ジニー、ユグドラシルの三人娘。
「うむ、そうなのじゃ。ジニー、酒は頂上についてからじゃぞ。ユーグ、騎士として立派にジニーを守るのじゃぞ」
「よほど嬉しいのね。仕切っちゃって」
「いざとなればノソリンになるでござるなぁ〜ん。疲れたら遠慮なく言うでござるなぁ〜ん」
 ずんずん歩く。冬の空気がほどよく張り詰めて気持ちいい。木々はすっかり落葉してしまったが、その分太陽がよく当たった。ニゲラは何度も深呼吸した。
「ふう……。どこを見ても普通の山ね。どうして頂上だけがそんなに不思議っていうのかしら」
「だよな。ハート型の石、早く見てみたいぜ」
 と、ヒューレ。足はみんなに合わせても、心は今にも駆け出しそうだった。
「……いいなあ、恋人同士って」
 ヨウが周りを見てポツンと口にした。隣のミリィもうんうんと頷いている。
「? ふたりは恋人じゃないのか」
「私もそう思ってたよ」
 そう聞くクロウディアとファンリームは腕を組んでいかにもアツアツ。目を凝らせばハートが浮かんでいる。
「いえ、まだ恋人とかじゃないんです。……好きですけどね」
 ミリィの顔がほんのり赤くなる。ヨウは照れくさそうに頬を掻いた。
「では、今日正式に恋人同士になられるわけですか?」
「うわあ、そういう瞬間を見るのって初めてです」
 ヒヅキとユタカがおめでとうと言う。どうかしらとミリィはまた照れる。ヴィオラ&シキの女性カップルはシンクロして高揚する。
「うちらも新米さんに負けんよう、精一杯イチャつくとしましょうな。シキはん」
「そうね。最近いろいろあったし、その分……ね」
 時折、他の一般登山客に追いつき、追い越され、すれ違った。この山を登るのは老若男女問わないようで、あらゆる人々が幸せに顔を暖かくさせていた。
「アティ、あの老夫婦を見たか。実に美しく笑い合っていた。私たちもああなりたいものだな」
「……ええ。何十年でも共に歩んで行きたいわね、ガルスタ」
 何十年。口に出すのはたやすいが、常に危険に見舞われる冒険者には計り知れぬ困難があるだろう。――それでも彼らは、いつでも共にあることを一片も疑わない。
 ふと、小さな悲鳴が上がった。キミが出っ張った石につまづいて転んでしまったのだ。カイリュートが手を差し伸べる。
「……。気をつけろ。足元見ないでスキップなんて」
「ありがと。気持ちいいからつい。……じゃ、手を繋いで倒れないようにしててくれるかしら?」
 そんなカップルたちをたびたび振り返りながら、シィルは頬を染め上げる。うらやましいのだ。
「みなさん幸せいっぱい、夢いっぱいですね」
「シィルさんなら引く手あまただと思うのに。ルックスもスタイルも抜群だし、私が男ならほっとかないです」
 テルミエールが言うと、カレンが隣にやってくる。
「そういうテルミエールさんはどうなんですかぁ〜?」
「え、わ、わたしわぁ、な、内緒なのです!」
 丸分かりの反応であった。
「私のことより、フランネルさんは?」
「ん……急に振られても困ってしまうわね。何しろまったくそういう人はいないものだから。後学のために色々お聞きしたいと思っているのだけど」
 ジョアンと目が合った。彼は頭を掻きながら答えづらそうに笑った。
「ようやく告白する勇気を持ったって段階の俺じゃ、たいしたことは言えないよ。まあ、恋愛は運命だから」


 空色が頭上に近い。彼方には他の山や美しい碧海が見える。絢爛な一大パノラマが展開されているのを目の当たりにして、冒険者たちは何とも言えず清々しい気分になった。登山の終わりとして最高の風景だ。
 中央には巨大な一枚岩がある。これが噂の不思議岩かと、一行はどこか羨望の眼差しになった。側には備え付けのつるはし入れが設置され、登山客が次々とつるはしを出し入れしては岩に向かって振っている。そして。
「せーのっ!」
 先着していたフィレオとルルローズが、つるはしを一緒に持って岩を砕いていた。
 零れ落ちた岩の破片は、確かに綺麗なハートを形作っていた。それを持った途端、フィレオは勇気を増した。もはやためらいはない。
「ルル、私の作る料理を毎日食べてくれ」
 輝く指輪を差し出し跪く恋人に、ルルローズは一瞬驚いた。しかしすぐに微笑んで、誓いのクローバーという名のチョーカーを外し、渡した。
「あたし……がさつだし女の子らしくないけど、それでも良かったら……ずっと一緒に居て?」
 拍手喝采。山頂にいる全員が若い男女の愛の成就を祝った。冒険者たちも歓声を惜しまない。おめでとう。末永くお幸せに――。
「ではでは、うちらも後へ続きましょ♪」
「ええ、任せてヴィオラ」
 シキがエンブレムブロウで直接砕いた。拳大のかけらがふたりの足元に落ちた。
 手に取ってみる。愛のかけらと呼ばれてはいるが、実際はただの鉱石だろう。けれど、理屈ではない力が感じられる気がした。
「よしシィル、俺たちも岩を割るか」
「へ?」
 ヨウに肩を叩かれ、呆気に取られるシィル。もちろん冗談である。ミリィがすかさずハリセンでツッコミを入れた。
「はは。よく心が通じ合っているじゃないか。その分なら大丈夫だろう」
「私たちも、もっともっと通じ合おうね、クロア♪」
 クロウディアとファンリームはすでに愛のかけらを手にしてご満悦だった。ヨウたちもお遊びはそこそこに、一緒につるはしに持って岩に一撃くれた。いくつものかけらが落ちて、どうせだからとすべて拾うことにした。愛がたくさんある。
「できる限り大きいのが欲しいですね。記念のために」
 ウェポンオーバーロードを発動するヒヅキ。強化した武器を思い切り振り下ろす。盛大な音が生じて、ごろんと頭くらいのかけら(?)が転がった。
「もう、持って帰るの大変になるよ?」
 そう言いながらも、ユタカも爆砕拳で結構大きめのかけらを手にした。周りではその豪快さに口笛が飛んでいる。ニゲラがふと思いついたように言った。
「それにしても、これだけの人気があるとすぐ岩はなくなってしまいそうだけど」
「それは平気みたいだよ」
 と、サラス。
「この看板によると、欠けた部分は一夜のうちに再生してしまうとか。どういう岩なんだろうね。まるで生きているみたい」
「愛は永遠に再生するってことですねぇ。ロマンが溢れていますぅ」
 カレンの言葉に頷きながら、ヒューレは想いを最大限に込めて岩を砕いた。
「あいつ、喜んでくれるといいな。……みんな、悪いけど早く渡したいからこれで失礼するよ!」
 かけらを握り締め、ヒューレは疾風のように来た道を降りていく。
「俺も、早く彼女に会いたくなったな」
 ジョアンが同じくかけらを握り、遠くを見るような目になる。
「告白なさるんでしたね? でしたら私たちに構わず、お帰りになってもいいですよ」
「そうよ。善は急がなければならないわ」
 シィルとフランネルが優しく声をかけた。
「……そうか、済まないな」
 踵を返し、ダッシュしていくジョアン。皆、頑張れと背中に声をかけた。
 さてさて、他の参加者もめいめい岩に向かって気合を飛ばした。
「どりゃああっ!」
「ええーい!」
 イーリスがユグドラシルに借りたハンマーで叩けば、ジニーは大上段から大地斬をぶちかます。ハート型のかけらは次々と地面に舞い落ちた。さながら花火である。
「ちょっと食べてみるなぁ〜ん。これだけの不思議岩、もしかしたら美味しいかもなぁ〜ん」
 ユグドラシルが愛のかけらを齧ってみる。が、すぐに吐き出した。残念ながら味はないらしい。一方で共同作業を終えたガルスタとアティは、仲睦まじく弁当を広げている。こちらは実に見目鮮やかで暖かそうな料理だ。
「……いかが、かしら……?」
「美味いよ。アティの料理は初めてだった気がするが……。ひょっとして修行とかしてくれているのか」
「……ええ。頑張ってるわ。もっと色んなのを作れるようになるから」
 もっと喜ばせられるようにならなきゃ、とアティは誓った。サラスもたくさんの自作弁当を取り出して他のメンバーを誘う。一気に楽しい昼食へと雪崩れ込む中、最後のカップルが。
「カイ、手を添えてくれる?」
「ああ。共にやろう」
 キミ、カイリュートが力を合わせて岩にナイフを食い込ませる、大きいハートになって落ちたかけらにキミがもう一度ナイフを入れると、ちょうど左右対称に割れた。それを分け合って、ふたりは肩を抱き合う。
 ふと、冒険者たちは気づいた。冬の大気もここでは暖かい。それはそうだろう、ここは根源の力である愛が、もっとも花開いている場所だった。
「みなさん、本当に幸せそうで何よりです。こんな素敵な場にご一緒できて、この山登りを企画した甲斐がありました」
「それより、シィルさんはやらないのですか? 自分のことおろそかにしちゃダメですよ〜」
 テルミエールがつるはしを差し出すと、シィルはすっかり忘れるところでしたと舌を出した。


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作成日:2005/12/20
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