発展と栄光を求めて



<オープニング>


 農閑期だからこそ!
 オラが村さの発展向上のために!
「是非、お願いします!」
 熱く、村長は言ったという。

 農村の生活は単調だ。春に種を蒔き、夏に育てて、秋に刈り取る。そして冬篭り。
「それが当たり前だし何がおかしいと言うわけでもないんだがな……」
 スネの辺りを微妙に気にしつつ霊査士のルーカスが苦笑する。
 何がおかしいわけでもないが、もうちょっと生活に変化を、張りをと思う村もあるらしい。
 その村の直ぐ側には森があり、その奥には滝のある湖があるのだという。
「これがちょっとした景観らしくてな。その上、晴れていれば常時虹が見えるらしい」
 こんもりと茂った森の奥にあるその滝は、普段村人がちょっと茸などを採りに入る辺りとは違う場所に位置しており、つい先頃物好きな若者が森の奥に入ったところ発見されたのだと言う。
「しかもその側に遺跡があるらしくてな。神秘的と言えばいいのか、中々見応えがあるらしい」
 なんの特色もない村だが、こうした場所の一つもあれば、多少は物好きな旅人も訪れるかもしれない。
「ま、それはいいんだがこの遺跡がな。グドンの巣になってるらしい」
 それまで人の手の入っていなかった森の、雨露の凌げるその遺跡は、グドンには格好の住処だったらしく、遺跡を調べに入った村人は命からがら逃げ出して来たのだという。
 いくら景観が良かろうと、そんな場所へ旅人を誘う事など出来るわけがない。この冬の間にも準備を整え、緑萌える季節には是非一山! と願う村人がグドンの討伐を依頼してきたのだとルーカスは言った。
「数がな、兎に角多い。少なく見積もっても20は下らん。遺跡もな、遺跡というくらいだから当然なんだが、古くてな。下手に暴れればどうなるかわからん」
 グドンを掃討すれば募集工事も行えるのだろうが、現状では無理である。
 遺跡に傷をつけず、グドンを掃討して欲しい。ルーカスはそう言った。

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参加者
蜂蜜騎士・エグザス(a01545)
朝凪の珊瑚樹・フェイルローゼ(a05217)
戦神の末裔・ゼン(a05345)
ストライカー・サルバトーレ(a10671)
殲姫・アリシア(a13284)
白い七翼の闘姫・アルトリア(a19094)
銀の剣・ヨハン(a21564)
白銀纏う闇夜・スイト(a30043)
蒼月の夜猟者・ヤト(a31720)
元気いっぱい陽気な歌い手・ジェイニー(a36217)


<リプレイ>

●おらが村さ
 聞きしに勝ると言うべきか、百聞は一見に如かずと言うべきか。
「……まあ100回も聞いたわけではないが」
「……100回も依頼内容話す霊査士はいないと思うが」
 呟く火眼黒俊猊・ヤト(a31720)に、尤もな事を蒼翼龍咲・スイト(a30043)が返す。多分誰もが似たような感想を抱くのだろう。100回云々はさておいてである。
 つまるところ何もない村だった。特徴を説明しろと言われてもそこで言葉に詰まってしまうような、極普通の農村である。見るべき何があるわけでもなく、特に名の知れた産出物があるわけでもない。『村』としてはそれで十分なのだろうが、そこに暮らす人々が何か物足りないと感じるのも十分に分かる。
「偶々暇つぶしでやってきたのだが……余計暇になった気もしないでもないな」
 蜂蜜騎士・エグザス(a01545)がしみじみと吐き出す。実際ただ村に留まるのであれば的を射た意見と言えるのだろう。
「グドン退治がお仕事ですよ。あまり近くにグドンがいるのも不安でしょうしね」
 勤めて明るく、キング・アルトリア(a19094)が一同を促す。
 この何も無い村の発展の為に力を尽くす。
 それが今回の依頼であった。

●おらが村さのその奥に
 直ぐ側と言うだけあって、村を突っ切った先は既に森となっていた。村からも確認は出来たが、こんもりとした森は冬枯れた木と常緑樹の二種類の色に塗り分けられ、現状ではひっそりとした印象しかない。単純に季節柄の事で、緑萌える季節にはその森だけでも結構な景観になるのではないかと思わせる規模ではある。
 周囲に気を配りながら村人に教えられた道筋を進んでいくと、急に視界が開けてくる。外気はそもそも肌を刺していたが、視界が開けた途端その冷たさは更に増した。
 元気いっぱい陽気な歌い手・ジェイニー(a36217)が思わず歓声を上げる。
「わあ!」
 冬枯れ、寂しさを増した森の景観の中から際立つようにその光景はあった。
「こんな風光明媚なところに住まうとは、グドンも目が高いというかなんというか……」
「グドンにとっては雨露を凌げると言うだけの理由だろうけど」
 銀の剣・ヨハン(a21564) のどこか呆れた響きを持った声に、夢幻の殲姫・アリシア(a13284) が軽く肩を竦めて見せる。
「グドンにも情緒を持って欲しい気もするのぅ」
 しみじみと朝凪の珊瑚樹・フェイルローゼ(a05217)が呟く。
 冷やりとした空気の中に、どこか立ち枯れた木を思わせる古い神殿が立っている。冷めた空気を更に清冽な冷たさに変える水の気配は、在り処など探さずとも目の前にあった。湖に流れ込む滝の水は小さな飛沫を幾重にも飛ばし、その周囲に光の屈折を描いている。現在でも十分に見応えがあるその景観は、確かに緑萌える季節になればどれほどの逸品となるのか想像に難くない。
 見とれるほどの景観の中、ストライカー・サルバトーレ(a10671)がうきうきと身を揺すらせる。
「誰も知らなかった遺跡かっ……お宝でも残ってないかなっ?」
「……情緒、持ちません?」
 すかんとその後頭部を殴りつけたアルトリアが溜息を吐く。ぐおおと唸ってその場で頭を抱えるサルバトーレに、勿論誰も同情しなかった。

●オラが村さの観光資源(予定)
「いと小さき我が朋輩よ、来たりて我が元を照らし給え」
 ぽっと薄暗い室内に光が灯る。それによってクリアになる視界に、その灯火の呼び出し手であるところのフェイルローゼは流石に眉を顰める。
「……聞きしに勝る、じゃな」
 戦神の末裔・ゼン(a05345)が頷きを返した。
「そうですね、今にも崩れてきそうです」
 外からはさほどにも見えなかったが、わざわざ警告されるだけの事はある。内側から見ればその内部は酷く脆そうに見えた。だがそれは忠告された事柄でもある。
「遺跡に何か変な仕掛けがあったりするのかな?」
 そっと慎重に壁を撫でてみる。湿気を孕んだ石の感触がするばかりで、何らかの仕掛けがあるようには見えないしまた感じられない。それ以上に感じられるのは中に確実に生息しているのだろうグドンの気配だった。人の出入りしなくなって久しい遺跡であると言うのに、フロアにはほこりが積もっている様子が無い。泥に塗れた足跡はいくつも見受けられても。
 やたらと目に付くそれにヤトがにいっと頬を釣り上げた。
「……グドンなんぞいても有害なだけ。憂さ晴らし位には役立ってもらわんとな」
「……それは……」
 咎めるように向けられるゼンやヨハンの視線にも、ヤトは動じる事がない。『それが依頼ですね』とゼンも頭を振った。
「じゃ、頼むぜっ?」
 サルバトーレがアルトリアを促す。
 足跡だけでなく姿を現し始めたグドンに向けて、促されたものの頭上を眩く彩る光彩が出現した。

 そのアビリティに音があるわけではないが、それによって引きこされる戦闘は流石に無音とは行かない。
 外に陣取った残りの面子はその音に内部で戦闘が始まった事を知る。
「始まったな」
 正面に陣取るエグザスには自明の事だったが、思わず呟きが漏れたのはやはり四方に散っていった仲間が気になるからかもしれない。然程広い遺跡というわけではないが、その四面を一人でフォローするには多少なりと不安があるのは事実だった。
 正面から向って右側にはスイトが、左側にはジェイニーが、そして対面にはアリシアが陣取っている。
「……逃げられると思わないでよね」
 やや遺跡から距離を取って身構えたアリシアが低く呟く。そうする事によって視界は広くなる。出来るだけの用心はしているし、また作戦そのものが燻り出しを目的としていない。広範囲に及ぶアビリティも想定してある。その上で感じる不安は臆病と振り払う事が出来る。
 同じく用意はしてきてあるジェイニーも、少しの不安に岩壁にそっと触れてみていた。枯れた蔦が巻き付いている為か、思ったほど冷たくはない。
「逃がさないですむと思うんだけどなぁ」
 だが確かにこの蔦の巻きつきっぷりでは、裂け目や割れ目の有無は丹念に調べなければ分からないだろう。不安はそこにあるのかもしれない。同じ事をその対面に位置するスイトもまた感じていた。尤も彼の感じる不安はそうした事に少しだけ個人的な事情を加味するものではあったのだが。
「油断禁物、かな」
 とはいっても相手はグドンだ。特に何らかの特性が負荷されている訳でもない、単純なるグドン。ならこの一抹の不安は何か。導き出される答えは一つしかなかった。
「……単独行動だからかな」
 苦笑した。他に思い当たる事は無く、少し前に別れたばかりの黒髪の仲間が少しだけ気になった。

 動きが止まった幾らかに向けてゼンが突進をかける。流石に総てのグドンが動きを止められたわけではなく、またざっと見るだけでもその数は十を超える。ゼンの脇をすり抜けるように光彩へと突撃するグドンに向かい、ヤトが気の刃を投げつける。過たずグドンを切り裂いたその刃は再びまた対象となったグドンに向けて襲い掛かるがそこに既にその姿はない。衝撃に弾かれて倒れこんでいる。
 壁にぶつかる鈍い音にぎくりとヨハンが身を強張らせた。だが流石に一匹分の衝撃にさえ耐えられぬ事も無いようで、目の前の容易く切り伏せる事の可能な敵よりも尚問題の『脆さ』と言う敵は沈黙を守った。
「脅かさないで下さいっ」
 アルトリアが小さく抗議を口にする。悪びれる様子もなく、ヤトは肩を竦めて見せる。
 初陣はその頃には切り伏せられてはいたが、これで全部と言うわけではない。仲間が斬られるのを確認して小部屋に逃げ去ったものが少なからず存在しそうである。
 消えかかる光彩を再び呼び出したフェイルローゼが鉄錆の香りに満ちたホールを見渡し、言った。
「外から見ても分からぬということじゃから、日常的にグドンが裂け目等を出入りに利用している事は無いのじゃろうが……」
「悠長にもしてられないな」
 サルバトーレが頷きを返す。こちらが悠長にしていたくない理由はまた別の部分にあるようだったが、先刻の経験が生きているのがそれは口には出さない。
 その二人の、実は全く噛みあっていない言に促されて、一行は小部屋の探索を開始した。

「出てこないのが一番だと思ってはいたけど……」
 そうは甘くないらしい。と言うより甘すぎたのかもしれない。
 外では溜息を吐いたアリシアが、空中に紋章を出現させていた。

●オラが村さの観光資源(未満)
 総ての討伐には思った以上に時間を要した。
 特にどの小部屋を探索する等の打ち合わせがされていたわけでもなく、はきとした内部のグドンの足止め方法があったわけでもない。
 それでも打ち漏らしが出ていないと断言できるのは、外に配された4人の冒険者がそれぞれにその責任を果たしたからだった。
 結果として出来上がったのは離れてみれば歴史を感じさせる遺跡、近寄れば凄惨な跡を滲ませる戦いの跡地だった。
 個人的にはどーでもいいがと前置いて、ヤトが言い出した『グドンの死体どうにかした方が良いよな』という意見に否やは出ない。しかし埋葬するにも数は多い。結局その手段を誰も思いつけず、動かぬものと成り果てたグドンの死体は一箇所に集められそのまま枯れ木を被せられる事となった。墓とも呼べないそれに瞑目し、ヨハンが短く口にする。
「せめてこの墓が安らかな永住の場でありますように……」
「そうですね……」
 ゼンもまたそれに同意を示した。
 その側の滝に、代わらず小さな虹がかかっていた。

●オラが村さの発展準備段階
 一足先に手付かずの観光資源を見てきた一行に、霊査士が労いの言葉をかける。
 空になった巨大な弁当箱を受け取ったアルトリアが、その労いの言葉に少々頬を染めて見せた。
「すっかり村長は浮かれていたようだったな」
 ルーカスの言に、エグザスが頷きを返した。
「それほど価値のある遺跡とは思えなかったが、虹の見える風景と合わせたとして神秘的というだけで人呼べる様になるのだろうか? 村人のお手並み拝見と云うところか」
 グドンが片付いたらそれでお終いというわけには行かない。
 人を呼ぶにはそれなりに宣伝が必要だろうし、また崩れかけの遺跡もどうにかしなければならない。
 冒険者達がした仕事は一の一歩目であって、そこから先どうなるのかは村人の努力次第だ。
「でも、綺麗だったよ」
「そうですね」
 ね、とアリシアに話を降られてスイトが頷いた。
 見応えのある景観であったのは確かだった。
「今度は戦いではなく、楽しむためにまた訪れたいものです」
 その為にも発展してくれれば。そう願いを込めて、ヨハンがそう言った。


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作成日:2006/01/05
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