≪西森の砦アイギス≫材木輸送



<オープニング>


 西森の砦・アイギスには、グリモアガードの配置と共に、第1陣の援助物資として、テントや食料・防寒具が運び込まれた。
 継いで、開かれた道を通り、ここへ配置されるグリモアガード達が、第2陣として、あちこちからかき集めてきたテント類を運び込む事になる。手持ちの1つを持ち込む者も、周囲に声をかけて集めた者もいる。協力者は、アイギスの護衛士となる者に限られなかった。
「協力してくれた皆さんに、ありがとうと……お伝え下さいね」
 立ち上げられるテントは、まずは護衛士達の本部となる場所に。
 月光を求め彷徨し詠の位・ムーンリーズ(a02581)から甘いあめ玉を配られて、子供達の顔がまずほころぶ。それはとても小さな兆しだが、アイギスの住民達にとって、1番身近な変化となった。
「早く、伐採した木々を運ばないといけないわね……」
 己よりアイギスの住民を優先したいが、自分達の居処を確保しなければ、これから先に息切れしてしまうのは目に見えている。
「家々の補修は、材木と人手があれば何とかなると思うの。それでね……」
 喰えない老人・ジュラン(a01956)や戦に舞う白い妖精・アニタ(a02614)達が周辺の村落を訪れた際、周辺での戦の被害は小さい――つまり、アイギスの惨状は見せしめ的でもある――事が知らされていた。日帰りなどで、手伝いをするのは可能という話も入ったようだった。
「特に、砦の南東にある村は、普段は木製の家具なんかを作っている職人の村なのだけれど、腕のいい建築士さんも多いらしいの。このアイギスの建設にも住民を派遣していたらしいから……」
 みなまで言わずとも、控える護衛士達には分かった。
「つまり、伐採した木々の輸送と、その村に交渉して建築士を出してもらえるよう、迎えを出して、必要なら住み込み場所を提供すれば良いんだな」
 護衛士の1人が言うのに、アリスはコクリと頷く。そして、「よろしくお願いしますね」と頭を下げた。

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参加者
傭兵上がり・ラスニード(a00008)
六風の・ソルトムーン(a00180)
賽牙ヲ揮イシ月夜ノ銀狼・ロバート(a00218)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
紅の女子大生・ルビナ(a00869)
在散漂夢・レイク(a00873)
白衣の青兎・ウサッペ(a00977)
鋼鉄の護り手・バルト(a01466)
喰えない老人・ジュラン(a01956)
静かなる・プラム(a04132)


<リプレイ>

「やっと木を運んでくれるんだな……」
 道案内を頼んだドリアッドの青年・エドアルドに心底ホッとした様子で言われ、緋の剣士・アルフリード(a00819)は「え?」と目を瞬いた。
「道を広げるのは仕方ない。ただ……落ち着かないんだよ。こうハッキリと『道』があると」
 その言葉で、アルフリードは、材木の輸送を急ぐ理由が、単にアイギスで建材が要るからというだけではないと知った。
 拡張された道の両脇には、切り倒された木が並んでいる。――道を縁取るように。
 同盟領の街道に比べればいささか狭いようにも見えるが、森の御陰で安全を手に入れているドリアッド達にとって、その様はどんなに『無防備』に見えるだろう。
「こっちだ」
 横倒しの木を乗り越え、ふいっと道を逸れるエドアルドを、アルフリードは慌てて追った。
「待って! 何か目印があるの?」
「んなもん、無い。ちゃんと道があるのに要らないだろ」
 確かに、逸れた先には細い道が現れていたが、アルフリードは分かれ道に気付かなかった。どうやらドリアッドの彼は『目印』の存在を知らないらしい。実際、ドリアッドの紋章術士・プラム(a04132)も先に調べに出ていたのだが、確信が持てないように「……」と眉を寄せて帰って来ただけだったのだ。これまでにあったものは、元奉仕種族の誰かに聞く方が良いようだ。
(「大丈夫かな……?」)
 南東の村へ行くはずの鋼鉄の護り手・バルト(a01466)や紅魔医師・ルビナ(a00869)達の事を思い、彼は来た道をチラと振り返って見る。
 そのバルト達は、喰えない老人・ジュラン(a01956)がアリスや街の有力者――とりあえずは最長老のバフラ翁に仲介の手紙を書いてもらっている間、戒剣刹夢・レイク(a00873)や剣の銀狼・ロバート(a00218)と周辺村落への道の案内をヒト族の男に聞いているところだった。
 レイクの方は、木材を『加工』するというのに、斧の1つも持たないのかとツッコミを受け、慌てて道具の確保に回っていた。武人達のスティールソードでも、木ぐらい斬れるのは確かだが……。前回のように、臨戦態勢で行う伐採でもない。
(「さすがに、それは絵的にどうかという気が……」)
 と、独り心の中で呟きながら。
 座り込んで、自分が知っている道を紙に書き起こしているプラムの手元を覗き込み、道具を肩に戻って来たレイクは「???」と首を傾げた。何だかとっても分かり易そうな道だが、自分は同盟領へ向かうもの以外はついぞ見た事がない。
「何か、こう、地勢の特徴とかは……ないのかな?」
「……!」
 言われて、プラムは目をぱちくりした。それから、また「うむむ」と言うように眉根を寄せる。そんな彼女の頭をぽふぽふと叩き、ロバートは男を振り返った。
「何か目印はないのか?」
 聞くと、
「村の入口には『雪柳』、アイギスへ向かう『本筋』の道の端には、時折『猫柳』が植えられているよ。花だと、咲いている季節以外じゃ見分け辛かったり、球根で越冬したりするんでなぁ。アイギスの中にもあるぞ。ちょうど今、咲いているところだ」
 そう言って案内してくれた。見てみると、『雪柳』はしなやかな枝に乗る小さな葉の絨毯に白い小さな花がたくさん散りばめられ、『猫柳』は枝の先に、ピンと立ち上がる小さな猫の尻尾のような、ふわふわの花をつけていた。とりあえずこれだけ覚えておけば、植物知識が無くともなんとかなるだろう。
 伐採の時に一緒に刈られてしまったものもあるから、また植え直さなくてはならない箇所があるようだとも言われた。……プラムが見つけられない訳である。
「これが目印らしいぜ。プラム」
「……」
 遠くから手招かれ、てくてくとロバートに歩み寄った彼女は、見本に手折られた木をじっと見、サクサクと苗になりそうな雪柳の若木を掘り出し始めた。
「んー。こういうもんだけでもいいが、もっと分かり易くしないか?」
「……」
 再び目をぱちくりさせ、プラムは用意した赤と青塗りの石を見せた。木に印は付けるけれど、その石を使って少し工夫を凝らそうというのだ。念の為に考えて用意していたから、いっそ併用すればいいだろうかと思った。
「分かった。じゃ、それ手伝うよ」
 2色の石で何をするつもりなのかは、まあ、見ていれば分かるだろう。そう割り切って、ロバートは若木の確保を手伝い始めた。

 プラムは手が空かぬだろうと、道案内を引き受けてくれるドリアッドを探しに出ていた六風の・ソルトムーン(a00180)と、当座、必要そうな木材の量を確認しに行っていた殺刃の使い手・ラスニード(a00008)が合流した頃には、村回りと材木運びに出る者達の準備が整った。
「誰ですか? その子供は」
 ソルトムーンの腕をギュッと掴み、付いて歩いて来たドリアッドの子供を指して、ラスニードが聞く。
「ノーラっていうの! おじちゃん手伝う代わりに、クレイを探してもらうんだもんっ!」
「クレイ?」
「この者の友人らしい。先の戦いの後、行方不明なのだそうだ」
 探しに行きたいが、1人で『外』へ出るのは怖い。煮詰まっていたところに、護衛士だという『ヒト』のソルトムーンが現れたので、半ば無理やり同行を申し出たのが真相のようだ。なぜか、護衛士達は子供に受けがいい。
 戦渦は過ぎ去ったとはいえ、子供をアイギスの外へ同行させるのはどうか。――そう思う傍ら、食い下がる子供を捨て置くのも性に合わない。結局、彼の方が折れてこうなった。
「ノソリンが居らぬでは運べる量も限られておるな。先ずはノソリンの確保が先決……」
「じゃあ、ボクはノソリンを借りに村を回るよ」
 サクサク歩き出す白衣の青兎・ウサッペ(a00977)の首根っこを、ソルトムーンの手がガシッと掴む。
「うわぁっ!」
「何の為に案内を頼んだと思っているか。迂闊に先を行くな。貴殿が森で迷ったとて、わざわざ探してはやらんぞ」
「あう〜」
 小さなウサッペは空を歩きそうな状態になりながら、しょぼんとした。
「他の者も、案内は必ず付けるようにな」
 言われて、バルトが頷く。
「道なりに森の入り口方向に戻り、道中の村でノソリンを借りて、木材を回収しながら次の村に向かい、また新たにノソリンを借りる……という繰り返しになるでしょうか。早急に、半分……つまり、ドリアッドの聖域辺りから回収すれば良いようですから、先に半分、後にゆっくりもう半分を回収しましょう。作業しやすいように置いて来てありますから」
 先の伐採に関わったラスニードは、これからの手順をさらっている。
「うむ。可能であれば、ドリアッドの聖域辺りでノソリンを買い上げておきたいところだが……」
 返しながら、ソルトムーンは「無理だろうな」と独りごちた。ノソリンの帰巣本能がある限り、それでは距離があり過ぎる。
「まあ、ノソリンは別の者が確保に回っている事ですし」
 気持ちは分かると言って、ラスニードは苦笑した。


 ラスニードとレイク達が木材の小枝を落とし、適当な長さに加工をする間、ノーラの案内でソルトムーンとウサッペが近くの村へノソリンを借りに出る。
「アイギスを復興させる為にノソリンが必要なんだ。貸してちょうだ……あ、貸してください♪ 出来れば、荷車に材木を固定する為のロープも」
 にこにこにこ。
 ウサッペの申し出に、ソルトムーンも頭を下げ、ノーラが後押ししてくれる。この村はアイギス周辺の村落ではなかったから、アルフリードの先触れがなく、1番効いたのはやはりノーラと、『ヒト』のソルトムーンの存在だ。
 10頭のノソリンを確保し、彼らがラスニード達の所へ戻ると、アイギス周辺の村から村人が手伝いに出てきていた。こちらはアルフリードが回った村からだ。まだ全部の村を回りきってはいないから、人手は少しずつ増えるだろう。
「輸送に使えそうなのはこの道だけなのか?」
 作業をしつつ、レイクは集まった村人の中の、元奉仕種族だろう――ドリアッドでない人々に聞く。
「本当はさ、小さな『道』ならあちこち通っているんだよ。だが、それを使えるのはドリアッドだけだし、俺らは1番使い勝手のいい通りだけに目印を付けてるんだ。それだと隣村へ行くのに回り道だったりするが、敵に侵入されたり、森で迷って死ぬよりはいい」
 もっともと言えばもっともな意見だった。今は、頼りの結界が揺らぐ危険もあるが、護衛士達はその備えの為にいる。
「色々と、エルフの兄ちゃんから話を聞いたよ。わしらは武器を持っては戦えねぇが、代わりに出来る事は手伝うさ」
 同胞の為ならばドリアッド達も。付け足した彼が示した先には、ドリアッド達の姿がある。アイギスから避難し、あるいは避難しようとしていたドリアッド達の数を思えば、彼らの気質は篭城や徹底抗戦に向かないだろう。現状と同じ行動を、戦時にも取ってくれるかは定かではない。ただ――アルフリードから伝えられた『派出所』案のような動きがあれば、彼らとの信頼関係がものを言う時があるかもしれない、と言う。
「ドリアッドはちょっとばかり意気地がないのさ。だけど、わしらが奉仕種族だった時には良い主だったし、冷血漢じゃないって事だ」
 レイクとラスニードは、複雑な気分で顔を見合わせるのだった。


 ドリアッドの案内人を頼み、南東の職人の村――サイロウに赴いたジュラン達は、早速、村長を探した。
 アリスとバフラ翁の手紙は、彼らへの正式な砦建設の依頼。これにより、護衛士達が心配した職人への見返りは、護衛士団から賄われる事になる。
「アイギスの一般市民の中には、まだ雨露をしのぐ場所にも困っている者がいる。その上、リザードマンの再侵攻の噂。同盟は総力を挙げて侵攻阻止行動にでているが、同時に、アイギスの再建も急務だ」
 堅い口調で話し始めたバルトに、人々はざわめく。手を貸すつもりがないのではなく、現状の厳しさ、特にリザードマンの再侵攻の話に慄いた様子だ。
「だが正直、俺は寒さで震えている子供達をなんとかしてやりたいんだ」
「「「……」」」
「元々、手伝うつもりではありましたぞ。何しろ、我等は職人の自負がある。アイギス砦を建てたのもこの村の者達。それが失われたとあっては、心寂しいものですからな」
 村長らしきドリアッドの初老の男が言う。名はフロド。
「お願いしたいのは、砦本体の建物、櫓、護衛士宿舎、外壁に当る柵。それから、今回の戦いで家族を失った孤児を収容する孤児院関係の施設じゃ。柵は土塗りにしたいと思っておる。前の砦は火にやられてしまったからのぅ」
 ジュランの説明を聞き、彼は「ふむ……」と頷いた。
「新たな町を作る事は、この辺り一帯の防衛にも繋がるわ。アイギスの地形は……もう知っているわよね? 現状はこんな感じ。どういう形で作ったらいい?」
 ルビナは、アイギスの現状を簡単に描き起こしてきた紙を広げる。
「『敵の侵入』まで想定せねばならんという事になろうな……。まずは残っている外塀を改修するとして。孤児院の施設を平行するか。砦の周りに焼失家屋が多いなら、最終的には長屋のようなものを、こう……配置するのも良かろう」
 長屋を、メインとなる通りを遮るように配置してゆく形を、フロドは皺深い指先で示した。確かそんな案も護衛士達の話し合いの中にあった。ルビナは思い返し、そして頷いた。
「ふむ。大規模になるな。我等も住み込みが良いようだが……」
「安全と食事は保証するでのぅ」
「テントになるが、数の確保はしてあるし、なるべく不自由のないようにするつもりだ」
 ジュランとバルトが言うのに頷き、
「まあ、代価には、伐採した木々の余りをこの村へ回してくれれば良い。ああ、落とした枝は薪になるぞ、捨てずに持ち帰るといい。その方が樹木の結界の邪魔にもならぬしな」
 フロドはそう言って、村の者を集めて準備にとりかかった。


 材木はノソリン1頭に2本ずつ括り付けられ、のたりのたりとアイギスへ運ばれていく。最初は途中の村でノソリンを替えながら。
「最近はアンデッドの多発とか、盗賊に襲われるとか……物騒な事が多いから注意しなくちゃね」
 ノソリンの上、遠眼鏡を覗いて警戒しながら行くウサッペだったが、作業の間に『事件』が起こる事はなかった。その後ろで、材木が何かに引っかかったりしないようにと、制御していたラスニードの方が大変だったようだ。
 第1陣がアイギスに着くまでには日数がかかったが、皆が作業にも慣れ、運ぶ距離が近付くにつれて早くなった。
 木材の半分を運び終え、今度は残る半分を運びに、ドリアッドの聖域の先――同盟領との境まで出て行って、同じ事を繰り返した。
 道筋には、プラムとロバートの作りなおした目印の『雪柳』、『猫柳』、そして赤青の石が置かれた。青い石ならアイギスへ、赤い石なら反対へ、近くの木に矢印が小さく彫り込まれた。
 そして、「何をやっているんだ?」と口々に聞く護衛士達への説明は、もっぱらロバートの仕事になっていたのだった。

 アイギスの復興が始まる噂はあった。
 そして、各周辺村落へ訪れたアルフリードは、アイギスへ帰ろうか、帰るまいかと思案する者達も多くみかけた。
「土地を愛する皆さんの力が、どうしても必要なんだ。それに、力を貸してくれる事で、アイギスの人達も希望と活力をとりもどせると思う」
 手伝って欲しいと、村人達と避難民達、双方に呼びかけ、これからの説明をして回ったアルフリードは、少しずつ動く避難民達の心を、確かに感じたと思った。
 各村落について調べる事もしていた彼の仕事の終わりは、護衛士達が木材を運び終える頃まで続いた……。


●周辺村落情報
 ケイザン:北の小さな村。山寄りに奥まった所にある。距離的にはそうでもないが、道が険しい箇所を行く為、訪れるには時間がかかる。酒(葡萄酒)の産地。
 リジョウ:北東北にある少し大きめの村。ケイザン村に1番近い場所にある。健康飲料『緑汁』が名産。
 カザフ:東にある村。商人が多い。
 サイロウ:南東の大きめの村。職人の村で、建築に関しても秀でている。
 フレイア:南の村。遠方で釣った魚を、漬けて、保存食にするらしい。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2004/01/12
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