≪ヴィンドオブニル蒼騎士団≫其は白銀にして乙女−氷刃乱舞−



<オープニング>


 渡り鳥のように沢山の村に薬を売り歩く一団がいた。
 今年も吐き出す息が白く、小降りながらも雪が降る季節になったと一人の男が呟く。

 サク サク サク……。

 一人一人が白く広がった大地を踏みしめて一つの村に向かう。
「何か……おかしくないか?」
 誰かが言った。何かがおかしいと。
 村に近づけば近づくほど違和感は強くなっていく。男の目に映るのは家々の煙突。この季節、何時もは煙突からゆらりと煙が立っているはずなのに……。
 一団を率いる初老の男が皆に問い掛ける。嗚呼、おかしいと思ったのは自分一人じゃなかったのだと。村に近づけば近づくほど様子がおかしいのは目に見て取れた。そして一団がついに村の入口に足を踏み入れた時……違和感の正体が彼らの前に姿を現した。
 立ち並ぶ家々は氷に閉ざされ、村の中心に導くように立つ氷の柱の中には数人の村人が閉じこめられていたのだ。
 呆然すること暫しの時間……異様な光景に驚き、目を奪われていた男達が戸惑いながらも生存者は居ないかと辺りを調べ始める。

 そこで見たものは――……。


 場所は変わり、ヴィンドオブニル蒼騎士団。
 季節のせいか、応接間にある暖炉の前に自然と人が集まる。やはり寒いと人は暖を求め寄ってくるのだろう。星見・シュート(a16227)、術士・コウ(a37511)は暖炉の前にしっかりと根を貼り付け、微睡みトマトなお姫様・ロザリンド(a00198)に至ってはカレーな王子様・ロスト(a04950)を煮込む機会を伺っているのだろうか……と思うほど隙のない視線を向けている。
 ここまでは平穏な時間が流れていた――が。
「外に倒れテる人が居たでスよ」
 外からの散歩から戻ってきた潦・イーオー(a29859) がバタバタと入ってきて、運ぶのを手伝って欲しいと団員達に告げる。
「お腹が空いて行き倒れ……と言う訳でもないです、怪我も酷くて……」
 イーオーの後ろから付いてきた蒼歌雪の斎女・オウカ(a05357)が眉を潜めながら言う。
「僕たちは医務室に暖を入れてくるね、あとお湯も必要になるだろうから用意してくる」
 戦場を駆ける雷・ラナ(a27148)と檸檬の酸味・ジュリア(a33958)は慌ただしく動き出し、暖炉の前に密集していた団員達はあっという間にいなくなる。
 ちょうどお茶を運んできた主夫の盟友・クリストファー(a13856)は誰もいなくなった応接間の入り口で呆然と立っていた。
「あれ〜、あれれ〜〜? みんなは?」
 寂しい光景である。

 狂戦士・コウ(a22393)、白鎧の騎士・ライノゥシルバ(a00037)の二人に抱えられ、運ばれてきた男は全身にひっかき傷があり、所々凍傷にもなっていた。
「家庭の医学書によると凍傷は急速解凍がいいなぁーん」
「茹だったお湯あるなぁ〜んよ」
「一気に解凍なぁーん♪」
 パラパラと本のページを捲り、てごろでがっちり働く・クラリス(a24692)、人生天真爛漫・ミネルバ(a33086)、トリさん大好き・リュミス(a37856)のヒトノソリン3人組が円陣を組むように相談中だ。会話だけを聞いていると緊張感はなく、ここだけ別世界のようだ。
「解凍じゃないだろ……」
 あきれ顔の黒焔の執行者・レグルス(a20725)はすでに時の輪の謡い手・エルシー(a30716)と共に凍結解除に取りかかっていた。

 やがて意識を取り戻した男が語ったこと。彼の一団が立ち寄った村は氷と化し、村に聳え立つ氷の柱の中には何人もの村人が閉じこめられていた。その氷の柱の続く道の先には雪よりも白く、氷よりも冷たい乙女と銀狼……否、銀狼より乙女の半身を生やした怪物が氷付けにした人々を食い散らかしていたのだ。
 誰かが叫ぶ。
 怪物が振り返る。
 影が宙を跳び、誰かが組み伏せられた。
 絶叫。
 鮮血。
 クチャクチャと何かを喰らう音。
 男は必死で逃げた。今まで旅を共にしてきた者を残して……死に物狂いで。

 ――そこで男の話は終わる。
 ポツリポツリと話す男の言葉を聞いて、蒼剣の騎士・ラザナス(a05138)がマントを纏い、剣を片手に外に出る準備を始める。
「……行くのか?」
  斬魔双剣・ラゴウ(a90120)が壁にもたれながらその様子を見遣り問い掛ける。
「無論、今の話を聞いて黙っていられるわけはないでしょう?」
 話を聞きに集まっていた団員達を振り返り、ラザナスは口を開く。
「お聞きの通りです。そのモンスターは村人を氷付けにした人々を食料としています。放置しておけば近隣の村が次の標的になりかねません」
「被害は拡大する……か。生き残りがいるかは怪しいものだ」
「霊査士を介さない状態ですので明細は不明な点もございますが……皆さんのお力をお貸し下さい」

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参加者
晨明ノ風・ヘリオトロープ(a00944)
蒼剣の騎士・ラザナス(a05138)
桜雪灯の花女・オウカ(a05357)
蒼翼の閃風・グノーシス(a18014)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
狂戦士・コウ(a22393)
星彩幻女・ティル(a24900)
天を貫く矢を放つ・バルドル(a25600)
時の輪の謡い手・エルシー(a30716)
儚の護師・クリステラ(a34383)
NPC:鳳炎氷凰・ラゴウ(a90120)



<リプレイ>

 それは村一つを利用した、巨大なオブジェのようであった。
 辺りは一面の銀世界。空を灰銀の雲が覆い、降り積もる雪が作り出した白き絹糸の如き大地に一人の女が立っていた。否……ただの女ではない。白装束を纏った美麗な女だが、腰から下は異形のモノだ。空から降り注ぐ雪と同じように真っ白な毛皮――鋭く伸ばした爪までもが白く、純白の狼を半身に持つ女のモンスター。
 モンスターの背後に立つのは一本の氷柱……氷の中に閉じ込められた数人の人間。動くもの無き、静寂なる白銀の世界。
「――あれが例のモンスターですね」
 モンスターに気付かれないよう、氷づけになっている家屋の影から隠れていた蒼翼の閃風・グノーシス(a18014)が遠眼鏡から視線を外す。他にも薄手の手袋、重ね着できる薄手の服、防寒コートなどで身を包んだ者が数名、モンスターに気付かれないように姿を隠し、相手の様子を窺っていた。
 降り続ける雪と氷によって閉ざされてしまった村。しかし、それはモンスターによって作り上げられた白銀の世界である。村全体を氷と吹雪で包み込み、世界の一切を拒絶したこの白い恐怖から村人を解放する為に、彼らはやって来た。
「予想はしてたが、なんつー寒さだよこりゃ……」
 防寒具を身につけながらも、この寒さを防ぐことは出来ないようだと狂戦士・コウ(a22393)は苦笑した。息も凍るような寒さの中、グノーシス達の吐く息も冷たい外気に晒されて真っ白になる。
「どうしました?」
「……いや、なんでもないよ」
 蒼剣の騎士・ラザナス(a05138)の気遣いが自分に対してのものだと気付き、晨明ノ風・ヘリオトロープ(a00944)が首を横に振った。
「昔のことを思い出しただけだ。大丈夫……」
「そうですか……すみません、ヘリオトロープさんやティルさんにまでご迷惑をかけて」
「……いいの、私も放っておけないから……」
 今回の事件の始まりは旅団の団員が倒れていた一人の男を助けたことからだった。男はこの村で起こっていること、この村を支配する怪物の存在を彼らに教え、ラザナスは誰に言われる訳でもなく村に向かうことを決意した。
 だが、旅団で集まったのはほんの僅かな人数だった為、彼は出発前に星彩幻女・ティル(a24900)達に助力を頼み、こうして同行してもらったと言う訳だ。
「エルシー、気を付けろよ。死んだりしたら枕元に立たれそうだしな」
 黒焔の執行者・レグルス(a20725)が時の輪の謡い手・エルシー(a30716)の頭をクシャクシャと撫でてやる。グノーシスとエルシーは怪我が完治していない。本人達も無茶をする気はないようだが、相手が相手である為に油断は禁物だ。
「ありがとうございますの……わたくしならば大丈夫ですわ、レグルスさま」
 大好きな人に撫でられ、はにかみながらも笑顔を見せるエルシー。
「モンスターに堕ちる以前は民を護る者だったのじゃろうに……今は害成すだけのモノ、か」
「ええ……人々へと害をなす存在となりし今は倒さなければいけません」
 儚の護師・クリステラ(a34383)の言葉にラザナスが頷く。
「氷漬けになった人達……助けよう。ずっとあの中だと可哀相すぎるよ」
「あの人の話では氷漬けにされてかなりの時間が経っているはず……一刻の猶予もありませんわ」
 天を貫く矢を放つ・バルドル(a25600)と蒼歌雪の斎女・オウカ(a05357)の言葉に皆が同意し、モンスターに気付かれないようにその場から離れると戦う準備を始める。ヘリオトロープが仲間一人一人に鎧聖降臨をかけ、光が団員達の防具を包むとその強度を増加させた。


 白狼の半身を持つ異形は眠っているかのように目を閉じている。
 女は身動ぎ一つしない。白狼も女の下で唸り声を上げることなく、この静寂に包まれた世界で沈黙を守っている。それは自分達を包む静寂を壊したくないようにも、それとも誰かが来るのを待ち続けているようにも見える。
 だが、その静寂は何処からか飛んで来た一本の矢によって砕かれた。
 ヒュンッ――風を切る一本の矢がモンスターの近くに突き刺さり、刺さった矢から声が発せられる。
 モンスターである彼女に声の意味はわからない。だが矢から発せられる声は空気を震わせ、自分達の耳を、自分達が守り通して来た静寂に亀裂を走らせる。
 女が眉を顰めると、離れた場所から次々と矢が飛んで来た。矢はモンスターを狙っている訳ではなく、一本一本が突き刺さる度に彼女には理解出来ない声を辺りに響かせ、静寂を壊していく。
 それは女にとって、自身の身を切られることよりも苦痛であった。
 頭上の矢を爪で叩き落とし、白狼の四肢が立ち上がる。怒りに歪んだ女と狼の目は矢の飛んで来た方角に向けられ、氷で閉ざされた家屋に隠れている影を見つけた。
 狼の後ろ足が大地を蹴り、雪の上を滑るように駆け出していく。モンスターが近づくより早く、影は家屋の間に消えていく。モンスターは地面を蹴って家屋の屋根に跳び移り、影の後を追う。氷で覆われた家屋はモンスターの重量に押し潰されることなく、狼の足は屋根の上を次々と跳び越えていく。
 モンスターと影の距離は徐々に縮まり、女の目に逃げる銀色の髪と背中に生える白い翼が映り込む。女にはどうして人がいるのかも、白い翼を持っているのかも関係ない。静寂を邪魔された――それだけで奴を殺すに十分な理由がある。
 白狼が跳躍する。許さない。許されない。奴を組み伏せ、肉を引き裂き、臓物を引きずり出さなければ怒りは収まらない。
 地面を震動させ、モンスターが着地する。女が顔を上げた時……そこには先程の銀髪の男の他に十人の人間が立っていた。
「よく来たのぅ。食われた民の為にも、お主の為にも……倒させてもらう」
 クリステラが黒炎覚醒を、グノーシスもチキンスピードを使い、モンスターとの戦闘態勢を整える。
 待ち伏せされていたことに気付き、女が右手を冒険者達に突き出すと半身たる白狼の口が大きく開かれ、猛烈に吹き荒れる吹雪がラザナス達を周囲の空間ごと飲み込む。
 それは生命の灯を吹き消さんとする、白銀の風。
「くぅ……っ!」
 事前に施された鎧聖降臨が吹雪のダメージを和らげてくれているが、全身を襲う冷気は防寒具でも完全に防ぎ切れない。吹雪に耐えながらもラザナスは武具の魂を発動させ、武器の潜在能力を引き出す。
「この程度で俺達を止められるか!」
 冷気を振り払い、ヘリオトロープが誓謡ノ調・陽花でホーリースマッシュを放つ。召喚した守護天使の力を利用した斬撃が白狼の爪に防がれ、両者の間で火花が走り、力と力がぶつかり合う。
 剣の威力を受け止め、爪の一薙ぎでヘリオトロープを吹き飛ばすモンスターの足にティルのバッドラックシュートが刺さる。不幸招くカードはモンスターの皮膚で溶けるように消え、代わりに黒い何かが皮膚を変色させていく。
 狼の目が、女の目が、二対四眼がそれぞれ冒険者達の動きを追う。狼の目は右を、女の目は左へ移動する冒険者を捉え、敵が攻撃して来る瞬間を探っている。
「唸れ焔! 漆黒よ……全てを焼き尽くし灰燼と化せ!」
 レグルスがデモニックフレイムを撃つ前にモンスターの足が動き、四肢が力強く地面を蹴りつける。放たれた黒炎は一瞬遅く、モンスターが数秒前にいた場所で爆炎を吹き散らすのみ。
 バルドルが矢を射る姿を女が見ていた。自分に向かって飛来するホーミングアローを横っ飛びでかわそうとし、追尾する矢は狼の身体を僅かに掠める。
 雪の上を滑るモンスターの口が開かれ、再び猛烈な吹雪が冒険者達を襲う。レグルスが背後にエルシーを庇い、彼女へのダメージを防ぐが、傷を負ったグノーシスを守っているのは鎧聖降臨の光だけ。吹雪の勢いに耐え切れず、グノーシスは大きく吹き飛ばされてしまう。
「グノーシス様!」
 護りの天使を破壊されながらも、オウカは傷ついたグノーシスの為にヒーリングウェーブを使い冒険者達を回復させる。普段の彼ならともかく、傷の完治していない今の状態ではどんな攻撃が致命傷になるかわからない。
「ティル殿、相手の動きを!」
「……もう少し待って……」
 アビリティの連続使用にはどうしても十数秒の間が生まれてしまう。バッドラックシュートを放ったティルは次のアビリティを使う為に精神集中を開始するが、モンスターの隙を突かなければあっさりと避けられてしまう。
「俺がいく!」
 ランスを手にコウがモンスターに突撃する。ランスの先端をモンスターに向け、吹雪に真っ向から突っ込むコウの姿を狼が見つけ、身の毛のよだつような咆哮を轟かせた。空気を振動させる狼の咆哮にコウの足が止まり、女の手から撃ち出された氷の刃がシルバーアーマーに突き刺さる。
「ラザナス!」
 斬魔双剣・ラゴウ(a90120)もラザナス達の動きに合わせ、モンスターの側面から接近する。なるべく速度を落とさないよう雪の上を素早い足捌きで近づき、ラザナスの達人の一撃と同時にラゴウも達人の一撃を繰り出した。
 二人の武人が狼の前後の足に一撃を叩き込み、朱色が微かに飛沫を上げてモンスターの動きを鈍らせる。そこでようやく集中を終えたティルがモンスターに粘り蜘蛛糸を投げ放った。
 少女の手の平から白色の糸が飛ぶ。投網のような蜘蛛糸がモンスターの全身を飲み込まんと広がり、粘着性を持った糸が手足にくっつき絡み合う。
「今じゃ!」
 モンスターが粘り蜘蛛糸にかかったのを確認し、クリステラの全身から黒炎が吹き上がる。吹き上がる黒炎は彼女の右手から湧き出るスキュラフレイムと混ざり合い、スキュラフレイムを一段と巨大に、禍々しく変貌させた。
 魔獣の炎が翔ける。熟練の冒険者に勝るとも劣らないスキュラフレイムの一撃がモンスターの腹部に喰らいついた。獅子と山羊が肉を裂く。蛇が体内に毒を流し込む。最後に巻き起こった爆風が地面の雪までも吹き散らす。
 雪が蒸発し、水蒸気が立ち込める中……冒険者達の視界に映る、獣の影。
「これくらいじゃ終わらないか……」
 間合いを測りながらヘリオトロープが呟く。
 彼女の目には腹を炎に焼かれながらも膝を突くことなく、そればかりか微塵も揺るぎなくその場に立つモンスターの姿が見えた。
「散れ! 固まっていると吹雪でやられるぞ!」
 叫びながら後退するラゴウ。コウとラザナスも一度モンスターとの距離を取るべく移動しようとするが、ラザナスより早く白狼の身体が動いた。
 巨体に似合わぬ俊敏な動き、白狼が四肢を鳴らせばラザナスとの距離は一足飛びで詰まり、幾多の命を刈り取った爪と牙の範囲に武人を捉える。セラフィックメイルの表面を三筋の火花が走り、鎧に刻まれる深い爪跡……ラザナスの身体に届かなかったのは鎧聖降臨の力ゆえか。
 その威力に押されながらも地を滑り、ラザナスは姿勢を保つ。
「チョロチョロ動くな!」
 コウのランスがモンスターの足首に刺さり、圧縮された闘気が逃げ場を失い爆発する。デストロイブレードの火力に肉が爆ぜ、純白の毛並みは自身の流す血で汚される。
「こん……のぉぉぉぉっ!」
 目の前で肉が裂け、骨が覗こうとも、コウはランスを深く突き出す。
「エルシー!」
「レグルスさま!」
 二人の想いが繋がり、魔の黒炎と無数の針雨が一斉に開放される。ニードルスピアがモンスターの全身を撃ち、デモニックフレイムが白狼の顔面を直撃した。黒炎に焼かれる狼は激痛に狂い、酸素を求めて暴れるが、それは叶わない。
 グノーシスのスキュラフレイムが暴れ狂う狼の顔面に再び襲いかかる。悪魔の炎と魔獣の焔が混ざり合い、黒炎が皮膚を焼く、空気を奪う、眼球を溶かす。
 最後に二つの黒炎が引き起こした爆発が、狼の首から上を爆砕した。血と肉の雨が灰色の空を、真っ白な大地を汚し……狼の足は力を失くし大地に崩れ落ちる。絶命した半身に女は戸惑い――。
 白狼の足を、背を蹴り、跳躍したヘリオトロープが女の背後に回り込む。
 女は振り返らない。振り返れない。
 最後に見えたのは白い羽と、一筋の剣の煌き――。

 殺されたことすら理解出来ず、女は絶命した。


 誰もが死んだ人々を弔うことを考えていたが、オウカとバルドルは村の中に生き残りの人がいないか探しに向かった。モンスターに食われた人や氷柱に閉じ込められている人は生きていないだろう……しかし、氷に閉ざされた家屋の中はどうか。
「……いました!」
 扉を閉ざす氷を剣の柄で砕き、無理やりにでもぶち破る。ガラスを砕くような音と共に屋内に飛び込んだオウカ達が見たものは部屋の隅に集まっている住人達だ。
「こっちもいます!」
 バルドルも隣の家に入り、中の様子を確かめる。彼らは少しでも暖を取ろうと皆で寄り集まり、こうして生き延びていたらしい。村の人が一人でも多く生きていたことが、冒険者達にはとても喜ばしいことであった。
 家屋の中にいた生存者は全部で十一人。この村に住んでいた住人の三分の一ほどである。
「……遅くなってごめんなさい。ゆっくり休んでください……」
「……現世の別れも一時に過ぎぬ、輪廻の輪により新しき生を歩まれることを祈ります」
 生存者はバルドルとオウカに任せ、他の冒険者は死んだ者達の弔いを始める。喰われた村人や薬師の仲間と思われる人達は遺体の損傷が激しく、中には顔の判別すら出来ない者もいた。それでも出来る限りのことをしてやろうと、一人一人を埋葬していく。
 モンスターは村から少し離れた所に運び、小さいながらも墓を作ってやった。
「あ……雪……」
 エルシーのフルートが音楽を奏で、クリステラが死者の為に歌う中、ティルの声に皆が空を見上げれば白く舞い降りる雪が映っていた。
 雪は再び辺りを白く染めていくのだろう。ここであった戦いの痕すらも覆い隠し……再び、白き野へ。
「何事もなかったように雪は覆い隠していくのかな……」
「今は辛いだろうが、一日も早く忘れてほしいぜ」
「ええ、そして二度とこのようなことが起きぬように……」
「……さあ、帰りましょう。旅団に残してきた薬師殿もお仲間の弔いをなさりたいでしょう」
 一度旅団に帰り、彼を連れて来よう。ラザナスは墓に背を向け、オウカ達と合流すると旅団へと引き返す。雪は墓の上に少しずつ降り積もり、掘り返した土を白へと塗り替えていき……旅団へと引き返す冒険者達の足跡をも消していく。

 春はまだ遠い。


マスター:茅凪北斗 紹介ページ
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ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2006/01/07
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