だって、食べたいんだもん!



<オープニング>


●ししなべ
「あらこんな所にお野菜が♪」
「……あ?」
「土鍋にさいばしあったわね♪」
「だから、何――」
「――つー訳で、お仕事です」
 先だって引いたらしい風邪が治らないのか、心持だるそうにヒトの霊査士・フィオナ(a90255)は言った。
「お前って、ホント我侭にマイペースだな……」
「アタシに惚れると火傷しますよ。
 さて置き、今回のお仕事は、山に出た巨大な変異イノシシの退治です。どうもこやつ、時折人里に降りてくるらしく。麓の村で難儀しているようですね」
「ふむ」
「変異イノシシは、普通のイノシシ十数匹を従えているようで。その突進力は中々のモンでしょうね。
 ま、頭はそんな良くないですけど」
 フィオナは、ぐすぐす言いながら続ける。
「で、土鍋とさいばしです。
 出来ましたらば、変異してないヤツのシシ肉等持ち帰って頂けると鍋等出来て宜しいのではないかと。如何っすか?」
 冒険者達は顔を見合わせ一つ頷く。
「条件がある――」
「……?」
「お前は、食べ専門にして貰う」
 素晴らしき、至言である。

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参加者
降頻・レイン(a06389)
悪辣な獣・ジン(a08625)
韓紅の風焔狼・フォン(a14413)
灰鱗の・ウォルルオゥン(a22235)
紅刃の翔天使・ラビリス(a30038)
薄天色の優しき謳声・リュリュナ(a32145)
イベピンハンター・エーナ(a32582)
二ノ太刀要らず・アレックス(a35809)
故意の奴隷・ネンヤ(a36532)
彩雨流千撃の・チヅキ(a38104)


<リプレイ>

●大寒波だそうですね。
 山の気温は、平地よりずっと低い。
 そうでなくても凍えるような季節になってきたのだから、山での探索は冒険者達にとっても簡単なモノではなかった。
「さっむいな、出来れば早く倒してゆっくり暖まりたいもんだぜ」
 白い息が弾む。
 はーっと息を手に吹きかけて、地祇なる静寂の獣・ジン(a08625)は昨日の雪の残った辺りの光景を見回した。
 人里に仇を為しているという変異イノシシ、その討伐に集まった冒険者達の数は十人。彼等は、群れを率いているという変異イノシシを倒す事と共に、もう一つの目的をもってこの場に居た。
 それは、即ち――
「鍋! 寒い日には鍋!」
 銀色の毛並みの尻尾を少しだけ縮めながら韓紅の風焔狼・フォン(a14413)の言った通り――変異イノシシと共に群れを形成しているイノシシを狩って、鍋にしようという計画である。
「ぼたん鍋か……楽しみだな。そのためにも、全力で獲捕するぜ!」
 灰鱗の狂戦士・ウォルルオゥン(a22235)はぐっと気合を入れる。
 メニューは季節の風物詩、芯から冷える季節だからこそ――一層美味しいのだから。
『あらこんな所にお野菜が♪
 土鍋にさいばしあったわね♪』
 ウォルルオゥンの脳裏に不良霊査士の歌が蘇る。
 そこはそれ、とてつもない料理を作る事で名高い彼女である。
 まさか調理は任せられずとも、提案自体は悪くはない。こんな寒い日だからこそ。身体の暖まるシシ鍋は魅力的というモノであった。
「寒っ……!」
「――っくしゅ!」
「暖かくしておきませんと、風邪を引いてしまいますの」
 ぴゅうと吹いた風に震えるジンと、フォンのくしゃみを見て、薄天色の遥かな謳声・リュリュナ(a32145)が少し慌てたように荷物の中からマフラーを取り出した。
「これで、大丈夫ですわ」
 甲斐甲斐しく二人にマフラーを巻いてあげたリュリュナは、にっこりと笑う。
 その笑顔に、周りの空気が少しだけ暖かくなったのは、気のせいではあるまい。
「……当てられるわね」
 小さく肩を竦めて紅刃の翔天使・ラビリス(a30038)。
 自分だったらどうしただろうか、同じく真冬でも平然と寒い格好をしていそうな「アレ」がそんな風にしていたら――
「餌を撒くのは、この辺でいいのかしらね?」
 ――そんな馬鹿げた思考を隅に追いやり、ラビリスは確認する。
 フォンと、二ノ太刀要らず・アレックス(a35809)が見つけたイノシシ生態の痕跡は、この辺りに集中していた。
「ああ。おびき寄せて一網打尽に、だな」
 アレックスは、山登りにも呼吸を乱した様子は無く楽しげに言った。
 山での活動に慣れた彼は、寒さも疲労も先刻承知であった。
「これくらいしか役に立てないから……頑張っていい匂いに作ったにゃ」
 水筒の中に用意した香りの強い肉団子のスープを、ゆっくりと辺りに撒きながらにゃんこの翔剣士・エーナ(a32582)。彼女だけに限らず、今回の依頼に当たっては本調子でない者が多かったのだが。
(「これも、無辜の民草の為。引く訳にはいかぬ故な――」)
 冒険者の勤め――加えて、一つの鍛錬の機会と仕事を請けた彩雨流千撃の・チヅキ(a38104)は、自らの大業物をちゃりと鳴らす。
「これで、大体……ですわね?」
 分担しての撒き餌を終えたセイレーンの吟遊詩人・ネンヤ(a36532)が周囲に確認を取る。食料の少なくなってきた時期である。悪食の彼等は、恐らくはコレに引っ掛かるであろう。
「後は隠れて待つ事にいたしましょう」
 おびき出す場所に選んだのは、隠れる木の多い林の中。
 何時やってくるか知れぬイノシシ達を人里近くで待つ事は叶わなかったが、場所は申し分ない。
「さて――狩りを始めるか」
 複数体用意した土塊の下僕に辺りを見張らせながら、一滴の・レイン(a06389)が呟く。
(「首尾良く行けば――ちょっとくらいは羽目を外すのも悪くないしな」)
 宴会とは、そういうモノである。

●味噌味が美味しいですよね。
 どれ位待った頃だろうか。
 土を蹴る連続音は、地響きにも似た轟音だった。
「なんとも熱烈な歓迎だね――」
 レインの言葉は、半ば呆れたような響きを持っていた。
 五メートル近い巨大なイノシシを先頭に、飢えたイノシシの群れが林の中を駆け抜ける。冬枯れの立ち木を何本か薙ぎ倒しながら強引に匂いの元を目指す彼等は、成る程。猪突猛進と呼ぶに相応しい勢いを持っていた。
 撒き餌に到達したイノシシ達は、ガツガツと餌を食い漁る。
「兎に角――」
 フォンの言葉に、付近に隠れた冒険者達は頷く。
 まずは、初手。彼が――ジン、リュリュナが飛び出したのは、それとほぼ同時だった。
「仕掛けるぜ、リュリュナ、フォン!」
 ジンの言葉に、二人が頷く。
「――縛・鬼蜘蛛!」
 イノシシ達が異変に動き出すより早く、ジンの蜘蛛糸が彼等に降り注ぐ。

 ――――♪

 リュリュナの澄んだ歌が響き、
「さ、行くよ!」
 隙をついたフォンが、低い姿勢で一気に変異イノシシへの間合いを詰める。
「任せてっ!」
 ブン!
 派手な風切り音を立てて、動きを失った変異イノシシに光の弧を描く蹴撃が突き刺さる。
「とりあえず保険代わりだけど、無茶はしないでよね」
「ありがとにゃ!」
「すまぬな」
 自らと――同じく重傷を負ったエーナ、チヅキに鎧聖の付与を終え、ラビリスは呟いた。
「……女神像にならまだしも、これが原因でイノシシに殺されたんじゃ……死に切れないし」
「ハッ! 片っ端から鍋の材料にしてやるぜっ!」
 無理はするな、と彼女達を下がらせアレックスがダッシュ良く飛び出す。
「大人しくしやがれっ!」
 辺りを揺るがすようなアレックスの咆哮に、イノシシの数体が硬直し、
「行っくぜ――!」
 一直線に変異イノシシを目指し肉薄するウォルルオゥンの為の道を作る。
「悪いが、加減は出来ない性質でな!」
 ヴォルヴァドスを大きく振りかぶった彼は、気合と共にその刃を一閃した。
 どむっ!
 変異イノシシの巨躯が、一撃と共に煙に塗れる。
 同時に、その身体を縛っていた蜘蛛糸が強力な膂力に引き千切られた。
「――!?」
 振りたくられた牙のサイズも、長大。
 圧倒的に巨大な変異イノシシの鼻先での一撃を受けて、ウォルルオゥンの身体は声も無く実に十メートルもぶっ飛ばされる。
「なんとも熱烈な返礼だね。歓迎するよ、猛々しき者共?
 だが――これも取っておけ。私からのホンの、挨拶代わりだ」
 全てを引き潰す巨岩のように――倒れたウォルルオゥンに向かおうとした変異イノシシの巨躯を、レインの葉鎖が雁字搦めに絡め取る。宙に展開された束縛の紋章術は、変異イノシシの突進力にもびくとも動こうとはしない。

 ――――♪

 ネンヤの眠りの歌が、小煩いイノシシ達を眠りに落とす。
「大丈夫ですか?」
「……ああ……何とかな」
 後衛に位置した彼女の数メートル横手には、吹き飛ばされた勢いで逆さに茂みへと突入したウォルルオゥンが居た。

●焼肉も割と美味いんですけどね。
「――一気にいくぜ!」
 溜めた膂力を爆発させたアレックスの巨大剣が、渦を巻く狂風を巻き起こす。
 その一撃は宣言通りに、残ったイノシシの数体を宙へと巻き上げ、地面に叩きつけた。
 攻防は続く。
「――猪は急に止まれない、ってね!」
 変異イノシシの鼻先が、また一本立ち木を薙ぎ倒す。
 避け様に閃いたフォンの斬鉄蹴が、頑健な巨獣の身体を強かに叩いた。
「うわぁ!?」
 しかし、巨獣の体力は実に凄まじい。
 幾度となく繰り出された攻撃に小さくない手傷を負っているにも関わらず、暴れ回る勢いは増すばかり。
 手負いの獣は流石と言おうか――イノシシの大半は、冒険者達の力の前にすぐに沈黙していたが、この親玉だけは話が異なっていた。
「面倒だな……」
 長剣を片手に、攻めあぐね、退いたジンが呟く。
 バキバキバキ!
「私――!?」
 立ち木を薙ぎ倒して変異イノシシがラビリスに突っ込んでくる。
「危ないな。貰い事故は只の損だぞ、気をつけろ」
「ごめん。ホントに……く、体が満足に動けばこんな奴らなんかに……」
 レインの土塊の下僕を身代わりに、彼女は救われるも……口惜しさは変わらない。
 彼女が牽制に放ったリングスラッシャーはと言えば……そこにあった痕跡も無く、突撃の前に霧散していた。
「や、厄介ですの……」
 全力で放った針の雨の大半を分厚い毛皮に弾き飛ばされ、リュリュナが小さく呟いた。
 バキバキバキ!
 戦闘は続く。
 冒険者達は、薙ぎ倒される木にも注意を払わねばならなかった。
「――っ、ふ……っ!」
 舞う羽の動きで間一髪突進を避けたチヅキが素早い連撃を繰り出すものの、これも弾き飛ばされる。
「む、駄目ですわね……」
「と、止まってくれないですにゃ!」
 ネンヤの歌も、エーナの幻惑の剣舞も猛る巨獣には届かない。
「単純であるが故に御し難い、か……」
 チヅキは、激しい動きの末に我が身に走った激痛に眉を顰め、変異イノシシを見る。
「引けぬ――しかし……」
 深手を負った身体では荷が重いのは、既に分かっていた。

●歯ごたえがイイ。
 どれ位戦いは続いたろうか。
 圧倒的な体力を誇っていた変異イノシシだったが、主力になったフォン、ジン、アレックス、レイン、ウォルルオゥンらの活躍によりその動きは段々と力無いモノへと変わっていた。
「おらよ!」
 アレックスの得物が、変異イノシシの身体を切り裂き、
「食らえ!」
 どむっ!
 ウォルルオゥンの斬撃が爆裂する。
「手こずらせてくれたが――」
 レインの紋章術が幾度目かの煌きを放ち、かの巨体を縛り上げ――
「今ですのっ!」
「ジン、頼むよっ!」
 ――リュリュナのニードルスピアが降り、フォンの足刀が変異イノシシの巨体を支える足を綺麗に刈る。
「任された。行くぜ――」
 ジンの伽藍は、その鞘に収められていた。
 地面を蹴り、イノシシの丁度目線の位置まで飛び上がった彼は、
「――雷哮一閃!」
 稲妻の闘気をその刀身に纏わせ、見事な抜き打ちを一閃させた。
 鮮やか過ぎる一撃に、纏った雷気の威力に変異イノシシはビクと硬直し、やがて動かなくなる。
「やったにゃ!」
 それが、戦いの決着だった。

●毛がちくちくするのが何ともアレなんですけどね。
「無駄な殺生は、本意ではなかったからな」
 チヅキの言葉通り、獲物は、戦いの中で倒れたイノシシだけで十二分だった。その大半を麓の村人達に贈り、彼等は帰路についた。
 役得だけはしっかりと。一番いい肉を、必要な分だけ携えて――



「にょおおおおお……!」
 目の前ではぐつぐつと土鍋が音を立てている。
 蓋を開ければ、土鍋の中は、丁度食べ頃に煮えていた。
 具財のダシがしっかりと染み出たコクのある味噌を溶いた単純ながらも深みのあるスープ。
 最高のシシ肉をメインに、季節の野菜の彩られたそれはまさに冬のご馳走。
「うん、中々美味しそうね」
 調理は、エーナとリュリュナによるモノである。
 マーダーの名を冠するフィオナとラビリスの二人は、自分が食べ役に回るという事であれば現金なモノだ。一切調理に関して手を出そうとはしなかった。
「もういいかな?」
 待ち切れない、とばかりにフォンが瞳を輝かせる。
「どうぞですにゃ!」
 エーナの許可が出たその瞬間に――
「そこだっ!」
「負けはしない! 負けはしないぜ! うぉぉぉぉぉ!」
 ――フォンが、ジンが同時に動き出す。
「やらせない、やらせはしないよっ!」
 フォンの箸が、彼の方に纏めて野菜を寄せるジンの箸をブロックする。
「ストライダーの反応力が互角なら――後は、能力が勝負を決めるのだっ!」
 ガッ!
「能力が何時も、勝負を決める訳じゃないんだよっ!」
 カカッ!
「お二人共、そんなに焦らなくても大丈夫ですのに……」
 火花散る二人のやり取りを困ったように眺めてリュリュナが言う。
「ま、賢いアタシはこっちにもう一個鍋を用意している訳ですがっ」
 二人を中心に繰り広げられた戦いを尻目に、フィオナが一回り大きい鍋の蓋を開ける。
「余り騒ぐのは柄じゃないんだがな――」
 隣の喧騒に少し苦笑いをしながらも、レインは用意された席につく。
「ま、可愛いお嬢ちゃんの手作りには敵わんだろうが――な」
 小さな鍋を幾つか用意しながら、ウォルルオゥンが言う。
「すき焼き、水煮、しゃぶしゃぶ等も作ってみた。創作気味だが、試しにどうだ?」
 賑やかに、食事が始まる。
「やっぱ冬場は鍋だよなぁ……」
 アレックスはしみじみと呟く。
「これで、熱燗でもあれば言う事ねぇな」
「どーぞー」
 何時に無くサービス精神旺盛なフィオナが、彼に一つ酌をする。
「お、悪いな」
「真心一番霊査士フィオナ、現在在庫少数でありますのことよー!」
 アピール、アピール。
(「持っては来たけど、どうすっかな……」)
 苦悩するウォルルオゥンのその手には謎の羊皮紙が握られていた。
「真心! 萌え美少女! 霊査士フィオナ!」
(「誘わないと呪われそうで――」)
 必死ですからね。
「ん、美味い」
 食べでのある肉を口に入れ、チヅキが呟く。
 素朴な感想は、まさに自然に漏れたモノだった。
「おいしぃにゃあ……ケガも治りそうにゃ〜」
 エーナの、皆の表情が緩んでいる。
「ま、請けて良かったかな」
 仕事自体は苦労したが、それも報われた。
 ラビリスは、暖かいスープをゆっくりと飲み込んで呟く。
「あったまるー……」
 外は寒いが、皆で囲う鍋はそのお陰で楽しいのだ。
 そう考えれば、空気の冷たさも季節の贈り物と言えるのかも知れなかった。



「フィオナさん、フィオナさん」
「あんですかー?」
 ……ん?
「風邪をお召しになったとうかがいまして。
 一日も早く直るように特製の鍋を用意しました。是非、召し上がって下さいな」
 ネンヤは、ふふっと笑ってフィオナに特製の鍋をすすめる。
 そう、確かにそれは特製も特製である。あの巨大な変異イノシシの肝をスープに溶いた帝王も吃驚の危険一品である。
(「楽しみですわ、看病と称してフィオナさんにあれをこれを……」)
 コレコレ。
「んー……」
 フィオナは、思案するような顔をした後に、
「アタシ超感激です!」
 ぐっと拳を握る。
(「勝ちましたわ……!」)
 ネンヤは心中ガッツポーズをするが……
「あんまり嬉しいから、アタシサービスしちゃうですよ。あーんですよ、あーん」
「あーん」
 ……つい、つられて口を開けてしまったのが失敗であった。
 ひょい
「……っ!?」
 分かっているのか、居ないのか。
 フィオナは、目を白黒とさせるネンヤに構わず、
「美味しいですかー?」
 ひょい、ひょい、ひょい
「!? ……っ!? !?」
 フィオナに挑まずば、負けドッグも食当たらないモノを。
 美貌のセイレーンの面白い顔は、中々レアなワンシーンであった。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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