ホワイト・ダイアリー



<オープニング>


「ああ、君達。これから買い物に行くんだけど、良かったら一緒にどうだい?」
 マフラーを巻き、コートに身を包んだストライダーの霊査士・キーゼルは、そう通り掛かった冒険者達に声をかけた。
「使っていた日記帳が、残り僅かになってね。ちょうど年の瀬だし、来年に向けて新しい物を買いに行こうかと思ってるんだよ」
 キーゼルが行こうとしている店は、今の時期、来年から気持ち新たに日記を付け始めようと考える人で賑わうらしく、それもあってか実に豊富な品揃えなのだという。
「誰が行っても、一つ位は気に入る物があるんじゃないかって位だから、きっと君達の気に入る物もあると思うよ。興味があるなら、一緒にどうだい?」
 そう誘いかけると、キーゼルはその店へと向けて歩き出した。

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)



<リプレイ>

 12月も終わりに近付いた、少し肌寒いけれど天気の良いその日。キーゼルの誘いを受けて、20人ほどの冒険者が店を訪れていた。
「キーゼルさん、この度はお買い物にお誘い頂き、ありがとうございます」
 その一人、いい機会だからと同行した、夢見る翼・リディア(a32842)は、初めましての挨拶と共にお礼を告げる。
「キーゼルさんも素敵な日記帳が見つかると良いですね」
「ん、そっちもね」
 リディアの言葉に微笑み返したキーゼルに別れを告げ、リディアは早速日記帳を見て回り始める。店内に並んだ棚には、沢山の日記帳が並んでいて……リディアはつい目移りしてしまう。
「もう今年も終わりやね」
 入れ替わるようにキーゼルに近付いた、レディ・リーガル(a01921)は、日記帳を眺めながら年の瀬の挨拶をしつつ、しばし言葉を交わす。
「イズラルはんは年末、帰ってくるん?」
「イズラル? ……あれは年末とか、あんまり考えてないんじゃないかなぁ。フォーナの時は少し帰って来てたみたいだけど」
 そんな中、ふとリーガルが発した問いに、その名前を聞くとは思わなかったのかキーゼルは少し驚いたような顔をしながらも、年が明ける頃にはまた顔を出すんじゃないかと話す。
「そういえば、キーゼルさんは日記、毎日付けられる方で?」
 そこに声を掛けたのは、近くで日記帳を見ていた、眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)だ。
 彼は先日、手を滑らせて暖炉の火で焦がしてしまった日記帳に代わる、新しい物を探しに来ていた。
「大体毎日かな。たまに忘れる日もあるけど」
 記憶は薄れやすいから、短くても書き留めるようにしているのだと語るキーゼルに「自分は飽きっぽいので、気が向いた時にしか書いていませんね」とラードルフは返して。
「それでもたまに読み返すと、その時とは違った発見があって楽しいですな。……ちょっと照れくささもありますがね」
「確かに、それはあるね」
 特に何年も前の物になると……と、キーゼルも覚えがあるのか頷き返す。
「わぁ……」
 そんな彼らの脇を、わくわくした様子で通り過ぎていくのは、桃桜華の苺姫・キラ(a18528)だ。
 ちょうど新しい日記帳が欲しかったのだと、店を訪れたキラは、ピンク色で苺のイラストが付いた日記帳を探し、辺りをきょろきょろ見回しながら、店の中を歩いていく。
「ん〜、どんな日記帳にしようかなぁ〜ん」
 蒼天をあおぎ旅する花雲・ニノン(a27120)は、棚に並ぶ日記帳の数々を前に考え込む。今まで使っていたのは空色の日記帳だから、今度は……。……やっぱり、新しい物も空色にしようか。
「これからどんな想い出で埋まっていくのかなぁ〜ん」
 ニノンは空色の日記帳を手に取ると、楽しい事でいっぱいになりますようにと笑った。

「ちょうど日記欲しかったんどす〜。あ、ツバキはん、こんなん良さそうどすえ〜♪」
 日記帳を眺めながら歩いていた、戴くは黄昏の群青冠・ツバメ(a32416)は、後ろにいた月葬詠・ツバキ(a25425)を振り返った。
「わぁ、綺麗ですね……」
 ツバメは目を留めた日記帳をツバキと一緒に覗き込む。その一歩後ろでは、彼女らと一緒に買物に来た、水繋ぐ絆・イコ(a30456)が店内を見回し……思わず「女の子ばかりだな」と呟きを漏らす。
 店内には男性もいたが、イコの目には圧倒的に女性が多いように見えた。同行者も女性だし、先程見かけた知人も……女の子のようなものだし……。
「男は日記付けないのかねえ」
 こういうマメなの好きなんだけどなぁ……と思いつつ、イコはキーゼルなどの男性陣に、ちょっとした仲間意識のような物を抱く。
「あ……イコさん。この日記帳どうですか?」
 そんな彼を振り返り、ツバキが勧めたのは、桃色で花柄な一冊の日記帳。
「い、いや、俺は……」
 しかしイコは首を振る。
 プリティなグッズが好きだが、それを周囲には絶対に知られたくないと思っているイコとしては、とにかく首を振るしかない。
「うちはこれなんかええなぁ」
 その間にツバメは楓華列島風の日記帳を手にする。ツバキは、素敵な物が沢山で決められないと目移りし……イコは、男の見栄と個人的な趣味を満たしてくれそうな品が無いかと、隅々まで目をやる。
(「……どういう物を喜ぶだろうな……」)
 一方、真剣な表情で悩んでいるのは、沈黙の警鐘・セヴンス(a23883)。娘のような、大切な仲間に贈る日記帳を探しに来たセヴンスは、難しい顔をして悩みながら、日記帳を見比べている。
「……すまない、少し尋ねたいんだが……」
 通り掛った店員を捕まえて、相談を持ちかけながら真剣に日記帳を選ぶ様子は、まるで父親かのようだ。
「贈り物用に包んでいただけますかしら〜?」
 逆十字の碧淵・エリル(a35724)は、選びに選んで選び抜いた一冊の日記帳を手に、そう店員に頼む。
 エリル自身には日記を書く習慣は無いけれど、あの方は書いていたはず……もしかしたら、残りあと僅かなのかもしれないと考え、プレゼントする為に選んだ一冊だ。
「ええ、構いませんよ。どなたへのプレゼントなんですか?」
「何方への贈り物かって……そ、そんな事、言えませんわぁ〜」
 頷いた店員の言葉に、エリルは頬を真っ赤に染めながら返す。
「うわぁ……♪」
 一冊の日記帳を手に、うっとりとした顔になっているのは、不思議の国の白百合姫・ルシェル(a28119)。その瞳には、まるでハートマークが見えるかのようだ。
 ルシェルが見つけたのは、白い布地に百合柄のホワイトチュールレースが重なった、とても綺麗な日記帳だった。一緒に銀の鍵が付いて、それがまたルシェルの好みを突いている。
 幸せそうな顔で、ルシェルはそれを大切そうに抱えると、足取り軽く会計に向かう。
「鍵付きの日記帳が欲しいですね」
 近くでは、闇夜に煌めく光を求める天使・カノン(a35677)が、鍵付きの日記帳のを見比べている。一つ一つ、順番に手に取りながら眺めるうち……やがてカノンが手を止めたのは、赤い日記帳を目にした時だった。
 赤い表紙の脇に、銀色の鍵が付いた一冊の日記帳……カノンはそれを気に入り、買う事に決める。
「きゃ!?」
 その通路の反対側で日記帳を見ていた、宵闇の中の苺姫・レープ(a29694)は、後ろから誰かがぶつかって来る衝撃に、小さく声を上げた。
「っとと!?」
 相手は、声と共に転んでしまった真昼の月・シュリ(a16737)だった。色々な日記帳を手に取りながら、買物を満喫していた彼女は、ついぼんやりしてしまい……レープにぶつかってバランスを崩してしまったのである。
「ご、ごめんなさい〜」
 あわあわと謝りながら、恥ずかしそうに歩き去ろうとするシュリだが……今度は謝ってばかりで前方不注意になったせいか、棚にぶつかって置かれていた日記帳を落下させてしまう。
「す、すいませんすいませんー。……あ」
 慌てて無事かを確認しつつ、それらを棚に戻し始めるが……ふと、その中の一冊に目を留めたシュリは、それを買う事に決める。
「色々ありますね……あれ、この日記……?」
 どれにしようかと考えながら、店内を見回しているのは、湖畔の薬師・カレン(a17645)。
 書きやすく、携帯できるように小さくて軽い物が良い……そう考えながら、小さめの日記帳が並ぶ一角を見ていたカレンは、ふと一つの日記帳に手を止めた。
 その表紙には、カレンの実家の家紋に似た模様が書かれている。
「偶然なんでしょうけど……書きやすそうですし、重さもこの程度なら……」
 うん、と一つ頷いて、カレンはこれを買う事に決めた。

「ううー……」
 唸りながら、夏竟遠遐・スィーニー(a04111)は日記帳を見比べていた。取っては戻し、取っては戻しを何度も繰り返しながら、難しい顔をしている。
 キーゼルの話を聞いて、ドリアッドゆえに長生きできる分、忘れる事も多くあるかもしれないと、ガラでは無いが書いてみようと思い立ったものの……こうして多数の日記帳を前にすると、どれにするか悩みに悩んでしまう。
「本当に色々な種類があるんだな……」
 どんな日記帳があるのか、店内を見て回っていた、飛翔せし飛燕・シェルト(a11554)は、数え切れない程の日記帳の数々に、圧倒されながら感嘆の息をつく。
「ん、この刺繍は……よし、これにしよう」
 一通り見て回ってみたシェルトは、今度は革の日記帳コーナーへと移動して……自分が象徴としている、燕の刺繍が入った一冊の日記帳を手にする。
「んふふ、このエクセレントにプリティなカーズに相応しい、素敵な日記帳を探してくれなぁい?」
 そんな中、縫合専科・カズレヤ(a35819)は、好みに合う『渋いおじ様』を見かけると、近付きながら歌声と共に求める。
「そ……そうだね……お嬢さんなら、こういう物はどうかな?」
 セイレーンらしいといえば、セイレーンらしいその行動に、相手の男性は棚を一瞥すると、楽しげに彼の反応を見ているカズレヤに、日記帳を見立てる。
「これ、いいわね」
 あれでもない、これでもないと日記帳を探していた、セイレーンの武道家・ロゼッタ(a39418)は、一冊の日記帳に目を留めた。
 黒い革の小さめの手帳……ロゼッタはそれをとても気に入ったけれど、思っていたより少しだけ予算をオーバーしていて。
「……ね、店長さん。少しだけお願いがあるの」
 ロゼッタは店長を捕まえると、セイレーンの女である事を最大限生かして値引き交渉を始め……相手も商売だからと渋ったものの、やがて少しだけならばと折れてサービスしてくれる。
「あっ! 向日葵発見なのです!」
 笑顔を振りまく向日葵娘・リウナ(a32759)は、ぱっと顔を輝かせながら日記帳に手を伸ばす。彼女が見つけたのは、大好きなひまわり柄の日記帳だった。
 空に向かって大きく咲くひまわり……自分も元気いっぱいになれる素敵な花。だからこれから頑張って……三日坊主にならないように書くのだと、決意しながらリウナはそれを抱える。
「キーゼル様、私これに決めました!」
 満面の笑みで振り返るリウナに、キーゼルは微笑ましそうな視線を向けつつ、自分も丁度選んだ所だと、ワインレッドの手帳を掲げる。
「……一号はとても良いモノに出会えたと判断いたします」
 その三歩ほど後ろでは、侍女式量産型・ウィル(a40507)が一つの日記帳に目を留めると、こくこく頷きながら歩く。
「――キーゼル様、良い物が手に入りました、と一号は報告いたします」
「ああ、そう。良かったね」
 しばらくして、その日記帳を手に報告するウィルの様子に、キーゼルは微笑み返す。
 ちなみにウィルは、ずっとこの調子でキーゼルの後ろを歩いていた。何でも今回は、キーゼルを主人として付いて行く事にしたのだという。
 その言動に、少し変わった子だなとキーゼルは思ったものの。そうしたいなら好きにすれば良いというのが彼の考えなので……適度な距離を保ちつつ、この関係は成立していた。
「えと、キーゼルさん、そろそろ……」
 キーゼルと一緒に店内を見て回りながら日記帳を選んでいた、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、ふと窓の外の様子に声を上げる。
 西の空は、赤く染まり始めていて。冬の短い昼の時間が、そろそろ過ぎ去ろうとしている事を示していた。
「もうこんな時間か……早いね」
 その言葉に促されるように、日記帳を買いに向かうキーゼル。順番に会計を済ませて……メルヴィルは、買ったばかりの日記帳のページをめくってみる。
 まだ、何も書かれていない、真っ白なページ……。
「嬉しい、哀しい、楽しい……。これから感じてゆくいろんな想いが、時には文字、時には絵となって、ページを埋めて行くのだと思います、です」
 願わくば。彼の書く事柄を、自分も一緒に書き留めていけたら……とても、とても嬉しいと、そう思いながらメルヴィルは微笑む。
「そうだね……良い事ばかりになると良いけど……」
 さて、これから一体、何を書いてゆく事になるのやら……と、そんなメルヴィルの言葉に呟くキーゼル。辛い事、苦しい事、悲しい事……それらを綴る時もあるかもしれない。でも、それをいつか、何年・何十年後に読み返して、「ああ、そんな事もあったかな」と笑う事が出来たなら……。
「――さてと。それじゃあ、帰ろうか」
 キーゼルは、暗くなり始めた空の様子に、皆を促して歩き出す。
 全員の腕にそれぞれ抱かれた、まだ何も記されていない日記帳。そこにこれから、何が記されていくのか……未来の事は、まだ誰も知らないけれど。
 差し当たっては、明日が良き日になるように――そう思いながら、冒険者達は帰路についた。


マスター:七海真砂 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:22人
作成日:2005/12/29
得票数:ほのぼの23 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。