<リプレイ>
工房の屋外の会場に、所狭しと並べられた美しい紫色に染め上げられた数々の品を見ながら……タケルはしきりに感心する。 「貝紫というと少量の布を染めるだけでも大変な量の貝が必要とか……」 工房の雰囲気や品々を堪能しているようだ。 「うむ……この帝王紫の不思議は退色しないこと……とまあ色々薀蓄はあるのじゃが、綺麗だと思えれば、それでいいんじゃろうのぉ」 だがらといって、自分の目が好きだとは言えんがの。と、内心思うスルク。 「うむ……。静かな闇夜のような、見事な紫。この色であれば……」 自らを闇に溶け込ませてくれるような紫色を見、静かに笑うジュウゾウ。 「いや、全く。気高く、吸い込まれるような色をしていますね。……美しいものです」 同じく全身闇色でコーディネイトされているオズリックがジュウゾウと同種の笑いを浮かべている。 なにやら、共感するものがある二人であった。
「あら、フエンテちゃん、久しぶりね。元気にしてた? 何を見ているのかしら?」 「あ……ドロレス。お久しぶり……ですの」 ぺこりとお辞儀をする彼女の向こうには、薄紫色に染められた簡素な布が。ドロレスの視線に、フエンテが答える。 「ターバンに……しようかと……思いまして」 「なるほどね。あたしは新しく手に入れた巨大剣につけるベルトを染めてもらうおうと……」 セイレーンの二人は、立ち話に興じる脇を、紅白のウサギがぴょこぴょこ跳ねてゆく。 「うにゃっ、リボン、リボン……と」 『うにゃっ』という奇妙な鳴き声をあげる紅白のウサギ……ではなく、チトセが物色しているのはリボン。様々な濃淡、形のリボンが並ぶ中を目をさらにして元気に跳ね回っている。 「なかなか見つからないみたいですね? いいのがあるといいのですが……」 薄手のヴェールを探していたレラも、いつの間にか一緒になってリボンを探すことになっている。 「うにゃっリボン、リボンと……、あったっ! うにゃ〜綺麗だな〜。これいくらっ? うーん、高いけど……買ったっ!!」 「いいものがあってよかったね、チトセ」 なりゆきで一緒になったルフナが、先ほど同様ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶチトセを眩しそうに見やる。 「いいのが見つかってよかったのなぁ〜ん」 笑顔でルフナに同意するユグドラシル。 「拙者はかっこいい海賊マントが買えてよかったのなぁ〜ん! でももうすっからかんなのなぁ〜ん」 そう言ってユグドラシルは財布を逆さに振る。しかし、でるのは空気ばかり。その背中には紫色のマントが風をはらんで翻っている。 「あは……。でも、今年一年、がんばった自分にごほうび……。そういうのも、いいかなって思うよ」 「その通りなぁ〜ん! ルフナ、いいこというのなぁ〜ん」 「うんうんっ! じゃあ、次はキミに似合うケープか何か、一緒に探したげるねっ!」 「あっ……」 「ふふっ……。急いで転んだりしたら、危ないですよ」 チトセとユグドラシルに、強引に手を引かれるルフナ。二人に半ば引きずられながら、その手の暖かさを感じながら、こういうのも悪くない……と思う。 三人を笑顔で見つめ、後に続くレラは、なんだか自分が保護者かお姉さんになったような錯覚を覚えるのだった。
「うーん、色々あって目移りするな……」 せっかくの機会と贈り物を物色するニオス。 「そうですね。一口に紫といっても、様々な紫色があるのですね……」 少々驚き気味に、並べられた染物を眺めるヴァイナ。 「ヴァイナも、贈り物を?」 「ええ……ということは、あなたもですか。お互い、良いものが見つかるといいですね」 ヴァイナはニオスに微笑みかける。 「ボクも、プレゼントを探しに来たのデス。帝王の紫……まさに、あの方に相応しいのデス〜」 うっとりとした瞳で宙を見つめるフィンフ。その時、どこかでくしゃみをしたリザードマンがいたとかいなかったとか。 「なるほどねぇ……。俺は親友の誕生日が近いんだよね〜。サクは、誰にプレゼントを贈るつもりなんだ?」 キュオンが、同じくプレゼント探し組みのサクに話しかける。 「俺のほうは、姉にプレゼントしようかって思ってるんだよな。いつも世話になってるし……いいものを見つけないとなっ。フェアさんは見つかったみたいだな?」 と、熱心に品物を見つめるサクが買い物をおえたらしいフェアに訊ねる。 「私は、厚手のスカーフを探していたのです。大きな布は色々と使い勝手がありますし……旅の方、前線で戦うお方ですから……」 スカーフを抱きしめ、微笑むフェア。”Celsior”という刺繍を入れてもらい、ご満悦の様子だった。 「あたしは楓華風の反物や小物なんかを見るけれど?」 フィーリアが一緒に歩いているオスクヴァへと話しかける。 「私は……その、別に染めてもらいたいものがあるので……」 という返事に、気にせずいってらっしゃい、と彼女を送り出す。お辞儀をして歩いていくロスクヴァの後ろ姿に、少しは元気になってくれたら……と。そう思うフィーリアに声がかかる。 「ふぇ〜、わ、私も楓華風の武器飾りを探しているんですけれど……よ、よろしければ一緒にどうですかぁ?」 目を回したアキがフィーリアへとヘルプを求める。 「そうね……。そこの貴方も贈り物をお探し?」 アキを連れて楓華風のものが並んでいるところへ行こうとし、近くにいた男性に声をかけた。彼―シイノが、多数の染物を前に途方にくれているように見えたからかもしれない。 「贈り物をお探しのようね。どんな方に送るつもりなの?」 「―和装の雅馴な人」 一言そう答えたシイノ。 「それなら、楓華風のものがぴったりですよ、絶対!!」 「そうね。それじゃあ、皆でこの辺りを見て回りましょうか?」 「んー、そうだな……っとっとっと」 アキにぐいぐいと引っ張られてゆくシイノ。微笑みながら後をついてゆくフィーリア。 三人は楓華風の物品が並ぶ方向へと歩いていった。
「ふぁ〜!! それにしても、綺麗な紫どすえ!!」 辺りの紫色をきょときょとと見回し、はしゃぐツバメ。 「ああいう染色工程とはね。陽光を浴びて煌く紫か。アロイとセレの瞳みたいだな、なんてな」 染色工程を、同行する仲間にかけて話すイコ。アロイジウスはイコに微笑を返し……残る二人の同行者、セレとツバメを見つめる。 「セレの瞳の紫は……優しい、色……。ツバメの羽は……これ以上は染まらないのが、残念……ね?」 そこで言葉を切り、微笑するアロイジウス。 紫の色に、母の瞳を……そしてアロイジウスの瞳を思い、その瞳を見つめていたセレ。その瞳に見つめられているのに気がつき、彼女と同じように微笑して誤魔化す。 「いやー、そんな残念てほどでは……、ん〜? なんや、お二人ともええ雰囲気やなぁ? このこのぉ☆」 ツバメがそんな二人を覗き込み、楽しそうにはやし立てるのだった。
「はわわ〜、いろんな紫がいっぱいですにゃ〜♪」 他の人の染めているところを覗いているマーシャがちょっと興奮気味な声をあげる。 一心不乱に黙々と長い布を染め上げるシルフィー。淡い透明感のある紫に仕上げるべく、丹念に丹念に、地道な作業を繰り返す。 「実際にやってみると……大変なものなのだな」 実際の染物を体験し、改めてその大変さを実感するレーダ。その隣では、パンセとメロウが 「ふむ、思ったよりも上手くいったかな。自分で染めたものとなると思い入れも尚更じゃなー♪」 「いやぁ……ほんまに綺麗にそまるもんどすなぁ♪」 二人してうふふふーと、上機嫌で自分の染物を見つめている。 「うちも想いを込めて贈りたい品やさかい、よう出来てよかったどす。それにしても、紫いうのは不思議な色でおますな」 そんな二人を笑いながら見た後、ホオズキも作務衣を見つめ、これを贈る人のことを思い……そんなことを口にする。 「ふゎ……ああやって色をつけるんですね……」 小さな貝が色をつける……ということに感激し、皆の作業風景を食い入るように見つめるユラ。絵画とは異なる、色を扱う作業を興味津々で見学している。陽光を浴びて、初めて色が生をうるというのも……彼女の感性にいたく響いたようだった。 「うむ。染める物、色の濃淡、染める柄……そして、染める者の想い。同じ色とはいえ、楽しめるものだ」 腕を組んで見学しているガルスタも、しきりに頷きながら作業風景を見つめ続ける。 そんな会話を聞き流しながら。 「貝や樹は死してなお、美しいものを残す……。人もそうやって何かを残せるといい、な」 ぽつりと呟き、ユユはさまざまな紫を眺めるのだった。
「え…と、このナイトドレスを染めてみようと思って…・」 「私は、正装に使えるパーティードレスを……。後で、洗濯やお手入れについても質問しないとですね」 染物依頼の順番待ちをしている間、それぞれの染めてもらうものについての話題で盛り上がるニクスとセレスティア。それぞれのドレスを見せ合い、楽しそうに色や服についての話をしている。 その依頼を頼む相手。職人アルコバレーナはというと。 「ほう、俺の名の意味を知ってるとはな」 アズーロににやりという笑いを返す、染物職人アルコバレーナ。その名に反してがっしりとした体躯の髭親父に、アズーロは年代物のローブを手渡す。 「落ちついた深い色合いの紫に染め直して欲しい。元は黒なんだが、光に透かすと紫に見える感じになれば最高だ。期待してるぜ?」 「へっ、贅沢いってくれるぜ」 不適に笑い、作業にかかるアルコバレーナ。ローブを卓上に置き、軽く準備をすると、手を振って次なる依頼人を呼ぶ。程無く、次の依頼人―サラサがやってきた。 「良い色が出ていますね……宜しければ、一つお願いできますか?」 依頼人―サラサの話を頷きながら聞くアルコバレーナ。うんうんとうなずき、きっぷのいい返事をサラサに返す。 「よし、了解した。……っと、ほれ、お嬢ちゃんや。綺麗に染め直したぜ!」 サラサからの依頼を聞き終えたアルコバレーナは、傍らで完成を待っていたキララに染め直したお守りを手渡す。ご丁寧に、その紫色は彼女の瞳・髪の色と寸分違わぬ色合いだった。 「これは……! ありがとう。これは旅立ちの時、村の皆が授けてくれた宝物なのだ。感謝する」 彼からそれを受け取り、手にしっかりと握り締め……キララは空を見上げ、誇らしげに微笑む。 「……故郷の皆よ、キララは元気だぞ!」 その様を嬉しそうに眺めていたアルコバレーナは、かかってきた声に振り向く。 「俺よりさらさらで綺麗な銀髪なんだけれど……」 ローズウッドがアルコバレーナに染め方を問うと、がっしりとした顔をしかめ……彼は答える。 「雪の上で咲く紫色の華をイメージするのであれば、濃い目のものがよいだろう。薄いと、銀髪に殺されかねんからな……っと、そこのお二人さん。そろそろ、物も陽光に十分あたっただろう。もっていっていいぞ」 本職の意見になるほどなるほど、ローズウッドは感心しきり。 ローズウッドが戻るのを見て、アルコバレーナは色が変わるのを待っていたゼロとユージンに手を上げて合図し、完成品を手渡す。 「美しい……職人の方の御手がふれると、こんなにも様々な色が生まれるのですね……」 香袋を日に透かし、その色合いを堪能するユージン。隣では親友のゼロが銘に相応しい深く澄んだ色合いにいたく感動している。ゼロは、その香袋を大事に懐へとしまうと、アルコバレーナに一礼する。 「帝王の紫。この貴重な色に恥じないよう心掛けます」 そう言うと、二人は残った時間を楽しむべく、歓談場にいるフル達のほうへと歩いていった。 そのフルの傍では、彼にくっついてニコルが染色した服を披露している。 「僕、好きです……こういうの」 「そうですね。良く仕上がっていますよ」 笑顔で答えるフルに、思わず俯いてしまうニコルだった。 「フルさん、素晴らしい機会を提供してくださってありがとう。大変でしたけど、おかげでロングストールもできましたし……。アルコバレーナさんにも、宜しくお伝えください」 薄絹を重ねた上品なストールを腕にかけ、フルに一礼するチャンダナ。 「いえいえ、こういった芸術に皆が触れてもらうのは……私にとっても嬉しいことですので」 と、フルは頭をかきつつ、チャンダナに答える。
そんな賑やかな歓談場に向かう二人の女性。差し入れを用意してきた、ソエルとニューラである。 「……という話を聞いてから、紫が似合う人間になろうと……そう思ってまいりました」 ニューラが自らの紫に対する思い入れを、同じく紫に深い思い入れがあったソエルに語る。 「私も幼き頃より、紫色には浅からぬ思い入れがありますので……」 ソエルが言い、そして二人は穏やかな笑顔を交し合い……皆に向かってお茶の用意ができたことを告げる。ココナッツミルクをふんだんに使った紫米のプティングの甘い香りが、辺りに広がってゆく。 「皆さん、お疲れでしょう。お茶でもいかがですか?」 「紫米のプティングですよ……、あら、ヒロシさん。貴方もいらしているなんて……何をお探しなんですか?」 「! にゅ、ニューラさんっ?! あー、いえ、その……」 つい先ほど見つけたショールを慌てて背後に隠し、さてどうやって言い逃れよう……とヒロシは脳をフル回転させる。
かくて、紫の元に集った者達の宴は、夜遅くまで続いたのであった。

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参加者:45人
作成日:2005/12/30
得票数:ほのぼの21
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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