≪雫石の聖域・ロリエン≫暗森の地竜



<オープニング>


 ロリエン北方にある暗森の村で起きている作物被害の状況の報告を受け、ロリエンの霊査士ベルフラウは霊視を行っていた。
 その結果を持ち、彼女が再び護衛士達を集めたのはそれから数日後。

「暗森の村の南の方角に、土の養分を吸い取り回りの木を枯らしてしまう植物の存在があるようです。早急に対応しなければ、暗森村の人々だけでなく、周辺の森に多大な影響を与えることでしょう」
 彼女は言って、護衛士達に詳しく説明した。
 その植物の主な活動場所は【地下】である。
 地下茎を周辺にのばし、その茎から土全体の養分を急激に吸い込むらしい。
 しかし、地面を掘って茎を攻撃したところで、その植物に与えるダメージは少ないだろう。その植物本体の地面に出ている部分を探し、燃やしてしまうのが最も良い方法だとベルフラウは語った。

「暗森村周辺の肥沃な土の養分を吸い取ったその植物は、かなり肥大化している様子がわかります。広い葉を茂らせ、その幹は既に大樹のように成長しています。回りの木々も枯れていることから、その場所にたどり着くのは難しくないでしょう。
 ただし侵入者に気づくと、ニードルスピアに似た衝撃波を出し攻撃をしてきます。
 また地面に潜っている地下茎の一部を使い攻撃を仕掛けてくる可能性もありますので、足元にも充分気をつけてください。地下茎は既に十数キロにわたって広がっている可能性もあるので、こちらの存在に気づかれた後は撤退するのも難しいものと思ってください。 それでは……危険な任務ですがよろしくお願いします」

 そういって、ベルフラウは護衛士達に頭を下げたのだった。

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参加者
猫にゃん・イオン(a02329)
銀嶺の死神・シリウス(a05192)
緑風の探求者・アリア(a05963)
水のサフラン・シイナ(a14839)
緋色の花・ジェネシス(a18131)
祝福の旋律・プラム(a19706)
桜と飲み比べる森の守護娘・シンブ(a28386)
特別天然記念物級理想主義者・メイ(a28387)
光と闇の魔法少女・ミント(a31336)
エレメンタルディア・ティー(a35847)


<リプレイ>

 暗森の村……その名前は、村の北方全域に広がる「黒き森」からつけられたものらしい。「黒き森」は背高の針葉樹が多く、森の中へと足を踏み入れば、真昼でも光が届かぬような暗い森であった。
 しかしそれでも普段であれば、少ない木漏れ日の下、小鳥達が歌ったり、小動物達が木の枝を走ることもあっただろう。
 だが、今日の森はただ静かなばかりであった。
 枯れ葉や枯れ枝の積もる霜のおりた土を踏みながら、護衛士達は無言でその道を進んでいた。
「……緑が沢山枯れてる……可哀想……」
 森に入ってから暫く、最初に口を開いたのは幸せの運び手・ティー(a35847)だった。彼女の青い瞳に映ったのは、枯れ果てた木々の連続が作った不自然な森の道。
「この地面の下を、植物の根が走っているのでしょうか?」
 目前に広がる光景を睨むように見渡し、光と闇の魔法少女・ミント(a31336)が呟く。
 幅にして3メートル程、森の奥へと真っ直ぐに続いている道。その道の脇にある木々も枯れはじめており、今なお、彼らの足元でその植物の根が地面の中で他の生命をすすりとっているのが肌で実感できる。
(「森を枯らす植物なんて……」)
 ミントは猫手袋を頬にあて、心の中で呟いた。
 ここからはなるべく無言で進もう。誰が言い出すわけでもなかったが、護衛士達は自然と押し黙っていた。
 それだけではない。皆、靴にそれぞれ綿を巻くなど工夫をして、足音をたてない工夫をしてきたのである。せめて敵本体に接近した後でなければ、自分達の足元の下の地面にある地下茎に気づかれるのは避けて通りたいところだ。
 念には念をこらし、猫にゃん・イオン(a02329)、叶想朱華・プラム(a19706)、緑風の探求者・アリア(a05963)の3人は土塊の下僕を作り出すと、道の先を先行して歩かせることにした。
 体重の軽い下僕達ならば、道の先の危険を察知し囮になることもできるであろう。
(「やはり地竜と冠するだけの実力を持つのでしょうね……」)
 紅髪のエンジェルの青年、緋色の花・ジェネシス(a18131)は、凍てつく寒さにマフラーに手を当てながら、前方を見据える。
 彼の隣で、星色のサフラン・シイナ(a14839)も同じく真剣な眼差しで前方を見据えつつ、時折、道の脇にある岩に印をつけて歩いていた。
(「それは……?」)
 小声でジェネシスが尋ねると、シイナは苦笑する。
(「……逃げる時の道筋になるかなと思って……」)
 もしこの依頼が失敗し、退却をよぎなくされる場合、数多くの地下茎に追われることになる。ベルフラウも退却は困難だと言っていた。それゆえの保険というわけである。
 ジェネシスは少し感心して、シイナに微笑みを浮かべた。

 護衛士達の十数メートル先で、3体の下僕達が立ち止まったのは、それから間もなくのことだった。
 立ち枯れした樹木達の作った道。
 その行き止まり……そこは大きな広場となっていた。

 恐る恐る進んだ道の先。
 そこから広場を伺った護衛士達は、全員が息を飲むことになる。
 そこには……巨大に成長した特別変異の植物が、そびえていたのである。
 その幹の大きさは、直径で5メートルはあるだろうか。大樹とは違い、葉は巨大な茎の先についている。ロリエンの野菜畑でみた山イモやジャガイモなどに近いように思えたが、その大きさは数十倍であり幹は地面から5メートルの高さまでは1本でまとまっていた。狙うのなら、その場所が良さそうである。

●戦闘開始
「……気づかれてはいないようだな」
 ロリエン事務処理官・シリウス(a05192)が、歩いてきた道の隅にある朽ち落ちそうな枯れ木へと身を潜め、シイナと特別天然記念物級博愛主義者・メイ(a28387)に小さな声で語る。
 出発前に打ち合わせていた通りの陣形へと、護衛士達は並んでいた。
 土塊の下僕達を先行させるという案もあったのだが、それによって植物に気づかれ、近づきがたくなるのが良いのかどうかはわからなかった。幾つかの下僕は囮用にと残していたが、あまり戦力としては役立たないだろう。
 やじりの形になって進むことを決め、その先端には前衛のシイナとシリウス、そしてその補佐のメイ。内側に回復手のプラムとティー。さらに牙狩人のクリスマスを祝う森の守護娘・シンブ(a28386)。そして、その両脇を守るようにして術士達、イオン、アリア、ミント、ジェネシス。
「皆様、ご武運を……お祈りします」
 ジェネシスは急ぎ、仲間達に鎧聖降臨をかけていく。
 シリウス、シイナ、メイ、アリア、そして最後に自分へと。
「それじゃ……行こうか……援護お願いするね!」
 シイナが明るく仲間を振り返る。
 彼のベルトには油の詰まった小瓶が結ばれ、手には油が満タンに詰まったランタンが握られてもいる。なるべく早く敵に接近し、この火力を投げ込むのが前衛の一番重要な仕事だ。
「……シイナ、メイ、いこう!」
 シリウスの声が響くと共に、3人は駆け出していく。
 目前に広がる植物はまだ静かだった。
 20mの距離を駆けるのはそう長い距離ではない。ましてやシリウスはチキンスピードをその身にかけている。
 全く動きを見せない敵に対して、シリウスは持参していた度数の高い酒を手に持ち変えて、相手にぶつける距離まで走りこむ。
 そして……叩きつけた!!

 その刹那だった。
 彼の背後の地面が突如持ち上がり、土にまみれた太い牛蒡のような地下茎が現れたかと思うと、彼をなぎ払ったのである。
「うわ!!」
 イリュージョンステップを発動していた彼はそれをかろうじて避けきった。しかし、それがなければ強く地面に叩きつけられていたことだろう。
 時を同じくして、メイやシイナの足元も大きく震動した。
「うわぁ……」
「ああっ!!」
 驚愕の顔色を浮かべた刹那、植物本体から放たれる白い幾筋もの光。
「危ない!!」
 メイは盾を構えて攻撃を避ける。シイナは避け切れなかったが鎧進化を叫び、その護りの下に攻撃を跳ね返した。
 彼らの周りの下僕達は次々とはじけて地面に倒れる。その倒れた体を地面から突き出した地下茎たちが突きぬき破壊していく。

「援護しましょう!」
 前衛の接近と同時に鳴動しはじめた大地の上で、メイが叫んだ。。
 3人を取り囲もうと次から次へと地面から顔を出し始める地下茎に攻撃を加えるべく、他の仲間達も走り出す。
「森を枯らす植物なんて自然としてあってはいけないのです!!」
 ミントはマジカル猫手袋を構え、次々と目の前に鞭のようにうねる地下茎を避けながら駆けていく。当たるなら当たれ!というように一直線に駆けていく彼女だ。
「そうですわ……! 村の方々を早く安心させてさしあげなければ」
「薪にしてやるにゃ!!」
 アリアとイオンもそれに続く。その内側で、プラム、シンブ、ティー、そして外側をジェネシスが守るように続いていった。
 だが彼らの接近を拒むように、うねり続ける地中から溢れ出る竜の群れ。
 それらはあまりに力強く、そして素早い動きを見せていたのである。
「もう後には引けないにゃ!!」
 両手で猫にゃんロッドを握り締め、イオンは目前の地竜に向けてエンブレムシャワーを放った。
 攻撃を受けると地下茎の細い部分はもろく崩れ落ちていく。しかしその太い根を一度で切り落とすことは難しく、また一部にダメージを与えたとしても、地上と地面を長大な蛇のように蠢き続けるそれの同じ部分に攻撃を叩き込むこともまた困難だった。
「イオン様、可愛いのです!!」
 同じ猫グッズ仲間(?)ミントがイオンを見て、思わず声をかけた。
「そ、そうかにゃ♪」
「ミントも負けていませんの!」
 マジカルワンピースを翻し、ミントも心攻撃を目前の地下茎に向かって叩き込んだ。
 しかし。
 そのミントの足元をすくうように一本の地下茎が彼女を突き上げる。
 悲鳴を上げて地面にたたきつけられる彼女。
「ミントさん!!」
「……くっ……わたくしを傷つけたらタダでは済まさないのです……!!」
 震えながら叫ぶ彼女の体から、黒い炎のようなものがその地下茎目掛けて飛び出した。 復讐者の血痕を使用していたのである。その攻撃で先端を二つに裂かれ、地下茎の一本が地面に大きな音をたてて崩れ落ちた。
「すごい!ミントさん!」
 スキュラフレイムを手元から放ちながらティーが、笑顔を向けた。
 笑顔で返すミント。プラムがヒーリングウェーブの光で、彼女の体を暖かい光で包んで癒す。
「前衛の人達が見えませんわ!」
 あせるような声。アリアの声が響く。
「まだ火の手も上がっていませんね……」
 ジェネシスの声がそれに続く。
「早く進むにゃ……!!」
 距離にしてはさほど離れているわけではなかった。
 前衛の3人は真っ先に本体の根本へと辿りついていたため、地下茎達が一番集まっている地点が前衛とその後衛を分けたのである。
 絶え間なく地中から現れる地下茎の為に、その姿を見つけるまでにはもう少し時間がかかりそうであった。

 シンブの構えたライトニングアローが、地竜達の群れを越えて、巨大な本体へと衝撃音と共に突き刺さっていく。
「当たったわ!」
 それは大きな衝撃であったのだろうか。
 大きく本体は身じろぎし、刹那、地下茎達の動きも鈍くなったような気がした。
 刹那、その時を見逃さなかったアリアが放つエンブレムシャワー。
 幾つかの大きな地下茎が横倒れになり、前へ進もうと身を乗り出すアリアの視線の前に、漸く前衛の3人の姿が見えてきた。

 細かい傷をあちこちに受けながらも、紅と蒼の帯を構え、敵への接近を図るシリウス。身を護りつつ、少しでも敵へと接近する瞬間を狙っているシイナの表情にも疲れが見える。炎は本体の足元を既に焦がし始めてはいた。しかし、まだ燃え上がるにはいたっていない。
「……もう一度!」
 帯の先端についた十字架を構え、それを本体に向けて投げつける。
 即座に腕を振り上げ、螺旋のように帯に仕込んだ鋼糸で敵の幹を切りつける。
 同時にシイナもスキュラフレイムを植物に向かって放った。
「今です!!」
 メイが叫んだ。
 攻撃と同時に駆け出したシリウスとシイナの手から、ありったけの油が投げ込まれた。 最後に油でいっぱいのランタンをシイナが放り投げる。
 漸く、大きな炎の手がそこに立ち上った。追いついてきたジェネシス、ミント、イオンたちも次々とその本体に向けて攻撃をかける。
 最後の抵抗とばかりに襲い掛かってくる地下茎の群れも、長い戦いの中で徐々にその数を減らしていた。
「……もっと炎を……」
 シンブは火の手を確認すると、火矢に持ちかえ、後衛から次々と矢を放った。
 怪我をした者はプラムとメイが癒してゆき、回復に専念する彼女をティーがフォローしてそのガードに専念する。
 無駄な行動のない陣営であった。
 時間はややかかったものの、本体に全員が辿りついた時点で、もはや植物に勝ち目はなかった。
 敵の手が少なくなると、アリアは持参した複数のカンテラも本体にくべた。
 赤々と燃え上がっていく炎に包まれ、その巨大な植物も、半分ほど燃えたところで、だんだん元気がなくなり、地下茎たちも動かなくなっていった。
 それから暗森の地竜は長い時間燃え続け、その火が完全に消える頃には、すっかり辺りも暗くなっていた。

「何とか終りましたねぇ」
 シンブが安堵した表情で仲間達を見回した。
「おつかれさまでした。みなさん大丈夫ですか?」
 最後に火の確認をして、メイも皆を見渡す。全員が、細かい傷を全身に貰っていたけれど、回復手達のおかげで癒されている。
 地下茎の脅威が去った後も長い時間植物は燃え続けていたので、その間、イオンやミント達は森の木の実などを探して皆で食べたりしていたのだが、それはまた別なお話で。
「これで……暗森の方々も安心ですわね……」
 ほっとしたようにアリアが微笑んだ。
 何度も村に足を運んでいた彼女は、その危機を取り除いてあげられたことにきっと一番安堵しているだろう。
「ええ……早く立ち直ってくれるといいですね」
 メイもにっこり頷く。
「あの植物……森の木の生命力を吸い尽くしたら、人にも襲いかかっていたのでしょうか?」
 ミントがぽつりと呟いた。
「……そうだったら怖いね……」
 ティーが身震いして頷く。
「それに……あの植物だけなのでしょうか」
「その可能性はあるだろうな……」
 ジェネシスの呟きにシリウスが頷く
 ロリエンでは過去から何度か、植物を枯らす植物が発生したことがあった。
 また、その枯らす植物が枯れてしまったために結局正体がわからなかった事件の報告例もあったのだという。
「だから……この一種とは限らんだろうな……」
「また出てきたら大変にゃ〜」
 イオンが嘆息する。その植物がどこに発生するかわからないし、しかも……。
「……あれはおイモっぽい植物だったにゃ……だから、種芋があったりすると……」
「地下茎は細かったけど……どうだろう」
 シイナが怖い想像だよ、というように苦笑する。
「それ……笑えないって……」
 ティーも表情を凍りつかせた。
「ともかく、ここは一度戻りませんか?」
 シンブが皆に微笑みながら言った。話は尽きないが、夜が更けてしまう前にロリエンに知らせを持って帰りたい。
「そうですわね……ベルフラウ様に相談しましょう」
「心配がないといいな……」
 アリアとシリウスが同意して頷きあう。
 こうして少し疲れた体を引きずるようにして、暗い道程を、数少ないカンテラを手に、護衛士達は森を後にしたのだった。


マスター:鈴隼人 紹介ページ
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