Jewelry〜ロマンスの神様〜



<オープニング>


●手紙
 ――前略。

「最近寒いですね。
 其方は体調等崩されては居ませんでしょうか?
 実は、今回僕の街の職人達が揃ってフォーナに向けて作品を販売する大きな市を開く事が決まりまして。僕もそれに参加するんですが。
 ああ、実は。最近、僕の街では、特別な細工をしたジュエリーが若い娘さん達を中心に、『恋愛のお守り』として流行ってるんですよ。それで、フィオナさんも如何かと思いまして。
 あ、サービスはしますから、勿論!
 御気が向かれましたら、是非に遊びに来て下さいね。

                        ――アレックス・エレオス」

●フ ィ オ ナ 必 死 だ な
「つー訳で、アタシは行きます」
 ヒトの霊査士・フィオナ(a90255)は、その豊かな胸を一杯に張って言い切った。
「……敢えて、止めまい」
 冒険者達もその彼女の意気込みこそ沈痛なのか、敢えて止めるような無粋はしない。
 あの手この手で努力した(本人談)フィオナだったが、彼女のフォーナはデスフォーナ。
 このまま行けば、バッドエンド一本道は火を見るよりも明らかなのだから、ジンクス頼みや神頼み、おまじない頼みもしたくなるというものなのだろう。
「しかし、お前さんも顔が広いな」
「ふふ、人徳っすよ」
 無駄に偉そうなフィオナは、やっぱりその豊かな胸を一杯に張って言う。
 ……或いは、今日に限ってのそんな所作もアピールなのか?
「何つってもヤツぁ、ツンデレで妹な野郎ですしね。
 ご利益も無駄にありそーってなモンです」
 確かに報告書を読んだ限りでは、手紙の主はフィオナの言う通り、恋愛運が高い(?)ようだ。
「腕もいいですしねー。
 お祭りみたいな大きな市はそんだけで楽しいってなモンです。恋に恋する乙女のアタシは外せんですよ。出会いがあったらビッグウェーブ到来! ですし」
 何が何やら。
「ま、そういう訳で……」
 フィオナはすぅと息を吸い込んで、大声で叫ぶ。
「暇な人は、アタシと市へ行くですよ!
 何? もうプレゼントは用意した? 甘い、甘いですよ! 砂糖菓子より甘いですよ!
 オンナノコは一個より二個、二個より三個!
 下手な弓矢も数撃ちゃ当たる! 貰えたら貰えただけトキメクってモンです!
 それこそもうパーフェクに乙女心ってモンなんですよー!」
 断じて否。
 それは、フィオナ心であろう。

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参加者
NPC:ピーカン霊査士・フィオナ(a90255)



<リプレイ>

●輝石の市
「いやぁ、助かりました……」
「良かったよ。いい機会があって」
「今日の今日まで」プレゼントを用意していなかった二人――セルシオに、オージェは呟く。
 広場を中心にして、幾人もの職人が露店を出していた。
 フォーナのすぐそこまで迫った休日の街中は、多くの男女の熱気に満ちている。
 宝石加工で生計を立てる人間が多い街で、一年に一度開催されるという恋人向けの作品市は、折からのちょっとしたブームも手伝い、かなりの盛況を見せていた。
「随分な人の足ですのね……」
 アリエノールは、辺りの光景を見渡して言う。
 話では、若い男女が中心という事だったが――実際の人出は老若男女を余り問わず、大した数に上っていた。
「どれにしようかなぁ?」
 姉の顔を脳裏に思い浮かべ、サツキ。
 どの職人も、持てる技を尽くした作品の数々を展示していた。目移りする事この上ない光景は、誰かに贈ろうという人間を惑わすし……
「にょおおおお! 頑張ったアタシにアタシからプレゼントするなのですよー!」
 ……自分の為に買おうという人間にとっても、それは同じだった。
「あら、偶然ですわね」
「ありゃ、結構元気ですね」
 猪鍋に当たって寝込んでいた筈のネンヤを見て、フィオナが故意犯のような発言をする。
「こんにちはフィオナさん、今日もお誘いありがとう!
 職人の作品市なんて珍しいよね〜。楽しみだよ!」
「おー、まあ感謝しやがるが良いですよ」
 続いて彼女は、傍らで元気良く声をかけたリュウに鷹揚に頷き、言う。
「さって、招待主を探してやるかですよ」
 その彼の名は、アレックス・エレオス。この街の宝石職人で、以前にフィオナが仕事を仲介した相手である。彼は、彼で案外にややこしい恋愛事情を抱えているのだが……
 そんなフィオナの言葉に、目を輝かせる女が一人。
「今度こそアレックスさんとリンさんにハートクエイクアローを……」
「それだけはやめろっ……頼むから!」
 悪戯っぽく笑む妻を必死に押し止めながらフォークスが辺りを見渡す。
「ああ、あれ! あれ何かどうだ、お前に似合う!」
「んー?」
 猫のように移り気なセレアは、フォークスの指差した先に視線を移す。
(「……こういう場所はあまり得意ではないが……」)
 人が集まれば、そこには喧騒が生まれる。
 カイリュートは、少しだけ周囲の熱気に鼻白んで頬を掻いた。
「ま、今回は大人しく店を見回るとするか……」
 そして、エイトもまた肩を竦める。傷を負った体では、そう無茶も出来ない。
「しっかり選びませんと」
 何せ、皆の代表である。ネフェルは、息を呑む光景に一つ気合を入れ直す。
「妥協は、出来ないよな」
 特別な贈り物は、誰にも同じ。
「うちのは最高だぜ?」
「いい物みたいだな。だが、今日は徹底的に選ぶ事に決めたんだよ」
 手近な露店の指輪を手に取ったシルフィーは、声をかけてきた職人に答えた。
「そうか、じゃあたっぷり比べてから選んでくれな。自信はあるぜ……って、お嬢ちゃん。何だい?」
「あの、すみません。プレゼントに良い物はありますでしょうか?」
 アミュレイは、愛想のいいその職人に聞いてみる。
「おお、それならこれなんて――」
 冒険者達は、興味を惹いて止まない光景に各々好きに動き始めていた。
「うーん、じゃあそろそろ自由行動にしましょーか」
 元々、団体行動という訳ではなかったのだが、フィオナは叫ぶ。
「引率のフィオナ先生(カレシ募集中)の名の下に、おめーらガッチリ買い物してくるですよー!」
 誰が、先生だ。

●買い物っす!
「うわー、綺麗なの可愛いの一杯あって目移りしちゃう……」
 人込みの中を抜け、一つの露店の前に辿り着いたミィミーは展示された作品を見て目を輝かせた。
「中々、選ぶのは難しいな……でも、あの笑顔のために……」
 リエンは、職人に指輪に名前を彫り込みを頼めるか問う。一緒に居られる幸せに感謝を込めて、少し気恥ずかしい気もするが、こんな機会だから悪くはない。
(「お、お付き合いをはじめて……最初の……デート……ですわよね……?」)
 ユウカは、ちらりと傍らのエルバートの横顔を覗き込む。
 自然体の彼と、少しだけ緊張した彼女。
「……あ」
 彼女の視線が、藍晶石の勾玉に止まったのを彼は見逃さなかった。
「これか?」
 足を止め、品物を手に取ったエルバートは微笑む。
 この市中の何処にでもあるそんな光景は、二人にとってはやはり得難い何よりのモノだったろうか。
(「ま、たまにはぶらぶらするのも悪くはないか」)
 リリスは、小さく口笛を吹いて辺りから伝わってくる熱気を揶揄した。
「女心って複雑だよね……俺、健全なびしょーねんだから良くわかんないや……」
「健全、ね」
 むにゅん
「健全だろ?」
「先の戦いでの貴方は、きっと幻覚だったのでしょうね――」
 ベージュは溜息を吐いて、彼の手を払い視線を外す。
「んで? 女ってのは宝石とかをプレゼントされると嬉しいものなのか?」
「相手によりますでしょうか」
 何となく行動を共にしていたカノンに問われ、ベージュは静かに答える。
「相手が、愛しい方ならば勿論。そうでなくても――」
 抱きつく傍らの手をあしらいながら、彼女は言う。
「――余程苦手な相手でない限りは、それなりに」
 げしげしげし。
 熾烈な戦いが起きていた。
「貴方しか頼む人がいないんですっ! お願い、できますか……?」
 注文に少し困った顔をした職人に、リーザの上目遣いが炸裂する。
「く……」
 揺れる、揺れる。
「……分かった。何とかしてみるよ……」
「おにーさん、ありがとー♪ 凄く嬉しいよっ」
 美人とは、かくも得をするものであった。
「あ、コレとかカッコイイかもー」
 一人で露店を巡っていたシュリは、職人に弟のプレゼントを見立てて貰っていた。
「あ、これ……」
 しかし、それはそれ。
 年頃の彼女の事だから――自分の為の品物に心奪われるのも、仕方ない所であった。
「……違う違う!」
 首を振って、シュリは気を取り直す。
「宜しければその指輪見せていただけませんか? ……んーまぁちょっと……」
 ユウが、マイペースに指輪を眺めるその隣の露店には、
「おいちゃん、どれが一番女の子に幸せになれるヤツだい?」
 シャールヴィとレジスの二人が居た。
 シャールヴィの目は、ある意味誰よりも真剣だった。
(「優しい子だから、相手を責めたりなんかしないけど……」)
 彼は、悲しい想いをした妹の事を考える。
 考えないように努めても、忸怩たる想いが湧き上がる事は止められなかったが……
(「このままじゃあんまりだ。あの子は絶対幸せになんなきゃダメなんだ……」)
 ……もし、天の加護なんてモノがあるならば。せめて、このお守りをきっかけに――
「これ、可愛いなぁ。あ、こっちも可愛いなぁ……これも似合いそうだし……」
 一方――真剣なまなざしで品物を見つめる彼の横で、同じく贈り物を見定めようとするレジスの表情は、明るいモノだった。
「元の型が古いですから……見つかるといいですけど……」
 とある高名な歌姫のイヤリング、それに似たモノを探しながら、ジーナス。
(「フォーナのプレゼント、だな。
 ま、俺のことを見てもらえるかどうかはわからんが……自己満足でも、ってやつだな」)
 何処かクールなシャオランも居れば、
「奥さんにもう一度振り向いてもらえるような起死回生の一発となる宝石ください!」
 本気で切実に必死なジョゼも居る。
「こんな腕輪……それも銀細工の奴だ。何処にあるか知らないか?」
 ジークが、あちこちでこれと絞った品物を探し歩き、
「これだぁ♪」
 姉御肌な所もある少女――セツが煌く何かを見つける。
「フィオナさんはブローチとか好きかな?」
「好きっすよー! 何だってもー!」
 ノヴァーリス君、感謝の示し方と、相手は選んだ方がいいですよ?

●実は、アタシ、超人気ですくぁ?
(「宝石を見るのは好きだ。だからカップルが多い中、ひとり歩くのもそれほど悪い気がしないかな」)
 静かに市を行くフィードの落ち着きを、
「出会いがあったら――」
「――ビッグウェーブ到来!」
「出会いが あ れ ば ね」
「やかましいですよ、こん畜生――!」
 一番やかましいのは、お前らだ――誰もがそう突っ込みたくなるような一団(厳密には二人)が、ぶち壊す。
「頑張るもん! フィオナとかには負けないもん!」
「アタシだって、テメーにだけは負けないですよ! ここで会ったが百年目っすよー!」
 すっかり意気投合した先頭の二人は、ヴィラとフィオナであった。
「っていうか、そんな哀れんだ目で見ないで!」
「うわ、アタシも一緒に見やがったですね、この鬼畜――!」
 フォーナは、人を狂わせる。
「は、俺!?」
 数メートル離れて、笑いを堪えていたアルタイルは突然指差されてついに吹き出す。
「笑いやがった――!」
「きーっ!」
 フィオナは、辺りに充満するカップルオーラに当てられて凶暴化していた。
「コレ、フィオナさんに似合うんじゃないですか? 流石 美人さんは何でも似合って素敵ですよー」
「ちくしょーですよー!」
 共に見て回るリトゥールの言葉にも荒ぶる霊査士は止まらない。
 招待主アレックスにすら――
『じゃ、じゃあ僕は、僕の店の方がありますから! 楽しんでいって下さいね!』
 ――速攻で見捨てられた今日の彼女である。
 その際に、
『おにーちゃーん! 早くー!』
『……今日は付き合って下さるって約束でしたのに……』
 こんな台詞も聞こえたものだから、最早そこに歯止めがない。
「もじゃにい! なんか、んまいもの買ってくださいなのー」
「はいはい。じゃ、これね」
 シュウはクララに、買ってきたお菓子を与えながら、嘆息する。
 彼の視線の先で、牙を向かんばかりの霊査士は、何処まで本気なのか――カップルに溢れる方々の露店を冷やかしまくっていた。
「もじゃにい、フィオナさんはなんで暴れてるです?」
「うん、知らなくていいからね」
 シュウの言葉はにべもない。
 その一言には万感が篭っていた――そう、決してああなってくれるなという。
「ところで、これを三枚集めるとフィオナがチューしてくれるって噂が流れてるけど。
 また自分で流したんだじゃないだろうなぁ?」
 その手には、『萌え萌え霊査士フィオナたんをフォーナに誘える券』。
「テメー、シャテー! それを知ったからには生かしておけねーですよー!」
 何せこんなヤツである。
「いや、見ると聞くではやっぱり大違いかな」
 ジィルもまた、フィオナを眺めながらしみじみと呟いていた。
「一日限りのでーとでも如何ッスかお嬢さん?」そんな彼の戯言は、「フツツカモンですが、末永くいっしょーおねがいしますっすよー!」このカウンターに木っ端微塵に打ち砕かれたのだから。
 目が本気なのは、どうしたって隠せるモノではないのである。
「……ナンだか忘年会で見た顔がやたら居るのは気のせいじゃねーよなぁ」
 スィーニーがふと呟く。
「順調に何かのノロイが効いているのかお礼参りなのかは知らんが……」
 彼女に言わせれば「アタシの魅力に参りやがっただけですよ」とでも言いそうだが。
「たまには、素直に応援してやろうと思ってたんだが……」
 そんな彼の視線の先には、
「にょ?」
「フィオナさんは優しいし、可愛いよ?」
「トーゼンっすよー!」
「だからね、これ……」
「にょ――! へいへい、にーちゃんねーちゃん幸せそーじゃねーですかっ」
 フィンフの言葉を最後まで聞かずに、暴れまわるフィオナが居た。
「まぁまぁ、その辺の殿方をだまくらかし……誠意をもって説得して差し上げますから」
「格好良くてお金持ちで優しくないとヤですよー?」
 選り好みは激しく、リュミエールが、面白い顔で硬直したり、
「正直、女の人に贈り物って初めてだったり。
 話した事は、少しだけなんだけど…すごく礼儀正しくて可愛い子で。
 でも、いきなりプレゼントしたりとかしたら驚かれるのかなぁ……
 てゆか引かれちゃったりするのかなぁ……! フィオナさんその辺どーなんでしょうか……!」
「甘ずっぺーっすよー! 滅ぶがいいですよー!」
 アストの相談に、プチ呪ったり、
「まあ、フィオナさんはアイドル的存在なので手を出してはいけないことになっているのだ」
「まぁ、アタシってば美少女霊査士っすからー?」
 ガルスタの都合のいい台詞だけを拾ったり。
(「そもそも彼女……真面目には探していないように見えるが」)
 彼は、思う。つい先程のフィンフの件も然り。
 果たして彼女は、本当に自ら色々なチャンスを逸している事に、気付いては居ないのだろうか?
「ツンデレもいいけれど、デレツンもいいものさ。うん。最高」
 シキの一言が意味深に響くが、それは彼女に残る最大の謎であった。
「ま、何にせよ。ただ着飾って大人しくお人形のようにしてる娘より、ずっといい」
 苦笑いを交えながらのアニエスの言葉は、ある意味で何だかんだで彼女を構ってしまう人間の代弁だったのかも知れないが。
「フィオナは……フォーナは暇なのか?」
 不意に彼女を呼び止め、
「なら、俺と行かないか? ……券は持ってないが」
 真顔で話すクアトロに対して、
「……」
「……………」
 彼の手を取り、斜め上を向いて目を閉じるフィオナは、
「必死過ぎるぞ、フィオナ……」
 ケンハの言葉通り、あんまり切羽詰っていて、涙なしには語れないのであった。
 慌てても、貰いはきっと少ないだろうに。
「こりゃ、落ち着いてから渡した方がいいかもな」
 ウォルルオゥンは、呟いて小さく頬を掻く。
 彼の手にも又、恋愛感情とは別にしても彼女への贈り物が握られていたのだが――

●フォーナが来る
 短い冬の日は、早くも暮れようとしていた。
 人ごみは少しずつ途絶え始め、熱気の隙間に冬の冷たい空気が流れ込んでいた。
「ハナシロ君が居なくなるから――」
 イィレの深い溜息が響く。
「断じて、迷子じゃないぞ」
 困った顔をするリュリュナとイィレに、ハナシロは自信たっぷりに言い切った。
「リュリュナとイィレの買い物が遅いのだ」
 元々は、フィオナと共に露店を回っていたリュリュナ、イィレ、ハナシロの三人だったが――気付けば、ハナシロの姿が消えていたのだ。
「ま、まぁ、見つかって良かったですの」
 そして、ほうぼう探し回ってようやく今発見、である。
「すいませーんっ♪ コレくださいですにゃー♪」
 マーシャが、散々吟味した末見つけたネックレスが夕日に輝く。
 品切れになったのか、頃合と思っての事なのか。
 幾つかの露店は既に畳まれ始めていた。
 楽しい買い物の一日は、終わろうとしている。
 果たして、鬼が出るか蛇が出るか。間近に迫るは、悲喜こもごもな運命の聖夜。
 手にした武器(アクセ)を握り締め、彼も彼女も「いざ、フォーナ!」ってモンである。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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作成日:2005/12/24
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