≪赤の太陽 銀の月≫ぎんいろ。



<オープニング>


●ぎんいろ。
 赤陽銀月亭は、街から程近い風光明媚な森の中にある。
 近くには、「日の昇る丘」や「月の沈む湖」等のちょっとした名所があり、総じて言える事は美しい場所だという事だ。
 ま、それは兎も角としてだが――


 或る朝――
「うっ――」
 ――目覚めた韓紅の風焔狼・フォン(a14413)が、窓から辺りを見渡せば、森は一面の銀色。
「――わ――!」
 昨晩は、言われてみれば冷えていたような気がする。
(「お陰で、少し寝坊しちゃったよ……って、そうじゃなくて!」)
 フォンは、今一度窓の外をじっと見て、視界に広がる光景に溜息を吐く。珍しくしっかりと積もった雪の量は少なくなく、外は例外ない白に包まれていた。
 銀色に支配された世界は、日頃の美しさとはまた違う佇まいを見せていた。
「うー! わー!」
 ……と、言うよりは。
 一面にぶちまけられたような新雪は、「コドモ」に楽しさを感じさせるばかりか。
「これは、もう――」
 彼の中に、雪を今すぐに一杯に踏みしめてみたい願望が広がる。
「――皆で、遊ぶしかないよねっ!」
 その気持ちを一旦押し込めて、彼は自室から皆が集まっている筈の居間へと走った。
「ねえ、ねえ、皆――!」
 ……パジャマのままで。


 ドタドタドタドタドタ……

「きゃあ、フォン様! お腹出てますよう――!」

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参加者
韓紅の風焔狼・フォン(a14413)
おしまいは・テルミエール(a20171)
蒼き仙人掌の華・サラティール(a23142)
雷神天狐・シーグル(a27031)
風姿花伝・アレン(a28561)
薄天色の優しき謳声・リュリュナ(a32145)
唯一の愛・ルビィ(a32310)
天色流雲・テクテック(a32353)
鈴花雪・ソア(a32648)
闇を斬り裂く守護蒼刃・クロス(a33237)
陽だまりの詩・ナツキ(a34680)
おもちゃ箱の操り人形・エミリオ(a34894)
幸福の葉に蒼き蝶は止まる・ハナシロ(a35064)
流空の蒼剣士・ラス(a36821)
NPC:舞朱色・ベージュ(a90263)



<リプレイ>

●銀世界。
「はー、一夜にして辺り一面真っ白になってますな〜」
 感嘆の声は、陽だまりの詩・ナツキ(a34680)のモノ。
「うわっ! なんだコレ!」
 改めて見渡せば、感動もまたひとしお。
 雪原に、闇を切り裂く銀の雷神・シーグル(a27031)の声が吸い込まれた。
「ふわぁ、お日様が当たってきらきらですの♪」
 薄天色の遥かな謳声・リュリュナ(a32145)の瞳が輝く。
「コレが雪ってヤツか!」
 空気は、冷涼に澄み渡っている。
 丸木を組み合わせて作られた赤陽銀月亭、そこから望む景色は壮観。見慣れた森は、見事一晩で見知らぬ銀世界へと変わっていた。
「寒いねぇ!」
 言葉とは裏腹に、白く弾む息は楽しげに揺れていた。
 シーグルに続いて、韓紅の風焔狼・フォン(a14413)は、すぅと深い深呼吸をして――一面の白へと駆け出した。
 ぼすっ
「うっわ! 超冷てぇっ!! ……けど、面白いッ!」
「凄い凄いっ! 白い冷たい寒い、でも楽しいっ!」
 頭から雪に飛び込んで、二人は笑う。
 元気の良い彼が活発に動く度に、さらさらと白い雪が散る。
「……雪か。大分積もったな」
 冷静を装った言葉だったが、本音が漏れ出ていた。
 白き花は空を舞う・ハナシロ(a35064)の表情は、明るかった。
「ん、ここまで積もった雪を見るのは久しぶりだなぁ」
 元気の良い二人を眺めて、風姿花伝・アレン(a28561)がしみじみと呟く。
 さくさく、と足元が鳴るのが心地良い。汚れひとつ無い銀世界に足跡を刻むのは、それだけで何とも言えず楽しかった。
「うむ、中々に風情がありますのぅ……」
 何処か歳以上の落ち着きを感じさせる空に雲が転がる様に・テクテック(a32353)がほうと息を吐く。
 窓ガラス越しに見た雪景色も素晴らしかったが、直に見ればまた趣は異なっていた。
「さて――」
 流空の蒼剣士・ラス(a36821)は胸一杯に新鮮な空気を吸い込み、
「――遊ぶヤツは遊ぶとして……俺は折角だから、腕を振るわせて貰うかな」
 コキ、と首を鳴らす。
 赤陽銀月の面々が、この稀有な機会に選んだのは――雪遊びと、かまくら作りだった。
 暖かいかまくらの中で食べる鍋は又格別であろう。
「私は、この日を遊び倒す事を誓いましょうッ!」
 ビシと構えを取った仙人掌の華を臨みしは・サラティール(a23142)から放たれたのは、勇猛なる誓い。
「その為に出戻ったんですから!」
「来たんですからー」
 彼女の言葉に、舞う朱色・ベージュ(a90263)の言葉が連なった。
「あらあら、お腹を冷やさないように注意して下さいねー」
 早くも雪に塗れたコドモタチを見て、終焉の・テルミエール(a20171)がのんびりとした注意をする。
 かくして、楽しい休日は始まろうとしていた――

●雪遊び。
「は〜、雪ですね〜」
 白い息が、次々と漏れる。
「雪ですよ。積もりましたね〜」
 赤陽銀月亭にも圧し掛かるように積もり積もった雪を、掻きながら紅の記憶・ルビィ(a32310)は額に浮かんだ汗を軽く拭う。
 外の気温は冷たく、汗をかくような陽気ではないが。
 それとは関係なく、身体を動かせば内面から暖まってくるモノである。
「若い子達は、元気があっていいですね〜」
 スコップを止めた彼の視線の先には、
「む、やはりいいな……」
 雪をキュッキュッと踏み鳴らして楽しそうにしているハナシロや、
「うはー! キーラキラ〜♪」
「隙アリッ!」
「うわぁ!」
 ざむっ
「ほら見てみろッ! ふたり分のカタチも面白れぇ!」
 シーグルに背後から倒されて、雪の中に人型を作るおマグロくわえたトラねこ・ソア(a32648)が居た。
「お兄さん、は……遊ばない……の?」
「これはこれで楽しいんですよ」
 気が付けば、おもちゃ箱の操り人形・エミリオ(a34894)がトテトテと近くまで来ていた。
「ふぅん……?」
 小首を傾げたような少年の姿に、
「労働意欲が湧きますね」
 ルビィは、クスっと笑って再びスコップを持つ手に力を込めた。



 雪にダイブしたシーグルとソアの二人の顔に、かけられた雪――
「ごめんごめん。つい誘惑に負けて……」
 ――激戦の始まりは、アレンの一動作であった。
 かくして、なし崩し的に合戦は始まった。
「雪を掴んで丸めてポイは、基本なのですよーっ」
 握り固められた雪玉が、素晴らしいフォームから繰り出される。
 唸りを上げてアレンに向かう一撃は、ソアの投げたもの。
「わぷっ!」
 避ける暇も非ず、命中した雪玉に鼻先がヒリヒリ痛む。
「おぉ! 雪玉を作って投げ合うんだな!」
 ぽんと手を打って順応したシーグルが、見よう見まねで雪玉を作り始める。ワイルドファイアの出身で、積もった雪で遊ぶ事が初めてだった彼は、新鮮な光景に一つ気合を入れる。
(「ここは童心に戻って……」)
 アレンの雪玉は、ふんわりと握られていた。
 当たっても痛くないように――との配慮だったが。
「てか、二人とも身軽だなぁ」
 種族柄か、ソアとシーグルの二人は素早くアレンの雪玉を避ける。
(「ここは、作戦を立てて隙を狙って……」)
 ひゅん!
「わぷっ!」
 先制攻撃のお返しとばかりに、雪玉が再びアレンの顔を雪に包む。
 反撃の雪玉が、今度はソアに命中する。
「うぅぅー……オレだってー負けませんよー……?」
「こっちも同じく!」
「くっそー、確かに俺は雪ビギナーだが……っ」
「へへー♪ 雪の日は白毛アニマルにご用心〜なのですよっ!」
 三人で三角形になって雪を掛け合う姿は、実に銀世界に相応しい光景だった。



「鍋の材料はー、死守しますのー!」
 雪玉飛び交う戦場を必死で駆け抜け、リュリュナが叫ぶ。
 雪遊びの場所から少し離れた、特に雪の深い辺りでかまくら作りは順調に進んでいた。
「わ、サラテー! かまくらを作って、鍋!?」
 リュリュナの用意した火鉢に当たりながら、熱いお茶を飲みながら。
 聞いた一言に、俄かにフォンの声色が輝く。
「そうです。でかいの作ります。
 踏んで叩いて固めて、その上から更に雪を追加して補強。
 十分なサイズになったら、小さいスコップ等でくり貫き――完璧です、完璧過ぎます」
 サラティールは、ごろんごろんと大きな雪玉を転がしていた。
「おお、中々のモノが期待出来そうですな」
 雪玉の流れ矢から避難しつつ、やってきたテクテックがごろごろと転がされる雪玉に目を見張る。
「さて、お前達、雪を集めるんだ。いいな?」
 闇を薙ぎ払う蒼刃・クロス(a33237)が、呼び出した土塊の下僕達に指示を下す。
「よし、私に任せておけ。水をかけながら作れば、壁がより強固になろう」
 次々に集められた雪を、サラティールの方に渡しながらクロスは言う。
「わーい、わーい♪ 鍋ーッ!」
「師匠、今はこれをお食べに」
 クロスは、はしゃぎ回るフォンをビシっと封じつつ……
「あの……ボクは……んしょ……」
「気にするな。ゆっくりやればいい」
 悪戦苦闘するエミリオを、さっと気遣ってみせた。
 何分、エミリオは小さい。雪を運んで渡そうとするものの、小さな彼は運べる雪の量も少なく――すぐにコテンと転んでしまう。
「む、いい感じだな」
 彼は、そんな風に段々と大きさを増していくサラティールの雪玉を眺めていた。
「ン――っと――!」
 ごろん
 次第に重みを増してきた雪玉を、サラティールが転がす。
 この日を遊び倒す事を誓った彼女には、逃げの文字は無い。
「お、作っていますね」
 ルビィが雪かきで集めた雪を、車で運んでくる。
「うーむ」
 その付近で、黙々と雪ウサギを作り続けるのはハナシロであった。
 その数、既に十三。
 出来栄えにいまいち納得がいかないのか、彼はしきりに首を傾げていた。
「そうだ――」
 彼の脳裏に、今回参加出来なかった友人の顔が浮かぶ。
「代わりと言っては何だが、雪プレストでも作ろうか」
 ぺたぺた
 手際良く、雪が固められる。
(「ナナカマドの実を目に、葉は耳だ。しっかり付ければ完成……」)
 十分の後には、器用な所を見せたハナシロの目の前に、可愛い雪像が出来上がっていた。
「……プレストだけじゃ淋しいな」
 しかし、彼はこれにも満足しなかった。
「雪フォンも作るか……そうだな」
 ぺたぺた
(「フォンの尻尾と耳はとうもろこしの髭で、目はやはりナナカマドだ」)
「ふ……ふふ……このサイズならっ!」
「くり抜くのには、注意が要りますね〜」
「固めと支えは此方でやろう」
 クロスの言葉を受けて、ナツキは、サラティールとクロスによって積み上げられた雪玉の腹にゆっくりとスコップを差し込んでいく。
 さく
「よっと……」
 さく、さく……
 軽い音が断続的に鳴る。
 皆、作業に夢中で――気付けば寒さ等忘れていた。
「しっかりとドーム状に作って……」
 深さを増した穴の中で、天井を見ながらナツキは呟く。
 何処か幻想的な雪の家を見ていると、壁にキャンドルをつけたらどうだろうとか、色々なアイデアが沸いてきていた。
「2人だけじゃまだ淋しいな。うーん……そうだ! リュリュナを――」
 一方で、すっかり目覚めたハナシロは止まらない。
 段々と形を整え始めた巨大なかまくらの周囲に次々と仲間達の雪像が出来ていく。
「ふむ、これがハナシロ殿の作品か? よく出来ておるの……」
 テクテックの言葉に、満更でもないのか、ハナシロは軽く胸を張った。
「鍋の出汁は……」
「む、ラス殿。何故、わしを見る」
「はっはっ、冗談だよ、冗談。俺がそんな事をするわけないだろ?」
 ラスによる料理の下ごしらえも順調である。
「まあ冗談はこのくらいにして、後は真面目に調理をするぞ。これでも料理は得意なんでな」
「ふむ」
「ちぃと、仕込みを手伝って貰えるか?」
「そうじゃな。雪遊び組もお腹がすくじゃろうて♪」

●かまくらとなべ。
 雪遊びの一日も、日が暮れ始め――完成したかまくらの中では、いよいよお楽しみの時間が始まっていた。
「……ミニ赤陽銀月亭みたいです……なんて、ね」
 毛皮を敷き、キャンドルを点す。
 火の入った火鉢は、リュリュナの頬と四方の壁を茜色に染めていた。
 冷たい雪の中の不思議。
 かまくらの材料は、凍りつくような雪なのに、中はとても暖かいのだ。
「鍋ですか? じゃあ、わたしが鍋奉行をやりますね♪」
 世話好きで良く気のつくテルミエールの言葉である。
「鍋奉行って言っても普通に給仕するだけですから、大丈夫ですよー♪」
「はーい、私も御給仕いたしますのっ」
 同じく、仕事を買って出たリュリュナと共に――人選に異論があろう筈は無かった。
「わーい♪」
 取り皿を箸で叩きながらフォンがはしゃぐ。
「私たちが作るのと、フォンさんが食べるのとどちらが早いか。リュリュナさん、頑張りましょうね」
「はいですのっ!」
 野菜を、肉を、千切っては投げ、千切っては投げ……テルミエールの言葉に、リュリュナは元気良く頷く。
「まだ駄目ですの〜。もう少しです」
 彼女は、飢えた狼のような目で鍋をじーっと見つめるフォンを、
「おなか……すいたな……」
 色とりどりのキノコを用意したエミリオを、
「も、もう少しですのっ」
 一生懸命に牽制する。
「うー、もう我慢できないよう」
 ビシ!
「まだ生煮えです、お腹壊しちゃいますよ〜」
 フォンの手の甲を菜箸が叩く。
「鍋奉行……というか鍋将軍? 心配しなくても鍋は逃げないぞ」
 ラスは、火鉢に当たりながら、用意した酒をくっと煽る。
 ぐつぐつと音を立てる鍋は、食欲をそそり――蓋が開けられた時、一同は揃っての歓声を上げた。
「ふむ……見事です」
 ベージュが嘆息し、
「うん、美味しそうですね〜」
 ナツキが、大きく頷く。ラスはと言うと、少し得意気に嬉しそうにしていた。
 しっかりと煮えたモノから取り分けられ、それぞれが温かい鍋に舌鼓を打ち始める。
「む、美味い」
 ハナシロが、呟く。
「あつっ……」
「気をつけて下さい〜」
「作って、くれた……お兄さん、お姉さん……ありがとう……だね……
 ……えっと、お野菜さんと、お肉さんも……ありがとう……」
 談笑と共に食事が続く。
「むぐっ、む――!」
「先生! お茶を……!」
「皆、デザートが食いたいかぁー!」
「おー!」
 盛り上がりは、最高潮。
「おー、寒っ」
「お邪魔しますね」
「まだまだ残してありますから」
「わ、美味しそうですね!」
 雪合戦をしていた三人が、
「いいタイミングでしたね〜」
 雪かきを終えたルビィが戻ってくる。
「丁度、差し入れしようと思っていた所じゃ」
「ささ、奥にどうぞっ」
 サラティールが、外から来た四人に火鉢の近くを勧め……
 いつの間にか、再び降り始めた雪の中で……宴は続く。

●ぎんいろ。
 赤陽銀月亭の入り口には、ルビィの作った雪ウサギが佇んでいる。
 冬の日の思い出を見つめるそれは、寒空の下。
 ……しかし、気持ち良さそうに降りしきるぎんいろを浴びていた。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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作成日:2005/12/30
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