【ランドアース迷宮案内】亡失の褥



<オープニング>


 テイジャン村の北に広がる森――その奥の奥に、ひっそりと埋もれ建つ遺跡が1つ。
 村人達は『亡失の褥』と呼んでいる。
 曰く、今は去りし神々の寝所、或いは古のヒトが神々を讃えた祭祀場……伝承は様々だが、そのどれもが畏敬と畏怖と共に語られ、遺跡に近付く者は殆どいない。
 代々、遺跡の守人を任ぜられた家系の者以外は。
「……ショナ・マースデンといいます」
 淡々と頭を下げたのは痩せぎすのヒトの女性。装飾の類もない質素な衣服、砂色の髪は無造作に束ねたきり。年頃の娘にしてはなりに構わぬ姿だ。
「あたしの家は、代々遺跡の……『亡失の褥』の守人でした」
 尤も、守人の任は兄のジュンが受継ぎ、農夫に嫁いだショナが遺跡を訪れる事はなかった。ジュンは1年の大半を遺跡の傍で過ごし、祭などの機会があれば妹夫婦に会いに来ていたという。
「年越しも、あたし達と過ごす筈でした。でも……」
 年が明けても、ジュンがショナの家の扉を叩く事はなく。どうかしたのかと心配したショナは単身、亡失の褥に向かったという。
「村の人達は遺跡に近付く事すら嫌がりますし……遺跡への正確な道はあたしと兄さんしか知りませんから」
 兄の無事を確かめるべく亡失の褥に急いだショナだが、行き着く前に目にしたのは森にたむろするグドン数体。
「多分……鼠の頭だったと思います。棍棒とか、手斧とか、色々武器を持っていました」
 一般人には、グドンさえ手に余る。気付かれなかったのを幸い、慌てて引き返したショナは忍び寄っていた脅威を報せたのだ。
「冬やしな。人がそんな入らへん森って話やさかい、早めに発見出来たんはラッキーやったと思う」
 このまま春を迎えていれば、グドンが大挙してテイジャン村を襲っていたかもしれないのだから。
「グドンの話は判りました。それで……その、ジュンという方は無事なのですか?」
「……」
 放浪する地図士・ネイネージュ(a90191)の言葉に、落ちる沈黙。目を伏せる明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)は、古びたスカーフを手にしたまま頭を振った。
「そうですか……」
「もう、諦めてはいるんです。でも……あたし、兄さんをきちんと弔いたいんです!」
 薄い唇を噛み締めるショナだが、涙は見せなかった。小さな面に、灰色の瞳ばかりがよく目立っている。
「鼠グドンは……数が多いな。食糧探しで森にも幾らかおるけど、その『亡失の褥』ってゆう遺跡に殆ど篭っとる。新しい寝ぐらにしたようやな」
 遺跡は地下に広がっており、5つの玄室を繋ぐ通路は分岐や枝分かれ、行き止まりも多く迷路の呈だという。全体は岩造りながら、相当古い。派手な事をしでかせば、生き埋めの可能性もあるだろうか。
「中は真っ暗や。まあ、グドンも夜目が利くって訳やないし、灯りは使い方次第やろな。玄室は奥に行く程広くなるみたいや。通路の幅は……そんなにない。広い所でも2人並んで戦えるかって感じやろか」
 ショナの敵討ちとジュンの遺体、或いは形見を亡失の褥から持ち帰る事――これが今回の依頼だ。
 ジュンの遺体は、遺跡最奥の玄室。見回りの所を襲われたのだろう。その状態は酷いらしい。依頼人の手前、ラランは詳しく言おうとしなかったが。
「遺跡を正確に知っているのは、兄さんだけ……だから、あたしも中の様子は判りませんけど、1番奥の玄室に隠し扉があってそこから外に出られるとだけは、聞いた事があります」
「遺跡までの道はショナさんに地図描いてもらったさかい、最初から迷う事はないやろ。遺跡の方も、1番奥に辿り着ければええって事なんやし。鼠グドンの数はかなり多いけど、無茶さえせんかったら…………いや」
 1枚の地図をネイネージュに渡していたラランは、ふと表情を曇らせる。
「……1番奥の玄室におる……あれはボスグドンやな。ただモンやないと思う。かなり強そうやから、気を付けてな」

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参加者
藍鉄の静謐・アレキス(a02702)
流るる蒼碧と射干玉の雫・メイファ(a08675)
琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)
砂糖細工な箱入り子猫・イヴ(a13724)
吹く風の先・リンネ(a14608)
微笑う重騎士・イツェル(a15770)
吹き抜ける風・ジャック(a24002)
儚の終・ホオズキ(a32492)
NPC:放浪する地図士・ネイネージュ(a90191)



<リプレイ>

 断末魔の悲鳴は、長く尾を引いて森の静寂に響き渡った。
「さて、遺品と遺体の回収ですね」
 重剣に付いた血を振り払い、微笑う重騎士・イツェル(a15770)は、森の奥に目を向けた。
 目的の遺跡『亡失の褥』はまだ少し先。見敵必殺、残らず倒された鼠グドンは数えて10。同程度の群れを既に2度屠っている。多いと見るべきか、少ないと見るべきか。
「こんなグドンに殺されるなんて、お兄さんも災難だったどすなあ。ちゃんと弔う為に……まずはしっかり退治せなあきまへんな」
 儚の終・ホオズキ(a32492)の言葉に、流るる蒼碧と射干玉の雫・メイファ(a08675)も頷く。
「仲の良いお兄様が、このような形でお亡くなりになった事……ショナ様も残念に思っていらっしゃいましょう。私達に出来ます事は、ジュン様の遺品を持ち帰る事。そして……今後、何方もこのグドンの犠牲とならぬように」
 だが、これまでの殲滅はホンの小手調べ。漸く見えた岩造りの遺跡は、地下に向かう大口を黒々と開けている。
 幸い、周囲にグドンの姿はない。
「亡失の褥……何か怖いにゃぁ。この中に独りなんて、ジュンにゅも絶対に寂しいと思うゅ」
 首を竦める砂糖菓子製冬華猫姫・イヴ(a13724)をぽむと撫でて、放浪する地図士・ネイネージュ(a90191)はカンテラに火を灯した。

「……見て、来る」
 ミレナリィドールを従えて、藍鉄の静謐・アレキス(a02702)は先んじて暗がりに足を踏み入れた。
(「大切な家族……失う……辛い事。こんな悲しい事……出来る限り繰り返さないように、する……」)
 まずは先行偵察。極力光源を抑え、ハイドインシャドウとエルフの夜目を使って鼠グドンの場所を探るつもりだった。
「!?」
 ――5分後。形容しがたい不穏な物音に、顔を見合わせる後続8人。取るも取り敢えず、先を急ぐ。
「うわっ!?」
「大丈夫?」
「な、何とか……」
 先頭の吹く風の先・リンネ(a14608)が危うく躓きそうになり、琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)が咄嗟に支えた。辛うじて、ドミノ倒しは避けられたが……。
 前後に夜目の利くエルフを配し、不意打ちにも警戒したつもりだった。エルフの夜目は温度差を感知するが、傍らに光があれば働かなくなる。故に暗夜行路を選んだのは頷ける。
 だが……温度差のない空間では常人の視覚と変わらぬという事実を忘れていなかったか。
「アレキス!」
 足許不如意では急ぐもままならぬ。漸く頼りない灯りが照らした先で、エルフの青年は膝立ちの苦戦を強いられていた。
 転んだ所で脇道から不意打ちを受けたらしい。傀儡人形2体を操る鋼糸は、狭路で取り回すには難く。眼前を粘り蜘蛛糸で絡めたとて、その後ろから弓矢で射掛けられては。
 キィィッ!
 ミルッヒがランタンの覆いを外すと同時に砕ケ散ッタ羅針盤・ジャック(a24002)が矢を放った。続いて、駆け寄ったリンネが儀礼用短剣『蒼刀透月』で1体を屠る。
「皆、頑張ろうにゃぁ」
 イヴの高らかな凱歌がアレキスを癒し、彼と入れ違いにメイファのニードルスピアが迸る。
 数が揃えば力押しの様相。第1戦の勝利を強引にもぎ取る。
「……すまない」
「まあ、大事にはならなかったですから」
 イツェルとホオズキが警戒していたバックアタックはなく、一応に安堵の吐息が漏れる。
「ですが……些か困りましたわ」
 メイファが入り口から垂らしてきた道標の糸は、この騒動で切れてしまっていた。
「ネイネージュにゅ、マッピングの間はぁ、お隣さんでランタンを灯すですょぅ?」
「でも、グドンに気付かれない弱い灯りじゃ、地図は描けなさそうよね。チョークで印を付ける?」
 あちらが立てばこちらが立たず。寧ろ迷子になる方が嫌なジャックは、ナイフを弄りながら成り行きを見守っている。
 結局、慎重な探索が大勢を占め、冒険者達は暗がりの中をゆっくり歩き出した。

 分岐はくまなく調べ、グドンに出くわせば速やかに屠る――飽きる程の繰り返しの内に時間の感覚さえ鈍くなる。
 移動時に足許さえ気を付ければ、戦時はグドンの明かりで事足りるか。だが、暗がりの中、後方にも警戒すれば歩みは遅くなる。
「グドンが住処にしてるんだし大丈夫かなとは思う、けど……」
 トラップや遺跡の崩落まで気にするミルッヒは、地下特有の湿った空気に小さく咳き込んだ。他も一応に溜息の数が増えたようだ。
「……あ」
 十数回目の行き止まりから引き返した所で、先頭のアレキスは立ち止まった。
 先の分岐でギャァギャァと騒ぐ声。どうやら、光苔のチョークの印がグドンに見付かったらしい。
「(数は?)」
「(……5体、かな)」
「(楽勝? まだこっちまで気付いてないみたいだし)」
「(そうですね。速やかに倒しましょう)」
「(ですが、チョークの印はもう止める方がよぅございましょうか?)」
「(そうどすな……)」
 ボソボソと言葉を交わし、やれやれという面持ちでそれぞれ武器を構える。以降、安全地帯でのネイネージュのマッピングを待つ事となり、冒険者の歩みは更に遅くなる事となる――。

 対して、玄室での戦闘は火力で押し切る短期決戦となった。取り回しに難のある鋼糸や剣と大型盾という大仰な組合せでも、存分に戦える空間ならばグドンとて冒険者の敵ではない。
「……入り口に7匹、かな。奥はもう少し多そう……」
「了解、さっさと片しましょ」
「僕は右手の方向を引き受けます」
 アレキスの偵察を受けて、リンネが先陣を切る。ニードルスピアで風穴が開けば、飛び込んだジャックとネイネージュの矢がグドンに刺さり、メイファの眠りの歌に敵の大半が足を縺れさせる。
「おいたはダメにゃ♪」
 メイファに殴り掛かろうとしたグドンは、イヴのフールダンス♪に情けない悲鳴を上げた。イツェルの流れるような剣捌きが、踊るグドン諸共数体を薙ぎ倒す。
 その一方的な殺戮は、万が一の退路の確保に動くミルッヒの心配も杞憂に思えてくる。
「ミルッヒさんも参加すれば、もっとはよぉ済むどすえ?」
「ま、念の為だしね」
 ミラージュアタックで1体を葬ったホオズキの苦笑に、ミルッヒは肩を竦めた。

 大半の亀の歩みと刹那の速攻を繰り返し……冒険者の進軍は、順調に見えた。アビリティの残数からしても、まだ余裕はあった。
 だが……4番目の玄室まで来た時、事態は急進する。
 時間に余裕がないのはすぐ知れた。最後の玄室にかけては1本道。2度の曲がり角を経てのその道程は、あまりに短い。
 剣戟、足音、悲鳴――イツェル1人が気を付けようとしても、戦闘は敵味方でやるもの。響き渡った戦の音は抑えようもかった。角を曲がる度に襲い来るグドンの群れが、筒抜けであった事の証。
「……時間を掛け過ぎたかな」
 ジャックは舌打ちした。ここまで来れば、勢いに任せて押し切るしかない。立ち止まれば押し寄せる。通路にまで充満する血臭に酔ったグドンはどれも見境がない。
 殿を幸い、イツェルはせめて前列3人だけでもと鎧聖降臨を掛けようとした。リンネの紅蓮の咆哮が轟き、アレキスの傀儡を繰る鋼糸が閃き、ミルッヒの飛燕連撃が止めを刺す。高々と掲げられたホオズキの灯の許、メイファの高らかな凱歌とイヴのヒーリングウェーブが癒し続ける。
 力で押し切った冒険者達は、最後の玄室に雪崩れ込んだ。
「え……」
 ミルッヒのホーリーライトが全容を照らし出す。ひしめく鼠グドンの向こう、祭壇らしきの前に陣取る小柄な影は。
「……ピルグリムグドン」
 ネイネージュの声は掠れていた。エンジェルの彼とて半ば知る異形……複眼の突き出た鼠の頭から触覚が生え、腕の代わりに蛾のような羽が肩から広がっている。鼠尻尾の先に、鉤爪が揺れる。
 胡坐をかいたピルグリムグドンは、その鉤爪で引っかくように目の前の『何か』を削り、淡々と口に運んでいる。
「!?」
 誰かが息を呑んだ。人間の骸――まだ全形は留めているものの、伸ばされた腕の肘から先は骨のみ。まるでしゃぶり尽されたかのような真白。突きつけられた現実に思い知る。
 何であれ、動物が死ねば、ただ肉が残るのだ。その馳走にありつく特権がボスのみに許されていたのは、果たして幸運と言えるのか。
 キィィッ!
 鬨の声を上げ、鼠グドンは一斉に襲い掛かったが、所詮は雑魚。イツェルが前に出るより先に、メイファとリンネのニードルスピアに蜂の巣となる。イヴの眠りの歌が捕え切れなかった一方を抑え、牙狩人2人の矢とホオズキのミラージュアタックがその表面を削る。
 それでも、まだボスはグドンの壁の向こう――立ち上がったピルグリムグドンが勢いよく蛾の羽を翻す。
 ――――!
 可聴域を越えた音波が渦巻いた。召還獣の力を借りたとして、術攻撃に薄い大半の冒険者を薙ぎ倒す――玄室を揺るがし、転がる骸を巻き込んで。
「ダメぇっ!」
 悲鳴を上げて伸ばしたイヴの手は到底届かず……冒険者の目の前で、千々に引き裂かれる、骸――グシャリと、潰れる音が耳に生々しく突き刺さる。
 ピルグリムグドンは遺体の後ろにいて。ただでさえ脆くなっていたその躯は、ちょっとした衝撃にも耐えられなかった。不可抗力、言ってしまえばそれまで。ただ喰われ朽ち逝く肉に、どんな憐情も届かない。
 だが、それでも。連れて戻ると決めていたのだ。非業の死を迎えた守人の為に、遺された妹の為に、弔い安息をもたらす為に。
「絶対倒す!!」
 やり場のない憤りはそのまま敵に向けられる。リンネの最後のニードルスピアがグドンを一掃し、討ち漏らしをミルッヒのツインクローが刈り取る。
 続く超音の刃の傷はメイファの凱歌に癒され、死屍累々を踏み越えた冒険者達の刃が異形に押し寄せる。
「相手は僕です!」
 飛び込んだイツェルのホーリースマッシュがピルグリムグドンを打ち据えた。ホオズキの鋼糸『胡蝶之夢』から、薔薇の花弁が乱れ飛ぶ。
「今生の別れに、良い夢見させてあげますえ!」
 一撃、二撃――三撃目を皮1枚でかわしたピルグリムグドンを掠める稲妻の矢。
「……」
 無言で次の矢を番えるネイネージュを、ギロリと複眼が睨む。
 ザンッ!!
 突如、その身が袈裟懸けに切り裂かれる。シャドウスラッシュ――いち早くハイドインシャドウで機を窺っていたアレキスの無音の一撃に、仰け反るピルグリムグドン。痛みが正気に返らせたのか、身を捩じらせバサリと羽ばたく。
 ――――!!
 声なき叫び――ボコリと、異形の身が波打った。ぶくぶく泡立つ表面が、見る見る傷口を塞いでいく。
「させるか!」
 ジャックの一矢、鮫牙の矢に穿たれた腹から白の飛沫が散った。半ばまで癒さた傷口が再び開く。
 ギィィィッ!
 金属じみた悲鳴が玄室に木霊する。もしピルグリムグドンが尚も反撃していれば、冒険者の刃に潰えていただろう。
「!?」
 アレキスの繰る傀儡の爪が空を切る。ホオズキの薔薇の剣戟も紙一重でかわし、身を翻したピルグリムグドンは奥の祭壇に全身でぶつかった。
 ガコォッ!
 体当たりの勢いに負け、祭壇がガラガラと崩れる。その向こう、ぽっかりと開く黒洞に飛び込むピルグリムグドン。
 最奥の玄室に隠し扉――今更のように、ショナの言葉が思い出される。
「逃しません!」
 呆然も束の間、冒険者達もイツェルを先頭に隠し通路に駆け込んだ。狭路を一列に追撃する。
 逃げるピルグリムグドン、追う冒険者。地上に出るまで見失わなければ打倒の術はある。牙狩人の矢が異形を貫くも叶う筈。
 だが――。
 突如向きを変えたピルグリムグドンは、天井に羽根が擦れるのも構わず大きく羽ばたいた。声なき叫びが通路を揺るがす。
 ゴォォッ!
 よりにもよって、狭路で放たれた音波が砂塵と共に冒険者に叩きつけられようとは。
 床が土壁が天井が抉られ、メキリと音を立てて軋む。鈍い音と共に通路を支えていた石柱が折れ砕ける。
「イツェル……!」
 アレキスに引き戻されなければ、重騎士も巻き添えとなっていただろう。
 決壊した堰のように、濁流ならぬ土砂が狭隘な路を埋め尽くす。
「ちくしょぉっ!」
 一目散に逃走する異形の姿を、土砂の奔流は忽ち覆い隠した。

「……駄目ですね。完全に塞がっています」
 ジャックと埋もれた隠し通路を調べていたイツェルは、溜息を吐いた。大地斬を使えば、脆くなった地盤共々生き埋めは必至。ピルグリムグドンを追う術はない。
 リンネは思わず歯噛みした。強敵のボスグドン――その言葉から真っ先に思い付いたのが、ピルグリムグドンだったというのに。
 だが、問題はその先。予測に基づきどのような行動を取るか。慎重が一概に悪いとは言えないだろう。確かに倒れた者はいなかった。だが、霊査士の警告があったにも拘らず、倒すに至れなかった詰めの甘さ。「たかがグドン」という侮りがなかったと言い切れるか。
 事態は単に敵を逃したに留まらぬ。その脅威を知らぬ者ばかりではないだろうに。
 重々しい沈黙と悔恨は膨らむ一方。そんな中、ネイネージュは、ピルグリムグドンの攻撃に引き裂かれ肉塊と化した骸にカンテラを翳した。
「どうしますか……彼を」
 酷く、淡々とした声音だった。その表情は陰となって見えない。
「連れて帰ろう。独り遺跡で眠る……とても寂しい……妹の所、きっと帰りたい……筈」
「うん、褥で眠るのは遺跡の主だけで十分。ショナちゃんのトコに一緒に、ね?」
 アレキスの言葉に、頷くミルッヒ。メイファとリンネは沈痛な面持ちだ。
「白い布は用意しておりますが……こちらで埋葬する事は可能でございましょうか?」
「こんな状態の遺体を持ち帰るのはちょっと酷かしらね。でも、ちゃんと弔いたいって事だから、出来れば……」
 広げた布に、骸を包む。骨さえ砕かれたそれは頼りなく、すぐに腐汁が布を冒し始めるのが薄明の中でも知れた。
 たとえ止む得なかったとはいえ遺体を守りきれなかった事実が、冒険者達の胸に重く圧し掛かる。
「一応、形見はぁ、見付けたにゅ」
 1人玄室の中を探し回っていたイヴは、ハンカチの上に欠片を幾つか広げた。クルミボタンが2個、歪んだ真鍮のロケット……小さいからこそ、破壊を免れた品々。けれど、人1人の縁とするにはあまりに寂しい。
 せめて依頼の半分だけでも果たすべく、冒険者達は骸を担ぎ粛々と玄室を後にした。
 鎮魂の舞を餞とする事を、守人の妹は許してくれるだろうか……ホオズキは、涙を見せまいと気丈に堪えていた小さな面を思い出す。
 帰りに野の花を摘もうと、アレキスは思った。歴史ある遺跡の守人を忘れない事、それが1番の供養になると信じたかった。
「遺跡を整える手伝い、やってもいいのかな?」
 グドンの屍を踏み越える道程で、ミルッヒの呟きに答えられる者はいない。信頼に足る結果を残せた状況とは、けして言えないのだから。
 それでも、せめて彼の守人が今は安らかに眠れるように――狭路の暗がりに、メイファの弔い歌が哀しげに響いた。


マスター:柊透胡 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2006/02/02
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