<リプレイ>
「ボク達が今日で最後にしますから……今日だけは、耐えてください」 命と希望は未来に捧ぐ・ローリィ(a29503)の指示で、村人達は村の集会所に集められていた。建物の窓は全て雨戸を締め切っている。不安の色を滲ませる村人達に、建物から絶対に出ないようにと、紅蓮の刃・レン(a25007)と愛を振りまく翼・ミャア(a25700)が説明した。これから夜明けまで、一切の明かりはつけることは許されなかった。 「ホントに大丈夫なのですか?」 村人の問いに、大海原のお嬢様・ルーコ(a30140)は自信たっぷりの表情で答えた。 「もちろんですわ。モンスターたちなど、ルーコ達に任せておけば安心ですわ〜」 ルーコはふと、村人の後ろから覗き込む少女を見た。笑顔を失ってしまったその表情に、ルーコは心が痛んだ。そっとしゃがむと笑顔で子供の頭を撫でた。不意に聞こえる歌声に、え?となる村人たち。空色の翼の見習い医術士・ゼフィ(a35212)の歌声だった。 「みんなの……居場所を失うこと、させたくないから。だから……精一杯、がんばるよ」 と、ゼフィが言った。 「怪物は、ルーコが倒しますの。だから、ここから出てはいけませんのよ?」 少女はこくりと頷く。一同の前でドアが閉じられ、鍵が掛けられる。振り返ったルーコの顔からは、先ほどの笑みは消えていた。 「これで全部ですの?」 「これで全部です」 ルーコの問いに頷くレン。 「あとは、モンスターが来るのを待つだけねぇ」 ミャアは建物のドアが固く閉ざされているのを確認すると、建物を後にした。 頭上に広がる漆黒の夜空に、月の姿はない。 祝福されし思い出・ティア(a34311)の小さなくしゃみが一つ寒空に響き、身体を震わせた。 「ティアちゃん、寒い?」 一人仁王立ちしたまま、闇の向こうを見据えるのは、前進する想い・キュオン(a26505)。 「なんだか緊張しますね。ミャアさん、大丈夫でしょうか」 「大丈夫じゃないかな?」 ちょっと不安だけど、と口ごもるキュオン。 「キュオン君、囮役は任せてねぇ?」 と言って、満面の笑みを浮かべて自ら囮役を買って出たミャアに、キュオンは一抹の不安を覚えていた。 「ミャア姉、何やる気なんだろ?」
「何かこっちに来てる!」 最初に気が付いたのは、翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)だった。振り返ったナタクの向こうで、キュオンが頷いた。ルーコとティアが何かを囁くと、次々と姿をあらわした土塊の下僕が、あらかじめ準備されたカンテラに近づいていく。息を潜めて待つゼフィが空色の翼杖を握り締め、ローリィが、召喚した土塊の下僕を見つめる。 羽音らしきものは、ゆっくりとミャアの方へと近づいてきた。空中を飛ぶ、というよりは高さ3メートルほどくらいの高さを移動しているという感じだった。キュオンの目には、シルエットははっきりと伺えないが、蝙蝠のような羽を広げて、低空をなめるように進んでくるのが分かった。数は10匹ほどか。 と、不意にモンスターの動きが止まった。羽音をさせたまま、進むのをためらっているようだった。 「気付かれたかな?」 ローリィが呟く。キュオンは決断を迫られた。ためらうように、速度を落として再び動き始めるモンスターに、キュオンは怒鳴った。 「目標正面ッ! いまだっ!」 「待ってましたわ」 「お願い、効いて!」 「それっ!」 一斉にシャッターが開かれるランタンの明かりが、空中を照らし出した。いくつかはあさっての方向を向いたが、いくつかはモンスターの一体を捕らえた。つんざくような悲鳴をあげると、カンテラ目掛けて突撃した。地面に降りると、土塊の下僕ごと手当たり次第にカンテラを吹っ飛ばした。そこへ、ミャアの頭上に燦然と光り輝くホーリーライトが、モンスターたちを闇の中に浮かび上がらせた。一同の視線は醜悪なモンスター……ではなく、ミャアに向けられた。キュオンは戦闘中であるのを忘れてずっこけそうになった。 「ミャア姉、こんな時に何やってんだよーッ」 「あー、ミャアさん、ずるいですわ!」 ルーコがうらやましそうに口を尖らせる。一同の視線の先には、どこかの舞台衣装も真っ青といわんばかりの、背中に巨大な蝶の羽のような飾りとともに、金と銀のド派手なスパンコールのドレス姿のミャアが両手を広げて立っていた。 「愛を振りまく翼、オン・ステェージっ♪」 ミャアのファナティックソングが、夜空に響き渡る。恍惚状態のミャアの歌声に、数匹のモンスターが、全身から血を噴きながら、地上に叩きつけられた。が、残ったモンスターは、ホーリーライトの光にあきらかな拒絶反応を示しつつも、一斉にミャアに襲い掛かった。 「そうはさせないよっ」 ナタクが、モンスターの前に立ちはだかる。キルドレッドブルーと融合したナタクの半身からは、魔氷と魔炎が噴出する。だが、モンスターたちの矛先は、直接的な光を発しているミャアに向けられていた。 「そうはさせませんわよ!」 ルーコの前に浮かび上がる紋章から、次々と発せられた光のシャワーが、モンスターたちに浴びせられた。 「挨拶代わりだ! 喰らえ!!」 キュオンの千楽から放たれた稲妻の矢が、モンスターの一匹をぶち抜いた。ファナティックソングの影響で体中から血を噴いたモンスターが、大きくよろめいた。 「もらった!」 よろめいたモンスターの懐に飛び込んだのはレン。その足が光の弧を描き終えると、顎に直撃を受けたモンスターが吹っ飛ばされると、そのまま動かなくなった。 「ナタク、一匹行った!」 怒鳴ったレンの声に呼応するように、ナタクは突進してくるモンスターを正面から見据えた。アンデッドに蝙蝠の翼が生えてるかも……と彼女は呟いた。 「ナタクさん、危ないッ」 悲鳴をあげるティア。モンスターの両腕が、ナタクに振り下ろされる。 「ボクをつかまえようなんて……」 ナタクの目が光った。襲い掛かってきたモンスターの腕をナタクは素早くつかんだ。 「早いんじゃない?」 モンスターの体が宙を舞った。地面に叩きつけられつつも起き上がったモンスターに、混乱した別のモンスターが襲いかかった。 「お願い、皆の反応速度を!」 ティアのチキンスピードが、冒険者たちの動きを早める。だが、ファナティックソングの効果が及んでいないモンスターは、ひるむことなく襲ってきた。 「ミャア姉!」 キュオンはためらうことなくやじりを向けると、矢を放った。ライトニングアローが命中するも、モンスターは、にじり寄るかのようにミャアに迫る。 「ミャアさん!」 ローリィが慌ててニードルスピアを撃つ。だが、モンスターを止めることが出来ない。そこへ滑り込むようにして飛び込んだのはナタクとレン。 「させないよッ! だが、モンスターの攻撃がほんの少し早かった。ナタクは、モンスターの攻撃を辛うじて受け止めたものの、強烈な一撃を食らって倒れた。 「ナタクさんッ! この野郎ッ」 レンは、振り向きざまにモンスターに斬鉄蹴を叩き込んだ。モンスターの首があさっての方向を向き、しとめた、と思った次の瞬間、レンの体が宙を舞っていた。モンスターの腕が、レンを吹っ飛ばしたのである。別の方向から近づいてきたモンスターがミャアに襲い掛かった。すんでのところで攻撃をかわすが、別のモンスターの一撃がミャアを捕らえた。もんどり打って倒れるミャアに、モンスターの醜悪な腕が振り上げられる。間に合わない、ミャアがそう思ったとき、モンスターがバランスを崩してよろめいた。すかさず体をさばいて逃げるミャアが見たのは、空色の翼杖を構えるゼフィだった。 「……貴方たちの相手は……私よっ!」 キッとモンスターを見据えるゼフィ。再びエンブレムシャワーを放つ。その攻撃は、モンスターに大きなダメージを与えるには至らなかったが、ミャアたちが逃げ出すための時間稼ぎにはなった。 「………守るよ…絶対に!」 「ナタクさん、しっかりしてください!」 ローリィのヒーリングウェーブが、一同を淡い光で包み込む。モンスターは、冒険者たちを取り囲むようにじりじりとその包囲網を狭めていく。ミャアが再びファナティックソングを歌い始めた。数匹のモンスターが、首をかしげると全身からどす黒い血を噴いた。そのうちの何匹かが、別のモンスターに襲い掛かり、混乱が生じた。それでも、ファナティックソングの効果が及ばないモンスターが、一斉に飛び掛る。 「同じ手を何度も食うかよッ」 レンの一撃が、モンスターに命中する。が、モンスターは怯むことなくレンに醜悪な腕を振り下ろす。それを危ういところでかわす。 「ボクたちはここで負けるわけには、いかないんだよっ!」 ナタクの拳がうなりをあげてモンスターに叩き込まれると、吹っ飛ばされるモンスター。 「そのまま眠っていてもよろしいですのよ? というか、眠りなさいですの!」 ルーコの頭上で描かれる紋章から、紅の火球が現れると、よろめきつつ立ち上がったモンスターに命中した。炎に包まれるモンスターが悲鳴と共に、地面に崩れ落ちる。 「ナタクさん、後ろですッ!」 ティアが悲鳴をあげた。はっと振り返ったナタクの背後にモンスターが迫っていた。振り下ろされたその腕をぎりぎりでかわす。 「……間に合って!」 ゼフィのエンブレムシャワーが、ナタクに群がり始めたモンスターに浴びせられる。 「ち、数が多過ぎる!」 キュオンのライトニングアローが、ナタクに掴みかかろうとしたモンスターの脳天を貫いた。ふらふらと後ずさったモンスターに、混乱した別のモンスターの攻撃が命中し、そのまま倒れた。が、ナタクが全てのモンスターを相手にするのは無理があった。ついにその攻撃がナタクを捉えた。 「ナタクッ!」 レンが割って入ろうとしたが、間に合わなかった。ナタクはモンスターの最初の一撃をバックラーで食い止めたが、ニ撃目までかわすことが出来なかった。鈍い音と共に、ナタクの腹に食い込む一撃。 「まだ……だよ?」 ナタクはニヤリとすると、モンスターに斬鉄蹴を放った。のけぞりつつ崩れ落ちるモンスター。レンがナタクの背後にとっさに滑り込み、そのまま襲い掛かろうとしたモンスターに蹴りを放った。がくりと倒れるモンスター。 「ナタクさん、しっかりしてください!」 ティアがヒーリングウェーブを用意するより早く、ナタクはそのまま地面に崩れ落ちた。 「ナタクさん?! 許さないですわよッ!!」 怒りに震えたルーコのエンブレムノヴァが、モンスターを吹き飛ばすと、動かなくなった。 「みんな、しっかりして!」 ミャアのヒーリングウェーブが、冒険者達の体力を回復させる。モンスターは、同士討ちも含めてその数を減らしつつあったが、危機的状況には変わらなかった。迫るモンスターに、レンが突っ込む。 「レンさん、だめぇ!」 ミャアが叫ぶ。だが、ナタクが倒れた今前衛を守れるのはレンだけだった。一瞬脳裏に浮かぶ婚約者の顔。レンの鋭い蹴りの一撃が、モンスターに命中した。全身から血を噴き出しつつ、モンスターがゆっくりと倒れ、それに襲い掛かる別のモンスター。残ったモンスターがレンに一斉に飛び掛る。 「そろそろ……バイバイしようや!」 キュオンのホーミングアローが、モンスターを深々と貫いた。後ずさるモンスター目掛けて、ローリィのニードルスピアが浴びせられる。キュオンの一撃を食らった一体が崩れ落ちる。 「キュオン君、左!」 「分かってる、ミャア姉!」 キュオンの矢が、モンスターに命中する。だが、一瞬の隙をついて飛び込んできたモンスターが、ゼフィに襲い掛かる。かわそうとしたゼフィだが、間に合わなかった。 「……ごめん……なさい」 ゼフィが倒れた。とどめを刺そうと振り上げた腕から、ゼフィを救ったのはレンだった。が、代わりにレンがその攻撃をまともに受け止めてしまった。 「……レンさん?」 目を見開いたゼフィの頭上で、苦痛で顔をゆがませつつレンがニヤリとした。黒いマントが、レンをモンスターの攻撃から守ったのである。すかさず放たれたキュオンのライトニングアローが、モンスターの背中を貫いた。ゆっくりと振り返ったモンスターに、ルーコの怒りのエンブレムノヴァが命中すると、悲鳴をあげてモンスターがのたうち回る。ゆっくりと立ち上がったゼフィが、エンブレムシャワーを浴びせると、モンスターは大きく体を震わせて動かなくなった。そのままふらりと倒れこもうとするゼフィを、ティアが受け止めた。 「ゼフィさん、しっかりして下さいッ」 ミャアは、無言で周囲を見回した。累々と転がる死体を見つめると、弓を下ろしたキュオンを見た。無言で頷き返すキュオン。 「敵は全部倒したよ、ミャア姉」 「みんな無事でよかったです」 ローリィの言葉に、ミャアが答えた。 「……ちょっと、手酷くやられちゃったわね」
翌日。 モンスターとの激戦の跡に、石を立てて作られた小さな墓が出来ていた。 「せめてボクらは、貴方のことを忘れずにいます……ゆっくりと眠ってください」 ローリィは、墓に手を合わせると静かにその場を後にする。 静かな夜が戻ったのは、それからまもなくのことだった。

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参加者:8人
作成日:2006/01/25
得票数:冒険活劇4
戦闘8
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冒険結果:成功!
重傷者:翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)
小さな絵描き天使・ゼフィ(a35212)
死亡者:なし
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