【秘酒の塔】3階の布



<オープニング>


「秘酒の塔もいよいよ3階ですね。折り返し地点と言うのも変ですが」
 酒好きの冒険者たちは真剣に耳を傾けた。ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)は急がずに言葉を続ける。
「さて、3階のモンスターは、布型です。ええ、ひらりひらりしたあの布です。登るごとに変な形になるっていうのは、もう確定しているようですね」
 シィルは思わず笑ってしまう。そんなモンスターは聞いたことがなかったからだ。だが間違いなく強敵である。
「ゆらゆらと宙に浮かびながら素早く接近してきて、ギューッと巻きつき攻撃をしてきます。とっつきにくい相手かと思いますが、頑張って倒してくださいね」

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シリーズシナリオ3回目です。布型モンスターを倒し、お酒をゲットしてください。モンスターはいわゆる『一反木綿』のような形をしているとお考えください。低空飛行で移動します。

参加者
風色の灰猫・シェイキクス(a00223)
蒼浄の牙・ソルディン(a00668)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
氷の魔狼・ハヤテ(a01075)
華麗なる翔剣士・リリィ(a01132)
ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)
緋天の一刀・ルガート(a03470)
終末誘う言霊遣い・スフェラ(a17718)
紫優想笑・ルー(a17874)
白き御魂・ブラッド(a18179)
死ぬまで不死身・ランブル(a31922)
レディーハチェット・イルマ(a36060)


<リプレイ>


「内部の構造がどうなっているのか知りたいのだが」
 初参加の白き御魂・ブラッド(a18179)が塔を見上げて言った。終末誘う言霊遣い・スフェラ(a17718)が楽しそうに答える。
「広いフロアに柱が何本か。戦闘の障害になるようなものはないな。存分に暴れるにはここはもってこいだ」
「だな。酒宴の前に思い切り戦って汗を流そうぜ」
 風色の灰猫・シェイキクス(a00223)が入口の扉を開けた。うら寂しい空気が流れ込んだ。冒険者たちはもう何も言わず、鷹の目になって内部を突き進んだ。
 3階まで登る。やはり1、2階と何ら変わり映えのない構造だった。ただ、長方形の壁穴から覗ける空はだいぶ青が近い。
「……敵の姿が見えませんが」
 前方に目を凝らしていた華麗なる翔剣士・リリィ(a01132)が怪訝そうに言う。これまでは堂々とフロアの真ん中に座していたモンスターだったが、今回はどうも違うようだ。
「何しろ布ですからね。あの柱の影に張り付いていたりするかもしれません」
 紫優想笑・ルー(a17874)が確認に行こうとしたその時だった。
「後ろだっ!」
 緋の剣士・アルフリード(a00819)が大声で叫んだ。何気なく後ろに目をやったらソレが接近していた。布型モンスターは誰も注視しない階段付近の壁に張り付き、背後から奇襲を仕掛けるつもりだったのだ。
 後衛のひとりストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)が矢を放つが、モンスターは紙一重で回避する。くるっと体を捻っただけでやりすごしたことに、ジースリーは舌を鳴らした。
「自由自在に体を曲げられる、か。そう簡単に攻撃を命中させてくれそうにはないな」
 氷の魔狼・ハヤテ(a01075)はハイドインシャドウで背景に溶け込む。前回同様、まずは様子見だ。モンスターは先頭に躍り出た緋天の一刀・ルガート(a03470)に向かって、音もなく滑空してくる。
「ようし、来い。来い……おおおらあ!」
 充分引きつけた上で、剛刀一閃デストロイブレードを繰り出した。が、若干闘気がかすったばかり。モンスターは巧みに横を通り抜け、そのまま腕に巻きつきにかかった!
 ルガートの表情が凍った。この薄い体からは想像できない凄まじい力だった。一瞬で血流が止まり、痺れをきたした。慌てて掴もうとすると、モンスターはルガートから離れて上空に舞った。
「真正面から斬って捨てるのは困難ってわけだ。最初は焦らず体力を減らしにいこう」
 シェイキクスが放ったのはホーミングアロー。絶対命中のこの矢ならば、万が一にもかわされることはない。モンスターはまた紙一重で避けようとしたが、その瞬間には方向転換した矢が刺さった。動きが止まる。
「そちらに向けるぞ!」
「了解!」
 ブラッドの緑の突風が吹き抜けた。アルフリードの頭上にモンスターが飛ぶ。アルフリードはソニックウェーブで狙い撃ち、敵の下半身に当たる部分に亀裂を入れた。
「は。やっぱ遠距離攻撃がいいようだね。布だから――炎が効果的か」
 召喚獣キルドレッドブルーと融合したレディーハチェット・イルマ(a36060)は、さらに黒炎覚醒で自己を燃焼させた。今の彼女は文字通り触れれば火傷する熱に覆われている。
「なるほど、考えてみればあちらは接近しなければ攻撃できませんね」
「ああ、慎重にやれば大丈夫だ。みんな気張れよ」
 蒼浄の牙・ソルディン(a00668)はイリュージョンステップで間合いを取るよう努め、死ぬまで不死身・ランブル(a31922)が自分と周囲の仲間に鎧聖降臨を使用する。
「平気ですか。首だけには巻きつかれないようにしないといけません」
 ルーはヒーリングウェーブでルガートを治療する。確かにいくら防御を固めても首だけはいけない。即座に失神、下手したら命が危ないだろう。
 敵の無音突進はリリィに向けられた。真正面からは斬れない。ならばと繰り出したのはミラージュアタック。残像と共に三方から稲妻のごとき斬撃を送る。細かい布の破片が舞った。敵は初めて悲鳴を上げた。
「よし、こっちが押している。この調子だ」
 スフェラがマッスルチャージで己を強化したのとほぼ同時に、モンスターは意外な行動に出た。床に降りたかと思うと、床スレスレを飛んできた。さながら海底を泳ぐカレイのよう。これが意外と狙いを定めにくい。冒険者たちは一瞬戸惑った。
 ジースリーが冷静にホーミングアローを射た。水平に撃ったそれは軌道を変え、尻尾に難なく命中した。そのまま床に張り付けにした――かと思いきや、モンスターは勢いで自らその部分を千切った。
 モンスターは流れるようにブラッドへと接近し、胴体に巻きついた!
「グッ――?」
 ブラッドの頬とこめかみが引き攣る。肺腑が引き絞られるようだった。
 だが他のメンバーはおいそれと助けられない。巻き付き攻撃の最大のメリットは、『攻撃したいが味方に当ててしまうかもしれない』と巻き付いている相手の仲間を躊躇させられることだ。
「少しかかるかもしれないが、我慢してくれ!」
 ハイドインシャドウを解いたハヤテが、至近距離から粘り蜘蛛糸を広げる。巻き付き攻撃のデメリットは、その時はほぼ静止状態ゆえに攻撃されたらまともに食らってしまうこと。直前まで姿を消していたハヤテの攻撃だからなおさらだった。モンスターの体に満遍なく糸がかかった。モンスターは不快感を露にしてブラッドから離れる。
「お、布がひっついて動きが鈍っているぜ?」
 かつてない好機と見たルガートが全力の兜割りを振り下ろす。右腕にあたる部分を斬り飛ばした。
「……決まれ大技!」
 豪雷炸裂、シェイキクスのライトニングアローが腹に突き刺さる。布が煙を上げた。まだ終わらない。アルフリードが幻惑の剣舞で感覚を混乱させたところへ、イルマが左半身から魔炎を噴出した。布の体が容赦なく燃え上がり、煙がもうもうと吐き出された。
 いける、と思った。この敵は回避力はあるが防御力は高くない。布だからそれも当然であった。ソルディンがリングスラッシャーで、ランブルがホーリースマッシュで刻んだ。ルーの癒しの水滴で回復したブラッドがデモニックフレイムを撃ち放ち、リリィのソニックウェーブが追撃する。
 怒涛の乱撃に、敵はもはや消失寸前のボロと化していた。しかし最後の意地か、なおも突進してくる。
「敵ながら見事だ。勝負をつけようぜ!」
 スフェラの剣が空に閃く。
 ――決着。無数の破片になったモンスターの体は、吹き込んだ風に運ばれて壁穴から外へと放り出されていった。
「恐ろしい敵でしたね」
 ソルディンが大きな息を吐いた。皆、吐息に色濃い疲労が混じっていた。と、イルマが気風のいい声を出した。
「ああ、手強いヤツだった。だがね、んなことはもうどうでもいいじゃないか。気持ちを切り替えな」
「さすが酒場の女主人。ああ、その通りだな」
 ルガートが笑って言う。
 そう。あの扉の向こう側に念願の褒美、魅惑の酒樽が待っている。


 濡れたような月の夜、酒場には大勢の客が集まった。冒険者たちが秘酒の塔から持ち帰る酒を目当てにした者たちだ。何しろ樽なものだから、どれだけ大勢で飲んでもすぐになくなることはない。
 今か今かと待ちわびていると、期待は万全に応えられた。
「待たせたな! この通り酒を持って帰った!」
 扉が開かれ、ルガートが威勢のいい声で帰還を告げた。誰ひとりとして欠けなかった冒険者たちの凱旋に、人々は歓声をあげた。祭りのように盛り上がる。
 さっそく樽を開けると――無色透明の綺麗な液体が冒険者の顔を映した。ふわっと鮮烈な香りが鼻腔をくすぐった。
「焼酎だな」
 スフェラが指で確認する。焼酎とは前回のウイスキーと同じく蒸留酒に区分される、度数の高い酒だ。飲み方はロックか、水あるいはお湯で割るのが普通である。というわけで今回も大量の水とお湯と氷が用意された。
 いざ始まりというところでブラッドが言った。
「みんな、済まないが俺はこれで失礼したい。旅団の仲間たちにプレゼントする分は持っていきたいのだが」
 ブラッドは未成年であるからこれは仕方がなかった。11人全員で快くブラッドを送り出すと、改めて席につき、全員にグラスを行き渡らせ、
「お疲れ! 乾杯!」
 シェイキクスが元気ありあまる開会宣言をしたのだった。この瞬間、酒場の全員がひとつになるのを感じた。
 皆が皆、深く味わうようにゆっくりゆっくり口に運んだ。最初に感想を述べたのはランブルだった。
「むむ……うまいなぁ。これほど高水準の酒を今まで逃していたとは不覚! ぜひ次回の探索にも参加したいものだ……」
 何だか悔しそうな彼に、皆勤のハヤテは気の毒そうな顔を向けた。
「前の葡萄酒、ウイスキーも絶品だった。まったくコンプリートせずにはいられない」
「至高、恍惚ときて――これは究極の焼酎ってところかな」
 と、アルフリード。異議を唱えるものはなかった。
「ふう……。それにしても、あの塔の酒ばかり飲むようになると普通の酒が飲めなくなってしまいそうですよね」
「確かに。今後生半可なものでは満足できるかどうか」
 ソルディンとルーは複雑そうに唇を曲げつつ、それでも飲む手を止めはしない。
 楽しみ方は十人十色。ジースリーはいつものようにひとり静かに隅に移動し、スフェラも皆の様子を眺めるのを一番の肴にして、微笑みながら飲んでいる。そして積極的にスキンシップをする者も。
「……いい肌してるねあんた。ちくしょう、あたしも昔はこうだったなあ。ちょっと耳触らせて」
 いい感じに酔ったイルマがリリィに絡んでいる。こうなったらとことん付き合うしかないかなとリリィは早くも観念した。
「エルフの耳って不思議だねー。何で尖ってんの?」
「は、はあ。何ででしょうね?」
 ――それから各自、種族ごとの特徴を無意味に深く考察しあったのだった。酒宴だからこそ、こういう無駄がいい。


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