≪食卓歓談衆≫Inconnue Mascarade!!



<オープニング>


 全ては唐突な誘いから始まった。

「仮面舞踏会……マスカレードです」
 人目を忍んだ様子で、ひとりの貴婦人が言う。
 もうひとりの貴婦人が、言葉を次いで口を開く。
「仮面で顔を隠した人々が美麗な衣装を纏い、広間で踊りさざめき」
「この日のために集めた山海の珍味が、晩餐のテーブルを埋め尽くします」
 興味深い、と紋章術士は頷いた。
「その仮面舞踏会に脅迫状が送られてきたのです」
「舞踏会を中止せよ、中止せねば酷いことが起きる、と」
「おそらく相手は晩餐会を中止させ、伯爵様の名誉を落とそうとしているのでしょう」
「……ですが、お招きした方々は既に此方に向かわれている途中」
「会場の準備も殆どが終えられています」
 貴婦人らは、仮面舞踏会の警護を依頼して来た。
 衣装も仮面も望むままに貸し出そう、何も起こらなければ一流の夕餉を楽しめば良い。
 けれど何かが起きたのならば、起きようとしているのならば――
「大事にならないよう、未然に、密やかに、止めて頂きたいのです」

 饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)のもとへ貴婦人二人が訪れた夜から、既に幾日かが経過していた。其の彼が今、手にしている白い便箋には、毒々しいほどに赤い蝋で封がしてある。
 ひらひらと蝋燭の灯りに便箋を翳し、銀に煌くペーパーナイフを滑らすとアレクサンドラは封を開く。
 中身は予想通り、仮面舞踏会への正式な招待状。
 此れと同一のものが既に十五通届いている。あの二人の貴婦人は、其の程度の人数ならば個人的に招待出来る権力を持っているのだろう。そう言えば顔立ちが良く似ていた。親子かもしれない。ほうれん草のキッシュを口にしながら、アレクサンドラは詮無いことをぼんやりと考える。
「……」
 晩餐会を中止させることで伯爵の名誉が落ちる。そうだろう。
「しかし、本当に伯爵の名を貶めたいのであれば、脅迫状を送る必要は無いのではないかね」
 如何思う。招待状を仕舞い、アレクサンドラは呟いた。
 毀れる紅涙・ティアレス(a90167) は用意された紅茶を傾け、ふむと唸った。
「一理在る。とすれば脅迫はフェイクであると?」
 アレクサンドラは緩い沈黙の後、何も無ければ警備の依頼などしないだろうと語る。
「あの御婦人方が何かを警戒していることは確かなのだ」
 とすれば、何が恐れるべきものであるのかを彼女らは知っているのでは無いか。
「して、アレクサンドラ。こんな話を知っているかね」
 自分の分の招待状を取り上げ、ティアレスは薄く笑う。
「伯爵の若妻は大層美しいと言う。戦で夫を亡くした未亡人を、半ば無理矢理娶ったのだとか」
 青の瞳を細め、団長はスコーンに手を伸ばす。
 短い沈黙の後、旅団員を呼び寄せるべく席を立った。

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参加者
闇耀なる翼・バラン(a00202)
幾穣望・イングリド(a03908)
紅炎の紋商術士・クィンクラウド(a04748)
清麗なる空牙の娘・オリエ(a05190)
軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)
万寿菊の絆・リツ(a07264)
独眼の重騎士・ウラジ(a07935)
饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)
木陰の医術士・シュシュ(a09463)
旅人の篝火・マイト(a12506)
綺羅蟠る帷・イドゥナ(a14926)
貴腐なる吟遊詩人・アルバート(a21107)
NPC:毀れる紅涙・ティアレス(a90167)



<リプレイ>

●Mascarade!!
「おお、美しき舞踏と仮面の洪水よ!」
 白手袋の指先が薄い硝子の杯を掲げ、饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)は彩られた広間をぐるりと見渡す。大きく白いテーブルの上には所狭しと並べられた料理の数々。
 カクテルグラスに詰められたヴィシソワーズの中にはオマール海老のジュレ、表面はアンディーヴが飾っている。海苔を添えたタリオリーニには、ぷっくらと膨れた牡蠣のポワレ。エピスの香りが芳しい。寒鱈のコンフィには焼き鱈白子が、ブランデーの香り高い鴨肉には熟したオレンジが添えられている。
 料理は無論、其ればかりで無く数え切れぬほどにある。至福に浸りながら、アレクサンドラは青い瞳を陶酔に緩めた。
「(特に、怪しい動きはないですね)」
 赤と白の狩人・マイト(a12506)は料理の配膳をしながら呟いた。ガーリック、エシャロット、バジル、そしてオリーブオイルの馨しさはあっさりとした真鯛の蒸し物に酷く合う。
 生フォアグラをソテーしたものには、トリュフを散らばせた掻き卵とクリームが重たげに被さっていた。サラダはカルパッチョ風に魚の刺身が飾られて、海の幸で満たされている。エストラゴンが仄かに馨るドレッシングが、素の魚を料理の域まで高めていた。
 給仕が食事に手を出す訳にも行かず、好評である様子を見て何とはなしに安堵しながらマイトは厨房へ戻る。赤い仮面に指先で触れ、マスカレードの波を見た。
「……そう参加できるものではないな」
 着飾った人々の微笑みはアルコールのように目を酔わせる。独眼の重騎士・ウラジ(a07935)は赤いネクタイを締め直しながら、螺旋を描く階段を登った。シャンデリアに何かしらの細工がされていないか、広間を縁取るようにある通路を昇り確認せんとしていた。
 しかし、
「御客様、申し訳御座いません」
 鋭い男の声がウラジを呼び止める。彼は給仕人の格好をしていた。居住区にも続く道ゆえ、安易には立ち入るなとの旨を慇懃に告げる。道に迷われたのなら御案内致しますが、との言葉には柔らかな不審さえ含まれていた。
 辞退の言葉を述べながら、ウラジは慌てて引き下がる。流石に無理に通ることは出来ない。何より、こんなところで正体が暴露される結果となっては適わない。
 給仕の視線を背に感じつつ、ウラジは階段を下った。

●Musiquie.
「煌びやかですね……」
 万寿菊の絆・リツ(a07264)の感嘆の声も、華やかな音色が掻き消して行く。ヴァイオリンの弦が響き、シンバルが鳴る。琴は優しく爪弾かれ、ホルンが懐深い音を謳う。黄金の稲穂を映した人を酔わせる魔性のものが、シャンパングラスの中で踊った。
 黒い羽根が飾る仮面に手を当て、隠した視線の裏で人の輪を見る。異変は察することも出来ず、幾重にも重なる人波は覆い隠された人の心のよう。伯爵夫人の胸のうちを思い、思うこともおこがましいかと意識を打ち消す。
 先程のリツの言葉は、独り言というよりも幾穣望・イングリド(a03908)に向けられた意味合いが強かった。イングリドは蔦の這う深い色の仮面の下、軽い頷きで応えてくれた。絹扇を開き、口元を覆うように緩く振る。
 正直、扉を通った途端に溢れ出た豪奢な色と音との洪水には場違いでは無いかとの眩暈すら感じた程。けれど虚勢を張りながら、イングリドは目標を定める。けばけばしい装飾を纏う重厚な――決して若くは無い婦人のひとりに狙いをつけて、青緑色の衣装の裾を靡かせた。肩口からは綺麗な褐色の肌が覗いている。
 仮面の下に身分を隠し、噂好きな中年女が好むであろう言葉を紡ぐ。
 そう、最近娶られたばかりの伯爵夫人のことですけれど、と。
「戦で前の御主人を亡くされる等、御若いのに苦労なさってますのね。それでも、伯爵様のような方に見初められたのですから、羨ましいことですけれど」
 一拍の間を置く。
 華美な女性の視線は、イングリドに当てられた。
「伯爵は、前の御主人とも御知り合いだとか?」
「あなた、それは本当の話?」
 無論、確証など何一つ無い話だ。
「まあ、まあまあ」
 太い指を合わせて婦人が語る。
「御結婚まで早かったでしょう? 喪が明けると同時に、元来の領地まで奥様ごと買い上げたようなもの。奥様が目当てか土地が目当てかは知りませんけど、最初から目をつけていたに違いないと、わたくしも思ってましたの」
 婦人に捕まりながら、イングリドは考える。此れは何を意味しているのだろうか。

●Bruit.
「……あ、美味しい」
 指先についたソースをぺろりと舐めて呟いた。
 厨房は先程から引っ切り無しに動いている。料理を作り、空いた皿を下げ、冷めた皿も下げる。乾いた皿も同上だ。何とも財を掛けた舞踏会である。木陰の医術士・シュシュ(a09463)は出来上がった料理を配膳台に載せながら、決してつまみ食いや料理の勉強が目的では無いのだと自らに言い聞かせる。
 暖かな地鶏のコンソメに檸檬の香りを軽く足し、鱈場蟹の身を解す。鹿のローストは表面がぱりぱり音を立てるほど、こんがりと焼けていた。帆立貝をバターで焦がした上に、キャビアをぱらぱらと飾り立てる。ごくりと唾を飲み込みながら、シュシュは丁寧に料理を盛った。
 厨房で聞けた情報は、奥様が料理を殆ど召し上がらないと言う話。
 腕の振るい甲斐が無いとシェフが嘆く。
「無理矢理召し抱えられて来た身じゃあ、仕方ないかもしれないけどなァ……」
 そう零したシェフに、「無駄口を叩くな」とグランシェフから怒声が飛んだ。

「初めまして、見目麗しい御婦人方。宜しければ、私たちと一緒に歓談の一時を過ごしませんか?」
 白い燕尾服を着た貴腐なる吟遊詩人・アルバート(a21107)の言葉に、女たちは宜しくてよと微笑んだ。チキンレッグである彼を見て、貴方は商業者なのかしらと興味深げに見詰めてくる。紫のバタフライマスクで視線を誤魔化し、さり気無く話題を振った。
「まあ、伯爵と夫人の御話?」
「本当に伯爵様は素晴らしい御方ね……だって、旦那様を亡くして土地の管理も出来ず貧窮してらした未亡人を、奥方に迎えたのでしょう?」
「財と徳とを兼ね備えた方だけが出来ることよね。私も奥様が羨ましい」
「そんな伯爵様を恨む人? 貧乏人の僻みは、何時の世もあるものですけれど」
 くすくすと笑いながら女たちは喋る。
 歓談を耳に流しながら、闇耀なる翼・バラン(a00202)深紅の絨毯が敷かれた階段の先、踊り場を見上げる。同時に麗しい音の調べはぷつりと途切れ、ざわめく人の視線は自然、沿うように流れた。
 見る者を惹き付けることに慣れた快活な唇、望むものは手に入ることこそ当然と威を張る瞳。年を重ねて尚、若々しく見える其の男は、成る程伯爵と言う地位にも相応しい。
「皆様本日は御集まり頂き――」
 始まった口上と同時に、みちり、と言う嫌な音がイングリドの耳へ届く。
 ……上?
 反射的に見上げれば、煌びやかなシャンデリアがゆらゆらと揺れ。
 鈴生る硝子を奏で上げつつ、天井に縛る金の鎖がぶつりと切れた。
 続く、落下。

●En cas d’accident.
 けたたましい音。
 被さるように放たれたのは息を呑む悲鳴。
 弾かれた弦のように、砕けた音色が重なり響く。
 気を失った女性は幾人も崩れ落ち、男たちが彼女らの身体を支える大役を得る。
「伯爵様、御無事ですか」
 叫びのように凛とした声が、衆人の意識を引き戻す。
 アレクサンドラは見た。真っ先に我に返り叫んだのは、旅団に訪れたあの女性。
 ウラジは見た。シャンデリアに近い階上、手摺りの縁から覗く男の姿。あの仮面は確か、己を呼び止めた給仕人のものでは無かったか。
 混乱した意識を定めるべく伯爵は首を振った。白い鸚鵡が羽ばたき、近くの手摺りにふわりと停まる。銀の髪を縛る紫の紐が緩やかに揺れ、黒い仮面の底からは理知的な青い瞳が覗いていた。彼は紫水晶と銀糸の刺繍が施された、此れまた黒のジュストコールが靡く。
 咄嗟に階段を駆け登り、伯爵を掻っ攫うかのようにして落下するシャンデリアから救ったのはバランだった。悲劇は一転して美談に成り代わり、伯爵は彼の手を握り感謝を述べる。伯爵が悪人だとするならば、自覚が無いのだろう。そうとしか思えぬ程、瞳の色は穏やかだった。
 伯爵は気の利いたジョークも入り混ぜながら、事故を余興に摩り替えてしまう。流石と言える手腕であろう。退いた位置で控えていた彼の妻、若き伯爵夫人は――其の面を蒼白で塗っていた。
 まるで凍える氷像の如き白い衣装を纏った御夫人は、成る程、確かに美しい。彼らの様子を冷えた眼差しで観察しつつ、無影の暁月夜・イドゥナ(a14926)は思う。伯爵夫人が凍り付いているのは何故か。好意的に解釈すれば、其れは夫の命が危ぶまれた今一瞬の事故で色を失くしてしまっているとも考えられよう。
 陳腐な歌劇であれば、夫に縋り涙を流して可笑しくない場面。夫人の瞳にあるのは安堵と、悲痛?
 驚きの色は薄い。予想出来ていたかのような。恐れていた悪夢が、現実のものと為った情景を目の当たりにしたかのような。黒い給仕服の襟を正し、イドゥナは人垣を後にする。

●Salle de danse.
「マダム……何を、恐れてらっしゃるのです?」
 背後から掛けられた声に婦人の肩がぴくりと跳ねる。
 仮面の群れが織り成す場では、見知った友人の姿さえも見失う。一度会っただけの女性の姿を、そう易々と見つけ出すことは出来なかった。けれど先程の「事故」の最中、叫んだ彼女の居所に目を凝らせば追い掛けることも難しくは無い。
 アレクサンドラは今宵の招待への謝辞を丁寧に述べ、音も立てずに扇子を開く。
「冒険者様を見縊っていたことは御詫び致しましょう。脅迫状は確かに、『届いておりません』……ですが、伯爵様が狙われていることは火を見るより明らかなこと」
 先程の一件も、と婦人は崩れたシャンデリアを見る。
「此れ以上は、私の口からは、とても」
 まさか御命まで奪うつもりとは、と婦人は肩を震わせる。伯爵様の御命を救って下さったことを感謝致します、やはり御依頼して良かった。言いながら女性は、人波の中へ逃げるように消えて行った。
 アレクサンドラは己が立つべき場に戻りつつ、男の姿を探す。何か有益な情報があれば伝えて欲しいと頼んでおいた彼、毀れる紅涙・ティアレス(a90167)は――何だか楽しげに清麗なる空牙の娘・オリエ(a05190)と踊っていた。
 情報収集の出来は、かなり期待出来そうに無い。

 ターンの度、薔薇色のドレスがふわりふわりと風を生む。
 情熱的な色をした仮面の内より高貴とも言える、紫の瞳が緩く笑んだ。
「退屈しているなら、わたしと一曲如何だろうか?」
 そんな誘い文句を申し分無い美女に言わせて、例え忙殺されるほどにすべきことがあるのだとしても、断りなどすれば其れこそ、男の風上にも置けるものでは無い。さり気無く交わす会話は集めた噂話の結果。オリエが当たり障り無い範囲で聞いた言葉は、伯爵を褒めこそすれ貶すものなど何ひとつ無いような美辞麗句。
 ティアレスは、何が楽しいのか妙に優しい微笑みのまま、彼女の手を取ってはリードする。
「……残念だ」
 ふう、と溜息。
「そんなにも煽情的な姿で踊る美女を前に、手を出す許可も頂けないとは」
 綺麗に晒した胸元に視線は向けず、悲嘆するように肩を竦めた。オリエはくすりと笑って言葉を流し、曲が終わると共に足を止める。
 円舞曲が鳴り始めると共に手を離した二人の元へ、白い花弁が零れるような足取りでひとりの女性が遣って来た。滑りの良い床を、軽やかに靴が踏む。牡丹雪のように柔らかな白を身に纏い、持ち上げた茶の髪が温かみを見せる。
「踊って頂けますか?」
 揺れるドレスの裾を持ち上げて、優美な礼をひとつして、軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)は普段通りに微笑んだ。化粧した肌は其れだけで女性らしい艶を帯びる。無論、と手を差し出しながらティアレスは息を吐いた。
「口説ける立場で無いことが恨めしい。今日は一段と美しいな?」
 意識した動きは添えられる指先の仕草をも、常以上の輝きと共に魅せるもの。宝石を鏤めた品の良い仮面をつけ、リューシャは視線を隠しながらも、唇をはにかむような笑みで彩る。

●Inconnue.
 灼杖の紋商術士・クィンクラウド(a04748)は特に面白可笑しい仮面を探しては、指折り数を数えていた。足の指まで使い尽くした頃に、ふと気になるものを目に留める。何かが可笑しい。
 が、違和感は更なる違和感に塗り潰される。
「……何方かお探しですか?」
 クィンクラウドの邪気無い言葉に、囁かれた女性は肩を揺らした。彼女は、例えばアレクサンドラの元へ依頼に遣って来た片割れ、其の若い方の女性に似ている。何故だかがたがたと震えていて、幽霊でも見たかのように立ち竦んでいた。
 其の瞬間、思い当たった。
 先程擦れ違った給仕の男は、何故か厨房へは向かわず、給仕人や屋敷の者しか通れぬような内々の通路に入って行った。ワインボトルを持って、客の居ない場所へ何故向かうのか。

 クィンクラウドの手で、緊急の事態を知らせる赤いワインボトルが運ばれる。

 気付けば伯爵夫人の姿も無い。
 けれどアルバートは知っていた。人垣を乗り越え、伯爵夫人をダンスに誘うも断られてしまったのだと告げる。彼女はまるで、そう、食事の香りから逃げるように去って行ったと彼は喋った。
 其の頃、イドゥナは人の渦から外れた女性と言葉を交わしていた。伯爵夫人に何か可笑しなところは無かったか、と緩い言葉で問う。
「御加減が宜しくない様に見受けられましたもので……」
 ほろ酔い加減の女は艶やかな瞳を細め、
「男の貴方には判らないかもしれないけど、調子が悪いのも仕方ないわ」
 にやりと笑って、己の薄い腹を叩いた。
「顔を見れば判るわよ。あれは伯爵と婚姻する前からの、ね」

「……!」
 言い争う気配。
 狼狽しているのは男の方だ。
 駆け付けた冒険者の足音、静止の声が静かな廊下に響く。
 遠過ぎる彼方から聞こえてくる輪舞の調べ。白い仮面の男は悔しげに歯を食い縛り、婦人を残して窓の桟を蹴る。開いた窓から外に飛び立ち、夜闇へ消えた。残された美しい伯爵夫人は、乱れた髪のひと房を持ち上げ、問題無いわと差し出された手を拒む。
 仮面舞踏会は終わらない。
 裏で奔走した影のあることなど、大半の客は知らぬ儘に踊り耽る。
 ひと段落した広間ではシュシュとイングリドがドルチェに舌鼓を打ち、今宵の勇者であるバランは美しい女性から幾度と無く踊りに誘われた。
 テラスにはアルバートの奏でる穏やかな曲が響き、オリエが持参したワインが惜しげも無く振舞われる。イドゥナとティアレスは酒を酌み交わし、何を言うでも無く夜空を見上げた。
 仮面舞踏会は終わらない。
 夜は明けることを知らぬかのように、長く世界に横たわっている。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:12人
作成日:2006/01/18
得票数:ミステリ22  ほのぼの1 
冒険結果:成功!
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