スパークスの成人式〜ダイブ・イン・シー!?〜



<オープニング>


●スパークスの誕生日
 カチャカチャカチャカチャ……キッチンから聞こえて来る何かを撹拌する楽しそうな音色に、ストライダーの霊査士・キーゼルはひょいと中を覗き込む。
 そこにはくまさん可愛いアップリケが付いたエプロン姿の烈火の狂戦士・スパークスが鼻歌まじりで大きなケーキを作っている様であった。
 普段から料理を作らせ………作るついでにお菓子を作る事は珍しくないが、ここまで大きなケーキなんて珍しい……そう思った所で、そう言えばもうすぐ彼が自分の家族になった日が来るのを思い出した。
 ひーふーみーよー……指折り今年が何年目かを数えたキーゼルは、両手の指が全て倒れ、そして丁度全部起き上がった。
 そう、次の誕生日でスパークスは20歳に……成人の日を迎えるのだ。
 小さかった頃は可愛かったんだよね……懐かしい思い出がリフレインされるのであったが、記憶が現在に近づくと何と言うかこのまま普通に祝うのはつまらない。
 ……そう考えた所で彼はある事を思いついたのだ。

「スパークス、バースデーケーキかい?」
「そうだぜ、ちゃんとプレゼント用意してるんだろうな?」
 頬に跳ねたクリームを付けた顔で楽しそうに振り返りながらそう答えた彼に、内心にやっと笑いながら話を続ける。
「もうスパークスもハタチになるだね……時が経つのは早いね、ついこの前までオネショを……」
「……幾つの頃の話だよ、それ」
 楽しそうに思い出話をしつつ……その端々で彼の古傷をチクチクと攻撃しながらそう言えば、と本題を切り出した。
「そう言えばね……エルルから聞いたんだけど、彼女の故郷ではハタチになった男性は立派な大人になる為に行わなければ行けない儀式があるそうだよ?」
 そう言った彼は、同居人であるリボンの紋章術士・エルルの故郷に伝わると言う成人の儀式を話をする。
 もちろん、エルルはそんな事一言も言った事は無いし、そんな儀式があると言う事も無い、すべてキーゼルがスパークスをからかう為の嘘である。

 その儀式とは、成人の日……丁度スパークスの誕生日に、勇気を示す為高い崖の上から海へと飛び込むのだ。
 そして海の底にある貝等を取って来る事が出来た者だけが大人として認められ、飛び込めない者は勇気がない……大人ではないとされ、1人前として扱ってもらえないのだと言う。
 キーゼルの言う事なら信じられないが、エルルの言う事なら……そう考えてしまうスパークス。
 その心の葛藤を見抜いたキーゼルは企みが成功した事を半ば確認し……ダメ押しとばかりにもう1人の同居人であるエルフの重騎士・ノエルを呼んだ。

「なあノエル……スパークスが立派な大人になれないと悲しいよね?」
「そ、それは悲しいのです! ダメなのです!! スパークスおにーさんは立派な大人の人にならないとダメなのです!!」
 うるうる視線でぐっとスパークスの腕を掴むノエル……その攻撃に叶う筈も無く、冷静に考えれば例えその儀式が本当にあったのだとしてもエルルの故郷の事を彼が行う必要は無いのだが、頷いてしまう。
「ここからだと南の……」
 企みが成功した事に気を良くしたキーゼルは、南の方の海岸に丁度良い場所があると地図を手早く書く。
 ちなみにその場所は珊瑚や真珠が良く取れるとこであり、騙されたとしても良い思い出が作れるだろう。
 ……まあ、きっと彼は最後まで気が付かないとは思うのだが。

 そんな訳で、スパークスの誕生日は誕生日と成人の儀式の為に南の海で行われる事になったのである。

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参加者
NPC:烈火の狂戦士・スパークス(a90231)



<リプレイ>

●テイク・オフ
 蒼穹の大空……その空の果ては海の蒼さと解け合い、空と海とが一つになってその視線は足下へと戻る。
 そこには黄金の輝きを放つ熱い砂が……確かに海は少し冷たく、太陽も肌を焼く程強くはないがここは1月と言う事が信じられない程に、まさに夏模様。
 そんな海岸線の一角にそびえ立つ、海へと突き出す様に突き出した岬……その突端で、1人のチキンレッグの青年がその翼を大きく羽撃かせていた。
「俺も同盟入りしてから成人したっすからね……1番リョク! 漢を見せるっす!!」
 仲間達が親指を立てサムズアップサインを送ると、同じく親指を立て答えた緑の記憶・リョク(a21145)は一度腰を落とし体を屈め、次の瞬間大きく広げた翼で風を感じながら勢い良く走り出す。
 周囲の景色が後ろへと流れ、どんどんと岬の突端が近づいて来る……しかし、リョクはその速度を落とすどころか駆ける足をさらに強くし、より一層速度を上げる。
「俺は鳥っす、翼っす、空を飛ぶっす!! ……これで成人っす〜!!」
 その瞬間、彼は大きく広げた翼に風を乗せ、褌の裾を棚引かせながら確かに空を飛んでいた……

「一番が飛んだか……さて、こちらも準備を始めるか」
 右手に長く鋭利な……まるで風雅列島に伝わる刀の様な刺身包丁と出刃包丁を、そして左手には巨大なマグロを持った闇聖域の天使・メア(a40309)が、水しぶきを上げる水面を見下ろすコテージの前に立ち胸を張る。
 祝いの料理をとマグロを用意したメアは、手にしたマグロが俺は重いんだぞ、片手で持つ振り回すなよ、と潤んだ瞳で訴えているがそんな事を気にせずまな板に寝かせると包丁を振り下ろすのであった。

 海から上がって来た者達の為にと巨大なキャンプファイヤーが用意され、さっそく海から上がったリョクがブルブルと暖まっているその場所は、ここに集まった者達……今年20歳と言う人生の節目を迎える新成人を祝うパーティの会場。
 20歳になる時に海へ飛び込み度胸を試さないと成人として認められない……そう騙された烈火の狂戦士・スパークス(a90231)と彼に誘われた仲間達は、飛び込む海を求めて暖かい南の海へと来ていたのである。
「いっちば〜ん♪ ヒトノソリンのマナ、飛び込むなぁ〜ん!!」
 2番でも一番と、てとてとと駆け出して楽しそうに勢いよく飛び込むヒトノソリンの狂戦士・マナ(a41965)……それに続く様に新成人達が次々と飛び込み、その度に歓声が上がる。
「お疲れさまだよ、タオルとあったかいお茶を用意したんだよ」
 頭の先からシッポの先まで、海水を滴らせたマナに駆け寄った神樹の聖灰・リオ(a38910)がタオルを差し出す……彼女は自分はまだ舞台に立つ事が出来ないからと力一杯裏方を務めようと右へ左へと走り回っていた。
「みんながんばってね〜」
 スパークスの手作りケーキを頬張り、寄せては帰る波に足を浸らせながら応援の声を飛ばしていたストライダーの牙狩人・ストラタム(a42014)は、同じ様に岬の突端を眺めていたスパークスに話しかける。
「スパークスさんは飛ばないのですか?」
「大丈夫よ、いざと言う時は私が回復してあげるから」
 ストラタムの問いかけに、安心して飛んでおいでと後押しをする縁・イツキ(a00311)……彼女は今日の為に、命の抱擁を限界まで活性化して来たのだ。
 ……つまり、死なない限りは生き返らせられると言う事である。
 安心して飛んでこいと送り出すイツキと、がんばれ〜と声を掛けるストラタム……女性陣に後を押されては、飛ばない訳には行かないスパークスなのであった。

●フライ・トゥ・ザ・シー
「スパークス、これぐらいでびびってるのか?」
 余裕たっぷりと、でも実は冷や汗たらたらの超騎士・ヴァイス(a25660)が崖下を眺めていたスパークスに声を掛けると、そんなヴァイスさんにはお守りだよと絡まる糸・クレイファ(a27195)がその腕に腕輪を付ける……その瞬間、肩が抜けそうになるヴァイス。
「鍛錬の腕輪だよ、頑張ってね〜」
 そう言って楽しそうに笑うクレイファ……その片方だけでも結構な重さのその腕輪、付けたまま泳ぐのは確実に自殺行為であろう。
 彼女もそれは解っており、もちろん冗談のつもりで付けたのだったが……偶然とは恐ろしい。
「ヴァイスさん頑張って下さいねッ」
 ドン、突然そう背中を押されたヴァイスの足が鑪を踏み、空を蹴る……あれ?
「……ッ!!」
 そこには地面は無かった……次の瞬間、彼の体は凶暴な重力と言う名の腕に掴まれ迫る固く冷たい海へと叩き付けられ、今までで一番高い水柱が上がった。
「ギバ、早く飛び込んで飯にしようぜ……何してるんだ?」
「ワァ、同じ名前で間違えちゃったッ」
 初泳ぎ……と言うか初飛び込みを終えた業の刻印・ヴァイス(a06493)が地祇なる静寂の獣・ジン(a08625)と共に、もう一人のヴァイスを突き落とした彼女……角担ぎ・ギバ(a27654)に声を掛けると、彼女は少し青い顔をしながら可愛くてへっと下を出す。
 そう、楽しく騒いでいた為姿が隠れてしまっていたと言う状況と重りを腕に付けられたいたずらに同じ名前と言う偶然、そして驚かせようと言うちょっとの好奇心と驚いた顔も見てみたいと言う乙女心がまさに奇跡のバランスで噛み合い、多分沈んだら浮かんでこないと思われる状態で海に落とされると言う運命が今まさに深い海の底へと誘われている彼を襲ったのである。
「あぁ……天使が迎えに来たぜ……天使って裸でシッポが生えてるんだな………」
 薄れ行く意識の中、彼の瞳に映った一糸纏わぬ姿で飛び込んでいたバナナ怪獣・チョコ(a14077)のあられも無い姿が海面に反射する光も相まって、朦朧とする今の彼には神々しく見えたのであった。
 ……その後、彼がどうなったのかは………語らぬが吉、という事で!?

「無事? 助かった見たいですね、では改めて女は度胸と言う事で……一緒に行きましょう」
 そう言ってギバを誘うのは、探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)……二人は手をしっかり握ると、既に飛んでいる”落とされていない”ヴァイス達の声援を受けえいっと飛び出す。
「ニギャアァァァァァァアアア!!」
 ギバの悲鳴に、我慢していたセリアもついには声にならないような悲鳴をあげる……そして次の瞬間、2人は水飛沫の中海へと飛び込んだのである。

●エマージェンシー・ダイブ
「た、助けて!!」
 初めての海は彼女には優しくなかった……冷たく絡み付く様な海水が約束の天使・エリオ(a38371)の白い翼に絡み付き、海の底へと連れ去ろうと全身を包む。
「エリオさん!」
「だ、誰か〜」
 一緒に飛び込んだ水の精霊姫・アクア(a38674)とヒトの武道家・サナエ(a41227)の助けを呼ぶ声が聞こえる……そして、その声に答えるかの様に誰かが飛び込むのだったが、パニックに陥っている彼女にはそれが解らない。
 飛び込む前までは幸せだった……スパークスにお祝いを告げた後、仲良しの3人で初めての海へと飛び込んだのだ。
 ところが、泳ぐのが好きなサナエやセイレーンであるアクアとは違い、彼女はその背に翼を生やしたエンジェル……そして同じ翼持つ種族であるチキンレッグとは違い、彼女が生まれ育ったホワイトガーデンには地上の地にあるような水に満ちた海は存在しないのだ。
 そして初めて触れる海の水は、勢いを付けてその深い底まで飛び込んだ彼女の体を包み、掴み、離さず、絡み、満たし、犯し、拘束し……鼻や口から浸食する海水は喉を焼き、喘ぎもがくその端から入れ替わりに吐き出された酸素は海へと溶け込みもう取り戻せない。
 遠のく意識の中、塩で痛む目に黒い影がその視界を埋め尽くす。
 暴れる腕を押さえられ、口を塞がれる……代わりに送り込まれるのは新鮮な空気だ。
 肺に溜まった空気と、多い被さった影のその胸に抱かれ浮かび上がる。
「……助かりました、ありがとうございます」
 ケホケホッと水を吐き出し、眩しく……そして暖かい太陽の光を浴びながら、助けてくれた人影を見る。
 陽光の下……その顔は影になりよく解らないが、彼女の知ってる人では無いらしい。
「……どこかでお逢いしました?」
「いや……俺は………」
 デジャブと呼ばれるものであろうか……助けてくれた青年、深き青蒼の闇・ユエ(a39450)の姿に、何故か懐かしさを感じるのであった。
「エリオさん、助かって良かったです」
「本当に良かったです……あ、良かったら、これを………」
 無事助けられ、すっかり打ち解けたエリオとユエの姿に胸を撫で下ろすアクア……そんな彼女の呼び声に答え探していた月光の医師・ウィザ(a40781)も、無事な彼女の姿にホっと一息付いた所で、そう言えば……と、手にした真珠貝を差し出す。
 その中には白い真珠貝が一粒……驚きは、やがて嬉しさへと変化するのにそう時間は掛からなかった。
「わぁ〜、アクアさん、プレゼント羨ましいですぅ〜」
 ありがとう……頬を染めつつ、そう答えるアクアの首元に突然抱きつくサナエ……狙った行動では無いのだろうが、プレゼントと言う言葉に思わず反応してしまい、頬の火照りと染まった顔を隠す為にかアクアはぶくぶくぶく、と沈むのであった。

●パーティー・ナイト
 太陽が水平線に沈み、星空が夜空を埋め尽くす頃……思い思いに盛り上がり、またアルコールを許された者も多くパーティーは何時しか最高潮を迎えていた。
 揺らめくキャンプファイヤーの炎が冒険者達を紅く照らし出し、そしてエキゾチックなドレスで踊る女王蜂・ルリ(a36273)の姿を魅了的に浮かび上がらせる。
「スパークスさんもこれで一人前の海の男だな」
 頭には儀式成功のお祝いにとルリに掛けられた薔薇の冠にプルメリアのレイを首から下げ、蛸壺から伸びる足に絡み付かれながらパネトーネを差し出すのは流れる白波と潮風に舞う・ハルト(a36576)……どうやらダイビングした時に見つけ持って帰って来た所、中のタコに懐かれてしまったようであった。
「……飲んじゃ、駄目ですよね、やっぱり」
「そうそう、お酒はハタチを超えてから……今日はコレで我慢ですね」
 そう言い、スパークスの手の中のグラスを覗き込むハルト……外見は15歳の彼、同盟の法に従い彼にココアを差し出した楽風の・ニューラ(a00126)は、自分は良いのよとスパークスから琥珀色の液体を奪い取るとクイッと呷り冷えた体を暖める。
「そう言えば無事儀式を終えられた様ですね……これはそのお祝いです」
 そう言うとファイアオパールを埋め込んだ短剣の形をした首飾りと差し出すニューラ……そのオパールの輝きは、夜空の星よりもオレンジに光り輝くのであった。

 こうして、スパークスの誕生日で成人の祝いの夜は過ぎていく……山の様に用意された料理やお酒、ジュースのおかげで新成人達の乾杯の声は朝まで聞こえていた。
 一人、また一人と睡魔にとらわれ、気が付くと昇る朝日が浜辺に立つ彼を光に包んでいる……その姿は、少し大人になった彼を眩しく輝かせていた。

「……そう言えば、スパークスってちゃんと飛べたのか?」
「あぁ、凄い悲鳴上げながら飛んでたぜ」
 ……その瞬間、波に流れる砂に足を取られたスパークスは朝日の中見事な水飛沫を起こし、その飛沫は太陽の光を反射しキラキラと輝くのであった。


マスター:瀬和璃羽 紹介ページ
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参加者:21人
作成日:2006/02/07
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