≪菫青宮リベンティーナ≫街道建設の障害〜セイレーンの大領主〜



<オープニング>


 セイレーン王国からリザードマン領の南方辺境の街道が途切れた街まで繋げる作業の途中、障害が出た。
 順調に進んでいた街道建設だが、やはりそう簡単にはいかないようだ。
 障害はセイレーン王国から離れた谷間の一本道の途中から沼の主が住む湿原地帯の入り口手前近くまでの広大な敷地を持つ、セイレーンの大領主。
 領主が自分の敷地に街道をひかせない、と反対してきたのである。
「……反対の理由はわからん。領主の意思を尊重するとなると迂回路を作る為、かなり街道建設には時間がかかるだろう」
 ヒトの霊査士・ブレントは菫青宮の会議室のテーブルに片手をつき、護衛士たちの顔を見渡した。
「ま、そんな領主に会いに行くと言う事で皆の意見は一致しているよーだし、反対理由を知っておくのも今後の良い材料になるだろう……それに、街道建設を許してもらえるならそれに越した事はないしな」
 小さく笑みを浮かべたブレントは、視線を宙へ向け小さく口の中で呟いた。
「セイレーンの領主、か……さて、美女が出るか蛇が出るか……どうせ出るなら美女がいいよなぁ」
 晴れ渡った西空に黒い雲が見え隠れし始めていた。

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参加者
聖水の湖女中・シャワー(a01071)
朱の明星・エトワール(a07250)
流れゆく風の如き・ミネルヴァ(a29527)
天蒼の探索者・ユミル(a35959)
蒼海の風・カレン(a38616)



<リプレイ>

●失敗
 壮麗ではなく、だが貧弱でもなく。幼子の住まう美しい宮は妖精が宿っているかのようなそんな可憐な装飾が施された室内は、今失意の色に染まっていた。
「ごめんなさい……」
 力なく肩を落とし言った聖水の湖女中・シャワー(a01071)にブレントは鼻から息を長く吐いた。
「……まぁ、会えなかったものは仕方が無い」
「本当に、申し訳ないです」
 萎れて言葉に力の無い星天弓・エトワール(a07250)にブレントは片手を小さくあげ、制すと行儀悪くテーブルに腰掛け護衛士たちの顔を見た。
「とりあえず、今ある情報を聞こう。話してくれ」
「はい」
 頷いた水の歌声・カレン(a38616)は街で得た領主の情報を話し始めた。

●回想〜手紙〜
「女王陛下におかれましては、ご壮健のことお喜び申し上げます」
 膝をつき、恭しく頭を下げた天蒼の探索者・ユミル(a35959)にウェヌス女王は鷹揚に頷いた。
「ありがとうございます。何か、急を要する事、と聞きましたが?」
「はい。実は街道建設ルート上に領地を持つ領主が建設に意を唱えてきたのです。ですので、反対理由を聞く為にその領主に会いに行こうと思っております。つきましては女王陛下に一筆、紹介状を書いて頂きたく参上した次第でございます」
「なるほど……」
 一つ頷いたウェヌスはしばらくそのほっそりとした顎に指を当て何かを考えていた。
「あの……何か?」
「いえ。紹介状を書きましょう。早く街道建設が再開できるよう、頑張ってくださいね」
「はい! ありがとうございます」
 女神のような穏やかで美しい笑みを浮かべた女王にユミルは頭を下げ、礼を述べた。

 マルソーを出てしばらく歩くと周囲を山に囲まれた広い野が広がる。
 その野を一人進む緑風の紋章術士・ミネルヴァ(a29527)は歩いていた。懐にはウェヌス女王からの紹介状とカレンがしたためた街道建設に関する失礼の詫びをしたいという訪問伺いの手紙が入っていた。
 道無き道を急ぐミネルヴァは次第に変わり始めた周囲の風景に目を瞠った。
 自然が作り出していた緑の風景に、人の手で作られた畑や果樹園。そして豪奢な館が悠然と野山の中にその存在を主張していた。
 館へ向かい歩くミネルヴァを果樹園で作業をしていた美少年が気付き、ミネルヴァの側へ寄ってくるとふわりと花が綻ぶような笑みを浮かべた。
「何か御用でしょうか?」
「はい。ここの領主さまにお会いしたく参りました」
 普段とは違う口調で丁寧に言ったミネルヴァに少年は警戒心の無いあどけない表情で小さく首を傾げた。
「ご主人様にですか。何かお約束でも?」
「いえ、何も。ですので、今日はこれを領主さまにお渡し頂けますでしょうか?」
 ミネルヴァは少年に2通の手紙を手渡した。
「わかりました。お渡しいたしますね」
「宜しくお願い致します。私は菫青宮リベンティーナ所属護衛士、ミネルヴァと申しますので……では、失礼致します」
 少年に一礼したミネルヴァは屋敷を背に、一度マルソーへと戻った。空を舞う鳥たちに話を聞きながら。

●回想〜壮麗な館〜
 領主からの訪問を許可するという返事は護衛士たちにとっては予想外なほどすぐに来た。ミネルヴァが手紙を託した少年が返事を伝えに来たのだ。その返事は簡潔なもので、
「お越しなさい、との事です」
 そう護衛士たちに言い見目美しい少年はペコリと頭を下げた。
 そして、今、護衛士たちは領主の館を眼前に歩いていた。
 彼らを先導するのはストライダーの少年。この少年もまた見目麗しく歳若い。前を歩く美少年の背を見ながら、ミネルヴァは小声で仲間達に得た情報を話始めた。
「鳥から得た情報だが、ここの領主は女性のセイレーンだそうだ」
 頷き、エトワールも前を真っ直ぐ向いたまま声を潜め言う。
「僕はここで生活している少年たちから聞きましたが、領主さんのお名前はルクレチア様と言うそうです。とても美しく高貴なお方だそうです。なんでも、王家に連なるお方だとか……」
「……ルクレチア、様」
 誰かがぽつり、と呟いた。
 護衛士たちの前を歩く少年の美しい狐の尻尾がゆったりと揺れ、閉ざされた扉の前に立ち止まった。緻密で壮麗な彫り物が施された重厚な扉はまるでここに住む者の富と権力を象徴しているかのようだ。
 美しい少年は扉を押し開け、一度護衛士たちを微笑みを湛えた顔で振り返り会釈すると中へと進む。
 館の中へ足を踏み入れた護衛士たちは息を飲んだ。
 館内はセイレーン王家の宮と比べても遜色が無いほど美しいものだった。毛足の長く柔らかい赤い絨毯。金糸で彩られた壁紙に大理石の柱。白石の美しい少年の彫刻が祈り天を仰ぐその視線の先には明かりの揺れる豪華なシャンデリアが天井より釣り下がっていた。
「……すごい、です」
 シャワーの呟きは護衛士たち全員の心中を代弁していた。
「皆様、こちらです。どうぞ」
 柔らかく先へと促し歩き出したストライダーの少年の後に続き、護衛士たちも館の奥へと進む。
 館の中の通路は全て広い玄関ホールと同じ赤い絨毯が敷き詰められ、少年が辿り着いた扉もまた館の扉と同じ緻密で美しい彫り物がされていた。
 扉を開けた美少年は軽く頭を下げる。その少年の前を通り、護衛士たちは室内へと入った。
 護衛士たちの左側には床から天井までがすべて窓となり、広大な野山が一望できる。窓と反対側には装飾素晴しい柱が等間隔に並び、その柱の間を重厚で荘厳なカーテンが奥の空間に影を落としていた。
 そして、広い室内の奥にはこの館の玉座のような椅子が備え付けられ、今は主の座していない椅子の前にセイレーンの少年が立っていた。
 護衛士たちの背後で静かに扉が閉まった。
 澄んだ清流のような美しきセイレーンの少年は護衛士たちへと優雅に一礼し、玉が鳴る様な美しい声を出した。
「本日はお越しくださりご苦労様でございます。ご主人様はご気分がすぐれませんので、代わりに用件を承ります」
「え……」
 領主には会えない。それは今回この館に来た目的の半分も達成出来ない事を意味していた。
「ご用件は何でしょうか?」
 もう一度、セイレーンの少年は言った。
「あ……この度は何の調査も相談もせずにいた為に無断で領地に街道を通そうとしていた事、お詫びします」
 萎えそうになった気持ちを取り直し、カレンは頭を下げた。
「私たちリベンティーナ護衛士団が街道建設を行なうに至った経緯をお話させて頂きます」
 丁寧な口調でユミルは話し始めた。少年は街道建設の経緯を聞いている間、聞き終わってもしばらく微動だにせず柔らかな笑みを浮かべたまま護衛士たちを見ていた。
「それで?」
「そ、それですから街道建設の目的をご理解して頂き……」
「目的はなんですか?」
 エトワールの言葉を遮り、少年は花のような微笑のまま尋ねる。
「目的は、その……」
 エトワールだけでなく、ミネルヴァもユミルもカレンもそしてシャワーもすぐに言葉が出てこなかった。目的を説明する。街道建設の趣旨を説明する、と心に決めていたとしても具体的に何をどの程度話すのか考えていなければ、他者の耳を引き付ける事はできない。
 美しき少年は小さく首を傾げ護衛士たちから視線を外すと小さく欠伸を噛み殺した。
 もう、これ以上の話は出来ないと護衛士たちは悟った。
「最後に……差し支えなければ、あなたのご主人様が街道建設に反対されている理由を教えていただけませんか?」
「それはご主人様にお聞きしなければ分かりかねますので。用件は終わりですか?」
 無邪気な笑顔に見送られ、護衛士たちは肩を落とし部屋を出て行った。
 

「……あれでよろしかったですか? ルクレチア様」
「えぇ。ご苦労様」 
 館の玉座のある部屋の柱のカーテンの陰。揺り椅子に腰掛けている女性は、水が流れているような青い髪を軽く掻き揚げ、艶を帯びた唇を妖艶な笑みの形歪め細い指でそっとセイレーンの少年の顎を上向かせた。まるで見えない力で吸い寄せられるようにその繊細な体をセイレーンの女領主に預けた少年の可愛らしい唇に、ルクレチアは唇を重ねた。

●反省を次回へ
「……なるほどな」
 話を聞き終え、ブレントは頭を掻いた。
「お前さんがたは、まだセイレーンという種族を理解していないようだな……セイレーンが『お堅い真面目な使者』に快く会うと思うか?」
 ブレントは護衛士たちの顔をゆっくり見渡し、言った。
「セイレーンとはどんな性格の者が多いのか考え、会えるように算段を取るべきだったな……」
 テーブルから立ち上がったブレントは首を左右に曲げ、一つ伸びをすると自室の方へと向き歩き出す。
「この案件は一からやり直しだ」
 団長室の戸が閉まった後も、残された護衛士たちは力なくその場に立ち尽くしていた。


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