【無限な国の冒険譚】行け行けカータツちびっこ探険隊☆



<オープニング>


 人々を拒否するかの如く存在する秘境、そして魔境。同盟諸国の辺境には、今尚、人知を遥かに超えた数多くの伝説や伝承が残されていた。謎を秘めた禁断の地への侵入は、死と隣り合わせの危険な挑戦であった。この物語は、己の身に降り掛かる危険をも顧みず、多くの謎を秘めた数々の伝説や伝承に挑む飽くなき探究者たちの織り成す『冒険譚』である。

「ある探険家の出身地として知られるカータツの村には、その探険家の偉業を讃えるべく新春にある行事が行われます。その行事とは、“ちびっこ探険隊”による“洞窟探険”です。子供たちにちょっとした冒険気分を楽しんで貰えるように様々な『演出』が施されており、毎年近隣の村々からも多くの子供たちが洞窟探険を楽しみに訪れるそうです」
 無事に洞窟探険を終えた子供たちには、“カータツちびっこ探険隊隊員”の称号として隊員バッヂが贈られ、子供たちの間では羨望のアイテムとなるのだそうだ。だが、そんな子供たちの夢を打ち砕く事件が起こった。
「探険に使われている洞窟に、なんとグドンの一群が住み着いてしまったのです。その為に洞窟探険の準備が出来ずに、洞窟探険の行事は開催自体が危ぶまれているのです」
 村人の話では、この洞窟内は一年を通して温暖で、冬場でも様々な小動物が生息しているのだという。食料の少ない冬場とあって、グドンは村人たちが探険の小道具にも利用しているこの生き物たちを狙って、この洞窟に居着いたのだろう。手にしていたグドンに壊され打ち捨てられたランタンをテーブルに置いて、霊査士は閉じていた目を開く。
「冒険者の皆さま。どうか洞窟からグドンたちを追い払い、子供たちが楽しみにしている洞窟探険を無事に開催させてあげてください。それと、遅れてしまった洞窟探険の『演出』の準備なども手伝ってあげてくださいね」
 ぺこりと頭を下げる霊査士の少女。こうして、“カータツちびっこ探険隊”の命運は冒険者たちの双肩に託されたのであった。
「子供たちを余り待たせる訳にも行かないな。よろしく頼む!」
 そう言って軽く笑うカルロスは、同行する冒険者たちに手を差し伸べる。“後輩”たちの為にも頑張らねばな、そんな呟きを洩らしながら。

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参加者
求道者・ギー(a00041)
冒険者の屑・リヴ(a00516)
天使のたまご・アンジェリーナ(a00810)
天照の剱聖と月読の奇傑・リィン(a00861)
偲びし背に謡う浮草・カヲル(a02086)
ピューと吹く・ジャルナ(a02784)
星影・ルシエラ(a03407)
古紺瑠璃・セス(a04928)
NPC:ヒトの武人・カルロス(a90002)



<リプレイ>

●カータツの村にて
 カータツの村に入った冒険者たちは、早速準備に取り掛かった。洞窟の見取り図の確認、『演出』の用意……やるべき事は山とあるが、子供たちの夢を壊さない為にも、迅速かつ隠密裏に事を進めなければならない。村長を始めとする『洞窟探険』実行委員のメンバーの助言も受けて、着々と作業は進行していった。
「ここにちょっとした暗号を入れて……」
 などと、子供たちに手渡す予定の『古文書』の改定に余念が無いのは、古紺瑠璃・セス(a04928)である。『洞窟探険』を前に“ちびっこ探険家”たちに、少しでも楽しんでもらおうという心憎い配慮からの作業だが、当人も結構ノリノリでやっているようだ。
「む、怪我も快癒されたようで何よりだ。変わりは無いかね?」
 荷車などの準備の合間に、久しぶりに顔を見かけた武人にそう声を掛けたのは、求道者・ギー(a00041)。
「ああ。色々と心配を掛けたようだな」
 そう答える男、ヒトの武人・カルロス(a90002)は、にっと力強く笑ってみせる。そのカルロスの表情を見て得心がいったのか、ギーはゆっくりと頷くと胸元で印を切る。
「アンジェも“カータツちびっこ探険隊隊員”の隊員バッヂもらうんだもんっ! がんばるもん♪」
 ちょっと(?)違った方向にやる気満々の天使のたまご・アンジェリーナ(a00810)は、猫さんリュックにお菓子や救急セットを詰め込んで準備万端♪
「子供たちの為にも頑張りましょうね、隊長さん?」
 そんなアンジェリーナの様子を横目に偲びし背に謡う浮草・カヲル(a02086)は、くすっと『隊長さん』に笑いかける。程無くしてカータツの村での準備を終えた冒険者たちは、子供たちに見つからないように注意しながらグドンが占拠したという洞窟へと向かったのであった。

●グドン退治顛末
 暗闇の中、ぼんやりと光るのは冒険者たちが手にしたカンテラの明かり。洞窟の中は真冬だというのにポカポカ陽気。これなら確かに動物たちも1年を通して活動できるだろう。近くにグドンの気配が無いのを確認した冒険者たちは、手始めに『獣達の歌』で、周囲の小動物たちからの情報収集に取り掛かる。
「動物さんたちありがとう〜♪ ……ここの反響は合格……もとい、グドンはもっと奥のようですね〜」
 『獣達の歌奥義』で音響のチェック……いやいや、グドンの居場所を聞き出したのは、もはや恒例となった探険隊ルックに身を固めた喜劇の舞姫・ジャルナ(a02784)である。少数ながら、グドンたちの魔の手から逃れた小動物たちの助言を得て、冒険者たちは洞窟の奥へと向かう。次第に目に付きだしたのは、足元に転がる白い骨。グドンの犠牲になったであろう小動物のものだろうか。
「みんな、これを見て!」
 かぼちゃ型のカンテラで足元を照らし、グドンの痕跡を探していた星影・ルシエラ(a03407)が、グドンの痕跡、足跡を発見したのだ。
「足跡はこの奥へと続いている様子。状態から見てもごく新しいものです」
 ルシエラの見つけた足跡を確認した月夜烏の奇傑・リィン(a00861)が、簡潔に説明を付け加える。
「えー、この奥は行き止まりで……なるほど水場になっているのですか」
 カータツの村で借り受けた洞窟の見取り図を広げて、鈍牛・リヴ(a00516)が場所の確認をする。その見取り図によると、この奥は小さな泉のある広間になっているらしい。問題はそこに居るグドンの数だが……。
「中にいるグドンは10体よ。全員お揃いのようね」
 と、『ハイドインシャドウ』を用いての偵察を終えたカヲルが、声を潜めて皆に報告する。カヲルの話によると、グドンたちは水場に棲む獲物を捕食するのに夢中で、ほとんど警戒していないのだという。
「ふむ。狙うのなら今であるな」
 物静かな口調とは裏腹に、ギーの眼鏡の奥の目が光を帯びる。
「後は上手く奴らを片付けるだけ、ですね」
 セスの言葉に冒険者たちは頷き合う。最後の詰め、それが肝要だと言う事を冒険者たちは心得ていた。その為の『策』も準備していたのだ。
「……って、またコレなんですか?」
 右手に持ったタンバリンに哀愁が漂うリヴ。自ら背負った十字架とは言え、芸人の道は遠く険しい。精進あるのみである。
「たまにはまっとうな吟遊詩人らしく『眠りの歌奥義』でグドンたちを眠らせます!」
 一方の芸人の鑑、ジャルナは戸惑う事無く準備万端、気合も充分。2人の芸人の魂の歌合戦が今始まろうとしていた(ジャーン!)
「だから芸人じゃないって〜」
 そんな(どんな?)訳で、グドンの居る広間に冒険者たちが雪崩れ込むと同時に『眠りの歌奥義』が響き渡り、虚を突かれたグドンたちが次々と眠りに落ちる。その決定的な隙を突いて、数人の冒険者がグドンに迫る。
「え〜〜〜いっ!!」
 気合一閃、フレイルを大きく振りかぶったルシエラの一撃。『ご〜〜〜んっ☆』という派手な音と共に崩れ落ちるグドン。
「貴方達には貴方達の事情、しかし、私達にも私達の事情があるのです……ですから、許しは願いません」
 神速ともいえる剣捌きを見せるリィンの囁きにも似た言葉が、その太刀捌きと同様に流麗に流れる。流血を抑える為に刃を返した太刀での攻撃とは言え、リィンの放つ『ミラージュアタック奥義』や『スピードラッシュ奥義』は、グドンをしたたかに打ち据える。
「みんながんばってねぇ〜♪」
 大変だったら急いで直すねぇ、と後方で援護待機しているアンジェリーナが、冒険者たちの奮闘を見守りつつ声援を贈る。中には眠りを免れ、逃げ出そうというグドンもいたが、広間からの出口はアンジェリーナの護衛も兼ねたカルロスが守りを固めていた。その武人の抜き放った蛮刀を前に、グドンの前進が一瞬止まる。刹那――。
「それ以上、先は行かせないわよ?」
 カヲルが放った『飛燕刃奥義』がグドンの足元を深く抉る。流血は避けたいのよねぇ、カヲルの唇からそんな呟きが漏れる。
「喰らえッ、『旋空脚奥義』!」
 遅れて間合いを詰めたセスの『旋空脚奥義』がグドンに炸裂する。後は、一方的な展開となった。
「……これで最後であるな」
 眠りに落ちたグドンに布を被せ、一刀の元に切り伏せたギーの言葉通り、グドンたちは一掃された。多少の流血はあったものの、“後始末”には余り時間は掛からないだろう。
「これでよしっと♪」
 セスの多少強引な隠蔽工作(with爆砕拳)は、村人達にはナイショ!? と、ともあれ、グドンを無事に退治した冒険者たちは次なる仕事、洞窟探険の『演出』に取り掛かったのであった。

●設営準備、ご苦労様です
「よかった。動物さんたち、けっこう無事みたいだよ〜☆」
 アンジェリーナが『獣達の歌』で周囲の動物たちにもう大丈夫だよぉ〜、と呼び掛けた所、岩陰や小さな横穴から小動物たちがぞろぞろと這い出て来たのだ。洞窟内部で非道の限りを尽くしていたグドンを退治してくれたとあって、小動物たちは冒険者たちに協力的との事。我が意を得たりとばかりに、ここに冒険者たちによる小動物スカウト合戦が花開く事になった。もちろん、アンジェリーナもいち早くお菓子での買収に成功。何やら、打ち合わせをしている模様!?
「通訳は私お任せ〜♪」
 すかさずジャルナが名乗りを上げ、『獣達の歌奥義』で小動物と冒険者たちの通訳を請け負う事に。
「あっ、私は泉の側で子供たちを脅かしてくれる動物さんを募集です!」
 とのルシエラの呼び掛けには、何やら刺々しい体毛を生やした小動物たちが応じた様子。とは言え、外見はともかく根は大人しい動物たちなのでお子様にも安心♪
「私は蝙蝠たちを集めたいのですが……」
 リィンの募集にも、『演出』に充分すぎるほどの蝙蝠たちが集合したようだ。
「……という事でよろしくお願いします」
 一方、自力で極彩色の毒々しい色の蛇たち(無毒)に協力を取り付けたのはリヴ。早速、目星を付けていた高台の横穴へと向かって、蛇たちのエスコートを開始!?
「子供が相手という事を忘れずに、お互い怪我の無いように注意して欲しい所であるな」
 グドンの遺体の後始末を終えて戻ってきたギーが、通訳を介して洞窟内の『全員』に呼び掛ける。『洞窟探険』の準備はまだ始まったばかり。各人の練った『演出』の舞台が整うまで、今日は徹夜での作業になりそうである。

●カータツちびっこ探険隊♪
 開催を危ぶまれていた『洞窟探険』が無事に執り行われる事となり、一番喜んだのは、もちろんこの日の為に集まった子供たちであろう。くじ引きで決まった仲間たちと共に、手渡された『古文書』の謎解きも終わり、探険隊は第一陣、第二陣と次々と洞窟の奥へと向かって出発する。果たしてどんな大冒険が“ちびっこ探険隊”を待ち受けているのだろうか?

「基本は安全第一に尻尾からの落下で……」
 洞窟の高台にある闇に紛れ込んで、下を通りかかる探険隊に毒蛇(偽)の襲撃を仕掛けるリヴ。蛇たちの毒々しい体色もあいまって、この『演出』は、なかなか好評(?)の様子。そして、毒蛇(偽)の襲撃で少々怯え気味の“ちびっこ探険家”たちへの追い討ちとばかりに、リィンの放った蝙蝠たちが襲い掛かる。このコンビネーション攻撃(?)により、子供たちの恐怖心と警戒心はずいぶんと高まった事だろう。
「さて、私はそろそろ次の仕掛けに向かいましょうか」
 そう言って立ち上がったリィンの足元に、皮袋が落ちているのに気が付いたリヴがそれを拾い上げる。その皮袋の口からコトン、と言う音と共に転がり落ちたのは美しい宝石。
「こ、これは……」
 目端の利くリヴは、一瞬にしてその宝石が本物である事を見抜いた。が……。
「ガラス玉だ」
 何食わぬ口調でリィンが皮袋にその『ガラス玉』を詰め直す。……それも本当の宝ですが、それを発見するまでの行程とその瞬間が真の宝なのですよ。この宝を受け取る者へのはなむけの言葉を胸に、リィンは洞窟の闇の中に姿を消すのであった。

 所代わって、ここは洞窟の奥深く。泉の湧き出る広間に到着した探険隊一行の目前に現れた泉の中には、恐ろしげな刺の生えた動物たちがひしめいていた。そして何より“ちびっこ探険隊”を驚かせたのは、泉の中にある岩の上にお姫様(に扮したルシエラ)が頼りなげに立っていた事であった。
「水の中に足を入れたら食べられちゃうの。お願い、泉の左右の入れ物に何か食べ物を奉げてください!」
 お姫様のお願いに、“ちびっこ探検家”たちは道中で見つけたバッグから食べ物を取り出して、いそいでお供え物をする。すると、動物たちは餌に向かってさっと左右に別れてゆく。
「いそいで!」
 子供たちの声に促されるようにして、お姫様は泉をパシャパシャと無事に渡り切った。ありがとう、と御礼を言って探険隊の全員に『宝物』を配り始めるお姫様。と、周囲に広がった薄もやに子供たちが気を取られた隙に、何時の間にかお姫様がいなくなる。泉の小動物たちも、何処へと姿を消していた。また会いましょう、と遠くから聞こえる声。冒険好きなお姫様は、またどこかへ行ってしまったようである。
「ふふ……カルロス君の小さな頃ってこんな感じだったのかしら?」
 『ミストフィールド奥義』を展開させて、“ちびっこ探険隊”への仕掛けを終えたカヲルが、子供たちの姿を見て微笑を浮かべる。『隊長さん』もちゃんとやっているかしら? そう思いつつ、次の『演出』の準備に向かうカヲルであった。

「よくここまで来たな!」
 宝物の山の前に立ち塞がる怪物―セスを前にして“ちびっこ探険隊”の面々は、手にした『武器』をぎゅっと握り締める。『古文書』の謎解きで、宝物を守っている怪物の弱点が恐ろしげな仮面である事は判っている。仮面を打ち砕く為の『武器』は、既に手に入れていた。後は……。
「行くぞ! 怪物め!!」
 勇敢な少年が怪物の注意を引こうとその顔前に進み出る。同時に他の者たちも『武器』を構えて怪物と対峙する。知恵と勇気と友情、それが怪物を打ち倒す力となるのだ。さあ、頑張れ未来の探検家たち――仮面の奥でセスは呟かずにはいられなかった。

「ひゅーほほほ!」
 突然洞窟内に響き渡る奇声に、探険隊一同の歩みが止まる。声のした方角を見ると白塗りの仮面がゆらゆらと宙に舞っている。よく見ると他にも小さな影が2つ蠢いている。こ、これはまさか噂の地底人!?
「きゃぁ〜っ!?」
 悲鳴をあげた金髪の少女の声に反応してか、不意に白塗りの仮面が消え、代わりに獣の仮面が後ろ向きのまま逃亡に移る。旅の吟遊詩人の語った“謎の逆走地底人”が探険隊の前に姿を現したとでも言うのだろうか?
「みんなっ、地底人を追いかけるんだ!」
 1人の少年があげた大きな声に、小さな探険家たちは頷き合うと決死の追跡を開始する……。
「なかなかいい『演出』だな。事前の準備を上手く利用している」
 物陰から様子を覗っていたカルロスが笑いを堪えながら口を開く。地底人に扮しているのは誰あろうジャルナ。『洞窟探険』の余興に呼ばれた旅の吟遊詩人という触れ込みで、子供たちに今までの『冒険譚』を弾き語る傍ら、“謎の逆走地底人”の噂をさり気無く流していたのである。そして、悲鳴をあげたのは、見習い隊員として参加中のアンジェリーナである。向かう先にはお菓子で買収した小動物たちが、“ちびっこ探険隊”の行く手に立ち塞がる筈である。
「汝を名誉隊長とした“ちびっこ探検隊”になるかと思っていたのであるがな」
 万一の事態に供えて、子供たちを影ながらに警護していたギーが、傍らの武人の男に声を掛ける。
「いや、今回の『主役』は子供たちさ」
 いい大人がでしゃばる訳には行かないだろう、とのカルロスの答えにギーも頷く。
「宝は子供たちの心の内にあり。勇気と自信、協力をすると言う気持ちを今後も持ちつづけて欲しいものであるな」
 そう言って子供たちの後を追うギー。“カータツちびっこ探険隊”の冒険は始まったばかり。冒険者たちの手助けもあり、『演出』も例年以上の充実ぶりで、“ちびっこ探険家”たちがその全てを冒険し尽くすのには、まだまだ時間が掛かりそうである。バッヂを獲得する為に奮闘中の“ちびっこ探険隊”は元より、冒険者たちにとっても今日は長い一日になりそうである。

【END】


マスター:五十嵐ばさら 紹介ページ
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作成日:2004/01/11
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