フィギュアを下から見てはいけません



<オープニング>


「詳しい依頼の話に入る前に、まずはこれを見て頂戴」
 そう言って月影の霊査士・エルフィール(a90177)が取り出したのは、彼女を8分の1程度に縮小したフィギュアだった。
「凄いですね、これ。エルフィールさんそっくりじゃないですか」
 エルフィールからフィギュアを受け取った冒険者達は、その完成度の高さに感嘆する。
「で、このフィギュアがどうかしたのか?」
「このフィギュアがというより、このフィギュアを作った職人さんがね……って、コラ! スカートの中を覗かない!」
 スカートの中を覗いた男性冒険者に、エルフィールのツッコミチョップが炸裂する。
「……話が逸れたわね。このフィギュアを作った職人のポッペさん一家が盗賊に誘拐されてしまったの。盗賊は家族を人質に、嫌がるポッペさんを脅して無理矢理エッチなフィギュアを作らせてるわ。どうやらそれを売って、一儲けしようと考えてるみたいね」
「確かにこれほどのフィギュアだと、かなりの高値で取引されるだろうな。それが盗賊達の資金源になり、新たな悪と被害者を生み出す……そうなるのはなんとしても避けたいな」
「そういう事。盗賊退治は勿論、ポッペさんの家族も全員無事に救出してね。頼んだわよ」

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参加者
鎧骨殲鬼・ギダン(a19463)
破壊神・スサノオ(a27601)
希望の火を灯して・ミリ(a34569)
燐火の乙女・ルネー(a39432)
其は命護りし天空の聖楯・クリムヒルト(a41178)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
玲瓏なる萩華・ユヅキ(a41453)
第二次性徴・ホウカ(a42109)


<リプレイ>

●潜入
 木々がうっそうと生い茂っている森にぽっかりと空いた空間。
 そこに建っている一軒の屋敷こそ、人形師ポッペとその家族が囚われている盗賊達のアジトだ。
 霊査士の情報によれば、ポッペ一家を監禁している盗賊達は非常に気が荒く、何かあれば容赦無く人殺しをする連中との事。
 万が一にも進入を気取られる訳にはいかない。深夜に屋敷に辿り着いた冒険者達は少し離れた位置から盗賊達の様子を観察し、夜明け前まで突入のタイミングを計っていた。
「門の見張りの4人、どうやら交代は無いようですね」
「その様なぁ〜ん。これ以上様子を見る必要は無いと思うなぁ〜ん」
 希望の火を灯して・ミリ(a34569)の言葉に、ヒトノソリンの重騎士・ホウカ(a42109)が同意する。
「それでは……眠りの歌で……見張りを眠らせます……」
 風に惑う・ユヅキ(a41453)が眠りの歌を歌うと、見張りの瞼は強い睡魔によって徐々に閉じられていき、本人達も知らぬ間に眠りの世界へと堕ちていった。
「それでは逃げられぬよう、今の内にロープで縛りましょう」
「わたしも手伝うわ」
 眠りに堕ちた盗賊を、そは命護りし天空の聖盾・クリムヒルト(a41178)とネルネルネ・ルネー(a39432)がロープできつく縛り上げて、逃げられないようにする。
 そして盗賊の1人が持っていた鍵の束を拾い上げると、それで重い鉄門の鍵を開けて、庭へと侵入する。
 門の周りに4人の見張りを立てていたからか、幸い門から屋敷の入り口までの周りに警備している盗賊の姿は見当たらない。素早く駆け抜ければ、屋敷の周りを警備している盗賊に見つかる事は無さそうだ。
「盗賊に見つからぬよう一気に駆け抜けるのじゃ!」
 月日震裂黄金の双刃・プラチナ(a41265)の言葉を受け、冒険者達は門から屋敷までの4、50mの距離を一気に駆け抜ける。時間にして僅か5秒ほど。疾風の様に駆け抜ける冒険者達に、盗賊達が気付く事は無かった。
「ふむ、扉の向こうに人の気配は感じぬのぅ」
 扉に耳を当てて、プラチナが向こう側に人がいない事を確認する。
「それじゃ扉を開けるわよ。みんな準備はいい?」
 ルネーの問いかけに冒険者達は無言で頷いた。
 汗ばむ手を一度服で拭いてから、ルネーは静かにドアノブを回して扉を開けた。
 
●悪戯
 プラチナの言葉どおり、玄関の辺りに盗賊達の姿は見当たらない。
 夜明け前という事で、屋敷内の盗賊の多くは眠りについているのだろう。屋敷内は怖いくらいひっそりと静まり返っていた。
「外観からある程度想像していたが、思っていたよりも広いな」
 屋敷内を見渡した後、鎧骨殲鬼・ギダン(a19463)が呟く。
 元々あった屋敷を盗賊達が乗っ取ったのか、盗賊達が今まで盗んだ金品を元手に建てたのかは分からないが、屋敷は中々豪華な造りで、広さもかなりのものだった。
 この屋敷内を盗賊達に見つからぬように注意しながら、地下と2階へ行く階段を探し出し、人質を救出するのはかなり骨が折れるだろう。
(「ここなら問題無さそうじゃのぅ。ワシにケンカを売ると、どういう事になるか思い知らせてやるのじゃ!」)
 ニヤリと笑みを浮かべて、破壊神・スサノオ(a27601)がある冒険者の背後に忍び寄る。そして手にしていた棍棒を振り上げて……。
「おっと、手が滑った!」
 と、不可抗力を装って振り下ろした。
 だが、スサノオの不穏な動きに気付いた者達の手によって、この一撃は未然に防がれる。
「……スサノオさん、状況を分かってますか?」
「いや、ちょっとしたジョークじゃよ。ジョーク」
「ジョークなら時と場所を弁えてやって下さい!」
「……言いたい事は色々あるだろうが、こんな事で時間が潰してしまっては勿体無い。早速行動に移ろう」
「ええ。ではギタンさん、これをお願いします」
 ミリが手にしていたワルーンソードをギタンに渡す。
「確かに受け取った。それでは成功を祈っているぞ」
 盗賊の捕縛、退治を担当するクリムヒルトとホウカを1階に残し、残りの冒険者達はポッペ一家を救うべく行動を起こした。

●行動
「地下への階段……ここで間違いないようですね」
 屋敷に潜入して数分が経過した頃、ミリは地下室へと向う階段を発見する事ができた。
 今すぐにでも下りてポッペを助け出したいところだが、階段を覗き込むと奥からは灯りが漏れており、何人かの話し声が聞こえてくる。おそらくポッペが逃げ出さぬように監視している盗賊達のものだろう。見張りがいるとなれば迂闊に踏み込む事はできない。
 どうしたものか――とミリは考える。霊査士の情報では盗賊達は皆笛やドラを持ち、侵入者に気付くとそれを鳴らして仲間に異常を知らせるという。
 この笛とドラを鳴らされ、盗賊達に進入を気付かれてしまっては、盗賊達がポッペ一家にどのような危害を加えるか分かったものではない。
 何とか鳴らされないようにしなければならないのだが、残念ながら彼女は盗賊達を拘束するようなアビリティを用意していない。ハイドインシャドウの効果に期待しようにも、見張りがいるこの状況では見つかるのは時間の問題だ。
(「2階に向かった皆さんは、もう無事に事を終えた頃でしょうか? 何にしてもこれ以上、時間を無駄には出来ませんね……」)
 色々と考えてはみるものの、拘束アビリティを持たないミリに出来る事といえば、ドラを鳴らす前に盗賊達を倒す事くらいしかない。
 ミリは覚悟を決めると、ウェポン・オーバーロードを使ってギタンに預けたワルーンソードを手元に呼び戻し、地下室に突入するという合図を送る。
 静かに物音を立てずに階段を下りていくと、その先に広がる通路のほぼ中央に3人の盗賊が立っているのを確認する。情報どおり3人とも首から笛をぶら下げ、手にはドラを持っていた。
(「あれを鳴らされたら終わり……。失敗は許されません!」)
 気持ちを引き締め、ミリは更に慎重に近づいていくが……。
「ん? 誰だ、お前は!?」
 盗賊の1人がミリの存在に気付いてしまった。
 ミリは素早く盗賊に駆け寄ると、首にチョップを叩き込み昏倒させる。
「静かにしなさい。大人しく投降すれば危害を加え……!?」
 残った盗賊達にミリが投降を促していると、盗賊は体当たりをしてミリを壁際に寄せた。
「ここは俺に任せて、お前はみんなに異常を知らせろ!」
「ああ。侵入者だ! 進入者がいるぞー!!」
 盗賊がミリの動きを制している間に、もう1人の盗賊がドラを鳴らし、大声を上げながら地下室から飛び出していった。
 1階に上がったその盗賊は、より一層力を込めてドラを叩き鳴らす。けたたましいその音に気付いた者や目を覚ました者が、またドラや笛を鳴らして仲間に異常を知らせていく。
 そしてあっという間に、屋敷内はけたたましく鳴り響く笛とドラの音に支配されてしまった。

●躓き
「この音はまさか!?」
 2階に潜入していた冒険者達の耳にも、ハッキリと笛とドラの音が聞こえる。鳴り響く笛とドラの音に冒険者達も焦り、動揺してしまう。
「くっ、俺達の存在が知られてしまったか。もう一刻の猶予も無い。早く人質を助け出すぞ!」
「それは分かりますが……まだポッペさんの家族が……囚われている部屋も……見つけ出していないのに……どうしたらいいんですか……?」
「そ、それは……」
 ユヅキの言葉どおり、冒険者達はまだポッペの家族が囚われている部屋を見つけ出せずにいた。どうしたら良いも何も無い。ギタンは返答に困り、言葉を詰まらせる。
 見つけられずにいたのも当然の話だ。いくら2階に囚われているという事が分かっていても、構造も分からぬ広い屋敷の中を、何の情報も無く闇雲に探して見つかるはずが無い。それも自分達の存在を知られぬよう、慎重に行動しなければならないとなれば尚更だ。
「でも、ここでじっとしている訳にはいかないわ! 早くしないとポッペさんの家族の身に危険が……」
「貴様らか侵入者は!」
「おーい、こっちだ! こっちに侵入者がいるぞー!」
「一人も逃がすな! 皆殺しだー!」
 殺気立った盗賊達の怒声が、ルネーの言葉を遮った。
 冒険者達を周りをすっかり囲まれてしまい、進むにしても退くにしても、もはや実力行使しか手段は無さそうだ。
「こんなところでグズグズしている暇は無いんじゃ! ぶち殺されたくなかったら道を開けるんじゃよぉっ!」
 スサノオの紅蓮の咆哮が盗賊の動きを止める。しかし近接距離の相手にしか通用しない紅蓮の咆哮では、奥の方にいる盗賊達には効果が無い。麻痺しなかった盗賊達が、雪崩の如く冒険者達に襲い掛かる。
「さあ喰らいつくのじゃ、銀狼!」
 プラチナが気高き銀狼で、セイレーンの牙狩人・ブレンヒルト(a41603)が影縫いの矢で盗賊の動きを封じるが、数が多い為に単体用のアビリティでは焼け石に水といった状況だ。
「皆さん……大人しく……眠って下さい……」
 ユヅキの眠りの歌で、ようやくほとんどの盗賊を無力化される。
「さあそこをどけ!」
 残った2人の盗賊を、冒険者達はあっさりと蹴散らす。
 本当なら無力化したり、退治した盗賊はロープで縛り上げる事になっていたのだが、進入を知られてしまった今となっては、そんな事をしている余裕は全く無い。
 ポッペの家族の安全を確保する為に1分、いや1秒の時間さえも今は惜しい。冒険者達は盗賊の捕縛を諦めて先を急ぐ。
 と、その時――。

「きゃああああああっっ!!」

「今の声は? まさか!?」
 自分達の向かっている方角から、聞こえてきた耳を劈く様な女性の悲鳴。
 冒険者達の脳裏に最悪の結末が過ぎる。
「確かこの部屋から聞こえてきたな……」
 悲鳴が聞こえてきた部屋の前に到着すると、冒険者達はドアを開けて中に入ろうとする。しかしドアには鍵がかけられていて、開ける事が出来ない。
「皆さん、どうかしたのかなぁ〜ん?」
 振り返ると、そこには盗賊退治班として待機していたホウカとクリムヒルトの姿があった。
 どうやらこの異常事態を心配し、2階まで上がってきたようだ。
「それがこの扉に鍵がかかっていて、開ける事が出来ないのよ」
「それならわたくしに任せて下さい!」
 クリムヒルトの大地斬が鍵のかかったドアを破壊し、中に入った冒険者達は目にした光景に絶句する。
 何度も突き刺され、切り刻まれたのであろう。服も身体も見るも無残に変わり果てた死体が5つ、折り重なる様にして血の海に倒れていた。
 年老いた男女に若い女性、そして子供が2人。この5つの死体がポッペの家族である事は、誰の目から見ても明らかだ。
「うっ……!?」
 むせ返る血の臭いと目を覆いたくなる惨状に、冒険者の中には嘔吐する者までいた。
「そういえば盗賊はどこじゃ!?」
 ふと我に返り、部屋の中から盗賊の姿を探してみるが、盗賊達の姿は既にこの部屋には無い。部屋にある窓が開けられているところから察するに、冒険者達が侵入するよりも早く窓から逃げ出したようだ。
 今すぐ追いかければ追いつく事も出来るかもしれない。しかし、誰1人として盗賊を追いかける者はいなかった。
 自分達が想像もしていなかった最悪すぎる結末を前に、盗賊を追いかける気力など残されてはいなかった……。

●後悔
 冒険者達は死体の血を丁寧に拭った後、家族の首に付けられていた首輪の鎖を断ち切り、死体を運ぶ事にした。
 先程までと打って変わって、ひっそりと静まり返った屋敷の中、冒険者達は誰1人口を開かず、黙々と死体を運び出す。
 玄関まで辿り着くと、そこには2階から降りてきた冒険者達と同じく、暗く沈んだ表情のミリが立っていた。
 言葉を交わすまでもなく、顔を見た瞬間、救い出す事が出来なかった事がお互い容易に想像できた。
 後から聞いた話では、ミリは2階の冒険者達と違い、ポッペを生きて救い出す事が出来たのだが、数多く襲い掛かってくる盗賊達から1人で守りきる事ができず、隙をつかれて殺されてしまったとの事だった。

 盗賊のアジトを後にした冒険者達は、いったい何がこの最悪の事態を招いてしまったのか考える。
 致命的だったのは、やはりポッペを救い出す事をミリ1人に任せた事と、冒険者達が内部構造に詳しくなかった事だろう。
 地下にもっと人員を割いていれば、あるいはミリ1人でも何かしらの拘束アビリティを用意していれば、進入を知らされる事は無かったかもしれない。
 2階の方もそうだ。見張りの盗賊などから家族が囚われている正確な場所を聞き出していれば、例え今回と同じような事態に陥ったとしても、家族が殺される前に辿り着けたに違いない。いや、それ以前に早々と助け出せていた可能性の方が高いだろう。
 このどれか1つでも行っていれば、違う結末を迎えていたかも知れない。
 だが、そんな事をいくら考えても全て手遅れだ。
 殺されたポッペ一家が生き返る事は無いのだから……。

 せめて天国で幸せに暮らして欲しいと願いながら、冒険者達は帰路についた。


マスター:月影絶影 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2006/02/02
得票数:冒険活劇2  戦闘1  ミステリ1  恋愛1  ダーク143  ほのぼの5  コメディ29  えっち2 
冒険結果:失敗…
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死亡者:なし
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