<リプレイ>
依頼を受けて現地に到着した冒険者達の眼前に見えるのは、寂しい冬の山だった。木の葉芽吹く春はまだ遠く、山肌は樹の幹と枯葉が作る茶色で染まっている。頂上付近は茶色の洗礼を逃れていたが、そこにある白の色彩は雪のそれだ。 「この季節に猫と山で散歩なんて何考えてるんらなぁ〜ん」 吹き抜ける風に一つ身を震わせ、樽を愛する重騎士・パトリティア(a35121)はマントの前を固く締めた。蒼の音楽・セイ(a35891)は思わず苦笑、 「依頼人はよっぽど猫……」 「セイさん?」 「……ああ、そうだった。メリー……嬢、が好きなんだろうな。片時も離れたくない、って感じなんだろ」 鎮魂の姫巫女・レイハ(a39099)に指摘され、セイは発言を途中で止めると呼称を変えて言い直す。 「同じ愛猫家としては同感なのじゃが」 猫を愛でる司書・コハク(a39685) 「はぐれるとは感心できぬのぅ……帰ったら説教のひとつでもしてやらねばなるまいが」 「まずは急いでメリーさんのところへ行かねばな」 呟いた紋章術士・プリムラ(a38221)は、手にした杖を握り直すと歩き出した。闇の如き黒い服を纏った彼女の後を追い、皆は山へと踏み入っていく。 と、朧月の魔女・クリシュ(a24758)が足を止めた。 「どうしましたか?」 振り向き問うて来る冠翼の炎・ラクス(a30132)にクリシュは微笑、僅かな懸念を顔に覗かせ、 「……メリー嬢、本当は飼い主から逃れたかったと言うことはないでしょうね?」 「……」 それが当たっていたらどうなのかと考えラクスは一言、 「急ぎましょう」 「……そうね」 今考えてもどうしようもないと割り切りクリシュは首肯、二人は仲間達の後を追っていく。
太陽が西の方に沈もうとし、西からの日差しを受け、橙に染まった山の斜面には木々の作る影が長く伸びている。 出立してしばらく、質実剛健・リセリナ(a25547)を先頭に山を登っていた一同は、ようやく目的地である洞窟に辿り着こうとしていたのはそんな時間帯だった。 「見えましたわ、あれがそうですわね……」 岩肌に穿たれた洞窟を見つけ、氷雪の幻影妃・ティーナ(a37059)は安心した様に声を漏らした。足元で雪が音を立てる。吐き出す息は白く、あまり傍観を意識していなかった身には少々寒く感じる。 「まだ狼も洞窟には入っていないようだなぁ〜ん」 「それじゃ、俺達は急いで洞窟の中を調べて来ますね」 蒼穹の青・アルテア(a25245)が言い、仲間達の半分はメリー嬢を探し洞窟の中へと動き出す。プリムラは荷物の中から投網を取り出すとセイレーンの武人・タトゥーイン(a90278)に話しかける。 「猫が飛び出して来たら、これで捕まえてくれ」 「……こんなもの準備していたら私は武器が使えんのだが」 「あはは、まあまあタトゥーインさん、万が一の事があったら困るし、ね?」 探査班にカンテラなどを渡しながら言うリセリナの言葉に、渋々といった様子でタトゥーインは投網を受け取った。他の皆を追って洞窟に入っていくプリムラを見送り、リセリナはちらりとタトゥーインの方を見やる。 「タトゥーイン、どうしたなぁ〜ん?」 「いや、少し、な……」 パトリティアに話しかけられている彼は双剣と投網を天秤にかけて悩んでいる様子で、 (「猫の扱いとか苦手っぽい印象だし、こっちに残ってもらって正解ね。でも猫と戯れるタトゥーインさんも可愛いかも……?」) 想像の翼を羽ばたかせて猫と戯れるタトゥーインを想像しようとし、 「うわ、似合わない……」 「どうしたの?」 クリシュの声に苦笑して首を振った彼女の耳に、コハクの声が届いた。 「……どうやら、来たようじゃのう」 耳を澄ませば、荒い息遣いが洞窟の前に居座った此方を半円状に包囲するように近付いて来る。すぐに襲って来る様子が無いのは、 「獲物を逃がさぬようタイミングを伺っている、か」 「獲物って誰のことなぁ〜ん?」 「私達、でしょ」 言葉を交わしながら冒険者達の構える武器が音を立てる。やがて空気が張り詰めるような緊張に彩られ、 「――っ!」 吼声と共に、狼の群れが一気に冒険者との間を詰めた。
「メリー?」 探す猫の名を呼びながら、プリムラは一人洞窟の中をゆく。やがて行き止まりに行き着き、彼女の口から白くため息が漏れた。 「こちらではなかったか……」 いくつかに分岐していた洞窟の中、どうやら自分の選んだ道は外れだったようだ。 「プリムラさん、こちらには……いなかったようですね」 「ああ」 近くを探索していたのか顔を出したアルテアに頷きを返す。共に歩きながら何故かプリムラが遅れるのを不思議に思ったアルテアは、自分と彼女の立てる足音の差に気付いた。どうやら物音を立てぬよう慎重に歩いている彼女に合わせるよう、ついつい自分の歩調も遅くなる。 「メリーさん、何処にいらっしゃいますの? 聞こえたら出てきてくださいまし」 レイハもそう声を上げていたが、猫の声が返ってくることは無い。 「警戒していらっしゃるのでしょうか……」 「こちらにもいませんでした」 「ラクスさんもですか……あとはセイさんとティーナさんですけれど」 足元を手にしたカンテラで照らしながらラクスが近付いて来るのにレイハがそう呟いた時だ。 「おい、皆ちょっと来てくれ!」 「セイさん?」 皆がセイの声が聞こえた方へと集まると、そこでは衰弱した様子の猫が岩陰にうずくまっていた。酒場で霊査士に見せられた絵と同じ姿。だが、その毛づやは悪く、寒さと飢えからぐったりとした様子だ。 「メリーさん、目を開けて……♪」 獣達の歌を用いてのティーナの呼びかけにも微かな反応を返したきり、メリーは動こうともしない。 「ちっ、餌も無くこんなとこにいたら弱って当然か……ティーナ!」 「はい!」 持って来たバスケットを手早く開き、ティーナがその中に毛布を敷いた。その上にセイがメリーの体を乗せる。 「じゃあ、急いで……」 「少し待ってて下さい、入り口の様子を見て来ます!」 万が一にもメリーが狼との戦闘に巻き込まれては困る。アルテアは皆に背を向けると、入り口へ向かい駆け出した。
「いくのじゃ!」 向かって来る狼に対し、踏み込むと同時にコハクはアビリティを発動する。足元の雪が連続で凹みを作り、残像すら残る速度での斬撃は狼を一撃で絶命せしめた。 仲間達の血の匂いにさらに猛り狂う狼達を目にし、リセリナの眉が顰められる。 「体に血の匂いがついたら猫に嫌われちゃうわよ?」 「む……」 言っている間に、狼はリセリナの方へも向かって来る。 「全く……」 構えると同時、リセリナの傍らに橙と翠の二色を纏った狼の姿が現れる。狼はそのままにリセリナと一体化、全身を氷炎に包んだ彼女はそのままに大きく口を開け、 「――!」 噛付こうとしていた狼達が怯んだ様にその動きを止める。 「……麻痺させたら逃げられないんじゃない?」 「……それもそうね」 リセリナの手が止まるのを意に介さずクリシュは魔道書を開く。意識を集中すれば、現れるのは光輝く魔法の蝶だ。渦を巻き突き進む蝶の群れに惑わされ、飢えに澱んでいた狼達の目から理性が完全に失われた。 「……互いに襲いあってるみたいなぁ〜ん?」 「……あら?」 クリシュが首を傾げる間にも、飛び込んで来た狼の牙がパトリティアの服を突き破る。 「ほら、早く逃げた方がいいのらなぁ〜ん?」 だが、パトリティアは構わず棍棒を振り上げた。そのままに振り下ろせば肉撃つ鈍い音と共に狼の牙が外れた。手にまだ殴打の感触が残っているうちにすかさず身を捻り、腹部にもう一撃。狼の体が軽々と吹き飛び、雪の上に転がった。 怯えたような声を上げ、立ち上がった狼は背を向けるとそのまま逃げ去っていく。皆で他の狼にも何発か攻撃を入れてやると、狼達は散り散りに逃げていった。 「これで、こちらの仕事は終わりか……」 「……で、これ、どうしようか」 リセリナの声に皆がそちらを見ると、先程リセリナの紅蓮の咆哮で麻痺させられたままの狼達が逃げられずにいた。慌てた様な反応を見せる狼達に一同は顔を見合わせ、 「じゃあ、とりあえず今後人を襲わないように殴っておくということで」 教育的指導で片をつけることにする。 アルテアが洞窟から出て来たのは、そんな時だった。
「あら……起きたようですわね」 バスケットの中身が動いた気配を感じ、ティーナは慎重に蓋を開けた。警戒したように鳴き声を上げるメリーに獣達の歌で事情を説明するとなんとか納得してもらえたが、 「けれど、どうして警戒しているのか……理由を教えてくださらない?」 (「飼い主が……」) 「ガラドさんが、何か?」 夢中でミルクを舐めながらのメリーの声にレイハは首を傾げる。メリーはティーナの入れた餌にちらちらと視線を向けながら、 (「猫を冬山に同行させるような莫迦なので……」) 『ああ、なるほど』 一同は思わず納得した。リセリナはため息一つ、 「あんまり過保護なのも考え物ね……」 「やっぱり、戻ったら説教じゃのう……」 依頼人に生き物を飼う者としての心構えを説かねばと思いつつ、冒険者達は山を下っていった。

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参加者:10人
作成日:2006/01/29
得票数:ほのぼの17
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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