<リプレイ>
●オヤジvsコムスメ せーの、の合図は戦う商人・リフィ(a06275)が決行した。彼女のてのひらが翻ると同時に、彷徨う河・マサツネ(a26822)は小さな獣のごとく走る。勢いのある当て身で、古びた木の扉はあっという間に吹き飛んだ。開くやいなや、血風の獣姫・アリス(a25128)がマサツネの肩に着いた手を支えとして彼女を飛び越す。素速く室内に視線を飛ばしたリフィが叫んだ。 「アリス、左奥よっ!」 指示を受けてまっしぐらに向かうは、部屋の左手奥、書棚の前。こちらを振り返りかけたおっさんに、アリスは美しい軌跡を描く回し跳び蹴りをくらわせる。 「な――」 何が起こったのかわからない、という顔で男は卒倒した。 悪人撲滅、これにて終了。 「ヌルい」 「アリスさんやったネ! それじゃさっそくロープでふんじばらないとネ。僕に任せといて! きゅきゅっとやるヨ、きゅきゅっと」 やや不満そうに手の骨を鳴らすアリスとは対象的に、マサツネはやたら嬉々として荷物の中からロープを引っ張り出してくる。 「何? てめぇマニアってやつ?」 「んーと、かもしれない!」 そんなこんなでちょい悪人の表情は間抜けもいいところであったが、よくよく見れば、年代がかった仕立ての良い服をスマートに着こなしたロマンスグレイである。 「こりゃ親衛隊は強力そうだわよ。男性陣は大丈夫かね〜」 棒きれでオヤジをつっつきながら言うリフィ。しかしマサツネはどうだろうネと口では返しつつも芸術的な結び目を作るのに夢中だし、アリスも全く別のことに気を奪われているらしい。 「ふん。女のケツに隠れやがって。ムカつくんだよ、こーいうの」 低く吐き捨て、棘をたっぷり含んだ笑顔を浮かべた。 「――苛めてやる♪」
●お嬢さん方vs青年隊 時間を少々巻き戻す―― その頃冒険者たちは、ちょい悪ダンディが住まう家にやって来ていた。ごく普通に正面から、とことことやって来たのである。門の前でモップやフライパンを手に警備についていた女たちが気色ばんだのは冒険者がどうこうというよりは単に男が多く居たからであろう。 ポセイ首領・ボルジャック(a37012)に言わせれば『純真無垢な乙女から始まり、過去に可憐であったであろう婆まで』の女たちは冒険者を素早く取り囲んだ。家の外周を隙間なく埋め尽くす親衛隊は二十名ほどか。あんまり大きくない家だった。 瞳を剣呑に光らせた親衛隊相手に、武道家・シェード(a10012)が口火を切る。 「ああお姉さん、どうかそんな恐ろしい顔をしないで下さい……」 と、上目遣いに見つめるのは齢六十は越えているであろうお姉さま。とりあえずにょうぼ子どもには見せられない。 コレが効いた。動揺がさざ波のように連鎖的に広がるのが傍目にもわかる。 なんといっても相手はミーハーな女たちである。ロマンチックな甘い言葉になびかないわけがないのである。こぎれいに結い上げられた髪から一房こぼれる後れ毛に色香を漂わせつつ、シェードは別の少女の手をもそっととり、ささやいた。 「町から華が消えて男性達が寂しがっていますのでね。彼らから事情を聞いて、こうしてやってきたと言う訳です。こんな哀しいことはもうやめにしませんか、お嬢さん」 「えっ、で、でもー……」 反対を唱える少女の言葉は尻すぼみになり、ぽしゅっと消えた。ボルジャックの歌い上げるムーディーなラヴソングが背景を彩っている。(彼がセイレーンであるという事実を忘れてはいけない。) 手薄になっているあたりを見繕って、不老不死探求者・ウェイ(a30657)はそりゃもう頑張って極上の笑みを浮かべた。 「事情は伺っていますよ、お嬢さん……そんな薬に頼らなくても、貴方は充分に美しい……!」 軽くひきつっていたが見ようによってはニヒルっぽくよろしい風合いだ。 「あ、あら、そうかしら〜」 「そうですとも。自然と折り重なる年月と知性、それこそが美!」 彼らの背後に妙なる花びらだとか純白の羽が雪のごとく舞うまぼろしを見たような気がして、前進する想い・キュオン(a26505)はこっそり口笛を吹く。 「あー、もうきぱっとしねぇなぁ! だから俺を中に入らせりゃいいんだって!」 ところがここでしびれを切らせた朱凛撃・アレク(a90013)が、玄関を固めていた者たちの隙間を強引にすり抜けて行こうとした。 「――って、言ってるじゃない!」 殺気立つ親衛隊の皆さんよりも前に、彗星のごとき空を切る拳がせっかちんをぶっとばした。さすがは本職、腰が入っている。 「お、オマエいきなり何しやがんだっ! いてぇじゃねえか!」 きれいなアーチを描いて頭から着地したアレクは、なみだ目で跳ね起きるやいなや、ノソリンに咲く一輪の双風使い・ルシア(a35455)に食って掛かる。 「いま『語った』でしょ♪ わかったら大人しくしてなさいな」 「普通に言えよ! 普通に普通に!」 「あら、言って聞いてもらえるのかしら?」 別方向に火花を散らし始めた二人を横目に、蒼氷の忍匠・パーク(a04979)は耳打ちの恰好だけしたでっかい声で、近くのおばさまに告げた。 「ごめんよー。あの狐尻尾、ここの『背が伸びる薬』飲んだら逆縮んじゃって、かりかりしてんの」 「……なんですって? ダン様のお薬が?」 「うん。そうだよ」 話しかけた相手以外にも複数の耳がそばだてられているのを確認して、更に声を潜める恰好だけするパーク。もめ過ぎて、後ろのほうでボルジャックに頭と頭をごつんこされている二人の辺りを親指でさして答える。 「だってさ、ホントは先ごろの秋で二十一だよ、彼」 おばさまたちの衝撃を受けた表情といったら、なかった。フライパンが手の中から滑り落ちて地面に斜めにめりこむ。アクシデントがありつつもナンパに風評に、総崩れ間近な親衛隊。真面目そうな女の子が必死の声を上げた。 「もー! みんな、騙されないで! それもこれも敵の作戦よ! ダンディ様はどうするのー!」 「そうね〜でもね〜……」 「そういえば最近ちょっと肌荒れがひどくなってきたかも……」 凶器のお掃除用具やお料理道具を上げたり下げたり、戦力の中心であろうおばさまたちは迷っている。もう一押しだ。重々しく進み出たのはボルジャックである。 「あいや分かった。こうなったら我輩も一肌脱ぐとしようではないか!」 ばさあ、と風に吹き流されるは、服。 「とくとご覧ぜよ! ふんどしこそ漢の真骨頂ぞ――!」 もろ肌脱ぎどころか下着一丁のマッスルポージングは盛大な金切り声を浴びることとなった。中には嬉しそうな悲鳴もないこともなかったが―― 「やはり不審者であったか! よし、皆ババに続け! 返り討ちにしてくれる〜!」 結局、こうなるのがお約束なのであった。 この間に女性冒険者たちが基地内に忍び込んだという事実は、後になって知れたことである。気づく余裕のある者は仲間内にもいなかったのだ。
さて、実はさらに居たらしい交代の親衛隊員たちが悪人宅付近にまでやってきたとき、見慣れない人々に出会った。 「おねーさんたち何処行くの♪ いそぎ?」 門扉にもたれて軽い調子で彼女らに声をかけた銀髪の青年が一人と、華奢な造りの弓を手に座している赤髪の青年が一人。 「オレたち旅の芸人なんだけど……ちょっと付き合わない? 結構珍しい見世物、あるよ」 正統派ナンパ台詞と共にウインクを飛ばすのはもちろん、嘘八百のキュオンだ。ちょっとうなずくのは赤と白の狩人・マイト(a12506)である。こちらも内心では、この数なら強行突破されても、何とか対処可能だとか考えていたりする。 「ど、どうする? 何か様子が変な気がするのよね……」 「……でもこの芸人さんたちちょっとイケてない? カワイイ顔してるわよっ」 「そうねえ、目の前だしちょっとくらい、かしらね?」 相談の結果、交代人員も来ないし、いいんじゃんと言うことになったようだ。願ったりである。身分は嘘でも芸は本物が用意されていた。 張り詰めた弓弦の音が空気にこもった熱をすぅっ、と解放した。音もなく立ち上がったマイトの踏むゆるやかな舞いは、うだる晩夏に吹き込む一陣の秋風に似て、凛とした静寂をもたらす。 この先、塀の内側。すなわち表から見えない場所に、眠りの歌で夢を見ている女たちが転がっていることなど、増援の彼女らは知る由もなかった。
●かもしれない。 「まったく、こういうヤツがいるからわしのよーな人畜無害な研究者が被害をこうむるのだ!」 化けの皮がはがれたうさんくさい紋章術士は、怒鳴り散らしながら悪ダンディの口の中にうさんくさい薬品を注ぎ込む。ぐっすり快眠できそうでできない薬なのだと説明する顔はダンディよりよほど悪人面である。 ちなみにそのダンディであるが、メイドさんのスカートとエプロンを無理やり着せ付けられていた。これはかっこ悪い。ちょいどころではない。 「それが終わったら次、アワの抜けたソーダな。泣いて謝るまでやるぜ」 縛られていなければとっくに泣いてはいつくばって謝っていそうだという事実は、アリスの気にするところではないらしい。ウェイと一緒になって悪っぽい笑いを浮かべている。 件の隠し棚はあっさり見つかった。というのも、パークが以前この家を建てた大工さんを見つけて、話を聞いていたからである。 早速物色にとりかかったリフィは、真っ青な小瓶のラベルが簡単にはがれることを発見していた。 「リフィ印『女性にモテモテになる、かもしれない薬』は実に良く効いたようだし、次はやっぱりあれかね〜。伝説の幻獣ウシーのエキス配合『背が高くなる、かもしれない……」 「マジか! くれ! よこせ!」 「ちょっと待った! 抜け駆けはヨクナイヨ友達じゃないか!」 「って、キミらが引っかかってどーすんのよ!」 「だからぁ、怪しい薬品なんてやめといて運動をするの! 二人ともよっ」 薬品棚を目の前にして、ルシアに襟首捕まえられているアレクとパークの叫びには悲壮感すら滲んでいる。シェードは哀れなものを見る面持ちで軽く首を振った。 「こっちのいいナ、でもこっちもいいカナ……ねね、どの色の瓶がいいと思う?」 「……? 中身は関係ないんですか……」 尋ねて逆に問われ返して、マサツネはうんうんとうなずいた。 「夢の万能薬も蓋を開ければ全て泡沫、といった感じですかね……」 結局全部ポケットに突っ込んだ彼女が、この場にいる中で一番幸せだった――かもしれない。まだ騒いでいる尻尾トリオを見、悪人含み笑いをしている二人を見、そう思うマイトだった。

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参加者:10人
作成日:2006/01/30
得票数:ほのぼの1
コメディ12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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