珈琲党の野望



<オープニング>


 それはあるところに存在する、変哲もない長閑な村。
 特産品は紅茶の葉であり、近くの村々と物々交換する事でその日その日を暮らしている村だ。
 グドンや暴れる動物も少なく、穏やかな人々の営みはある。
 そんな村に、脅迫状が送られてきたのだ。

『素晴らしき珈琲の世界の為に、貴様らの村の紅茶葉を貰い受ける。猶予は6日、村長の家の前の表札下に村全ての茶葉を詰めた袋を置いておく事。この袋の中に人を忍ばせたりしてはいけない。この約束が守られない場合、村ごと焼却処分とする』
「なんだか『の』が多くて読みにくいですけど、脅迫状はこんな文面だったそうです」
 脅迫状を冒険者達へと見せるツキユー。
「どうも、珈琲好きな盗賊辺りっぽいんですよね。脅迫状を霊査してみたところ、樽に貯蔵された一面のコーヒー豆が見えました」
 珈琲の味を思い出し、舌を出すツキユー。
「どうも私はあの珈琲の苦味が嫌いなんですよ。乳と混ぜたヤツなら大丈夫なんですけど」
 お子様みたいな事を言う。それはともかく、脅迫者の素顔が割れない現状では冒険者達が実際にその村へ赴いて警備する必要があるようだ。
「紅茶の葉っぱは村人達の重要な財源です、守り抜いてあげてくださいね」

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参加者
廃滅誘いし蒼風の薬師・スカラベ(a14519)
エルフの邪竜導士・チコ(a15701)
碧想の永遠花・ラリィ(a19295)
たまひよ・コッコ(a21063)
斬空術士・シズマ(a25239)
揺椿・ハルカ(a26690)
漆黒の闇にいでし支援者・アイル(a29788)
彷徨う夢・グレープ(a35761)
氷朧の檻歌・イル(a35993)
白色武人・イヅル(a42347)


<リプレイ>

●事前準備
「んしょ……っと。いっこ完成ですー!」
 銀月を奏でる輝石の詩・ラリィ(a19295)は麻袋の口を固く縛り上げると嬉しそうに声を上げた。
「まだまだ詰めるべき茶葉は残っているぞ、頑張れ」
 手近な木に背を預け、午後の木漏れ日を味わうように楽しんでいる廃滅誘いし蒼風の薬師・スカラベ(a14519)は言う。
 だが言うだけで手伝う気は更々なさそうだ、白の少年・イヅル(a42347)が抗議の声を上げる。
「スカラベさんも、茶葉詰め手伝ってくださいよー」
 冒険者達は盗賊達に差し出すべき茶葉を袋詰めにする作業を行っていた。
 といっても、勿論素直に茶葉を差し出す訳ではない。この村で詰まれた本物の茶葉は3割ほど、残りはその辺りの雑草とか、冒険者が自分で用意した茶葉だったりする。
「……散歩に行ってくる」
 面倒くさそうに言い捨てて、消えていくスカラベ。イヅルは去り行くスカラベに更なる非難を浴びせようとして、漆黒の闇にいでし支援者・アイル(a29788)に止められた。
「まあまあ、良いじゃないですか。これだけ人数が居れば、夜までには充分間に合いそうですし」
 にこにこと笑いながら袋の口を締めている。彼は彼でどうにも貧乏くじを引く性格のようだ。
「確かに、そうかも知れませんけどぉ……」
 不満そうに頬を膨らませるイヅル。そんなイヅルへ闇夜ノ凶星・シズマ(a25239)が声をかける。
「彼は彼で、しっかり仕事をしていますよ。オレ達はオレ達の仕事をしておきましょう」
「?」
 首を捻るイヅル。スカラベは家と家との距離を目分量で測定し、火を放たれた際に燃え移らないかどうかを調べていた。幸いな事に農村は隣家と隣家の距離が開いている、家の周りに燃え易い物を置かなければ被害を最小限に食い止められるだろう。
 そう判断し、スカラベはほうぼうの家へ火の用心を通達すると共に村に不審者がいないか偵察に赴いたのだ。
「村長さんもこの依頼が成功したら茶葉をくれるっていうし、頑張って成功させなきゃね☆」
 たまひよ・コッコ(a21063)も茶葉詰めに協力している。彼やラリィ、シズマは村長へ囮の茶葉に本物を使わせてもらえるように交渉していた。村のためならと村長も了承し、作戦で使用した本物の茶葉は冒険者達が自由に持ち帰って構わないとまで言ってくれたのだ。
 新たな麻袋に茶葉を詰めながら、雑談に興じる一行。本物と偽物の割合を考えながら、ラリィは口を開く。
「それにしても、珈琲ですかー……私は珈琲を飲めませんけど、皆さんは珈琲好きですか?」
「私は紅茶好きですね。最も、村の貴重な財源である茶葉を奪おうとするような輩を放置する気など最初からありませんけどね」
 即答したのはシズマだ。イヅルも片手を上げて自分も紅茶党だとアピールする。
「俺も珈琲飲めません、苦いんです。珈琲の世界って……馬鹿みたい」
「おれも紅茶のほうが……好きだな……」
 黙々と無表情で作業をこなしていた氷朧の檻歌・イル(a35993)も自らの腰をトントンと叩きながらそうこぼす。かがんでの茶葉詰め作業で腰の筋肉が固くなったらしい。
「僕は紅茶も珈琲も好きですよ。珈琲にも紅茶にも、それぞれ違う良さがあると思うのですけどねぇ……」
 流水血華・ハルカ(a26690)は理解しがたいといったように小首を傾げた。コッコも全く同感だとばかりに首を前後に頷かせる。
 チキンレッグの彼にとってコーヒー豆も豆の一種、好きに違いはなかったが、紅茶好きの人々を困らせるのは筋違いだと思っていた。
 結局、そこまで考えが及ばないから盗賊達はこのような蛮行を為すのだろう。そんな結論で話題は収束した。
「えーと……とにかく、袋を取りにきたところを捕まえれば良いんですよね?」
 エルフの邪竜導士・チコ(a15701)は質素な服に身を包み、手に錫杖を持っていた。作戦があまりよくわかっていないらしい。とりあえず村娘に変装して見回りをするつもりのようだ。
「夜に子供が出歩いてるのはおかしい……その役目は、俺がやろう」
 同じく村人に扮装している風よ踊れ哀しみのボレロ・グレープ(a35761)が口を開く。
 恐らく警戒しているであろう盗賊達にハイドインシャドウの効果は薄いが、適材適所ではある。チコも頷き、仲間達と同様に近くの茂みに隠れている事にした。
 それからまたしばらく沈黙の作業が続き、日はみるみるうちに沈んでいく。
「よしっ! こんなもので良いですよね?」
 いつのまにかハルカの足元には、俵のように麻袋が積まれていた。
「そうだね、それじゃ村長さんのお家で待機しようよ。夕食も作ってくれるって言ってたし」
「俺も夕食作りのお手伝いしますよ。調理できますから」
 コッコに促されてそのまま村長宅へとお邪魔する一行。
 珈琲党を捕まえる準備は、着々と整えられていくのだった。

●野望、潰えるか?
 草木も眠る丑三つ時、村に幽鬼のように出現する光点。
 光点はゆっくりと移動し、村長宅で止まった。
「(ここだな?)」
「(ああ、見ろ)」
 小声で意志の疎通をする影達。声色とシルエットから男だという事が窺い知れる。
 表札の下に積み重ねられている茶葉の袋をカンテラで照らす。割れた男の顎と、ニヤケた口元が浮かび上がった。
 彼らこそ、茶葉を奪おうという珈琲党に他ならない。そう確信した冒険者達が動こうとしたのと同時―――
「そこの茂みにいるヤツら、誰だっ!!」
 一人の賊が叫んだ。
「……夜目の利くエルフがいたか……!」
 茂みから飛び出すグレープとイル、チコ、ラリィにシズマ、イヅル達。
 それよりも早く、カンテラを持っていた賊はその腕を振り上げた。
「約束を破ったな! 村長宅だけじゃなくて、村全部を焼いてやる!!」
「チッ、そういう事か!」
 村長宅からそう離れていない場所、別行動で火をつけようとしていた一人の賊を捕縛しながらその叫びを聞いたスカラベは真実に辿り着く。
 珈琲党達は、そもそも出された茶葉を素直に持ち帰るつもりなど、ハナからなかったのだ。
 差し出された茶葉を使って村長宅もろとも焼却しようとしていたのである。思い返せば彼らのアジトに珈琲豆はあっても茶葉は一片たりとも無かった。
 賊はカンテラを茶葉袋目掛けて叩きつけようとして、閃光に包まれる。
「な………体、が」
「逃がす訳にはいきませんのでね」
 シズマがスーパースポットライトで麻痺を賊達に与えたのだ。同時にラリィの眠りの歌を聴き、どさりと倒れる者もいる。
「一人、あっちへ逃げたよ!」
 チコも敵のエルフに負けじと、その夜目で敵の数を把握する。視界内の敵は五人、うち麻痺を幸運にも免れた一人が遠ざかっていくのを感じた。
 暗闇の中をもつれるように駆ける賊、その逃避行も敢え無く終わりを告げる。
 木の上、アイルは物音だけを頼りにその影を射抜いた。地面に影を縫いつけられた賊もすぐに動きを止める。
「ちょっと失礼しますよっ」
 ハルカ達は手際よく縄で珈琲党を縛り上げていく。
「念には念を入れる」
 言葉少なに闇へと消えていくグレープ。そしてじきに脅威が去った事を確認するのだった。

 自らに降りかかる熱い雫で、珈琲党達は目を覚ました。
「あ、アツッ、アチィィィィ!!! おほおぉぉ!!???」
「あ……おはようございます」
 身体の自由が利かず地面を擦って身悶えする賊達へ、にっこり微笑みかけるラリィ。
「紅茶を狙った罰、だよ?」
 その横、悪魔のような笑みを浮かべたイヅルが瓶に入った熱い紅茶をかけている。降りかかる熱い液体は、紅茶なのだった。
「……とりあえず、一杯くれ」
 色々言いたそうだったが、それも面倒だと判断したらしい。スカラベはヒーリングウェーブを賊達にかけた後、イヅルの持っていた紅茶を一杯所望する。
「さ、お説教の時間ですよ。正座をしましょうね?」
 ラリィに何故、と言おうとした賊達はイヅルが瓶を傾けようとするのを見て速攻で正座の体制をとった。ちゃんと動けている辺り、本当に束縛できているのか不安になる。
 不安になりつつも、アイルはとりあえず聞いた。
「なぜこんな事をしたのか……は、まあ脅迫状通りですか。アジトはどこですか?」
「こ、ここから北にいった三日月湖の傍にある洞穴だ」
「ふむ、わかりました……珈琲豆を全部回収しますね」
「そ、そんなぁ、せっかく集めたのに!」
 情けない声を上げる珈琲党達。そのリアクションに冒険者達は顔を見合わせて嘆息し、流石のアイルも苦笑いを浮かべてみせた。
「珈琲と紅茶の違いはあれど、これはあなた達がやってきた事ですよ? あなた達だって、このような事をされたら嫌でしょう?」
「そ、それは……」
「おれは、コーヒー苦手だけど………存在は認めてる。好きな人も……いるんだし」
 ぽつりぽつりと、しどろもどろになった珈琲党達へ語りかけるイル。
「でも、それなら………紅茶だって、同じだろ……?」
「そうそう、仲良くしましょうよ。紅茶も珈琲もどちらも劣らないほど美味しく、何よりお互い香りがとても良いじゃないですか」
 ハルカも珈琲党達の背中を押すように、小さく笑ってみせた。
「うーん、私は別に和解しなくても良いと思うんですけどね。お互いがより良い味を求めて競争してくれるなら」
 珈琲党を擁護しながら、チコは「でも!」と続ける。
「珈琲をすばらしいと思っているのなら、なぜその魅力を伝えようとしないんです? 紅茶を潰して珈琲を優位に立たせようという思考が既に紅茶に負けてます!」
 交渉事の戦術のひとつである『いいやつ・悪いやつ戦術』の効果も重なり、その言葉は珈琲党の心に深く響いた。
「珈琲党として、紅茶が足元にも及ばないような物凄い珈琲を探すなり、栽培するなりしなさい!」
「は、はいっ! わかりました!」
 反射的に首を縦に振る珈琲党達。良いトシした大人達が正座して、11歳の少女に言い負かされている図はどうにも滑稽だった。
「とりあえず、二度とこんな他人に迷惑をかける真似をしないように」
 その勢いを維持したまま頷く珈琲党、うやむやのうちにシズマはそう誓わせる。
 珈琲党達はお縄につき、何事も無く朝になる事だろう。

 こうして村には平穏が戻る。
「無事に依頼が終わって良かったよ☆ 早くこの紅茶をプレゼントしたいな〜」
「……世の中には、色々な人も居るものだな」
 それぞれの感想を胸に秘め、冒険者達はお土産の茶葉を手に紅茶の村を後にするのだった。


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作成日:2006/01/24
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