月夜に死者とダンスを



<オープニング>


 泥と血が混ざり合った腐臭が、月の下で踊っていた。冷たい風が音に合わせて通り過ぎれば、吐き気を催すほどの異臭が鼻につく。しかし、その場には食べた物を吐く事が出来る者すら居なかった。
 荒れ果てて崩れ落ちそうな木の家が、淡い光に照らされている。かつては小さくも明るい村だった事を忍ばせる広場が、その中心に広がっていた。切り株で作られた椅子に、組み合わせて作られたステージ。本来ならば月に照らされて拍手に包まれるはずのそのステージに、豊満な女性がかかとを鳴らして舞っていた。
 しなやかに舞うストールも身に纏うドレスも、腐食して穴だらけとなっている。血が変色したような色のストールをひらめかせながら、女性は踵を鳴らす。同時に錆びた鈴の音が異様な音を立てて鳴いた。
 少し離れた場所では、細身の男が切り株に腰をかけていた。手に持ったリュートは、女性の鳴らす鈴と同じく錆び付いている。まるで何年も調整していないような音が、そのリュートから零れ落ちていた。それはまるで地の果てで流れる音楽のような不協和音。それを引き立てるかのような紫色の煙が、男の周りには漂っていた。
 女の踊りに合わせて、死者が舞う。男のリュートに惑わされて、死者は吼える。
 或る日、一人の旅人がその村へ迷い込んだ。旅人は、妖艶な女性に目を奪われる。流れるリュートの音と淫猥な紫色に誘われて、旅人は女性の下へと駆けて言った。
 壊れたヒールを打ち鳴らし、女性はリズムを変えながらステップを踏む。踊りが変わった瞬間に、男のリュートが音を増す。足を止めた死者達は、血を求めるように旅人を襲った。
 それでも女性の元へ手を伸ばした旅人は、そのままの格好で地面にたたきつけられる。死してもなお攻撃を続ける死者を眺めながら、新しい血を吸った赤いストールを靡かせて女性は唇を緩ませていた。


 霊査士の話を聞いていた冒険者達は、その話に顔を顰めていた。目の前には、霊査士の書き出した村の簡素な地図が置かれている。今回の依頼は、その村に巣くうアンデッドとモンスターを退治する事であった。
「……ここまで聞けば分かると思うが、その女と男がモンスターだ」
 深緑の霊査士・ディクス(a90239)は、ゆっくりと目を開きながらそう語った。細い目が、手元の地図へと落ちる。銀色の腕輪から落ちる鎖の音を鳴らしながら、彼はその地図に二つの点を書き足していく。周りの冒険者達は、それを食い入るような目で見つめていた。
「この二人のモンスターは、距離を取り合っている。これは、互いの力が互いに干渉しないようにしているようだ」
 それは、二体のモンスターが全周10メートルの力を持っている事を告げていた。霊査士は、その力がリュートの音による理性を失わせる物と、女の釣られさせる踊りだろうと続ける。
「女は途中で踊りを変えた。その隙を突けば、倒しきる事は出来るだろう」
 とはいえ、村には50体近くのアンデッドも巣食っているという。
 アンデッドと二体のモンスターが廃墟の村に居る間に倒す事、それが出来るか否かは冒険者達の手にゆだねられている。

マスター:流星 紹介ページ
補足。
踊り64。

モンスターの方は知恵があります。ですが、それを逆手に取ると良いかもしれません。
女の踊りは二種類。片方は上の通りのバッドステータスがありますが、もう片方は攻撃的な踊りの様子です。
男の歌は一種類だけです。能力はOPから推理してください。通常攻撃もしてきますのでご注意を。

倒す順番や、優先順位が勝利の鍵を握ります。
頑張ってください。

参加者
霊帝・ファントム(a05439)
堕天人形・サブリナ(a06006)
夜闇を斬り裂く連星の騎士・アルビレオ(a08677)
スウィートカフェショコラ・セレスティア(a16141)
陽煌の剣風・シフォン(a17951)
獅天咆哮・プルー(a19651)
終止符を刻む者・アルト(a22939)
静雪流影・ノヴァリス(a30662)
桜にとまりし蝶に焦がれる狩人・アイリ(a31666)
深淵の水晶・フューリー(a36535)


<リプレイ>

●接触
 腐臭が鼻につく。月夜のステージ、それを止めるべく集まった一行は遠回りをしながら村の中へと足を踏み込んだ。
 簡素な村の地図を手に、近づき過ぎずしかし広場を眺められる距離を保ちながら足を進めていく。男型と女型が直線にならぶ場所、そこが攻撃を開始するのに一番良い場所だと彼らは察していた。
「月夜に似合わぬ趣味の悪いステージだ」
 手にした剣の形を神々しく変化させながら、薫香の戦騎・シフォン(a17951)が声を零す。空に上った月と星が落とす柔らかな光と、漂う腐臭は確かに相容れるものではない。踊り続ける女の息を止め、この悪趣味なステージを終わらせてみせる。二度とステージには上がれぬよう……そう、拍手も無いアンコールを続けさせぬために。
 その後ろでは魔道書を手にした蜂蜜たっぷりのホットミルク・セレスティア(a16141)が、漆黒の髪を闇に震わせていた。この場に立つまでに、幾つも話し合いを重ね作戦を作り上げてきた。十分な作戦を立てたはず、その思いと裏腹に身体は小さく打ち震えていた。
「本当に、うまく行くでしょうか……?」
 不安が彼女を包み込んでいた。幾つ作戦を組み立てて、戦の場に足を運んでも慣れぬこの感覚。どの夜よりも冷たい風が彼らの間を駆け抜けてゆく。
「……不安でも、やるしかない」
 巨大な剣を構え前を見据える人生薔薇色・アルト(a22939)の声に、セレスティアは小さく頷いて両手で魔道書を包み込む。
 後方から2本の矢が放たれ、村に爆音が響いた。その音を合図とし、彼らは広場に向けて駆け出してゆく。
 その場には、既に大量のアンデッドが広場に蠢いていた。

「先手必勝ってね! 無数の炎の矢、避けきれる!?」
 炎と氷の舞を舞いし狩人・アイリ(a31666)が声を上げながら弓を引き絞る。真っ直ぐに放たれた矢は、蠢きあうアンデッドの中心部へと打ち込まれ、爆風をたたきつける。よろめいたアンデッドの中へと飛び込むような形で、獅天咆哮・プルー(a19651)が駆け込んでゆく。
 その合間を縫い、奥のアンデッドに向けて静雪流影・ノヴァリス(a30662)が同じく爆発を伴う矢を打ち込んでゆく。前衛に出た仲間達を巻き込まぬように、彼は冷静に状況をみきわめながら行動を攻撃を続けていた。
「止まれ、範囲に入りそうだ!」
 女モンスターとの距離を測りながら、アルトが声を上げた。その声にあわせるように、前衛を駆けていたプルーが足をとめ、棺王・ファントム(a05439)が前衛となる仲間の鎧を形状を変化させていく。
「今宵、お二方を殺しに参りましたわ。よろしくお願いします」
 刃を交える前に、と終の幻影・サブリナ(a06006)が黒い炎を纏ったままで軽く礼をしてみせる。左手で軽くスカートの裾を摘み、恭しく礼を行う彼女をアンデッド達は気にせず囲んでゆく。顔を上げたサブリナは、軽く唇を上げて杖を舞わした。
 虹色に輝く針が、彼女の回りに集まったアンデッド達を粉砕してゆく。その前では、少し後方に下がったアルトが竜巻を作り上げ、回りのアンデッドを駆逐しようとしていた。
「ここから先は亡者の居場所ではない。去れ!」
 その前でプルーが剣を舞わす。後衛へ出来るだけ敵がなだれ込まぬよう、多くを巻き込むようにしながら彼女は剣を振るっていった。また、攻撃で動けなくなったアルトを助けるように、セレスティアの祈りが響く。
「モンスターが動いた!」
「領域内だっ来るぞ!」
 アルトの声に合わせて、プルーの声が重なる。考えていたよりも早く、女型のモンスターは動いた気がした。二人の指示により、仲間達は少しづつ後ろへと後退を行ってゆく。矢を使いモンスターの動きを止めようとしていたノヴァリスは、まだアンデッドの残る状況に気付き前へと駆け出していった。
 後方へ下がるのを手助けするかのように、粘りの強い糸を作り出しアンデッドを絡めとってゆく。しかし、女型のモンスターは止める事が出来ない。
 一同に緊張が走る。しかし、女型のモンスターは地を蹴り彼の首元へ一撃を放っただけだった。
「奥! ナパーム行くよ!」
「ゲート・オープン……コード【ブレス】」
 アイリの声と同時に、ノヴァリスが後方へと戻ってゆく。それを助けるように、深淵の水晶・フューリー(a36535)が七色の木の葉を作り出して女型にたたきつけた。
 ナパームの爆発と共にシフォンの作り出した黒い針がアンデッドに突き刺さってゆく。広範囲に向けた攻撃で、アンデッドが死体へと戻ってゆく。
「倦怠期の夫婦か? アンタらは」
 アルトの言葉に、女型が赤く染まった唇を歪めた気がした。後方へ吹き飛び、男の領域内へと突入するした女の踊りが変わる。しかし、それは「攻撃的な踊り」への変化ではなかった。
 踊っているはずのアンデッドが、何故総て襲ってこれたのか。範囲内に入っていたはずのアンデッドすら、踊る形跡はなかった。そしてノヴァリスを躍らせなかったのは何故か。
 男型が、距離をあけた。
「前衛、後退しろ!」 
 気付いた声と同時に、女が舞う。
「ここからが本番……だな」
 プルーの声が静かに響き、女の舞いにあわせるようにセレスティアが数歩前へと進む。
 勝負は此れから、である。


●二体のモンスター
「いい加減……目障りなんだ!」
 舞の合間を縫い、プルーの刃が女型の身体を凪いだ。足を止めたのを見やり、ファントムと夜闇を斬り裂く連星の騎士・アルビレオ(a08677)が範囲内に駆け込んでゆく。後方からはサブリナの作り出した異形の悪魔が女型を襲い、その後ろから2本の鋭い矢が飛び交った。
「前衛の皆さん、男性型が動きましたわ!」 
 杖を握り締めたままでサブリナが女型の後方に位置していた男型の動きを察知して声を上げた。いくらここでセレスティアが祈りを続けているといっても、もし踊らされた状態で交戦状態となってしまうのは危険だと思ったのだろう。
 だが、男は壊れた楽器をかき鳴らしながら、サブリナ達の方に視線を向けた。……今、声をかけたのは前衛でよかったのか。
「……待って、違います! 狙いは――」
 セレスティアの声が響き、同時に男は彼女達の方へと駆け出していた。女型の踊りは、アンデッドも一緒に躍らせる物。最初から距離を取っていたのならば、範囲内に入るはずがないのだ。それに、後方で回復を行って居た人物が居るのならば、その人物を狙うのも道理。そう、モンスターは「知恵」があるのだから。
 真っ先に事態に気がついたノヴァリスは、冷静に対処するべく弓を引き絞る。炎と氷を纏った矢が突き刺さると同時に、男型モンスターの足元が凍りつく。逃れるなら今、しかし離れ過ぎては女性型と攻防を続ける前衛に祈りが届かなくなる。戸惑う間に、男型モンスターの身体を纏っていた氷が溶け消えてゆく。
 衝撃がセレスティアを襲っていた。祈りが途切れる事が無いように、フューリーが即座に光を生み出す。回復手が他にも居た為に倒れる事は免れたが、何時まで持つか。
 雷を伴う一撃を叩き込み、即座に後方へと抜けたファントムが後方へと抜けた。Fantasistaと名づけられたブーメランを使えば、後方からも女形に攻撃が可能だからであろう。如何するのか、女型との戦闘中にもう一体が近づく可能性を考えていたのはほんの数人だったように思える。……思ったよりもアンデッドが直ぐに片付いた事を考えれば、もう少しモンスターとの戦いを想定しておくべきだったのか。
「止まるな! 迷わず、戦い続けるしかない!」
 前衛に出ていたアルトとプルーの声が響き渡る。後悔したところで、この状況が変わるはずも無いのだから。二人の言葉を後押しするように、ノヴァリスの矢が立て続けに男型モンスターへと注ぎ込まれる。氷と炎に包まれた手で矢を放ち、男型が攻撃を続ける事を阻む。状態異常が百パーセント効く訳ではないが、少しは状況が変わるだろう。
「……フューリーさん、回復手段が尽きたら……代わりをお願いします」
「了解です」
 前衛の様子をじっと見詰めながら、セレスティアが告げた。祈りを持つ者は、二人しか居ない。サブリナもシフォンも回復の手段はもっているが、出来るだけ攻撃の手を止めて欲しくない。
「お二人が死ななければ、この月夜のダンスはフィナーレを迎えないのですわよっ!」
 踊りの範囲ぎりぎりでサブリナが吼える。同時に両手で握り締めた杖の先から悪魔を生み出し、女型へと打ち出した。
 腐臭の漂う舞踏会、それは彼女の興味を惹くものだったようだ。血に塗れ、理性を失い……踊り狂うのも楽しいのかもしれない。
(「それでも、……お二人の思い通りにはさせませんわ」)
 攻撃力の高まった虹色の悪魔は、女の身体に食らいつく。血を流しながらもなお、女はステップを踏み鳴らし……前へと足を進めてゆく。出来るだけ多くのモノを、誘うように。
「少しランドアースから離れている間にこれほど凶悪なモンスターが出るとは……な」
 祈りを受け、身体の自由を取り戻したプルーがはき捨てるように呟いた。これも時の流れか、そう思いかけて彼女はゆるく首を横にふった。下らない感傷に捕われている場合ではない。今はただ、弱きものの盾として剣を振るうのみ。
 自由になった足で地面を蹴りだし、彼女は女の前へと踊り出る。間合いに飛び込み、剣を振るう攻撃は女型の意思を削るのにかなりの威力を持っていたともいえよう。
 彼女に続くように、アルトの剣が女型の元へと振り下ろされた。早く倒れろ、そう願うと同時に爆音が響く。同時にファントムの放ったブーメランが腹部を抉り、確実にダメージを蓄積させてゆく。
 このまま祈りの加護を受けながらならば……。
 そう思っていた矢先に、それは起こった。
「ゲート・オープ……っ!?」
 呪文のように繰り返されていた言葉が途切れ、フューリーの身体が地に落ちた。ノヴァリスの矢を防御した直後、男が今まで以上の大音量を放ったのだ。新しい力を手にしたとはいえ、前衛で戦うだけの体力は無い。
 それはセレスティアも同じ事。気付いたサブリナが攻撃の手を止め、高らかな歌声を響かせる事で回復へと回る。
(「踊る足を止めぬ、か……計算外だな」)
 長期戦となり、手にしていた武器に付与した外装が消えるのを見ながら、シフォンはもう一度それに力を付け加えてゆく。
「大丈夫! 弱ってるよ、倒せるはずだよ!」
 後方からは矢を放ち続けながら、アイリが声を上げていた。
 弱っている事に違いは無い。
 女型のモンスターの足元には、既に血溜りが出来ているのだから。
(「でも、このまま上手く……行くのでしょうか」)
 セレスティアの心に、また不安が押し寄せてくる。……そして次の瞬間、彼女は意識を失った。


●昇る太陽と――
「月夜の狂気を祓う歌、今響かせよう!」
 シフォンの声が高らかに響き、女に釣られるようにステップを踏む仲間を解放しようと試みる。回復できたのは約半分、やはりセレスティアやフューリーの用意していた祈りよりは効果が薄く感じられる。
 だが、もちろん無いよりはいい。ここまで戦い続けられたのも、状態異常を回復できる手段を多く持ってきていたからだろう。もしそれが無かったとしたら、――想像するのも恐ろしい。
「く、……凱歌はそろそろ打ち止めですわ! シフォンさんは残ってますの!?」
「……少なくなっている! くそ……回復手が二人狙われたのが辛い」
 女型と男型、二体のモンスターを直線状に並べる所までは問題が無かったはずだ。事実、アンデッドと戦っている最中は男型が此方を狙うことはなかった。
「くっ……これで、終われぇぇぇ!」
 吼える声と共に、プルーとアルトの剣が振り落とされる。錆びた鈴の音を響かせて、女型のモンスターが血溜りの中に落ちていった。これで一体……あとは――。
 前衛が振り返った瞬間、男型の身体から紫色の煙が吐き出され……甘い匂いがあたりに充満する。同時に、耳に不快な音が入り込んできた。……それは脳をかき乱し、彼らの理性を噛み砕こうとする。
「あとは、お前だけなんだ!」
 片手に仕込んでいた剃刀の刃を握り締め、掌から血を流しながらファントムが男を睨んでいた。自らを痛めつける事により、脳の中を駆け巡るモノに対抗する。保険として掌につけておいたものだが、効果はあったといえよう。
 もう片方の手で放たれたFantasistaを追うように、アルトが煙の中へと向かって行く。
(「倒す、……倒すんだ。モンスターを倒すんだ」)
 意識的に倒す事だけを思い描き、彼はサクラリッジを握り締める。二つの刃が男を襲い、2本の矢が突き刺さる。
「……あと2回!」
「撤退を……これ以上は無理ですわ!」
 回復アビリティの残数を聞き、サブリナが声を上げた。一体は倒した、だがもう一体の体力は減っていない。これ以上の長期戦は危険だと彼女は判断していた。
「……もう少し、押し切れないか!?」
 あと少し、まだ攻撃系のアビリティも残っている。……総攻撃とばかりに剣を振るった仲間の後ろから、シフォンのカウントが響いていた。後方のノヴァリスもアイリも炎と氷を纏った矢を放ち、男型の胸元を貫く。身体から炎を出し、足元を凍らせて男が吼える。しかし、拘束できたのは一瞬であった。
 アルビレオは両手に持った剣を振るった。だが、近づいたのが仇となったか……衝撃波が彼を襲う。ラストのカウントが響き、連続のように音を食らった彼は耐え切れぬように崩れた。
 既に夜は明け始め、月の昇っていた空は青白く光っている。片割れをなくしたモンスターは、月夜のダンスを続ける事は出来ないだろう。だからといって、ここで見逃して良いわけでもない。
 悩みながらも、彼らは攻撃を続けていた。男は1ターンにつき一撃づつ、確実に彼らの力を奪ってゆく。しかし攻撃を食らっているのは男も同じではあるのだが、どちらが先に倒れるか――。
 プルーとアルトの身体が崩れかける。衝撃波という精神的な攻撃は、防ぎ方も難しいようで上手く防御もしきれない。まだ余力の残っていそうな男型がさび付いたリュートを鳴らす。……こちらは後一回攻撃が来れば苦しい所だろう。
「……逃げろ」
 後方から声が響いた。同時に、男の腕に一本の矢が突き刺さる。ノヴァリスの放ったソレは、男型の身体を蝕むように炎を氷を纏わせてゆく。
 だがその傷は、一同と比べて明らかにすくなかった。
「悔しいですが……」
 負傷者半数。回復する手立てが無い以上、戦い続ければ免れない事実。
 アイリとノヴァリスが矢を放ち牽制している間に、アルトとプルー、シフォンが重傷者を抱え上げる。
「……静かな夜を、戻してやりたかったんだがな」
 シフォンの声が寂しげに空に上っていた。

 男の鳴らす不協和音が耳に残る。
 既に空は青く、太陽が昇る。
 月夜の演奏者は……闇に逃れた。


マスター:流星 紹介ページ
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