さいはて山脈を登れ!〜それいけ、温泉目指して雪山登山



<オープニング>


 さいはて山脈の外辺部、とある山の麓にある村に、深緋の韻・グラティア(a35019)達は訪れていた。この辺りの山にとても良い温泉が湧いているという噂を聞きつけてやってきたのだ。
「あ、雪が降ってきたよ」
 姫揚羽・ミソラ(a35915)が空を見上げながら、ヒラヒラと舞う雪を受け止めるように、手袋で覆われた手の平を天に差し伸べる。雪は手袋に着地していき、うっすら白く塗りこめようとする。
「寒いけど、綺麗ですね〜」
 グラティアもまた大地を白くまぶしている空を見上げて、生まれ育った常夏の大陸ワイルドファイアでは見ることができない光景にうきうきしていた。この光景を詩にしたら、どれだけ素適だろう。
「おーい、二人とも風邪を引かないうちに、早く家に入いりなさい」
「はーい」
 月を翳す叢の騎士・ガルガルガ(a24664)が、若いながらに二児の父のような心境で二人を呼ぶと、二人はすぐに彼に続いて、泊めてくれる民家に入った。

 泊めてくれた家での夕食。
 暖かいシチューを頂きながら、食卓で家主が温泉について話をしてくれた。何でも、山の中腹にある天然温泉には、山に住むいろいろな動物が浸かりに来ているのだそうだ。弱肉強食な自然界でも、そこの温泉に浸かる時は猿も猪も狼も仲良く一緒なのだという。
 食事も終わり、明日の温泉を楽しみにしながら眠りにつくグラティア達。
 そして翌朝。
「うわぁ〜♪」
 外は雪で覆われて真っ白。昨日とはまるで別世界だ。山の温泉から見下ろす大地の景色も、さぞ綺麗な事だろう。
 ただ問題があった。
「あら、道が無くなってますね〜」
 温泉のある場所までは、人が通れる場所一本通っていた。それが雪に埋まっているのだ。朝ゆっくり出かけて昼時には着くくらいの距離が、とても遠く感じる。
「どうする、諦めるか?」
「折角来たんです、温泉を諦めるなんて選択はありません〜」
「そうそう。行きましょ、温泉温泉」
「そうだよな。頑張って上るか」
 冒険者達は温泉を目指し、雪山を登る決意をした。

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参加者
新番組・ユウキ(a15697)
大重騎士・ガルガルガ(a24664)
黒き疾風の花嫁・マーシャ(a26614)
銀蒼の癒し手・セリア(a28813)
焔をはらむ風と共に・セルシオ(a29537)
黄玉の吟遊詩人・グラティア(a35019)
姫揚羽・ミソラ(a35915)
暁に舞う翼・ルブルム(a37233)


<リプレイ>

●がんばっていこう
 今朝はあっぱれランドアース晴れ。さんさんと降り注ぐ陽光の下、白く覆われた雪の山道を、深緋の韻・グラティア(a35019)一行はカンジキを履いてえっちらおっちら登っていた。
「上ヨーシ」
「前ヨシです」
「後ろヨシだよ」
 遠眼鏡を手に、姫揚羽・ミソラ(a35915)、白き夢幻鏡・マーシャ(a26614)、蒼穹に駆ける翼・ルブルム(a37233)が周囲に危険が無いかを定期的に観測・報告をする。今のところ異変は確認されず。雪兎の足跡らしきものが見られた程度である。
「セルシオ、やけに重くないかこれ」
「ガーさん、落とさないで下さいよ。みんなの昼食なんですから」
 遠眼鏡に目を付けたまま歩くミソラに服の裾を掴ませれ掴ませて歩く月を翳す叢の騎士・ガルガルガ(a24664)。旅人は焔をはらむ風と共に・セルシオ(a29537)から渡された荷物がやけに重く、少しぶー垂れる。男2人で分担して持っているその量は、1食分を超える結構なものだ。
「ちょっと集め過ぎたかな」
 食材集めに奔走していたルブルムが声を掛けると、ガルガルガは大丈夫だと言って包みを右腕に持ち、力こぶを左腕に作り。拾った枝を片手にタクトのように振り回し、ヤッホーヤッホーと歌いながら進む。何かと気を使う22歳。ちょっと外見から年齢が想像しにくいのが種族的難点である。
「きゃっ」
 上を見ていたミソラの頭に、少し大きめの雪玉がぶつかって砕ける。びっくりして目から筒を離し振り返ると、そのびっくり顔に喜ぶグラティアが、更に雪玉をぶつけ様としている所だった。
「わぶっ」
 悲鳴を上げるミソラ……ではなくガルガルガ。後ろから狙われた人がかわすと、その前にいる人に当たるのは道理なわけで。
「やったわね!」
 二球目は自分に当たったわけではない事は心の棚に置き、足元確認用の杖を脇に投げ置いて手近な雪を握り球にするミソラ。放たれた雪玉がグラティアのおでこに当り、彼女の頭を逆に雪塗れにする。二人の雪玉の応酬は、時折周囲にも被害を出しながら。
「キャ。……ふふふ。私に勝負を挑むとはいい度胸です」
 白鬼の怪・ユウキ(a15697)が足元の雪をざっくり両腕ですくう。
「はわわぁ〜、ユウキさん、それ大きすぎませんか」
「まぁ……程ほどにしておいてくださいね」
 両手を口元にあて、はわはわしながらマーシャが慌てる。ユウキが両手に抱える雪玉は、雪ダルマの頭です言われると納得できてしまうくらいの大きさがあった。探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)はヒートアップしそうな雪合戦を止めるかどうか悩んだが、さして日常と変わらないといえば変わらないので、とりあえず放置した。
「それにしても何だか、雪合戦とは別に嫌な予感がします……」
 セリアが不安を口にし、ユウキが今正に雪塊を投げつけようとしたその時。
「……あ、雪崩だよ」
 遠眼鏡を覗いていたルブルムが、丁度今の位置から上を見上げた時に雪の一部が滑って落ちてくる瞬間を見た。ルブルムの遠眼鏡の方向に顔を向ける一同。雪崩の規模は幸い小さい。
 セリアとセルシオは雪崩の範囲から脱出するように駆け出し、ユウキとガルガルガが服や鎧を流水に適したフォルムに変化させた。ユウキが伏せてやり過ごすのに対し、ガルガルガは仁王立ちとなって雪崩の雪を割ろうとする。ルブルムが彼の影に飛びこみ、服を掴みなおしたミソラに加えグラティアが尻尾にしがみついた。おろおろはわはわしているマーシャをガルガルガが抱えてルブルムと同じく自らの影に置く。
 その直後に雪崩が彼らに襲い掛かった。ドドドドドドドドド……という音の中に、複数の悲鳴が上から下にフォーリングダウン。
 音が静まり、セルシオが目を開くと、青い空の下、自分以外の人の姿は見えなかった。聞こえた悲鳴から判断して、確実に下まで落ちているはずだ。誰がどの辺まで流されたかはわからないので、とりあえず呼びかける。大丈夫、きっとみんな無事なはずだ。うん、無事無事。
「おーい、みんなどこですかー、返事してくださーい!」
「セルシオさーん!? 私はここですー」
 同じように雪崩から逃れたはずのセリアの声が、すぐ下の方から聞こえた。セルシオが雪の淵から覗くと、10m程下の斜面に、セリアが尻餅をついて雪にでっかい穴を空けていた。全速力で避けようとした際に足を滑らせたらしい。テントを張る為のロープを垂らし、彼女を救出する。
「他のみんなは相当流れたみたいですね」
 セリアは麓に向けて延々と続く白い平原を、目を凝らして見た。少し目が痛くなる。
「とりあえず、先に温泉に向かっていましょうか」

「ぷはっ。うう……冷たいです。下着に三千上等着てて良かったです〜」
 がばっと白い地面が割れ、ユウキが顔を出す。その声が聞こえたのか、少し遅れてガルガルガが顔を出し、共にいた女の子達がそれに続く。難を逃れた二人を除き、全員の顔を確認した。
「ここはどこでしょうね」
 辺りは山に囲まれた白い平原で、どっちがどっちだかさっぱりだ。
「こんな時こそ、導きの翼の出番だな。
―― 説明ぃしよう! 実はこの『南の翼ウィアトルノ』護衛士章『導きの翼』はただのお守りではなく、方位磁石になっているのだよっ!! ――」
「ぱぱ、どこ向いて言っているの?」
 首をかしげて疑問を口にするミソラ。
 こちら(どちら?)を向いて人差し指を立て、解説するガルガルガは、その時だけ声も何となく変わった気がする。何と言うか、素だと年齢20歳増しくらいに。
 宙吊りにされてクルクル回る護衛士章は、ゆっくり回転を止めてぴたりと北を指し示す。
「北はあっちだから……あの山だな」
「はわー。一から登り直し以上に大変ですね」
 くすん、ととりあえず自分で言っておくマーシャ。
「んじゃもういっちょ頑張りましょ」
 そんな彼女を引っ張るように、ルブルムは歩き出した。

●女七人(?)寄ればかしましい
 セルシオとセリアの二人は、それぞれが準備していたテントを温泉のすぐ側に建てた。男子用と女子用の更衣テントだ。その後でセルシオは弁当を広げ、二人で食べ始める。途中で山の動物が興味を持ってよってきたので、食べても
大丈夫そうなものを分けてあげると、動物たちはもしゃもしゃと食べ始める。
 お腹も膨れた所で、セルシオは更衣テントに入らずその場ですぱっと帯を解く。慌ててセルシオから目を背けるセリア。
「もう終わったよ」
 だが、後ろを向いた瞬間には着替えは終わっていた。セルシオは服の下に水着を着てきたのだ。なんだとほっとするセリア。彼女も続いてテントで露出が少ない水着を着て温泉に入った。先客の動物たちは人の入浴に無関心で、思い思いに泳いだり寛いだりしている。
「やっぱり先についてましたね〜」
「お待たせー」
 グラティアとルブルムが到着ざま二人に気づき手を振る。後ろには他のメンバーもちゃんと無事来ていた。
「お昼は食べましたか?」
「ああ、途中で食った」
 6人に対して4人分しか所持していなかった弁当だが、不足分はマーシャのチョコレートで補った。さすが山登りのお供である。ビバ・チョコレート。
 6人も早速更衣テントに入って温泉に入る準備。真っ先に出てきたのはユウキだった。すぽーんとすっぽんぽんでテントから出てくる。全裸で駆け出す陽気な26歳乙女。
「ちょっと待ったぁ!」
 勢いよく温泉から飛び出し、ユウキの手を引っつかんで女子テントに戻り入り口天幕を閉ざすセリア。
「男の人もいらっしゃるんですから、裸はまずいでしょ」
「こんなこともあろうかと、水着なら2着持ってきましたよ」
 ミソラが荷物からもう一着の水着を取り出した。ナイスミソラである。その水着を二人で協力して着せた。
「やっぱり裸じゃまずいんですね〜」
 出身の村では、基本的にお風呂はみんな裸だったグラティアも、そのまま裸で入ろうとしていたが、この騒動を見てタオルを体に巻いた。
 マーシャ、ルブルムも着替えが終わり、女性陣全員でテントから出る。外には浴場にのっしのっしと歩く、タオル一枚のガルガルガの背中があった。
「はわわぁ、ガルガルガさん、男の人がタオル一枚はちょっと……」
 マーシャが顔を真赤にしながら慌てた。女性がタオルは体の半分くらいを隠すが、男性のタオルは一割くらいしか隠さないのだ。
「タオル一枚で充分だろ」
「ガルガルさんは気にしなくても、マーシャ達は気になるので……」
 ちなみにユウキとグラティア、ルブルムは気にしていない。セリアはなるべく見ないようにしているが、ミソラは目を手で覆いつつ、指の隙間から覗き込んでいる。
 テントに戻って赤い布を持ってくるマーシャ。布の正体は少し大きめのふんどしだった。
「ふんどしかよ!」
 五十歩百歩、むしろ若干えろ成分が増すのでは、という事で赤フン着用はお流れになった。

 そんなこんなで何とか全員入浴。
 ユウキとガルガルガの二人は、それぞれに持ち込みのお酒を飲んでいる。
「冬は温泉だよねー。しかも一緒に行くのは女の子ばっかり」
 寛ぐガルガルガ。本人以外に一人男子が混ざっているが、長い髪を結い上げお団子にしてスカーフで包んでいる姿は、色も白く細身で優男であるため、強く否定しきれず誰も突っ込まない。
「召喚獣も飲むんでしょうか」
 トクトクと注いで、一緒に入っている銀のミレナリィドールに差し出すユウキだが、ミレナリィドールは興味を示さなかった。人とは食べる物が違うのかもしれない。
 グラティアがお湯に浸かりながら、歌を考える。フレーズを所々歌いながら何かを感じ取ろうとするグラティアの顔に、ミソラがパシャっとお湯をかけた。
「またやりましたね〜?」
 お返しにバシャバシャとお湯を掛け返すグラティア。やはりそのうち色々巻き込む事だろう。
「良いお湯ですねぇ……」
「おっきいお風呂ってやっぱり幸せな気分になれるですー♪」
 そんな喧騒とは離れて、寛ぐセリアとマーシャ。
「お先にー」
「あら、もう上がるのですか?」
 ルブルムが温泉から出る所を、二人は声を掛けた。
「うん、何だかおなかが空いちゃった」
 ルブルム6歳。だからご飯大好きでも一度にいっぱい食べられないが、育ち盛りなのでおなかが減るおも早いのだ。着替えてセリアとセルシオのご飯残り二人分を、焚き火の側で頂く。
 焚き火の側で食べている時、何か温泉で騒ぎが聞こえた。串を片手に覗いてみると、ユウキと猿が温泉でぷっかり浮かんでいた。頭上にホーリーライト、肌に復讐者の血痕、温泉の底にアビスフィールドが浮かんでいたりと妙ちきりんな事になっている。
「や、やるじゃねぇか……」
「ウ、ウキ……」
 浮かんだまま、がしっと手を組むユウキと猿。そしてそのまま女性陣に介抱連行される。まあ和解したなら何よりだ。

 あっという間に日は天から傾き。そろそろ下山の時間が来た。荒らした分は皆で片付けをし、下山準備をする。
「グラティアさん、歌は出来ましたか?」
 セルシオが声を掛けた。その問いに彼女は首を横に振る。
「いっぱいいっぱい楽しい事があったので、纏まってないんです。麓に下りたら、まだ記憶が新鮮なうちに詩にまとめるつもりですよ〜」
 笑顔で答えるグラティア。彼女たちに、ガルガルガが急かす。
「おーい、日が暮れる前に帰るぞー」
「はーい」
 今日の楽しいバカンスの思い出を胸に、8人は日常に戻っていくのだった。


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参加者:8人
作成日:2006/02/12
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冒険結果:成功!
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