【水晶の館】艶めくカカオの甘い夜



   


<オープニング>


「艶めくカカオの甘い夜

 愛する二人だけの素敵な小部屋へようこそ。
 今宵の二人は、甘くてちょっぴりビターな香りに満たされることでしょう。

 互いを信じ、愛し、満たされ。
 より幸せを感じて欲しい。水晶の館はそんな二人をお待ちしております」

 ある日届いたチョコレート色の一枚のビラ。。
 チェリーはしげしげと眺めて、小さく嘆息する。
「……だからなんで僕なんだ……」

 水晶の館は年齢制限つき。
 15歳以上の人しか来ちゃ駄目だから。
 その意味は……どうか察してね。
 
 大切な人と甘く甘く過ごす為に、今宵も開く扉。
 ランララの夕べ。薔薇を敷き詰めた絨毯で、貴方をお待ちしています。

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参加者
NPC:ミニモニハンター・チェリー(a90020)



<リプレイ>

 水晶の館の夜は更け
 銀の月が見下ろす窓辺
 恋人達の時が始まる

●ペリドット
「マリーさん、今日は私を好きにして下さい……」
 天井を見つめ、彼女は呟く。
 傍らで荷物の整理を続けていたかの人が、こちらに身を向けるのを気配で知った。
「シオンはん……」
 言葉はいらない。見つめ返すだけで二人の心は通じ合うのだから。

 後を引くような深い口づけを交わしあうと、青い瞳は紫の瞳を黙って見つめ、優しく髪を撫でた。
「シオンはん……」
 マリーはシオンを抱きかかえるようにそっとベッドに倒していく。
 崩れながら再び交わす深い口付け。
 長く甘い夜は、これからゆっくり始まるのだ……。

●ターコイズ
「ボナさん行くですよぅ〜」
 ばふっ。
 飛んできた枕が、「そろそろ寝よ……」と言いかけるボナの顔を見事直撃。
「当たった〜!」
「むあ!やったなガネット〜!」
 彼女の歓声。ボナも応戦。部屋にはずっと明るい声が響きあっていた。こたつでぬくぬくおしゃべりしたり、枕投げに奮戦したり。

 やがて遊び疲れて眠る子供のように、目を閉じたガネットをボナは優しくベッドに運んだ。自慢の羽毛で暖かく包んで、そっと頬に唇を寄せる。
(……いい夢を♪)
 
 むにゃ。
 ガネットの口元が小さく動く。素敵な夢を見ているのだろうか?
 ボナはその寝顔を黙って幸せに見つめるのだった。

●パイロープ・ガーネット
 窓辺から見える銀の月は、とても美しく輝いていた。
「あー……ついに、この日が来たんだね〜……」
「……?」
 窓を見ていたエイジはその声に振り返る。ベッドに座って、トキは小さく笑う。
「ところで……トキ。初夜って……なんですか?」
「えっ」
 見上げるトキ。エイジはきょとんと首を傾げ。
「だから……」
 説明もままならず、呼び寄せ、トキはエイジをゆっくりベッドに押し倒す。丁寧にリードしてそっと彼の上に身を倒した……けれど。
「……そ、そんなに緊張しなくても……?」
「……うっ」
 緊張して身を固くしまくる恋人を見下ろし、さすがに苦笑するトキである。
 ……まだ早かったかな?

●アレキサンドライト
 指先に輝く指輪。
 月に照らして輝きを見つめるミャア。なんて綺麗な宝石なんだろう。
 結婚の誓いの言葉と共に捧げられたその光は、この世でもっとも崇高なものにさえ思えた。
「結婚したら、さ」
 すぐ近くで声がする。
 振り返る。枕を並べたそこに彼女を見つめるガリュードの瞳があった。
「結婚したら?」
「……結婚して、も? かな」
 少し頬を赤らめ、笑う彼。ミャアも微笑し、小さく頷く。
「結婚しても?」
 これからもずっと一緒に。今までもそうだったけれど、これからもずっと。
「あんまり変わらないのかもな?」
「……ふふ」
 ミャアは小さく声をたてて笑った。
「これからも、これまでと同じようにずっと一緒に、色々なものを見て行きたいよね」
「そうだな……。それぞれ見てきたものも、今度は並んで眺めてみよう……この旅路の果てまでな」
 額を近づけ、見つめあい、二人は愛の言葉を交わしあう。
 二人のために最高に祝福された夜はそうして始まり、暁を迎えても、それからもずっと続くのであった。

●ジェダイト
 絹のシーツの上に腰掛、イグニスは掌の中の天使の石を黙って見つめていた。
 永久の愛を誓った者に与えられる石……。
「指輪に出来なくて残念だったな……」
「……頂けただけでも良いではありませんか?」
 イグニスに寄り添うように隣に腰掛けたヤスイは柔らかく彼に微笑する。
 黙って顔を上げたイグニスはヤスイを見つめ、その細い腰をゆっくりと引き寄せる。名前を呼び、軽く口付け……、それから……彼は息を吸ってから宣誓した。
「イグニス・バルシアート。病める時も健やかなる時も、どんな時も、お前と……ヤスイと共にあることを誓う。永久に……」
 瞬きを一つ落とし、ヤスイも瞼を閉じて続けて宣誓した。
「ヤスイ・トウザキ。病める時も健やかなる時も、貴方と共にあることを誓います。……貴方を愛し続けます、イグニスさん……」
「……」
 イグニスはヤスイの声を聞き終えるや否や、彼の体を強く抱きしめると一層深く口付けた。その勢いでベッドに倒され、ヤスイは小さく息を飲む。けれど。
 彼の頬に手を添え、ヤスイは女神のように微笑した。
「貴方はいつも優しすぎます……今宵は激しい位に強く……抱きしめて下さいね」

●フローライト
 暖炉にくべた香草の香りが部屋に広がる。
 シトリは鏡に映した己身を見つめながら、胸の高鳴りを聞いていた。
 普段より少し露出度の高いセクシーな下着。彼の為に用意してきた。暫く触れて貰えない日々が続いていたから……今日はとびきり愛して欲しくて。
 シトリを抱き寄せ、ベッドに倒し、リヴェルは貪るようにその柔らかな凹凸に顔を埋める。じらしたつもりは無かったのだが、けれどこんな恋人の欲求不満もたまにはよい。
「愛してるよ……シトリ」
「……ううっ……リ……ヴェル」
 早く一つになりたい。
 そう体をくねらせ訴える肉体にリヴェルは刻印を打つようにゆっくり進める。
「誰にも渡さないっ……シトリっ」
「……リヴェルぅ」
 シトリは愛するリヴェルの全てを受け止め、彼の背に腕を絡ませた。この一瞬が長く永遠に続くことを願いながら。

●アクアマリン
「……」
「……」
 長い時間が過ぎていた。
 シルフィーナの豊満な肉体はベッドに倒され、もはや彼の腕の中にあった。
 ヴィスは倒れた時に乱れた彼女の服と、その赤面した表情を、喉を鳴らしながら見つめる。何をやるのかわからないわけではない。しかし、その時ヴィスの頭の中は真っ白になってしまっていたらしい。
「……ヴィス……」
 シルフィーナは緊張するヴィスの頬を撫で、ゆっくりと胸元に抱き寄せた。
「大丈夫です……私は何処にも行きませんから……だから、頑張って……」
「フィーナ……」
 喉を鳴らし、意を決したかのように、再び顔を上げるヴィス。
 愛の始まりを告げる深い口付けを交し合いながら、今度こそ二人は甘く熱い夜へと漕ぎ出していくのであった。

●グロッシュラーライト
 暖炉で暖まった部屋の中。
 お酒を酌み交わし、ヨウとミリィの談笑は続いていた。
 旅団の話、依頼の話。尽きることもなく、楽しく続く時間。
 それに……。
「今日は……甘えてもいいよね?」
 彼の胸に寄りかかり、ミリィはいつもより少しだけ甘えん坊になった。
「フォーナ以来だしな、二人でいるのは」
 彼女のぬくもりを左腕に感じながら、グラスを口に運ぶ。
「……やっぱり安心できるな。ミリィが傍にいてくれることが何より嬉しいよ」
「ヨウ……」
 湯上りの彼女の体をバスローブごしに抱きしめて、口付ける。
「ヨウの体、……温かいね」
 返事の代わりに優しく髪を撫で。ヨウとミリィの夜はそうして更けていくのだった。

●ラピスラズリ
「最高のバースデイだ……」
 ビャッコはベッドに身を乗り出し、片腕をつく。
 そして彼に捧げられたベッドの上のプレゼントを見つめた。
 両袖に通した赤いリボン。それを口に咥え、自らの手首に器用に結んだ姿のシァリウは、潤んだ瞳でビャッコを見つめる。その口元に咥えられたのは、彼女の自作のハート型チョコレート。
 ビャッコはシァリウの体を抱き寄せると、その口元のチョコを口に含んで奪い去る。
 代わりにビターの香りの甘い口付け。
「ご主人様……」
 上目使いに彼の動きを見つめながら呟く声。ビャッコは縛られた彼女の両腕を掴み、押し倒し、袴の腰紐を緩めた。息潜ませる喉に掌を這わせ、ビャッコはその耳元へ唇を寄せ、口付け、囁く。
「……チョコの甘さもわからなくなるほどの甘い夜を」

●ガーネット
「ん……やっぱりルシェルの紅茶は美味しいわね」
 絹のシーツの敷かれたベッドに腰かけ、シューファは彼が運んでくれた紅茶のカップを手に取っていた。
 その傍らには、ルシェル特製のチョコマフィン。これもまた絶品の味のことだろう。
 幸せそうなシューファ……ご主人様と呼ぶその人の事を、ルシェルは頬を赤らめ、真っ直ぐに見つめていた。
(「……ランララの女神様……ボクに勇気を……!」)
 紅茶を飲み終え、彼女がカップを置いたその時。
「好きです……ご主人様!」
 ルシェルは意を決し、彼女の体へと身を近づけ、柔らかな体をベッドに横たえさせた。「……ちょ、ちょっと」
 一瞬驚くシューファであったが、熱っぽい彼の瞳に、微笑を浮かべる。
「誰よりも好きです。誰よりも……貴方の為に……ご奉仕……致します」
「……いいわよ、……今日ぐらいは……ルシェルの好きなように……」
 首筋に顔を埋め愛の言葉を紡ぐ少年。シューファは喉を鳴らし、その後ろ髪を撫でたのだった。

●トルマリン
 我が妻となった女性を両腕に抱き、ケイルはゆっくりと館の廊下を歩いていた。
 やがて部屋を名を見つけ、二人は見つめあう。
「さ、いこか♪」
 彼の優しい声に、ほんのり頬を赤らめミーシャは頷いた。

 暖かな部屋の中の広いベッドの上。
 彼の腕から運ばれて、彼らはそこで再び見つめあっていた。
(「……綺麗だ」)
 息を潜め、ケイルは小さく感動している。
「ケイル……」
 ミーシャは夫となった人を見上げ、緊張するような表情で告白した。
「分かっていると思いますが……私こういう経験は……」
「……わいも」
 彼は彼女を優しく撫でた。
「こういうのは初めてや……」
 触れ合う唇で、互いの不安を吸いあって。
 愛する人との初めての夜更け。女神の見守る聖夜に結ばれていく二人……。

●アウイン
 湯浴みをする彼の水音を聞きながら、カレンは準備を急ぐ。
 部屋の明かりはなるべく落として。服を脱ぎ、髪を解き、そして用意してきた衣装に着替え……。
 体の水気を拭きながら、湯部屋から出でるラザナス。
 その視線に入ったものに彼は息を止めた。
 暗い部屋でマントを羽織る彼女。恥ずかしそうに彼を向き、小さく囁く。
「……プレゼント受け取ってもらえます?」
 言ってマントを払い落とした彼女は……。
 ブックハピタントの兎さんで。
 彼の胸はずきゅん!と響いた。

「素敵な衣装ですね……」
 彼女を引き寄せ、寝台に倒し、唇を奪い合うようにしながら彼女の衣装を取り外し、熱を求め合う二人。薔薇のような美しき人へ愛の言葉を紡ぎ、青年は幾度も幾度も激しく彼女を抱きしめたのだった。

●アメジスト
 バスローブ姿の二人は、ベッドの縁で語り合っていた。
 これまでの話。そしてこれからの話。
 ウィルダントの腕はクローバーの細い背や肩を包み込むように抱いている。時折繰り返された口付けの後、寡黙がちな彼女の唇が小さく震えるように開いた。
「……ダントは、……子供、欲しい……なぁ〜ん?」
 そう言って見上げる瞳。
 ウィルダントは見つめ返して、優しく笑う。
「今すぐにでも、欲しいな」
 ゆっくりと彼女を押し倒し、緊張する肌を撫でる。
 お互いの体温を確かめ合うように、緩慢に二人はもつれあい、やがて彼のリードで激しい夜へと進んでいく。
 二人で築く未来の為に。

●ローズクォーツ
「ほんの一ヶ月前まで、セディウスはここにいたんだよね」
 メディスのお腹を撫でて微笑むセリオスを、メディスは頬を赤らめ、軽く睨んだのだった。
 月明かりの下。大きなベッドの上で、肩を寄せ合う二人。
 若い二人の愛の結晶は、今日だけはお留守番だけど。
「……もう一人作っちゃおうか?」
 ひょいっと彼女を簡単にベッドに押し倒し、無邪気に笑うセリオスをメディスは「もう」と頬を膨らませて見せた。
「子供はもういい……しんどいし」
 所帯くさくなりそうだし、恋人みたいな関係をもっと持続させたいし。
 そう告げようとしたのに唇で塞がれて。甘く情熱的なキスが彼女の芯をとろけさせていく。相性のいい二人の体は、朝日が挿すまで絶え間なく、熱く愛し合うのだった。

●サファイア
「……んっ」
 声を殺しつつも、彼女の漏らす吐息が、彼の耳に甘く響いていた。
 首筋にゆっくりと舌を這わせる。快感に戸惑うように、彼の体にしがみつくルリス。
 震える体をなるべく優しく、と思っても悪戯心のように、快感場所を探ろうとしてしまうアルスである。

「……今度、さ」
 やがて一息ついたころ、ルリスは彼の胸の中で彼の声を聞いた。
「旅団の俺の部屋で……同居しようか?」
「!」
 見上げるルリス。彼女を見つめ、アルスは「どうかな?」と優しく笑う。
「……うん、その……嬉しい……」
 頬を伝う一筋の涙。ルリスは彼に抱きつきながら、彼からのキスを受け取るのだった。
●スピネル
「……暖か い?」
 ゆっくりとした口調で、彼女はネイビーブルーのマフラーを巻く彼を見つめた。
「……ああ」
 頷く彼。幸福そうに彼女は微笑む。
 けれど長い睫を伏せ、小さく俯いた。
「こうし……て ウルさんと一緒 に いられる……のが 幸せ す……ぎて……こ わい……」
 ウルは黙って見つめている。ナディアは彼を見つめ返し、意を決して告げた。
「……お願い、少しだけ……良いか しら……」
 告げて彼の傍に寄り添うように腰掛ける彼女。
 ウルは何も告げず黙ってそれを受け止めた。細い彼女の身を抱き寄せ、互いの掌を合わせ指を絡めながら深く口づけて。
 倒れこむベッドの中。内心の困惑を悟られたく無いが、ウルは小さくその耳元に囁いた。
「……無粋かもしれぬが……優しくか? 激しくか……?」

●エメラルド
「……落ちつかないで、ござるな……」
「……なんだか、ね」
 一生懸命、話題を作っても続かない事の繰り返し。
 慣れない場所に緊張の連続の二人である。
「そ、そうだ!」
 突然叫んだユイシィに、シオンは一瞬驚き、肩をいからせる。
「……チョコ、持ってきたのです」
 ユイシィは荷物の中から小さな小箱を取り出し、彼に手渡した。受け取り礼を述べるシオン。嬉しくない筈がない。
 そして彼が箱を見つめているその間、ユイシィはもう一つ決意して、ゆっくりと服を脱ぎ始める。その下につけていたのは……なんと「魅惑のキャミソール」。
「……!!」
 箱から何気なく顔を上げ、目を見開くシオンに、頬を染めながら彼女は恥ずかしそうに告げたのだった。
「……こ、今回は特別に……、ですからね?」

●ピンクパール
 日付が変わる前に……と。
 ふらつく足元でベッドを抜けていったメアリーは、チョコレートを彼へと差しだした。
 包み紙に見えるショップの文字。一瞬目を止めたスバルにメアリーは素直に微笑む。
「今年も手作りは失敗しちゃったのなぁ〜ん……」
「大丈夫ですよ」
 彼は笑って、柔らかでよい香りのする彼女の体を抱き寄せる。
「どんなお菓子よりも甘い愛を貰ってますから、私はそれで満足です」
「スバルちゃん……」
 目を細める彼女に口づけを与え、再び二人は褥へと移る。
「メアリー、男の子が欲しいのなぁ〜ん♪」
 彼を抱きしめ囁く彼女に、その希望もそろそろ叶えてあげてもいいかな、と頭の片隅で思うスバルだった。

●キャッツアイ
「えーーーーー。デマ?」
「デマというか……信じてどうする」
 『【水晶の館】に行くと子宝に恵まれる。』
 どこから聞いたのかそんな伝説を本気で信じていたオージは、ショックのあまり呆然と廊下を歩いていた。何だか妙にてかてかした館である。
「そんな戯言に騙されるだなんて、本当にピュアなヤツだな、君は」
 苦笑を噛みながら後ろを歩くシーザス。部屋を見つけると彼を先に行かせ……しかし。
「……シーザス!」
 部屋に入るなり強引にオージの身を壁に押し付け唇を奪う。
 抵抗する腕を掴み、ベッドに押さえつけて、シーザスはその首筋に舌を這わせた。
「何を……っ」
「……君だってこういうのが好きなくせに……」
 甘い快感。突き上げてくる情熱の嵐の中、熱い吐息がもつれあう。
 子供は無理かもしれないが、二人の甘く熱い夜は、激しく情熱的に過ぎていったのであった。

●ダイアモンド
 腰掛けて寄り添い、窓の月を見上げる二人。
 出会ってからこれまでの事、友人達の話、二人だけの密室で過ごせる時は限りあるものなのに、とりとめもなく話は続き、気づけばもう夜更けを過ぎている。
 ルシアは彼の掌をそっと両手で触れる。
「……私は今まで……人形のようでした。でもラーシュさんと出会ってから、私は変わりました」
 あなたの事を考えるだけで、胸の鼓動が治まらない。
 そう呟き彼女は、自分の胸に彼の手を当てた。
「……これからもずっと一緒にいてくださいね」
「ルシア……目を閉じてくれるかな?」
 宣誓の言葉の代わりに、ラーシュは月明かりに照らされる彼女に優しく囁き、愛情を込めた軽い口付けを捧げた。
 月影に重なるシルエットはそしてゆっくりと寝台へと沈んでいくのであった。

●シトリン
「チョコ……作ってきたの」
 恥ずかしそうに瞬く灰色の瞳。
 レンが差し出すその手作りチョコを受け取り、エティアスは無邪気な子供のように喜んでくれた。
「……一生懸命作ったから」
「うんっ」
 きっとそうだろうと思う。
 エティアスは健気な彼女をぎゅっと抱きしめ、「あーもー可愛いーーっ!」と叫んだ。
「……」
 胸の中で息を潜めるレン。このまま強く抱きしめ自分のものにしたい。
 一瞬の中に突き抜ける衝動をエティアスは感じ、けれど、瞼を伏せてためらった。
 愛しているからこそ、これ以上触れることが怖くて。
「エティアス……」
「ん……」
 見上げる彼女の唇に、彼は優しく口付け、微笑んだ。

●メノウ
「ランララ祭で見たお星様は綺麗でしたのなぁ〜ん」
「そうだな……」
 白いベッドの上。
 やや緊張ムード漂うメノウルームである。
 お互い初めての夜。褥を共にする。その意味を知ってはいても、不安と期待が入り混じり、二人は視線をなかなか合わせられないまま、先ほどまでのランララ祭の思い出を語り続けていた。
「クッキーは……大丈夫でしたかなぁ〜ん?」
「うん、美味しかったぞ……」
「それはよか……ったですなぁ〜ん」
 小さく呟くリィルアリア。少し眠くなってきた。
「!」
 ガイヤは気づき、暫く固まり、それからゆっくり彼女の体を横たえさせる。
 見上げる瞳に宿る不安色。拭い去るように優しく口付けて。
「……ガイヤ様……」
 抱き寄せて、首筋に顔を埋めると、掠れる彼女の声が、耳元で甘く耳に響く。
 持参したアビを思い出し、彼は赤面しながら、彼女の中へと溺れていった。

●オパール
「甘い……やろ?」
 二人の唇を月光に照らされた銀糸が繋ぐ。
「うん……」
 口移しにされた生チョコを含みながら、ぼんやりとシキが見つめるのは赤いリボンを結んだ自分の小指。妖艶にすら思えるヴィオラの笑みがそれに重なった。
「チョコを口移しは……私も考えたのに……」
「そうでしたん?」
 残念そうに呟くシキの体を抱きしめ、ヴィオラはゆっくりとシーツに倒していく。
「愛してますえ……どんな時も……シキはんのことだけを……」
「シキ……」
 先に言われてしまって、少し悔しい。
 耳元を蠢く熱い温もり。ヴィオラの動きに喘ぎを漏らしつつ、シキも同じ喜びを彼女に伝えたくて彼女を抱き寄せたのだった。

●クリスタル
(「……ど、どうしよう……」)
 天蓋つきのベッドの柱の傍に、ハイドインシャドウ使用中のルルイはごくりと喉を大きく鳴らしていた。
「お、おい?」
 バスローブ姿のナイトハルトは、戸惑った仕草で部屋を見回す。
「ルルイ?」
(「……」)
 男女が一つ屋根の下、夜を共にし、何をするのか。
 知識として得てはいても、いざとなると怖い。……例えナイトハルトを信頼しているとはいっても。
「……ルルイ」
 ため息をつき、ナイトハルトはベッドの上に腰掛けた。そして、部屋の中のどこにいるか分からぬ彼女へゆっくりと呼びかける。
「不安であろうな……。お前はまだ山を降りてきたばかりだ。……まずはゆっくりと話でもしないか?」
 安心させようと穏やかに話しかける彼の言葉に、やがてルルイも緊張を解く。
 エリザベスを鞄にしまい、アビを解き、彼女はナインハルトを強張った笑顔で見つめた。
「……優しく……してくれる?」


 繰り広げられる各部屋の甘いそれぞれの夜更け。
 重なり合ったまま眠りにつく恋人達。
 手を繋ぎ眠る恋人達。
 幸福に満ち足りた者が集うこの館の上にも、やがて朝がやってくる。

●スターサファイアルーム
 小鳥達の声に目を覚まし、アスティルはそっと瞼をこすった。
 傍らで眠る女性達。
 愛しても愛したりない家族のような二人を見つめ、彼は幸せを再び実感する。
 
 でも。
「……う゛……」
 ぐるぐるるるるるごろろろろろろ!と激しく鳴り響く腹を抱え、彼は猛烈に駆け出していったそうでもある。……おなかを出して寝てたから?
 いやいや。
 その答えはテーブルに残る、妙な色のチョコらしきもののせいであることは確かだけれど。アスティルがそして苦しんでいるその傍らで、やっぱり子猫のように眠る女性達であった。


マスター:鈴隼人 紹介ページ
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