新春パン祭り〜チョコパン



<オープニング>


 ヤマザの町の町長さんは、パンが大好きです。
 そんな彼だから、町興しのイベントもパンのお祭りでした。
 各地の味自慢のパン職人さんを集めてパンの博覧会。町長さんだけじゃなく、町の人や近くの町村の人も楽しみにしています。
 パンの博覧会、略して『パン博』はもうすぐ!

●チョコパン
「というお話がありまして。皆さんのお力を少しお借りしたい方が居るそうです」
 冒険者達を傍に呼びつけると、湯気の立つチャイが注がれたカップを手にした白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)は、その中身を息を吹いて冷ましながら啜っていた。
「依頼、って事だよな。何をすればいいんだ?」
「はい……実は町長さんにお願いされて屋台を出される事になったパン職人の方がいらっしゃるのですが。この職人さんが博覧会に出るのに必要なチョコレートクリームを都合するのに、ヤマザの町に程近い所にある村に住む、お菓子の職人さんにお願いしていたんだそうです」
 なぜかと尋ねると、量の問題と言うことらしい。
 職人が町長に乞われて他の町からやってきたとなると、色々と必要な物も現地で揃える事もあるだろう。何よりも小さい規模とはいえ、パンに使う材料もそれなりの量が必要となる。自前で揃えられない部分を依頼するのは仕方ないといえた。
「まさかそのクリームを取って来い、とか言うんじゃないだろうな」
 長々とした説明を終えた霊査士に、話を聞いていた冒険者の一部が肩を竦めてみせる。すると彼は嬉々とした声で、
「その通りです。実はこのクリームを運ぶのに護衛をお願いしたい、という事で」
 更に脱力してしまうような事をあっさりと口にした。更に続く説明を聞くと、どうも村とを繋ぐ道筋に犬グドンを見かけたという話があり、護衛ついでに退治をしてもらえないかという事だった。
「グドンが出るんじゃ仕方ないよなあ……あいつら食い意地張ってやがるから」
 尋ねた冒険者はしょうがない、と少しばかり渋い顔を作ってみせる。昨今色々と騒がせていたピルグリムグドンは兎も角として、普通のグドンは冒険者からすれば駆け出しの頃の相手と言えなくも無い。しかし、一般人からすれば群をなす彼らは脅威の一つなのだ。
「そういう訳ですのでよろしくお願いします。ヤマザの町についたらその職人……フェイルさんの所までしっかりと届けてくださいね。お礼にフェイルさんがチョコクリームを使ったパンを下さるという事ですから」
 話を終えて去ろうとする冒険者達に向けて、期待の眼差しを向ける霊査士。多分、ご相伴に預かる積りなんだろうなー、と振り返って手を振りかえした幾人かの冒険者は思うのだった。

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参加者
風色の灰猫・シェイキクス(a00223)
紋章術士の菓子職人・カレン(a01462)
温・ファオ(a05259)
規矩なる錬金術師・フェイルティヒ(a07330)
エレメンタルディア・ティー(a35847)
氷静凛歌・カイリュート(a36048)
蒼き水面の子・フィミア(a36088)
黒猫同盟幹部会員・ファイ(a37110)
灰狐・ルディス(a42637)



<リプレイ>

●茶色いクリームを運ぼう
「そんじゃ、フェイルさん所まではよろしく頼むよ」
 ヤマザの町と繋がっている道筋を通ってやってきた冒険者達は、霊査士から教えられていたお菓子職人の下に赴いた。白い服を着た恰幅のよい壮年の男が幸せの運び手・ティー(a35847)達を出迎えると、先頃に出来上がったらしいチョコのクリームの入った大きな寸胴を見せられた。
「ううむ、これは随分な量ですね……」
 ずもぉぉぉぉん……っ! と嫌な効果音を伴うような印象を放つ寸胴を前にして、規矩なる錬金術師・フェイルティヒ(a07330)が僅かにたじろいだ様子を見せる。そんな彼の手には鍋があった。
「っく……! 安全に運ぶ為にと自慢の鍋を用意したというのにっ」
 依頼にあったチョコクリームを安全に運ぶ為にと、蓋付きの鍋を用意したフェイルティヒであった。だが、既にクリームを運ぶ為の鍋……寸胴が用意されていたのである。これは何者かの陰謀に違いない、などと突っ走って考えそうになったとき、職人の男が一笑して。
「そんじゃ、運ぶのに寸胴使ってる間はそっち使わせてもらうよ」
「あ、はいっ! 盾にもつかえるくらい頑丈ですよ!」
 思わぬ申し出に凹みかけた所に声をかけられて、また盛り上がるフェイルティヒだった。

「これ、運ぶのに荷車とか使えないかなあ?」
 そんなフェイルティヒを尻目に、自分の体半分ほどの大きさの寸胴を前にしたティーが尋ねる。背の高さが自分の腰程度、胴回りはどう贔屓目に見ても明らかにティーの腰よりも大きい。
「そうですね、さすがにこれを背負ったりするのは……」
 寸胴の中を覗き込んだ温・ファオ(a05259)も、あまりの大きさと量につい、「うわぁ」なんて声を漏らす。まぁ、女性陣が運ぶには少々酷なサイズといえよう。
「おーい、荷車借りてきたよー」
 その場にいた女性陣がううむ、と寸胴とにらめっこをする最中、蒼き水面の子・フィミア(a36088)が村はずれの方角からガラガラと音を立てて荷車を引いてくる。
「これで寸胴を固定して運べば大丈夫だよ。早く届けてパンを作ってみたいなぁ」
「チョコの方は蓋で密封出来るみたいだな……後は滑り止めの布強いておけば問題なしだな」
「あっ、わたしもロープ持ってきてるからお手伝いするよ〜」
 自慢のパンが集まるパン博が楽しみだと、意気揚々としている風色の灰猫・シェイキクス(a00223)が準備していた布を取り出すと、ティーも用意していたロープを取り出してきて、いそいそと固定し始める。
「早く運搬して、美味いパンにありつきたいぜ。なんてったってパン博だからな!」
「せやねぇ……聞けば他にも冒険者が手を貸してる所があるみたいやし、ウチらの所だけ失敗するなんてみっともない真似はでけへんし。きっちり気ぃ入れて行かへんとなぁ」
 乗り気のシェイキクスに続いて、やる気に満ちている紋章術士の菓子職人・カレン(a01462)が荷車の傍に立つ。酒場で他の依頼を耳にしていたのか、胸の奥で密やかに対抗心を燃やしている。そして、彼女とは別の意味で熱気に満ちているのが……
「チョコパンのためにも、町の皆さんのためにも一生懸命でいきますよ〜!」
 緊張感に満ちた体をほぐそうと、駈けだしエンジェル・ファイ(a37110)がぶんぶんと元気良く腕を振るって見せる。冒険者になって間もないファイは、今回の依頼でなんとか自信をつけられたらと思っているのだけれど……吉と出るか凶と出るかは分からない。
「さて、準備が整ったら出ましょうか。ヤマザの町で待っているフェイルさんの元に急がないといけませんからね」
 灰色の瞳を細めて、灰狐・ルディス(a42637)が促す。彼がそう告げた頃にはシェイキクスやティーの固定も終わっており、後は寸胴を積んだ荷車を引いていくだけだった。


●ささやかなる障害
「ファオさんっ、もう1回押せばいけるんじゃないかな?」
「そうですね……それじゃ、よいしょっ」
 ぎぎぎぎ、と軋んだ音を少し立てた後、荷車ははまり込んだ轍から脱出した。
 フィミアが曳く荷車を中心にして、その傍に護りとしてついたのがシェイキクスやフェイルティヒが周囲を警戒し、ファオとティーの2人が後ろについて足場の悪い箇所では後押しする。
「このまま無事で済むと良いんですけどね」
「でもこの辺に出るって言う犬グドンがそのままってのも危ないですし」
 ぐいぐいと力強く荷車を曳くフィミアの言葉にフェイルティヒが頷く。一方、グドンが現れた際に対応する組に別れた氷蒼静歌・カイリュート(a36048)は薄刃の長剣を抜き払ったままで警戒を続けている。
「……まだ……見えない……」
 ヤマザの町と村の間は元々それ程の距離ではない。遭遇するとしたら、もうそろそろの筈だと警戒の色をカイリュートは強める。
「ぼちぼち出てきてもおかしくないんやけどね……」
「う……出てきて欲しいような、欲しくないような……複雑な気持ちなのです」
 険しい目をするカレンに、自信なさげな声を出すファイ。自信をつけたいと言う目的を持つ彼女は、遭遇するまでの間が不安で胸が満たされてしまうのは仕方ないのかも知れない。
「あっ! あれ、もしかして……!」
 町までの道の途中で見かけた林の辺りに、ルディスは幾つかの動く影を見つけて指差した。他の仲間たちもそちらに目をやると、明らかに何者かの姿が見て取れる。
「もしかせんでも、やな。犬っ面のグドンや」
「……来るぞ……!」
 カレンが確認した直後、林の中からグドン達が飛び出した。その数は……7体。事前に教えられた通りの数だった。
「行きますよ……!」
 ファルシオンを携えたルディスが狐の尻尾を揺らしながら駆ける。向かってくるグドンが間合いに入ったと見るや、流れるような動きで一撃を叩き込んだ。
「……クリーム、任せるぞ」
 駆け出したルディスを補佐するか如く、言い残して飛び出したカイリュート。手にした氷蒼鋭刃を腰溜めから横薙ぎに振りぬくと、接近しつつあった犬グドン達の体に必殺の一撃を与える。
「が、頑張りますっ!」
「ほな、これでトドメや!」
 続けて紋章印を描いたファイとカレンの2人が光の雨を解き放つと、カイリュートに切り伏せられたグドンの後ろで難を逃れていた者達が貫かれる。
 ファイが最後の1体が倒れたのを確認すると、林の方に視線を向けた。どうやらグドンを打ち漏らしてはいないようだ。
「終わり……ですか?」
「ん、そうじゃねえかな? グドン10匹も居ないってんなら」
 加勢するまでも無かったか、とシェイキクスが伸びをしながらファイの言葉に頷くのだった。


●チョコパン
 その後、ヤマザの町に辿り着いた冒険者達は、彼らとチョコクリームの到着を待つパン職人のフェイルの下へと向かった。
「ああ、間に合いましたか。どうもありがとうございます」
 フィミア達と、寸胴の中身を確認したフェイルはにっこりとした笑みを浮かべると、早速彼らに寸胴を中へ持ち込むように告げる。どうやらこれから既に焼いたパンに詰めたり、生地の中に詰めたりといった突貫作業をするらしい。
「忙しそうなところすみませんが、作り方を教えていただくと言うのは……」
「えっと……手伝いながらでよければ。ながら作業で申し訳無いのですけど」
 できればお願いできないかと頭を低くしてフェイルティヒが乞うと、パン職人のフェイルは運んでもらったこともあるし、と手元で生地をこね始めながら答えた。
「あ、僕も手伝えそうなら手伝うよ」
「……俺も……いいか?」
 すると、フィミアとカイリュートも言葉少なく主張する。フェイルは2人の手に生地の入ったボウルを渡すと、
「生地は作ってありますんで、あとは詰めたり形を整えたりもお願いしますっ!」
 ばたばたばたっと音を立てながら借家の奥に見える窯へと駆けていった。

 そんなプチ修羅場が過ぎて、冒険者達はパン博へ足を踏み入れた。あの後にフェイルから教えられた卓へと向かうと、そこにはチョココルネや中にチョコの詰まったパンが篭の中に山積みになっていた。
「おっおっおっ、狐色に焼けてていい感じだなぁ!」
 焼き上がったパンがてんこ盛りになった篭を見たシェイキクスがうきうきとした声を上げる。手にとって見るとほんのりとした温かみが伝わり、抱いた期待が胸の中で更に大きくなる。
「そんじゃ、いっただきまーすっ!」
「ほいほいほいっ、こっちは紅茶も入ったでぇ」
 もしゃもしゃとシェイキクスがチョコパンを食べる傍で、ポットを手にしたカレンが席についている仲間達のカップに順々に紅茶を注いでいく。
「うん、美味しい〜。これなら町の皆も気に入ってくれると思うなぁ」
「あー、もう始ってるんですね」
 焼きあがったばかりのパンに舌鼓をうつフィミア。賑わいをみせる中、仄かに広がる紅茶の香りが漂う卓に霊査士のアズヴァルが姿を見せた。
「ええっと、こちらが空いてますからどうぞ」
 彼の姿を認めたファオはそそくさと席を立つと、傍にあった椅子を運んで新しい席を作る。
「……やはり……甘い……な」
 焼きたてのパンの香りを楽しんだ後に、口に運んだカイリュート。中に詰まっていたチョコレートは甘く、元々甘いものが得意ではない彼としては、複雑な部分だ。そんな彼とは対極的なのがファイだった。
「やっぱり作りたては違いますねぇ〜、とってもおいしいです〜」
 用意していたホットミルクと共に、篭に入ったチョコパンをファイはもっふもっふと口に運ぶ。ぱくりとかぶりつくたびに、中からは熱で柔らかくなったチョコクリームが零れて、チョコレートの香りと共にほんのりとした甘みが広がっていく。
「もっとおかわりしても大丈夫ですよね〜っ」
 1つ2つ取った所で減った様子の見られないパンの山を見て、目を輝かせる。まぁ……ファイ1人で食べきれる量ではないのは一見してわかるので、誰も止めようとはしない。
「んー、フェイルさんにパンの話聞きたかったなぁ……うち」
 差し支えが無ければ……とパン職人のフェイルに尋ねてみたカレンだったが、祭りという事もあって申し訳ないがと断られてしまったのだ。
「あれ、呼びましたか?」
「ううん、そっちのフェイルさんやなくて職人さんの方や」
 名の被るフェイルティヒがカレンの方に無理向くと、ちゃうて、と手をひらひらと振りながら苦笑する。まぁ、また何か別の機会にでも聞けることもあるだろうと、割り切ることにした。
「えと……アズヴァルさんは特にどんな甘さや種類のチョコレートがお好きなのでしょうか?」
「そうですね、長持ちしないのであまり口にはしないのですが、生のチョコレートなんかが割と。甘さは気分によって変わってしまうので……」
 平静を装いながら尋ねるファオに、アズヴァルは考える素振を見せながら答える。何とか照れる気持ちを抑える努力を続けるファオ。その様子に彼は気付いているのかいないのか。
「そ、そうですか」
「強いてどちらか、と言えば控えめな方がありがたいですね」
 笑みを見せて答える霊査士の言葉。それを忘れずにと思いながら、ファオは空いたティーカップに茶を注ぎ入れた。
「ああ、幾つか余裕がありましたら別に取り置いてはいただけないでしょうか。お土産に少し頂きたいもので」
「自分もお願いします。食べさせてあげたい方が居ますので」
 ルディスが篭の中に山々と詰まれたパンを見ていうと、フェイルティヒも彼に続いて。
「大丈夫じゃねえか? お礼にこれだけって置いていってくれたんだし、こっから持ってく分には大丈夫だろ」
 元気良くチョコクリームの詰まったパンをほおばるシェイキクスが断言すると、それもそうかと納得する2人。
「……それじゃ……俺も持ち帰る分を……」
 カイリュートは傍に積まれていた小さな篭を並べると、丁寧に入れ始める。すると、他にもお土産を希望する者たちが次々と挙手をし始めた。
 そうして、チョコレートのクリームを運び終えた冒険者達は、それぞれそれなりの満足を得られるお茶会を終えたのでした。


マスター:石動幸 紹介ページ
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参加者:9人
作成日:2006/02/09
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