【詩人の日記】1冊目



<オープニング>


「近所の学者さんからの依頼なんですが、ある高名な詩人の日記を取り返してほしいとのことです。さ、どうぞこちらへ」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)が白髭の老人を紹介する。丸眼鏡にスーツ姿、いかにも学者といった雰囲気の男性だった。
「その詩人は若くして亡くなられたのですが、彼が残した言葉の数々はとても繊細で、多くの人の胸を打つそうです。そういうわけで彼の日記にも非常な価値があると依頼人さんは言っています」
 ここで話者は学者に代わる。
「日記はもともと詩人の知り合いに預けられていたのだが、どこで聞きつけたやらその知り合いの家に強盗が入った。そうして5冊あった日記は盗まれ、今は闇商人の手に渡っている……という噂までは確認した」
 ふたたびシィルが話す。
「闇商人たちはあちこちを移動していますが、私が唯一残された日記の破片から居場所を割り出しますので、冒険者の皆さんには急ぎそこへ行って、日記を取り返していただきたいんです。今回は西方の街です」

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
カルシスの鬼姫・シュゼット(a02935)
ツッコミ系酒乱ナース・パルフェ(a06229)
蒼き旅人・デューン(a19559)
蒼月を抱きしめる涼風・アンジェリカ(a22292)
蒼空に閃く翼・ティムナ(a28918)
夜を謡う奇術師・サラサ(a35680)
鋼紅・カイ(a36945)
赤い雲・ポダルゲー(a40115)
愁雪の武踊妃・サツキ(a40837)
明日への光・ラナ(a40955)
赤髪剛盾・トオサキ(a42173)


<リプレイ>


 威勢良く飛んでくる売り子の声。楽しそうに駆け回る子供の声。世間話に忙しい婦人たちの声。街は様々な声に満ちていて、どれもが負の感情など感じさせない賑やかなものだった。しかしこうした平和な街でも必ず悪人が潜んでいるものであり、どこから暗黒面が覗き見られるかわからない。
「では、手筈どおりに行動開始ですの」
 明日への光・ラナ(a40955)が言った。冒険者たちはおのおの頷き、3班4人づつに分離して、情報収集を始める。
 A班は表通りでの聞きこみ担当。文字通り街の光の部分である。危険は少ない分、どれほどの成果があるかは不明ではあるが、とにかく闇商人の情報を少しでも掴まなければならない。街の出入り口付近で怪しい者はないかと人の波を見る。
「根気よく行きましょう」
 言い聞かせるように呟く舞いし翼・ティムナ(a28918)。エンジェルの羽はマントで隠している。他のメンバーも、すぐ冒険者とはわからない町人の格好だ。かといって、一箇所にずっと固まっていてはこちらが不審がられる。ミスティックブルー・デューン(a19559)はそう考え、適宜場所を移している。
「すみません……最近、団体の旅行客さんなんかを、見ませんでしたか?」
 愁雪の武踊妃・サツキ(a40837)は近くの店に入ったりして聞き込むが、成果は芳しくないまま戻ってくる。
「サツキさん、どうですの?」
 ラナが聞く。サツキは首を振った。
「旅行客は数え切れないほど多いからわからないという答えが返ってきます。もっとも話ですね」
 1時間ほどが経つと、デューンが駆け寄ってくる。どうしたのかと聞く前に彼は早口で言った。
「たぶん、闇商人に繋がる情報だと思う」

 こちらB班は裏通りにて行動している。善良な一般人は近づかないような場所。おそらく一番危険な係だ。
 陰湿なところには陰湿な輩が集まるもの。さっそく、怪しげに固まって商談をしている男ふたりが見つかった。いかにも商人という雰囲気の赤ターバンの男、そして普通の格好の男。B班は臆面もなく彼らに近づく。
「何か良い話なら、私たちも混ぜてください」
 まず蒼月を抱きしめる涼風・アンジェリカ(a22292)が声をかけた。赤ターバンの男がB班に目を向けた。怪訝そうな顔で、ずいぶんと若いなと言う。
「これでも23歳です」
 復讐姫・シュゼット(a02935)は嘘をついた。実際は16歳だが、本当のことを言えば舐められるだけだろうと判断した。
「主人の使いである物を探しているんだけど、知っている人をご存じないかしら」
 間髪いれずに想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が聞く。こういうことは自分のペースに引き込むのが先決である。
「どんなのをお望みだ?」
「え、こっちの話がまだ、ぐ?」
 赤ターバンは最初に相手していた男を殴って気絶させた。むさい男よりは若い女を相手にしたほうがいいと思ったのだろう。
 こんな乱暴をするのは悪者以外にありえない。B班は顔をしかめつつ、辿り着いたと内心微笑む。夜を謡う奇術師・サラサ(a35680)が落ち着いて聞く。
「最近強奪されたという高名な詩人の日記を探しているの」

 C班は酒場にいた。この場所は様々な者が集まるだけに、情報収集するには王道だ。
「なぁなぁ、最近掘り出しもんの商品の噂なんか聞いたことあらへんかぁ?」
 ツッコミ系心療ナース・パルフェ(a06229)が大声で率直に響くように言った。自然、酒場中の者が注目した。鋼紅・カイ(a36945)が後に続く。
「この街は初めてでな。景気付けだ、好きな物を頼んでくれ」
 情報を得るならそれなりの支払いは覚悟しなければならない。酒場なら、酒を奢るのは基本である。
 と、近くに座っていた髭面の男が席を立った。若いくせにずいぶん羽振りが良さそうだな俺でよければ話に乗ってやると笑いながら歩み寄ってくる。顔は険しく人相があまりよくない。
「おや、もしかしていきなり当たりかな」
「いかにもその道のベテランという感じだな。……どんなものを知っているんだ?」
 朱天・ポダルゲー(a40115)と赤髪剛盾・トオサキ(a42173)が畳みかける。男は運ばれてきた酒瓶をラッパ飲みすると、声を潜めて言った。
「まあここじゃなんだ。続きは俺たちのアジトでしようや。30分後にな」


 冒険者たちはいったん街の入口に集まった。まずA班。
「先日、中央広場の雑貨屋付近で怖そうな団体が目撃されたそうです。深夜に……」
 ティムナが言い、デューンが首を縦に振る。たまたま夜の冷たい空気を吸いに出かけた婦人からの情報だった。サラサたちB班も報告する。
「乱暴な商人風の男に会ったわ。血の気が多そうで……とてもまともとは思われない。詩人の日記のことを話したら、確かな反応を見せた」
「もう確定やろ? うちらもいかにもな奴と接触してな、その中央広場で待てと言いはった」
 と、C班のパルフェ。こうまで偶然が重なるとは思えなかった。目的の闇商人は、表向きは普通の商人として以前から堂々と生活しているのだ――。
 しばらく経ってから、B班とC班がまったく別グループのように振舞って中央広場に向かった。遠くから眺めるA班も固唾を飲んで見守る。やがて、先刻接触した男たちが人々に混じってやってきた。
「ん? お前もゲットしたのか弟よ」
「兄者こそ。偶然だ」
 兄弟らしい商人ふたりは疑いと信頼を半々にしたような視線になる。数瞬あって、一行は近くの雑貨屋へ案内された。中はそう大きくない。商人兄弟はカウンターの男と目配せすると、奥へと進む。そこに地下への階段があった。
 地下は驚くほど広かった。家をそっくり移動させたような作りである。冒険者たちはいくつかある部屋のひとつに通された。
 絨毯やら絵画やら、贅を尽くした内装。ボディーガードと思われる屈強な男たちと、数多のターバン連中。そしてその中心、でっぷりと肥えたローブ姿の男がソファに座っていた。他に比べるとやたらと装飾品を全身に散りばめている。一目で闇商人のリーダーだとわかった。
「最高の誉れ高い詩人が残した日記の一冊、確かに持っている。最近で一番のお宝だ。……ちょうど2グループのようだし、より高い値をつけた方に譲ってやろう。おなごが俺の相手をしてくれたら優先させてもいいぞ?」
 リーダーは下品に笑いながら、古ぼけたノートを掲げてみせた。
 そして驚愕した。いきなり部屋の扉が蹴破られたからだ。時間差で侵入し、すぐそこで耳を立てていたA班が突入したのである。
 リーダーは慌てふためいたが、とにかく自分たちの敵だということは認識した。やれと大声を飛ばす。不動だったボディーガードが揃って鋭利なナイフを手に突進してきた。
「騙り強請り殴りが日常茶飯事の貴方たちに、騙しただの言われたくないよ。……は!」
 シュゼットが気合を放ち、刃を目にも止まらぬ速さで蹴り上げた。さすがといえる武道家の足技、ナイフは天井にピンと刺さった。
「無駄です。野獣の突進すらかわすこの脚さばき、捕らえられるものですか」
 ふわり背中の羽を舞わせ、イリュージョンステップを刻むティムナ。獣に比べれば、いかに鍛えていようと一般人など鈍重の極み。万が一にもティムナを傷つけられるはずがない。そこへカイがスーパースポットライトを放ち、急激に部屋を白熱させる。敵は惑い、さらに混乱してゆく。勝手に転んで倒れる者もいた。
「くそ、なんなんだお前らは! ええい!」
 デューンの肩にナイフがかすった。容赦なく心臓を狙っていた。デューンは舌打ちし、せせら笑うボディーガードを睨む。
「まったく、そんなに冒険者をその気にさせたいのかな」
 腕に力を込め緑の束縛を発生させると、あっけなくボディーガードは固まった。
「回復よりは攻撃の方がいいでしょうか」
「よほどの重傷でない限り必要ないやろ」
「わかりました」
 アンジェリカは眠りの歌を響かせ、パルフェは護りの天使を呼び出して次の攻撃に備えた。
「はい、はいっ……と。縛るのは任せて、どんどん倒してください」
 ラジスラヴァは無力化した者から束縛していく。ボディーガードたちも闇商人たちもこめかみに筋を浮き上がらせる。
「ちょこざいな……ぬ、何だこの糸は」
 忍びの十八番、粘り蜘蛛糸だ。お静かに、とサラサが鋭い声を放つ。
 恐慌は極まった。敵は皆、とても敵わないと判断した。
「どうにかして逃げなければ、と思う頃かな」
 ポダルゲーは打ち漏らしを防ぐために部屋の外に出ていた。地上への階段の前には土塊の下僕を陣取らせて、抜けようとしたら全力で取り押さえろと命じている。
 と、いかつい男が部屋から飛び出した。ボディーガードのくせに雇い主を置いて逃げるつもりなのだ。だが階段まで辿り着けない。
「逃げられると困るのです……はぅ、申し訳ありませんが、寝ていてください」
 サツキもまた部屋の外に出ていた。真っ先に当て身を見舞って昏倒させる。
 リーダーの部屋の中では最終局面を迎えていた。
「降参が妥当ですわ」
 ラナはゆっくりと告げ、峰打ちで最後のボディーガードを倒した。その短い言葉と行動は実に痛烈だった。もう残っているのはリーダーだけだ。
 リーダーは顔を汗まみれにして平伏した。明らかな降参の意の表明。……が、実は近づいたところを隠し持っていたピックで刺そうという腹である。
 だが、最後まで油断する冒険者ではもちろんなかった。
「一応、気絶しててもらう」
 トオサキが盾で後頭部を殴った。闇商人リーダーはそのまま失神した。
 場はようやく静かになり、ソファに置かれた詩人の日記を手にすることが出来た。
「他人の日記を覗くのは気が引けるが……」
 万が一偽物である可能性も考慮し、カイが日記を開いた。
 作業はすぐに終わった。日記には1日ごとに詩人の署名があった。もちろん学者から聞いた名前そのものである。


 酒場に帰り日記を奪還したと報告すると、学者は白髭を撫でながらホクホク顔になる。念のために本物かを確かめてもらった。
「これぞまさしく。よくやってくださった」
 ホッと胸を撫で下ろす冒険者たち。
「せっかくだし、ちょっと見てもいいかな」
 シュゼットが聞くと、学者はそれくらい当然と快諾した。ページを厳かにめくる。
「……? わりと小難しい言葉が並んでますね。さすが詩人です」
 一緒に覗いたサツキはそんな感想を述べた。内容自体は日々の暮らしを書いたもので簡単に理解できるものだったが、ところどころ体の不調を訴える文面があるのが印象的だった。むしろ闘病日記といった方がいいのかもしれない。
「しかし、あと4冊もあるわけですね」
 しみじみと言うラジスラヴァ。今回はいわば、ほんの始まりに過ぎない。
「一筋縄じゃいかないかもな。次はどんなずる賢い奴やらわからない」
 トオサキがふっと息をついた。悪知恵を使う悪人は、しばしばモンスターよりも厄介である。


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