波を封じた硝子玉



<オープニング>


「依頼です」
 黒髪の青年は、落ち着き払った抑揚の言葉で、円形のテーブルを囲む冒険者たちに告げたのだった。
「とある町へと赴き、隣接する古代の廃墟に潜む、複数の魔物を退治していただきたいのです」
 灰の瞳には聡明なる叡智の輝きと、薄い唇には優雅な笑みを含んで、薄明の霊査士・ベベウは次の句を結んだ。
「敵の数は三。一体は羊頭の巨人で、背丈は僕よりもさらに一メートルほど高いでしょう。手には三日月を模したと思わせる長柄の戦斧を所持しており、まるで狂戦士のような、熾烈な威力を秘めた斬撃を放ってきます」
 瞬きの後、ベベウは額をかすかに上向かせた。テーブルの中央に置かれた燭台からの、赤い光に煽られたその顔は、一転して厳しさの醸しだされたものと映る。
「あとの二体は、宙を浮遊する、まるで盾のような形状の魔物たち。紅蓮を思わせる色彩を帯びているばかりか、その身には多量の魔炎を含んでいるようです。姿形とは反しているのですが、高い攻撃力を持った敵であるようですね」
 手首を胴へと近づけ、燻された銀の腕輪から伝う鎖に机から冷ややかな音を響かせると、指先を絡め合わせ、ベベウは視線を俯かせた。
「崩れた壁面や、天蓋を支えた名残である石柱しか残らぬという廃墟ですが、ここには、忘れ去れらた技術による遺物が残されているとのこと。もしも、手元に拾い上げることができたのならば、大事にとっておかれるとよろしいでしょう。」
 透けたなかに、様々な模様が封じ込まれた硝子の欠片。すでに、同じ物を造りあげる技術を持った者は、町に残されてないということである。硝子に封ぜられた色彩は、花のようだったり、波のようだったり――。
「小さな欠片は指輪に」ベベウは言った。「大きな欠片は、銀や金の枠をつけて、首飾りや腕飾りに細工することができるでしょう。無論、まずは魔物を退治することに専念されるべきですよ。強大な力を持った相手なのですからね」

マスター:水原曜 紹介ページ
 水原曜でございます。
 
 今回は、三体の魔物を退治していただきます。
 強い相手です、気合いの入ったプレイングでどうぞ。
 柱があったりして、戦場は多少視界がよくないところです。
 
 盾の攻撃方法ですが、スキュラフレイムのような術となります。また、炎のつぶてを四方八方へと拡散させる、全体攻撃も使用してきます。
 
 硝子の欠片を見つけた方には、アイテムを発行します。欠片のままか、それとも、細工を施したアクセサリーに作り直した物か、プレイングでどうぞ。余った文字数で書くことをお勧めします。
 
 それでは、皆さんの参加をお待ちしております。

参加者
纏花・マイン(a05488)
流穿の翠迅・フォルス(a09265)
久遠に遠き予兆・ウィヴ(a12804)
蒼竜の賢姫・エリシャ(a16809)
紅蓮の獅子・ディラン(a17462)
黒狼・セイリオス(a19769)
清閑たる紅玉の獣・レーダ(a21626)
沈みゆく雪・ロウラン(a22375)
潦・イーオー(a29859)
生ける屍・ヒヅキ(a30896)
美しき猛き白百合・シキ(a31723)
魔術研究者・ルシエラ(a34138)


<リプレイ>

 あたりは陰り、まさに忘れ去られた死のごとく古寂れて、四阿で交わされる秘やかな愛の囁きもなければ、吹き抜ける風に煽られる銀楡の姿すらなかった。
 
 乾いた道に靴底の擦れる音がした。
 清楚な佇まいをした少女の指先が、菫の花がちりばめられた髪を撫でると、鮮やかさが舞いあがり、香りすら漂うように思われた。一輪の花天使・マイン(a05488)に袖を引かれ、流穿の翠迅・フォルス(a09265)は片方の眉をかすかに持ち上げ、少女から発散される溌剌とした美に、心密かな困惑を覚える。
 何かが崩れ去る音がした。
 かすかな銀の光を帯びた白亜の髪が、黒衣に包み込まれた少女のたおやかな身体がねじられると同時に宙へとたなびき、瞬秒だけ遅れて、白雪を思わせる襟巻きが首の動きに追随した。軽く閉じられたままの唇から短い吐息を漏らし、沈みゆく雪・ロウラン(a22375)は右の手に固定された朱色の刃『音喰い』による構えを行う。
「さぁ、実験開始と行きましょか……」
 と、皆に告げたのは、桃色の衣をまとい、色褪せた赤を全身に帯びた少女の形をした召喚獣を従える、髪先には見事な造作の百合を咲かせるドリアッドの少女――幻想の白百合先生・ルシエラ(a34138)だった。
 けれど、皮肉にもその力の程度を確かめられたのは、彼女たちの方が先だった。焔の燃え盛る、あの帆布が嵐に晒されたかのような響きに鼓膜が震えたか、また、空に紅蓮の孤が重ねられたかと思われた瞬間、空から現れた対の盾が、冒険者たちに炎の驟雨を降らせたのである。
 
 雪花石膏よりもまだ白い肌――。
 けれど、その薄い皮膚の下には、暖かな血が流れているのだと感じさせられ、氷のような美貌ながらも、青い瞳にはどこか親しみを感じさせる稚気や愛らしさがある。魔炎の舌先に全身を這われ、蒼竜の賢姫・エリシャ(a16809)は痛みを感じていた。だが、彼女の視線は空ではなく、打ち捨てられた望郷の地を彷徨っている。邪竜の力を、赤黒い光彩の焔と変えて全身に蔓延らせ、エリシャは冷淡にも探っていた。羊頭の魔物がどこにあるかを。
「……雪獅子よ、オレに力を貸してくれ」
 小さな布袋を握りしめ、獅子の魂を継ぎし者・ディラン(a17462)は願った。半炎半氷の獣との融合を果たし、さらには、魔剣『獅子王』に目映いばかりの輝きを与えるなり瞳を見開く。迷いのない無垢な眼差しは、眼前の魔へと向かう。
 短く切り揃えられた緑の髪には、わずかに色づいただけの蕾が、まだつぶらなまま吊られていた。久遠に遠き予兆・ウィヴ(a12804)は銀槍を手直しして作られた巨大な弓、アパショナートを握りしめる指先に力をこめた。索敵は行っていたはずだった。なのに、空からは炎の雨が降った。それも二度、ほぼ同時に。
 心の底に佇む泉から、柔らかな春の風が周囲へと広がる幻像。
 リザードマンの少年は驚いていたが、心と体が軽やかで機敏となったのは、髪に蕾のままの朝顔を留めた仲間の仕業とわかり、長く裂けた口元を驚きの形から、固く閉じた状態へと戻した。垂氷の名を持つ杖で、潦・イーオー(a29859)は空を掻いた。その身を魔炎の裡に封じこむために。
 老人、猿、魚類――。
 昨今の依頼で対峙した相手を思い浮かべて、虚無を纏う力の担い手・ヒヅキ(a30896)は思わず口の両端を上げ下げし、脱力と喧噪の間を行き交うような奇妙な心持ちを感じた。彼の肌に魔炎は蔓延っていない、闇色の外套が防いでいた。黒翼の装飾が施された対となった左右の太刀を引き抜くなり、彼は全身に猛々しい力を行き渡らせる。かの女神の要望にも似た姿は、よりそれに近くなった。
 石柱が造作もなく踏み砕かれる音がした。まるで、鶏骨が厚手の刃物で砕かれているようだ。銀の三日月を頭上に掲げ、羊頭の魔物が現れたのは、冒険者たちの後方からだった。藍色の外衣を翻した召喚獣が主を護ろうと試みるが、天体の形を模した戦斧の勢いは止められない。仲間たちに危険を知らせるだけの猶予を得たウィヴだったが、苛烈なまるで天から鉄塊が降るかのごとき衝撃には、その身を晒さねばならなかった。
 漆黒の外套を翻し、また、整えられた指先は頬へと寄せて、黒狼・セイリオス(a19769)は巨人を色無き瞳で見据えた。髪や外套によって隠されているが、その整った面、胸元の膨らみから、彼女は少女とわかる。指の合間に闇色のカードが現れ、瞬きもせずに、少女は右手を振り抜いた。カードは巨躯のほぼ中心、膨れあがった胸に比べて細いと思える腹部に突き刺さった。だが、その肌は青白いまま……闇色の刻印は浮かびあがらない。
 柄には滴り落ちるかと思われるほどの光沢を帯びた紅の玉。美しき猛き白百合・シキ(a31723)は腰に帯びた刀剣を引き抜き、夜を統べる月の神を口ずさんだ。それが、紋章剣の名だった。月の神は虚空を渡り、銀の弧を架けたが、その階から現れたものたちは、空に浮かぶものではなく、風にざわめくものたち。清冽な緑の木の葉たちが宙を舞い、渦巻いて羊頭の巨人へと迫る。だが、三日月の武具を手にする相手を絡めとることはできなかった。やはり、闇色の刻印が必要なのだろうか。
 まるで、美しくはあれど見慣れた景色でも見るように、ストライダーの少年はあたりを見つめていた。魔炎を全身に漲らせる盾が空を行き交い、石柱の折り重なる地に巨大な影を落とす巨人があるにも関わらず――。けれど、清閑たる紅玉の獣・レーダ(a21626)の佇まいにも、人知れぬ変化はあった。澄んだ紫の虹彩にはかすかな怯えがあったし、腰の裏側から生えた柔らかな毛並みの尾は、自身が魔炎にまかれたこと、そして、何より仲間たちが傷つけられたことに憤慨していたのだ。
 巨人と対峙するのは俺――。凶ツ風の刀身に、少年は神々しいまでの光を宿らせ、増幅を繰り返す波動を剣の一振りで吹き飛ばした。銀の長剣には、彼の思いを写し取ったか、渦巻く風のごとき紋様が浮かびあがっていた。
 
 穏やかな瞳に真摯さのこめられた光を浮かべ、ルシエラはその小さな胸を震わせた。愛らしい口元から紡ぎだされた調べは、魔炎にまかれた仲間たちから禍々しい形の舌を吹き消し、手痛い傷を負った射手の腕には力を取り戻させた。
 掌に灰の羽根を生やした矢を精製する。ウィヴは「攻めます!」と声を張った。灰の軌跡を描いた矢が、盾の怪物を貫く。
「おお! オレの魂は燃えてんだ。こんな炎は屁でもねェぜッ!」
 燃え盛る炎を思わせる髪の少年は、『獅子王』を振りかざし、石柱を踏み台とした。刀身から伝った感触は、金属を打ったものではなく、厚い皮の装甲を斬ったものに似ていた。
 切り裂きの魂――刀身に記された紋章文字へ視線を走らせると、ヒヅキは『布都御魂』にさらなる外装を与えた。暗器は死者の指先を思わせる刃が幾重にも重なる、禍々しいまでの姿となった。
 背後から、暗渠の天井が突き破られる轟音が響く度、ロウランは焦りを感じていた。頬に髪が張りつき、唇の端にその先端を含んだまま、風のように飛び交い、掌に精製した飛燕で盾の片方を穿つ。そうしながら、巨人と戦う仲間たちの様子をうかがっていた。彼らは苦闘を強いられていた。
 落ち着き払った所作で、フォルスは共に戦う仲間たちへ、鎧聖の守りを供与すべく、心の力を行き渡らせた右手をかざし続けた。その間、彼は盾から降り注ぐ魔炎の雨に何度か見舞われたが、その痛みにもかろうじて耐え抜き、ただひたすらに、掌で紋章を描き続けた。
 
 青ざめた大理石のような肌に、螺旋を描く緑の木の葉が、まるで絡みつく蔦のように這い上がる。
 シキが紡ぎだした緑の疾風が、羊頭の魔物をはじめて絡めとった瞬間のことだった。魔物の分厚い胸部に浮かんだ黒い痣を一瞥すると、セイリオスは盾との戦いへと移っていった――。
 闇夜に青い輝きで生じた亀裂――凶ツ風に強い光を走らせて、レーダは魔物の体躯に斬撃を与えた。相手が動きだす前に、いくらかでも傷を負わせていなければ、もうきっと……。
 その面長な顔とは似つかわしくない叫びをあげて、羊頭の魔物は緑の帳を引き裂いた。イーオーは慌てて光輝く聖女を顕し、前線で身体を張るレーダの元へ向かわせる。
 先に拘束ありきでは、その成否に捕らわれすぎる。また、その効果が何時尽きるとも知れない。だが、そうせざるを得ない。どうあっても、苦闘を強いられるほどの力を有した相手なのだ。シキは紋章剣で天を貫き、目映い黄金の光を収斂、さらには、球状となった輝きの裡に連なる紋章文字を封入し、その力を大気を震撼させるほどまでに高めた。
 黄金の輝きが魔物の羊頭を襲い、大きな足の裏が四阿の土台を踏み潰し、巨躯が傾けられる。ルシエラは純白の手套で包まれた、繊細な線を帯びる指先で空を掴み取り、花が開くように広げた手の平から、木の葉の群を飛び立たせた。
 けれど、魔物は三日月の刃を持った戦斧を振るい、闇色の外套ごとレーダの身にあってならないほど深い傷を刻みつけてしまう。
 巨人の斬撃を浴び続けた少年の身体は力なく横たわり、風に吹かれる髪が揺れるばかりで、指先に震えすら見られなかった。
 
 半身を魔炎、半身を魔氷に包み込まれた姿であっても、その裡にあるものは、生身の身体である。剣を振るうことを彼は止めない。そうしなければ、他の仲間たちが傷つくだけなのだ。
「吠えろ! 『獅子王』ッ!」
 彼の斬撃は魔炎の盾を凍りつかせた。だが、その背後へと、円を描く運動で回り込んだもうひとつの盾から吐きだされた魔炎が、無情にも彼の背を焼き尽くす。
 フォルスが翡翠の輝きを帯びた手套を翻し、蛇の頭と尾を持つ魔炎に宙を這わせる間、マインは穏やかな光の波をあたりへと広げたが、手痛いダメージが蓄積されていたディランの身体には、もう癒しの力は届かなかった。
 強張らせた手の平を足下から空へと裏返し、ロウランは右手を前方へと突きだした。放射状に広がった銀の糸は、対の盾たちを絡めとった――かに思われたが、じぶじぶと中途で溶かされ、用を為さない。かえって、ロウランはその身に魔炎を浴びてしまいさえした。
 力あるディランという前衛が失われ、魔物の攻撃が個へ重なる回数が増加した。ヒヅキの傍らに現れたセイリオスが、ときには魔炎によってその身を焼かれながらも、まるで鏡に瞬く光のような足捌きで、盾の吐きだす炎を避け続けなければ、倒れた冒険者はひとりで済まなかったはずだ。
 苛烈な力を帯びた稲妻の矢を掌に、ウィヴはアパショナートを構えた。古びた槍であったしなりは音もなく歪み、銀の弦はわななく。この力を惜しんでいたわけではない。だが、もっと早くに盾を貫けていたら――。
 片割れが光芒に貫かれ、口を開いた暗渠の暗がりへと落下してからは、エリシャたちの戦いは一変した。瞬きを忘れた青い瞳で仲間へ肯きかけ、彼女は杖を虚空へと差し向かわせた。魔炎の蛇が飛び、盾へと食らいついて盛大に爆ぜる。
 瞬秒の跳躍で、ヒヅキは盾の後方に舞い降りていた。けれど、そこに魔物の本体が隠されているわけではない。盾そのものが魔性の結実であるからだ。鈎状の刃が生えた双の太刀に切り裂かれると、盾の化け物は魔炎を垂れ流しにし、しばらくは石の上で瞬いていたが、やがて冷え切り、黒い塊となった。
 
 激しい痛みに襲われていた――だが、それは自分だけではない。
 心のなかをいくつかの顔を駆けめぐったが、その想像はあまりに自分の柄ではないと、イーオーは首を振った。だが、あの老人の顔だけは、どうしても去ってくれない。少年は問うた。自分を拾ってくれたあの老人に、自分は仲間を守りたいのだが、それでいいか? と――。
 仲間が紡ぎだした輝きは、波濤となって円を描くものではなかった。美しい乙女の姿となり、こちらへとやってくる。
 優しいくちづけを頬に感じたシキは、次の瞬間、イーオーに対して声を荒げていた。
「なんて、馬鹿な真似をするのよ!」
 次の瞬間だった。冴え冴えとした輝きを含んで笑う銀の三日月が、空の高きから降り、リザードマンの少年の大きな身体をあらぬ方角へと折り曲げ、窪んだ石畳へと埋めてしまう。
 魔炎によって縁取られた木の葉を、ルシエラは大理石の肌を持つ魔物へと向かわせた。そうするより他になかった。イーオーは選択した。わが身を賭してシキを救い、この苛烈な戦いの帰趨を賭けたのだ――。
 羽ばたきが聞こえて、黒い召喚獣を背に従えた冒険者が、シキたちの目前に姿を現した。
「さて、待たせたな……」
 声を発したのはセイリオスだった。指先には件のカード、面には歪な影と白い手足が描かれている。後方よりフォルスの黒炎が放たれ、胸部に浮かべられた黒い痕のすぐ隣に、焔の舌先が這いずった醜い傷跡を浮かべる。
 マインはウィヴの手にする銀の弓へと触れ、聖なる輝きに封じられた神々しいまでの力を与えた。同族の少女へ会釈を交わすと、ウィヴは掌に呼び起こした稲妻を矢の形とし、弦につがえた。狙いを外すわけはなかった。怪しい光を浮かべる硝子玉の双眸、その中間点を貫くのみ――。
 黒千羽鶴――漆黒の衣から真っ直ぐに伸ばされた足で、ロウランは光の軌跡を宙に刻んだ。と、同時に魔物の脛に深い断絶が生じる。襟元から白い襟巻きを形から背へ、腰から膝の裏へと垂らした少女は、そのまま魔物の足下に留まった。イーオーがそこにいたからだ。
「……誰も、死なせは……しない、です……」
 少女の胴ほどもあろうかという指先が伸びて、ロウランは羊頭の巨人に捕らえられてしまう。いともたやすく、彼女の身体を残された回廊の名残へと叩きつけ、魔物はさらに戦斧による斬撃を見舞った。足の傷が影響したから、それとも、少女の決然とした瞳がそうさせたのか、魔物の斬撃はロウランの体躯を捉えはしたが、命を奪い去ることまではできなかった。
 足下に横たわる少女の身体から、赤い血が広がり、石組みの間に佇む闇へと流れてゆく。そこに駆け寄る者がある。見上げた青い瞳で、エリシャは雄弁に告げていた。ヒヅキは回廊の柱から柱へと飛び移り、視線の高さに魔物の頭部を捉え、飛び立った――。
「……例え相手が何であれ、切り裂いてみせる。この刀に誓って!」
 頸部を切断された羊頭の巨人は倒れた。冒険者たちの技と術、すべての力が収束される。――だが、なおも武具を握る指先には力がこめられ、もげかけた首がもちあがり、小丘のごとき体躯は震え、身体が起こされようとする。
 けれど、シキが許さなかった。
 滴るかのような光を含んだ球体は、音もなく、宙を滑るようにして彼女の頭上から飛び立ち、緩やかな傾斜で巨人の頭部へと迫り、盛大に黄金の泡沫を散らす――。
 首を失った魔物も、その戦斧の三日月も、もう二度と何ものかを見下すことはない。
 双眸は光を失い、刃の面は陰っていた。


マスター:水原曜 紹介ページ
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獅子の剣を鍛える者・ディラン(a17462)  2009年09月03日 15時  通報
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