女神の丘で……



   


<オープニング>


 鳳蝶の霊査士・フロストが語ったのは、色とりどりの花咲く丘。
 そこは、春の女神ランララが他の場所よりもほんの少し早く顔を見せる、女神のお気に入りの場所なのだと、古くから村に伝わっているらしい。

 その言葉の通りに、小高い山の頂きの近くにあるその丘は、見渡す限りに草花に囲まれたとても気持ちの良い場所。
 佇む湖面に映える光。
 微かに香る春の芽吹き。
 恋人と共に訪れ一時を楽しむのも、仲睦まじい友と静かに語らいあうのにも、きっと良い場所。

 皆でお弁当をもって、ゆっくり歩いて出かけよう。
 冬の寒さの残る先に、綺麗な春の風景が待っているから……

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参加者
NPC:鳳蝶の霊査士・フロスト(a90095)



<リプレイ>

 少しずつ少しずつ、歩みを進めるうちに変わってくる景色。
 冬の淋しげな草木の中に、華やかな春の色が混じり始める。

●春の息吹
「フロストさん、今日はお誘いありがとう。素敵な一日になりますように」
 ストラタムはフロストに声を掛けると、春の情景溢れる湖畔に座り、記憶を思い起こしていた。
 切ない、満ち足りていた頃の時間。
 今ここにいる恋人達の幸せを願いながら、花を一輪摘んで緩やかに流れる湖面を眺めて過ごしていた。

「このようなイベントには滅多に御一緒できませんし、しっかりと満喫するとしましょう」
「何がしたいとか……考えておりませんでしたわぁっ」
 ナイアスに答えながらリラは「……わたくし、一緒に居られるだけで嬉しいんですもの……」と少し恥ずかしげに呟く。
「やはり、私達の種族的に、緑に囲まれていると落ち着きますね」
「最近あまり一緒に居られなかったのでとても嬉しいですの」
 二人はゆっくりと草花を眺めて歩いていた。
「デュランにーちゃん力持ちー♪ 背中ひろーい♪」
 ラスティはデュランの背負子の荷物に紛れしがみついていたのに、彼は気づいていなかったようだ。
「ってそういえばお弁当どなたか持ってきました〜?」
 ティフェルが尋ねると、困ったことに二人も、イーシアもユリアスも持ってきていない。
 彼女がフワリンから降りて袋を広げると、どさどさっとお菓子ばかりが出てくる。
 そこで、5人は花と食べれる物を探して歩き始めた。手に手を取って。
 森と花園を歩いて花を集めて周り、最後に湖畔でゆっくりと腰を落ち着ける。
「こうしてのんびりするのはいいですね〜♪ いつもしてる気がしないでも無いですが」
 ユリアスはのんびり昼寝の準備、イーシアは摘んだ野苺をそっとデュランに差し出して。
「デュランにーさん、これあげる♪」
 そのイーシアにはティフェルが「あーんv」と食べさせてあげていた。
「皆様楽しそうですわね……」
 シャスティアが呟く。
 夫の勧めで休暇を取りにきた彼女だが、その光景に普段構えない娘のために何かおみやげを……と考え、淡い笑みを浮かべた。
「あらあら、私もすっかり母親ですわ」

「美味しいですよ、有難う」
 ロゼルティーンの作ったお弁当を、従兄弟のカイト、恋人のクリストフェルの3人で食べる。
 湖のほとりで3人で座り。
 卵焼きを頬張るカイトの姿に、ローゼはサンドイッチ片手に微笑みながら空を見上げた。
「いい天気ですね……」
「こんな一時が過ごせるなんて、私は幸せ者ですよ」
 満面の笑みでクリストフェルは答える。
「……あ、あまり……上手……じゃ……ないの……です……が……」
 スゥが鞄からお弁当を取出しながら尋ねる。
 はじめて自分から誘ったのを迷惑で無かったかと少し不安がる彼女に、キオウは嬉しそうに一口。
「すごく美味しい ありがとう スゥ」
 そのまま3段の御重を食べきった彼が、食後に果物を剥いているとスゥがゴソゴソと何かをしている。
「ん? スゥ何してるんだい?」
「で、出来上がるまで……見ては……だ、駄目です……っ」
 背中に隠したのは、彼への贈物に編んだ花環だった。

「一足先の春だねぇ〜ノヴァさぁん」
 湖の辺で、隣に座るノヴァリスにアスティナが、バスケットからお弁当を取出しながら声をかける。
「えへへ、ノヴァさん……あ〜んしてぇ?」
 人が近くにいたら恥ずかしいけれど、二人きりなら大丈夫。
「えへへ、美味しい〜?」
 咲いた花を眺めながら静かに寝息を立て始めたアスティナをそっと見つめ、昔義母にならった記憶を頼りにノヴァは花冠を作りはじめた。
「……こういう穏やかな時間を過ごせるのは、嬉しい気がする」

「フロストさんのお話通り、美しい場所ですね。春の女神のお気に入りというのは納得できます」
 サンドイッチ、サラダ、から揚げ等の一品料理に、コーヒー、紅茶にジュースと言った飲み物を並べるシヴァ。
「あ、お弁当を作ってきたのですが……ピクニック感覚で来ては拙かったでしょうか?」
「いや……ありがたく食べさせてもらうで」
 唐揚げを一つ摘んで頬張るフロスト。ステファノと一緒にお弁当を囲むその頭に、花冠が乗せられる。
「お? なんや?」
「何となく、疲れてる、みたいだった、から」
 さっきまで持って帰るための花を摘んでいたはずのオルフェ。
「……ありがとさん」
 お礼の言葉に頷き返し、彼は横笛を吹き始めた。

 湖の岬でのんびりしているカヅキとストラ。
 お菓子を食べ終わった彼女はペットのオパールに1人で遊んでくるように言うと、彼に膝枕をしてあげる。
「一度、やって見たかったんだ〜v」
 癒される心に震える彼に、カヅキはそっと囁いた。
「……ストラさん、ずっと一緒に居て下さいね?」
「ありがとう……」
 暗い世界しか知らなかった自分に温かさを感じさせてくれた嬉しさに、言葉が思わず毀れる。
「……こんな季節なのに、タンポポなんて咲いてるのね」
 シキは摘んだ一輪で指輪を作り、真剣な表情でヴィオラの手を取る。
「ヴィオラ……生涯を賭して、貴方を愛する事をここに誓う」
 瞳を見つめながら、結婚式のような指輪の交換。
「シキはんを……ずっと愛することを……誓います、え……」
 見詰め合い熱を帯びた瞳を外し、赤い頬を隠すように。
「……な〜んて、ね」
 シキはいたずらっぽく笑った。
 陽だまりの中、コリンは自分の膝で眠るジールの頭に花冠をそっと載せる。
「ジールさん、ずっと大好きですよ」
 彼の額の宝石に軽くキスをしながら呟くと、ジールは目を覚ましコリンの頭を引き寄せて唇を奪った。
「こんな良い天気で気持ちの良い日だ。楽しまなくっちゃ損だろう?」

「気に入ってくれると嬉しいのだが」
 ブリュネルの手製のお弁当と紅茶を口に運ぶミリセント。
「いい香りがします……それに、なかなかの味です」
 うんうん頷き食べてくれる彼女とはまだ友人だが、その信頼と愛情を勝ち得たい、と思う。
 日頃のこと、お互いのこと、音楽のこと。話続ける合間にふと漏れる、素直な本心。
「自然中で佇むおまえの姿は美しい」

●女神の丘で
「一足早い時期でもこんなにお花が綺麗なんですね……」
 穏やかな空気と風を身体いっぱいで感じるように歩いていたファオは、失礼します、と隅に咲く一輪の花に一礼をしながら小さなリボンを、キツクならないように優しく結ぶ。
 そして、落ちた花弁を一つ拾い上げ、そっとハンカチに包んだ。持ち帰り、押し花にするのだろう。
「春の女神は気が早いですね、もうこんなに花々が咲いている」
 メイはピクニックを楽しむ恋人達を微笑ましく眺めながら、湖の辺に腰を下ろし歌を歌い始めた。
「春の女神に会えそうな素敵な場所ですね」
「何だか幸せになれそうな場所だ。俺も気に入った」
 手を繋ぎながら散策をする二人、サナとアモウは湖の見える花畑に座り、お弁当を広げる。
「アモウさんのために、早起きして一生懸命作ったんです。お口に合うといいんですけれど」
 中身はおにぎりに鶏の唐揚、ほうれん草の胡麻和えにうさぎリンゴ、彼の大好きな卵焼。
「サナ、玉子焼きが食べたいなぁ?」
 にこにこ笑いながら口を開けて待っているアモウに、サナは照れながら卵焼を差し出した。
「はい、あ〜ん」
「うん、とても美味しい」

「もう春なんですね……お花がこんなに、綺麗……ちょっと、休憩しましょうか?」
「あ、うん」
 ネフィリムの言葉に、ヴィアドは言葉少なに答える。
「あまり出来はよくないですが、おやつ……いかがですか?」
「……ん、ありがと」
 二人でパンケーキを食べながら、花を見つめ、ゆったりとした時間の過ぎていくのを感じていた。 
「……あまり言葉を交わさなくても、一緒にいてくれるだけでこんなに幸せな気分になるなんて。愛って不思議です……」
「……そうやね」
 穏やかに微笑む彼女に、ヴィアドも微笑み返す。

「わぁ、綺麗ですねー……」
 ラリィが景色に思わず呟き、木陰に敷物を敷いていたアスに笑いかける。
「あ、アス。お腹空きませんかー……?」
「すげぇ……美味そう……」
 ラリィが広げたお弁当に嬉しそうに笑うアス。
「……ぁ、あーん……」
 真っ赤になって彼女が差し出すお弁当を残さず食べきると、二人は花冠を作り始めた。
「なぁ……花冠ってどうやって作るんだ?」
「花冠なんか、久しぶりに作るのですー……v」
 尋ねる彼に、楽しそうに教えてあげながら、出来た花冠。
 アスは、真っ白なそれをラリィの頭の上に飾った。
「……よく似合ってる」

 花畑に敷いたシートの上にお弁当を広げリィルアリアはガイヤに尋ねる。
「……最近ガイヤ様浮気したんですなぁん」
 笑顔で掛けた言葉の裏に(「……ガイヤ様、私の事、嫌いになったのかなぁん? ……離れたくないですなぁ〜ん……」)と悩みを隠しながら。
 ビクっと食べかけた物を落としそうになりながら誤解だと説明を続け花を差し出す彼に、リィルアリアは後ろ手に持った鋸をそのまま仕舞った。

 腕を組んだり、手を繋いだり。アティはさり気なくガルスタに寄り添う。
 結婚したところで何が変わるわけでもないけれど、 恋人としては最後のデートに二人で花を見て回る。
「……そこそこ、……花嫁修業、で……腕を上げた、し……、味には自信ある、わ……」
 広げたお弁当を差し出す彼女に、ガルスタは嬉しそうに手にとった。
「アティの作る弁当は美味いな」

「上手くできているかどうか判らぬのじゃが……」
「一生懸命作ってくれたんだ、どんな味でも嬉しいよ」
 ティファレットの持参したお弁当に、アズーロは感謝の言葉を交えながら食べていく。
 そのほとんどを腹に収め一息つくと、花冠を彼女の頭に乗せて額にキスを贈る。
「これからもずっと俺の可愛いお姫様でいてくれ」
 さっと立ち上がる彼に、ティファレットはハープを弾き始めた。
 歌が始まる。セイレーン二人の、花と青空の即興詩が、丘に響き渡る。
 
「これ全部クルミが作ったの? すげぇな!!」
「お弁当……はりきって作り過ぎちゃいました……」
「いや〜、これだけ作れるならいつでも結婚できるな!!」
 言って、赤面するバルト。言われたクルミも赤くなりながら、オズオズと声をかけた。
「バルトさん、今日は本当に楽しかったです……」
「一緒に来てくれて、ありがとな……。もし……もしさ……」
 言葉が続かない彼に、花で作ったブレスを差し出しながらクルミは勇気を振り絞る。
「また、誘っていただけますか……?」
「また、一緒に遊びに行こう!」

「良い天気だね。お花達も、日の光を浴び輝いて綺麗……」
 お弁当を並べていくリスリムに、申し訳なさそうにフェレーが声をかける。
「ウチ料理作れなくて……ゴメンナサイなーん」
 女の子として恥ずかしいと思っているのか畏まる彼女に、ふるふると首を振り彼は向き直った。
「……あの、ね……聞いて貰いたいことがあるんだ……」
 真剣な表情で見つめ、驚く彼女に。
「……フェレーの事が……好き、です」
 瞳を見つめ、告白する。
「大好き過ぎて、困るくらい、好き。これからもずっと、一緒に居てもらって……いいですか……?」
 彼の言葉に真っ赤になって俯いたフェレーは、花の首飾りを彼の首にかけてその瞳を見つめ返す。
「ウチも大好き……です……なーん……」
 お互いの言葉を受け取った二人は、照れたように微笑してそっと手を繋いだ。

 寝転がりながら話をしていたスクルドとデスペル。
 少しのんびりとした後に彼女の取り出したサンドイッチをデスペルは口に運びながら尋ねた。
「へぇ、用意がいいな。もらっていいんだろ?」
「……おいしい?」
 詰寄るスクルドにウマイと答えるでスペル。
 やがて食事を終えて二人は丘を散歩して回る。
「手、出して」
 何事もないような表情で、彼女に声をかけられ手を差し出すと、その手に嵌められる花のブレス。
 にかっと笑うと、彼はブレスの嵌った手を見せて言った。
「今日は楽しかったぜ、これもありがとうな」
 
 腰まで届く髪は、座ると地面に触れそうなほど。
 レラはストレートの髪を掻き揚げながら、日の光を反射する湖をみていた視線をガイに向けて、口を開く。
「連れてきてくれて、ありがとう」
「こういう場所が好きだと言っていたのは、お前だろう?」
 答えるガイも、普段の無表情ではなく、彼女にだけみせる笑顔で答えながら白い菫を手渡した。
 代りに返されたのは紫色の菫。二人で花を交換しあい、またゆったりとした時間に心を向けた。

「……お花畑……綺麗……♪」
 花畑にふわり座ったドーリスは、少しずつ花を集め、何かを作っていく。
「……溶けない氷みたいに……ずっと枯れない花があったら素敵……♪ ……その香りも色も……ずっとずっと鮮やかなまま……ぁ……でも……そしたら……色んな花が見れなくて寂しいかな……」
 すぐ近くに同じように腰掛けて、ガルガルガも花を摘み始める。
 やがて出来た花冠を彼の頭に載せ、ドーリスはふわりと笑った。
「……はい……出来た♪ ……ふふ♪」
 お礼にガルガルガから渡されたブーケを嬉しそうに受け取り、二人は花と戯れていた。

●ランララ
 日も暮れ、そろそろ帰ろうかという時。
 フロストは一輪の花を見つけた。
 長い花穂の上にまっすぐ花をつけた、力強く咲く、野の花。
「花言葉は、永久の幸せ……か……」
 ほんの少しの間、黙祷を捧げるように目を伏せたフロスト。
「んじゃま! 帰るか!」
 直ぐににかっと笑うとそう周りに声を掛け。
 一輪摘んだそのルビナスの花を、折れないようにそっと胸に挿し、歩み始めた。


マスター:仁科ゆう 紹介ページ
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作成日:2006/02/23
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