呪いツボ(真)



<オープニング>


●本当
 薄っすらとした紫色が特徴的なとても古そうなツボである。
 一見すれば、技術の粋を、加工の妙を、職人の魂を満遍なく込められて作られたかのような財宝だが、それは決してそんな良いモノではなかった。
 ツボの中には、暗黒が広がっていた。
 ツボの中からは、悪夢ばかりがやって来た。
 ツボの中を覗き込んで、生き残れたモノは無い。
 それは――哀れにも、此の世を呪うばかりの異形の存在と成り果てていた。

●討伐依頼
「……これも、因果でしょうか。
 何処かで、聞いたようなお話になりますけれど」
 ヒトの霊査士・ファイナ(a90305)は、軽く居住まいを正して冒険者達に語りかけた。
「ある村に、ツボの形をしたモンスターが現れました。大変凶悪な輩で、既に多数の犠牲者が出ています」
 彼女は言う。
「ツボの中には、忌避すべき事象が山のように。
 安直に覗き込めば容易に破滅を齎す深遠……とでも申しましょうか?
 放っておく事は、出来ないかと思いますわね」
「呪いのツボ……ね」
 果たして、鬼が出るか蛇が出るか。
 決して楽な戦いにはならないという――そんな予感だけが、冒険者の中にはあった。
「貴方方の冒険に、銀色の加護あらん事を」
「……心配してくれるのか?」
「こ、これは単なる恒例のお約束ですっ!」

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参加者
分の悪い賭けは嫌いじゃない・リヴァル(a04494)
赤烏・ソルティーク(a10158)
終始の剣・ルミル(a12406)
ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)
微笑う重騎士・イツェル(a15770)
闇夜の銀星・レイラ(a16693)
蒼明水鏡・ミナト(a17811)
光陰を纏う者・ゼフィス(a30982)
黒禍・クアトロ(a32272)
か弱い武道家・セリーナ(a35404)
慈しみの鳳・ツーフォン(a35925)
荒波を穿つ海賊娘・ランディ(a36144)


<リプレイ>

●一節
 ん? 何だい? デリー・ホーキンス。
 話が聞きたい?
 いいよ、じゃあ話をしよう。
 そうだな、今日は――ああ、アレがいい。
 禁忌とは、唯それだけで価値がある。
 その瑞々しい果実を、確実な毒と知りながら……
 また一人それをもいで齧るのは、それが至福の美味だからに相違ない。
 例えば、その――何だ。道ならぬ恋にも似てるじゃないか、それって結構。
 だ、だから例えの話だってば!
 そういう笑い方をするのは、感心しないぜ――?

                      ――――放蕩魔術師物語、百二十二ページより

●凶ツ壺
 悪逆のモンスター、呪ツ壺。
 その討伐に集ったのは十三人の冒険者達である。
「む、確かにこれは……」
 秋水・ミナト(a17811)の柳眉が、僅かに吊り上がる。
 一歩足を踏み入れるなり、死臭が酷く鼻を突いた。
 目を背けたくなるような惨劇は、舞台となった村の到る所の山のような死体を作り出したらしい。右を見ても、左を見ても――死体、死体、死体の山。
「これは……ちょっと……」
 気候の所為か、予感の所為か。
「……あんまり見たくない光景よねぇ」
 肌を突き刺すような鋭い寒気を感じていたのは、誰しも同じだった。
 言葉こそ、平素と同じように軽い調子ではあったが、女豹・セリーナ(a35404)の言葉は、不自然に乾いていた。
「この原因になった壷ってのも……シュールな光景だな。笑えんけども」
 胸を悪くする光景に軽く舌を打ち、捨て身の博徒・リヴァル(a04494)。
「とりあえず注意点は壺を中身を覗こうとするな、だな」
 ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)の脳裏にファイナの言葉が蘇る。禁忌に触れるモノには、まず確実な滅びを――その正体は分からずとも、敵の危険性を考えればそれがどんな意味を持つかは明白であった。
(「好奇心が無いわけでは無いが、この歳で好奇心で死ぬのも、な……」)
 そう、それは決して有り得ない可能性ではない。
「安直に覗き込めば容易に破滅を齎す深遠、ですか……
 心の中を覗かれそうな……そんな感じさえしますが。何であれ、破壊しないとなりませんね」
 光陰を纏う者・ゼフィス(a30982)が感じたのは、呪いと凶気の残り香とでも言えばいいのか。冒険者一流の勘が告げるのは、紛れも無い危険。惑わされれば、命すら失いかねないというぞっとする直感だった。
 そして、同時に誰もが――其の直感が間違いではない事を知っていた。
「嫌な光景ですね。……少し、ミュントスの惨劇を思い出します」
 微笑う重騎士・イツェル(a15770)の言葉は、奇しくも「その時の事」を指していた。
 パーティは、慎重に辺りを見渡しながら村の中を進む。
「ソレを見間違えることはないだろうから、視界に入れることに集中しましょ」
 呪ツ壺は、大層立派な美術品だというから。
 黒閃の闘姫・レイラ(a16693)の言葉に、一同は頷く。
 呪ツ壺は、何時襲ってくるか知れない。無機物めいたフォルムに気配を感じられるのかさえ定かではないのだから……誰の目も真剣そのものだった。
(「話を聞けば、まさしくそれは呪い壷。
 観賞用に所有は誰もが断るだろう。いや目にした途端に死ぬか」)
 次第に、嫌な気配が濃密になってくる。
 多くの戦いを重ねた冒険者だからこそ、分かる。
 もうすぐ――ソレが来るのだ。
(「だが、関係ない」)
 ふと目を閉じた夜叉眼の・ツーフォン(a35925)は、沸々と吹き上がる「久々の感覚」に身を沸き立たせた。
(「それが、何であろうとも――」)
 中に潜む怪異共々……
 斬りつけ
 叩き、壊し、粉砕し
 その欠片まで残らずに踏み躙る
(「そうしてこそ。私は『殺す行為を』満足できるのだから――」)
 彼女の開かれた青い目は、前方十メートルに鎮座する、惨劇の現場に不似合いな美しいツボをまっすぐに見据えていた。
「美術品を壊すのは、些か気が引けるが……村一つ消すような奴を放っておくわけにもいかんのでな」
「ああ――」
 黒き大鴉・クアトロ(a32272)の言葉に、荒波を穿つ海賊娘・ランディ(a36144)が頷く。
「お宝? 美術品? 俺は大好きだぜ。
 でもな……不幸を振りまくような物騒な代物は俺の美学に反するんでね」
 止めるモノが勝つか、奪うモノが勝つか。
「そんな訳で、呪ツ壺――ぶっ壊させて貰うぜっ!」
 そうして戦いの幕は、酷く緩慢に持ち上がった。

●異形の棲家
「作戦通りに」
 イツェルの言葉の通り。
 敵の攻撃が薙ぎ払いの範囲を持つと読んだ一行は、コレを避ける為――多角的な攻撃を繰り出す為に、事前の相談通り素早く三班を展開した。
 大局的に見て前衛を構成する形になる三班を、後衛として支える扇の要が、
「今回の私とユーリグは護られる姫君ならぬ王子ってところでしょうかね。
 皆さんフォロー宜しくお願いしますよ?」
 赤烏・ソルティーク(a10158)、
「頼みます」
 そしてユーリグであった。
「さて――」
 戦いの風を纏い。まず、誰よりも早く動き出したのはジュダスである。
 敵が何者であろうとも前衛たる彼の戦いは変わらない。渾身の力を振るい、パーティの剣となるばかりであった。
「――最初から悪いが、全力で行かせて貰うぞ!」
 どむっ
 一足で強烈に踏み込み、間合いを詰めた彼のデュランダルが空気を裂く。
 その一撃は、宙空にある異形の壺がパーティに口を向けるよりも早くその表面を爆炎に包んでいた。
「同感ですね」
 タンタン、と華麗にステップを踏んだ夜翔葬剣・ルミル(a12406)が言う。
「確かに、モンスターではなければいい壷ですね……
 一体どういう冒険者がこんなモンスターに成り果てたのか、無念ですが」
 彼女の鋭い眼差しが敵を射抜く。
「他人を呪ってばかりでは、決して幸せになれません。兎に角、村人の仇を取らせて頂きましょう」
「立ち続けること、これが僕の役目でしょうかね」
 自らは既に付与の鎧を纏ったイツェルが、回復の要になるソルティークに鎧聖の付与を齎す。
「早速どうも」
 その内心は読めない。余裕めいた口調の変わらないソルティークの一方で、イツェルの支援に続いて、レイラが駆ける。
「何が相手だろうと、私がすることは滅ぼすのみ」
 防御力の付与を纏った彼女は、ルミルの背後から壺の間合いを瞬時に奪う。
 キン――
 鮮烈に閃いた一撃は、壺の硬質な表面を強く叩く。
 それでも手応えは些か――薄いか。
「中々、硬ぇみたいだが」
 更に前に出たレイラをブラインドにして畳み掛けたのは、ランディだった。
「こいつの名はドレッドノート(恐れ知らず)だ、その力を思い知れ!」
 両の腕(かいな)に魔炎と魔氷を纏う彼女の一撃は、威力以上に呪ツ壺を苛んだ。
 一撃は、一瞬ソレを凍結させ、炎に包み――その動きを止めたモノの。
「――っ!?」
 息を呑んだ彼女の目の前で、瞬時に自由を取り戻したツボが傾いた。
 ぬらりと、泥のような黒が奥に見えた気がした。
「な……」
 そこから生まれ出るは――巨大なる腕。
 一メートルの壺の口から、十メートルにも及ぼうかという長さの腕が不自然に伸びてくる。
 その太さたるや、丸太のよう等と表現しては甘さが過ぎる。「途中で壺の入り口よりも太くなった腕」は、のたうち――次の瞬間には前に出た冒険者達を纏めて薙ぎ払った。
 ギン――!
 高めた防御力が幸いしたか、辛うじてそれを受けたレイラの表情が歪む。
 薙ぎ払いの範囲は、実に広範囲に及んでいた。半円を描くしなる鞭のような一撃は――その癖、凶悪な棍棒の威力にも勝る破壊力で冒険者達に強烈な打撃をお見舞いしていた。
「ソルティークさん」
 華麗な足捌きと得物の操作で一撃を見事避けたルミルが呼びかける。
「成る程、これは厄介です」
 距離を取っていた事が幸いしたか、二歩飛びのく事でこれをやり過ごしたソルティークが不敵に笑む。即座に向けられた彼よりの癒しの力が、唯の一撃で片膝をついた前衛を癒した。
「……ビックリ箱の悪趣味だな」
 クアトロが、冷笑する。
 吐き出された腕は、ぐちゃりと腐り落ち大地に染みを作っていた。
「もう出てこないならば、どんなにいいかと思うがな……」
 その言葉が気休めめいた、皮肉めいた希望的観測である事を彼は誰より知っている。
 口の中に広がる暗黒の汚泥は、変わらない。ごぽごぽと音を立て、壺の口から滴り落ちていた。

●気持ち悪い
「厄介ですね……」
 漆黒のマントをはためかせ、ルミルが攻撃をやり過ごす。
「く……!」
 レイラの、ミナトの薙ぎ払いが、空と薄皮を斬る。
 黒い汚泥の怪物が、命を持って戦場を踊る。
「っ――!」
 個体の力は、圧倒的ではない。
 しかし……これは、何分厄介だった。
 キィキィと奇妙な泣き声を立てる異形の下僕は、素早く――攻撃の的を中々絞らせない。その上、攻撃力に特化したそれは、その爪牙をもって切り傷と共に毒をも与えてくるのだ。
 そういう意味では、イツェルが、ゼフィスが行った念入りな防御付与は成功と言えた。
「ち――!」
 攻撃を華麗に避けたツーフォンが振り抜いた鋼糸の生んだリングスラッシャーを、下僕の一撃が粉砕する。
 凡そ一分が経ったが――戦いは、依然続いている。
「この……っ!」
 爆裂の一撃を叩き込んだジュダスの肩口を、飛来した刃が赤く血で染める。
 辺りを飛び回る目障りな異形に加えて、壺の吐き出す攻撃は、相当の威力を持つ。攻め急げば、それは隙となり危険を生む以上は――焦れる戦いの展開も又必然であった。
「その程度の攻撃では、僕は倒せませんよ!」
 盾を構え、下僕四体の攻撃を押し返したイツェルが叫ぶ。
 敢えて我が身を的とした彼は、彼等に決定的な隙を作り出していた。
「ふっ――!」
 護りの天使を従えた彼の、返す刃が異形の一体を二つに切り裂く。
「どうだ……?」
 クアトロの悪魔の炎が、異形を焼き尽くし新たに形作る。
「これは、幸運か」
 その異形は、真隣に居た同胞と食い合い同時に消滅した。
「壺の中身? 興味は無いですね。どうせ直に今生の別れとなるのですし」
 ソルティークの放った業火が、残った一体を撃ち落す。
「さて、そろそろ暴れるぜ――?」
 そのチャンスを突いて一気に前に出たのは、リヴァルだった。
「おらああああああ――!」
 裂帛の気合を一声。
 強引に振り放った彼の斬撃は、強烈な爆裂を纏う。
 機を伺っていた事が奏功したのか、彼の一撃は重く壺を叩いた。
 ぐらり、と向けられかけた口が衝撃に向こうを向く。
「今だ!」
「はい、押し込みましょう!」
 ゼフィスの構えた戦斧に聖気が走る。
 真上から強烈に叩きつけられた強靭な一撃は、壺を激しく揺さぶった。
「次を――!」
 彼は同時に跳び下がる。
「ああ」
 入れ替わりに、ミナトが前に出た。
「今こそ――必中の技を」
 態勢を崩した呪ツ壺に、蒼紺水明【水伯】そして【蛟】による二連の抜き打ちが放たれた。
 それはまさに、神速を誇る一撃。
 青白い火花すら纏った斬撃は、瞬間、完全に呪ツ壺の時間を奪い去っていた。
 いざ、攻勢にさえ移れれば半包囲を敷いたパーティの波状攻撃は尚生きる。
「まともにやれる程、とは思ってないけどね」
 ふわり、とセリーナのスカートが傘に広がる。
 戦場に舞った少女の長い足が、跳躍に一瞬遅れて壺へと伸びた。
 ガッ――ガガガガッ……
 しなやかな脚は、「こちらは美しい」鞭のようにしなる。
 連続して叩き込まれた衝撃に、ピシリと小さな音が響いた。
「いいタイミングで巡ったな」
 夜叉眼の少女は、そのモノの死だけを見つめていた。青い死神(ツーフォン)の放つのは、真空の刃。
「滅びろ!」
 そこへ、クアトロの獣の炎が喰らいつく。
 しかし、壺は割れなかった。
 華麗なまでの猛攻を凌ぎ切り、ゆらりとその口をパーティへと向けていた。
「来ます――!」
 ゼフィスの警告が鋭く飛ぶ。

 わんっ――

 そして、空気が変に反響した。

●呪いは、如何なる?
 その一撃は、決まりかけた勝負を瞬く間に分からないモノへと変えた。
 刹那、一行が受け取ったのは抗い難いまでの誘い。
 それは、確実に破滅孕む禁忌を覗かせる蛇の誘惑であった。
 全身を包む虚脱感は、生命力を食われた効果によるものか。
 思考は胡乱とし、狂気へと暴走する。不運の呪いまでも抱いた中身は、パーティを一気に蝕んでいた。
「……これは……」
 唯の一撃で、セリーナがクアトロが倒れ、ジュダスとレイラ、味方同士の同士討ちが始まっている。
 頭を振るソルティークだったが、即座の回復には到らない。
 更に彼の視界の中では――
「っ――!?」
 先の衝撃に耐え、呪ツ壺にトドメの一撃を叩き込まんとしたリヴァルが、異形の大腕に捕まっている姿が映っていた。
「あんなお嬢さんに心配されてんだ、ここであっさり膝をついたら男が廃るってもんだろうが!」
 逃れ得ぬ怪力に捕まりながらも、彼は吠える。
 同じく自慢の膂力をもってこれを振り払おうと足掻くが……届かない。
 めきっ……
「っぁ――!」
 べきべきべき
 破砕音が響き、空気に苦鳴が漏れる。


 わんっ――



 ――――♪
 ソルティークの凱歌が、ユーリグの回復がパーティを立て直すが。
 タイミング的にもう一度のアレを止める事は、間に合いそうも無い。
(「まずい――!」)
 彼は、声無き叫びに応えるかのように。
「今度は……」
 たわんだ空気に、少女の快活な声が響く。
「足掻け、苦しめ、狂い死ね! その言葉、そっくりお前に返してやる!」
 大仰な独特の構えを取ったランディは、一撃を宙空に向かって振り抜いた。
 ごう――
 荒れ狂う呪いの風は、壺の中へと舞い戻り……
 痙攣するように震えた呪ツ壺を、
「終わりです――!」
 がちゃんっ!
 側面から薙ぎ払うように叩きつけられたゼフィスの一撃が叩き割った。
「……」
「……………」
 黒い汚泥が、流れ出る。
 心配された「新たな異変」は無い。
 ドロドロとしたそれは、或いは「呪い」そのものだったのか。
 数秒も経たない内に風化して風に溶けた。
「終わり……か」
 ツーフォンが、荒れた呼吸を整えながら呟いた。
「ああ。……そのようだ」
 ミナトも又、己が得物を鞘へと収めた。


「せめて、埋葬を」
 ルミルの言葉に、一同は頷く。
 強敵との戦いは終わった。
 呪ツ壺に、どんな未練が――無念があったかは、最早誰にも知れぬ。
 だが、確かな事が一つだけ。呪いはもう二度と巡らない。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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