名前の無い浜辺



<オープニング>


●大きな鯨に纏わる話
 ある嵐の日、浜辺に大きな大きな魚が打ち上げられたのだと言う。
 魚――鯨は死んで朽ち、後には骨が残された。
 今でも浜辺には古の遺跡の柱めいて胸骨が立ち並び、半ば砂に埋もれ頭骨は安らい、そして尾骨は深き海の夢を見る。
 故に、浜辺に名は無い。
 皆、呼ぶのを止めてしまった。
 砂浜の白灰と、海の青灰、それ以外に何の色も無い極寒の浜辺に巨骨が横たわる様は、そこにあるのが唯の骨にも関わらず余りにも美しい静謐に満ち、人々の口から名を奪ってしまうから。

●名前の無い浜辺
「そんな浜辺があるのよ。今はきっと、枯れた下草と、疎らに立つ白く凍り付いた樅の木に抱かれて、灰色の冬の中でひっそりと波音を響かせているのでしょうね」
 
 羊飼いの霊査士・ユビキタス(a90291)は、牢屋番・セイモア(a90290)の胸に下がる、骨片から削り出した真白の板に目を止め語り出した名も無い浜辺の物語を、そう締め括った。

「山出しの羊飼いにしちゃ随分と詳しいんだな」
「羊飼い足るもの、自分の牧草地はある程度把握しておく必要があるもの」

 涅槃・バルバラ(a90199)の揶揄めいた言葉に、物憂い笑みを返すユビキタス。
 茫と窓の外、激しい風の中に梢を惑わせる樹木に目線を向け、自身の胸に下がる骨片を指先で弄んでいたセイモアが、不意に2人へ目を戻した。

「僕は海を見た事が無いんです。そんなに美しい浜辺があるのならば、見に行きたい。大きな魚――鯨と言うのでしょうか、その骨があるのでしょう?」

 言って、セイモアが取り出したのは小さな白い細工物。胸に下がる板と同じく、獣の骨から削り出したのだと言う。鷲の骨の笛、狼の骨の小刀、勇猛にして巨大な鹿の骨からは牙を削り出し、自由や情愛や勇猛さ――その獣に相応しい願いと祈りを込めて呪印を刻む。

「行って、触れてみたいです。その骨に。……一緒に行って頂けませんか?」

 最後に、おずおずと付け足された言葉。何故この男は、ただ人に物を頼むだけでこんなにも苛々させるのだろう。そう、微かに鼻に皺を寄せてバルバラはショットグラスを呷り、ユビキタスは物憂い笑みを浅くして羊乳酒の酒盃を傾ける。暫くの沈黙の後、2人は同時に長い溜息を吐いた。

「仕方が無いな。冬の海は、嫌いじゃない」
「――久しぶりに、見に行くのも良いわ。忘れ難い光景だったから」

 安堵して微かに笑むセイモア。
 そうすれば、巨大な体をくねらせ強靭な尾鰭で水を掻き海を往く鯨を見えるとでも言うかの様に、窓の向こう側の風景へ目を遣る。
 冬の海辺で巨大な骨を眺めよう。
 欠片を拾い、願いと祈りを込めて形を削り出そう。
 何も無い場所だろうけれど、それだけで満ち足りる気がした。

マスター:中原塔子 紹介ページ
 中原です。今回は、極寒の海辺で巨大な骨を眺めつつボーンカービング(骨細工)を作成するシナリオとなっております。名前の無い浜辺には流木と、死んだ貝の抜け殻と、巨大な骨以外に何もありません。地理条件的に食事を用意する事は難しいです。偶には静かで寒々とした風景を、ただ楽しむのも良いでしょう。

 同行するNPCはオープニングにあります通り、セイモアの他にユビキタスとバルバラとなります。それぞれ下記の通りの過ごし方をしていると思いますので、何かあればプレイングにてどうぞ。

・セイモア:骨を眺めた後、骨細工。
・ユビキタス:砂浜を散歩したり、骨を眺めている。
・バルバラ:砂浜を散歩したり、海を眺めている。

 ※ご友人やご家族と過ごされる場合には、お相手の名前とキャラクターIDを必ずご記載下さい。未成年者の飲酒喫煙は描写致しません。人数にも寄りますが行動を一点に絞った方がプレイングの採用率が上がるのではないかと思われます。

 作成した骨細工に関しましては、レベル1(心1)のアイテムとして発行致します。希望される方は、下記のテンプレートに合わせてアイテムの内容・名称を明記して頂けますようお願い致します。なお、1PCにつき、1アイテムの発行となります。

名称「全角35文字までの名称をお書き下さい」
内容「全角40文字までの内容をお書き下さい」

 アイテムを発行する際に「」は外します。特殊括弧を名称・内容に使用される場合には、

名称「【骨の小刀】」
内容「『力』を意味する紋様が彫り込まれた骨の小刀」

 といった形で「」内にお書き下さい。骨を切断・研磨する事で作成出来る簡単な小物をご指定頂けるようお願い致します。設定に無理がある場合は発行致しません。

 特に内容・名称に指定が無い場合は、『セイモアが考えた何か』を統一アイテムとして発行致します。

 それでは真冬の浜辺をお楽しみ下さい。以上、中原でした。

参加者
NPC:牢屋番・セイモア(a90290)



<リプレイ>

●名前の無い浜辺
 骨は。
 鈍い白銀の砂浜を褥として眠る巨大な骨は。
 余りにも巨大で、余りにも荘厳で、そして余りにも物悲しくそこにあった。
 美しい骨として。

 遥か昔に御伽語りに聞いた死の岸辺の様だ、偶にはこんな場所で独り休らうのも悪くない、とオラトリオは微笑む。間近で見る鯨の大きさは想像を遥かに超えていて、フェルルは長い事ずっと鯨の骨を見上げ、一度一緒に泳いでみたいとゆっくり尾を振った。語る言葉を失うティトレット。やがて誘われた様に指先から掌を沿わせ、惹かれて全身で骨と嘗て生きていた頃の記憶と微かな水音を抱く。
「骨、ええなぁ……」
 ヴィオラはそっと骨に触れる。骨の乾いた手触り。嘗て生きていたのだと言う事実が幻の温もりとなって掌へと伝わる。間近でみる骨という終焉の形に、死に近しい己の先行きを重ねるリエル。死はただの生の終焉。けれど感傷だと言われても何か思わずにはいられない、と凍える指先を握り締め。
「これは凄い……」
 秘された遺跡の柱の如くに半身を砂浜に埋めてなお見上げる程に丈高い鯨の胸骨へそっと額を押し当て、伝わる波の響きに深き海を見るジェネシス。
「あまり冷たくはない……な」
 シルヴェストルは砂へと還る骨の神さびた威容に、時と共に削れて行く命の繰り返しと積み重ねを見る。
 胸骨の間は天然の回廊で、骨が砂浜へと落とす影は繰り返し無限に続く様。これ以上に無い喜びを瞳に、クララは一柱の骨へ腕を回して抱くとうっとりと頬を押し当てた。骨から身体へと伝わって心を震わせる何かを全身で感じる。ああ感激しているのだと、心震わせる何かの正体を知り双眸を伏せるクララ。
「しろくて、しずかで、やさしいの……」
 共に骨へ頬を寄せ、骨はたとえ魂は無くとも触れる者の心を休らう美しい物なのだと、エンヤはセイモアへ淡く微笑む。
「ただそこに在るように在るだけなのに、こんなにも美しいんですね」
 冷たく肌に突き刺さるような静寂を心の内に齎す光景を望み、灰色の静謐の中で拾い上げた骨を握るルニア。そして骨は悲しい、僕はその哀しさが堪らなく好きなのですと、セイモアは物悲しく笑む。ああ、確かに美しいけれど、感傷的で少し苦手だ。思いながらカーシャは尾骨の辺りで拾った鯨の骨を手に海へと目を移した。

 氷粒を踏む様な砂を素足の裏に感じながらギバは骨を見る。死んで朽ちてなお心に感銘を与えるそれらに、願わくばこんな人間になりたいと思い。満足な靴が手に入らずその為に人が死ぬ貧しい村で育った。だから裸足であり続けるのだと、ユビキタスは物憂く笑む。
(「それで、心が死ぬ……か」)
 ふとした問いかけの答えを得て、ユーイェンは心の内で呟いた。付かず離れず共に歩んでいたアニエスは心惹かれて骨へと向かう。素手で触れ慈しむ様に耳を寄せれば、風に骨が削れていつか海に還る、そんな音が聞えて来て。
「骨って、生物の最後の存在証明なのかなって思うのです……」
 記憶からは消えてしまっても、自身が存在した最後の証は永久に世に留まり続ける――その証を踏みしめて立っているのですねと霊査士を見るルーツァ。
「そうね、幾多の死を踏んで人は生きる。死によって大地は豊穣を得、私達を生かしてくれるわ」
 深い青と鋼の眼差しは同じ銀色の骨を見て。
(「どんな世界なのだろう、あなたの見た世界は……」)
 骨に寄り添いナタは心で語り掛ける。深き水底――こんなにも勇壮な生き物が生きる世界。想像を遥かに超えるその身をゆっくりとうねらせ永遠を泳ぐ鯨を想起するナタ。
「鯨って唄を唄うんだよ……。とても厳かで、どこか懐かしい唄なんだ……」
 礼をして、たった一度だけと骨に触れてウィーが言う。興味深げなセイモアに、昔会った鯨と唄とを物語るウィー。
(「うた……聞えるだろうか――」)
 そんな事は無いと知りつつ、レーダは鯨の巨大な頭蓋に耳を押し当てる。寡黙だった養父が珍しく教えてくれた、互いを呼び合い歌う歌の話。酷く心に残っていて、レーダは音を探す様に双眸をひっそりと閉ざす。
 鯨の頭骨に風が響いて震わせる。頭骨が鳴く音に初めて覚えた歌を想い出すチェリート。
 歌って聞かせてくれた人はもういないけれど、歌はまだここにあるから少しあたたかい。
(「いっこ、もらうね。あったかいこともさむいことも一緒にぎゅってするから」)
 そう、骨を1つ拾った。

●骨に祈りを
 貴方が残した命の証で、戦が在る中へと身をおく方へのお守りを――たとえ気休めでも命を残すためにと、ヒヅキは鯨に触れ。こんなに大きな骨も何れは朽ちて土に還るのですから凄いですねと、リツは不意に差した影にもの柔らかく笑み掛ける。
「簡単でよいので手順を教えて頂けませんでしょうか?」
 良いですよと、セイモアは骨の欠片を手に取る。
「ほぉ……器用じゃのう」
 不器用に説明しながらも器用な手つきに、感嘆混じりの呟きを零すセレーネ。
「骨がお好きなのですか?」
 依頼に同行して以来、思っていた事を直裁に聞くハル(a20670)。
「ええ、好きです」
「そうですか。私も好きです」
 その遣り取りが何だか可笑しくて、骨を削りながらつい、声を立てて2人は笑う。楽しそうな骨語りを聞きながら、イカルは真白の骨へ海と鯨の骨の巨大さを目の当たりにした時に身を震わせたえも言われぬ感情を刻み込んでダイスを削り出す。
 死は死でしかなく生もまた生でしかない。誰もが皆等しく、真白の骨にたどり着く。だからそれまで、俺は、俺としてだけ――大切な人達が彼ら自身として、ただ在るように在り続けますように。『ただ在る』事は難しいものだから――そうハル(a00347)は磨いた骨を銀紗の陽光に翳した。
「もう、生きてないんだよね、これ」
 手を止めてセレスカが呟いた。
「骨がある、ここ――目の前に存在してるってことは、昔は生きてたんだね……」
 強かったんだね、コイツはきっと……。仄かな感傷を込めてセレスカの言葉に、世界の果てまでも行けたでしょうと、セイモアも骨を見る。確かにそうだろうとリュシアンは畏怖に打たれながら鯨の骨に触れた。広大な海をこの巨体で泳ぐ――美しい生命。
(「その力を――骨を少しだけ、分けて欲しい。いつか、必要となる日のために」)
 リュシアンは思い。アンデッドを間近に見たあの日、身近に感じた死を思いつつ不思議と穏やかに骨を見詰め、鯨の生きて死ぬ些細で偉大な物語に思いを馳せていたクーリンは、少し祈ってから骨を削り出す。この、とってもかっこよくて綺麗でおっきな魚の骨から何を作ろうかと思案していたヘルディスターは、そうだ猫に似た義妹にプレゼントにしようと思い立ち。スノーも無心に骨を削る。手の中に、冷たくて乾いていて、けれども何故だか温もりも伝える真白いニセモノの雪が現れる。不意に、その雪結晶を思わせる寒風が吹いた。それはガルスタから体温も感覚も奪い去り、ただ心と身体に想いだけを残す。幸せな今だからこそ想い出される捨てた筈の嘗てを。追憶は少しだけ感傷に似ていた。
 傍らでは適当な大きさの骨を見つけていたスティファノが、心に鯨の生きていた海底の蒼さを浮かべて、ゆっくりと骨を削っていた。そうして刻む。鯨が何時か見た、深い深い――あおいろを。

「まるで詩の一遍のような、情景ですね……」
 砂浜が最も美しく見える場所でセレは溜息と言葉を紡ぎ、それから音にこの砂浜の美しさを留める為に、フィドルへ弓を滑らせた。
「とても寂しげやけど……ほんまに、ほんまに美しい風景どすなぁ……」
 妙なる調べを聴きながら、ツバメは絵にこの砂浜の、寂しげなのに何処か暖かい美しさを留める為に絵筆を走らせた。2人と大きな骨に寄り添って、ロウランは骨を眺める。この鯨は夢をみるのか、海の中はどれほど心地良いのか、ここにいる気持ちは――そこまで思いを馳せてた所でロウランは、朽ち行く物への愛情と哀愁を抱いて眠りの中に落ちて行った。
 夢に、この砂浜の美しさを留める為に。
 小さな寝息を聞き止めて、セレとツバメは微笑交わした。
 倒れた胸骨を背凭れに、セラはクロが全てが止まった場所だと評した砂浜を彼と望む。不思議と沈黙も共にいる事も嫌では無かった。骨を削る音。セラはクロへそっと寄りかかって手元を見る。それは何? とセラが問えば、お守りだとクロは答えた。
「その音が聞こえる限り、その物が触れるのを感じる限りはそこに生きてるって……そんなお守り」
 出来上がった首飾り。かつりと音を立る。いる? とクロが問えばセラは微笑を咲かせてそれに答えた。
 
「この浜に横たわる物は、皆似ているような気がします――」
 ふと骨を削る手を止めるオズリック。草木も動物も、思っているよりそう遠くは無い存在なのかもしれないと、オズリックは言う。
「皆、生きて死んだのだもの。そりゃあ似ているわ」
 ユビキタスが答える。生きて死んでどんな形であれ生きた証を残す、素晴らしい事だとオズリックが呟けば、霊査士はそうねと何時もの物憂い笑みを浮かべた。
「私の存在なんてちっぽけだなぁと思っちゃうわよね……」
 浜辺を見遣り、これを機に悔い改めようかと酒を呷るジョゼ。小馬鹿にした様にバルバラが笑う。やはり笑っていたシリウスは矢印の形をした骨の欠片に気付いて拾った。進むべき方向をそっと教えてくれるその形に、渡すべき相手の事を思うシリウス。
「海ってぇのは何故か落ち着きやすね……」
 キセルの煙を漂わせ、海を眺めるセイクウ。同じく紫煙をくゆらせながら、そうだなとバルバラは答え。
「お久しぶりです。わかりますか? ベルベットです」
「分かるさ。目は変わらないからな……好い女になったな」
 酒瓶を差し向けるバルバラ。シリウスに会釈してカップを受け取り、もう呑める様になりましたとベルベットも笑う。そんな酒宴に意を決した様に歩み寄るニール。
「ご一緒して宜しいですか……?」
「ニールじゃないか、同じ旅団の誼だ」
 にっと笑うバルバラに、喜びの笑みを返してニールもまた酒宴に加わった。煩くは無く楽しげな酒宴の様子を聞きながら、骨が仲間外れでは可哀想だろうと、ガトーは横たわる骨へ酒を注ぎ掛けた。
「……お騒がせしたの、それでは引き続き良き夢をの」
 ガトーの呟きは微かに響くユリリスのヴァイオリンの音に溶けた。鯨は死ぬ間際まで海を乞うたろう、ならば思うまま砂塵となり、また海に生まれれば良いと旋律は優しく歌う。聞きながらクリュウは嘗ての暖かな思い出――何時か行った暖かで楽しい海と、今はもういない少女の話を物語った。
「亡くなった方々への敬意と感謝が揺らぐ事は無いけれど……生きていて欲しかったです」
 浜辺の光景は美しいけれど死と同様にとても寂しいものだから、とクリュウは言う。黙したまま東を望み紫煙を吐き出すバルバラ。
 沈黙に幽けき鳴弦の音が交じる。遠くで舞うマイトの弓音だ。風に惑う砂礫の如き動きから、砕ける波頭を思わせて激しさを増すマイトの舞。鳴る弓もまた激しさを増して、ヴぁイオリンの音と沈黙と奇妙に調和し、またドンが奏でる鎮魂歌が柔らかく重なった。酒場で聞いてから、ずっと歌ってあげたかった。寂しくないように休らえるように。そう、穏やかだが鯨の様に勇壮な鎮魂歌をドンは紡ぎ出し。
 暖かなカルアミルクを啜って、ズュースカイトは白い息を吐きながら、眼前で憩う巨大な鯨の骨を見る。大きな大きな骨。骨になる前はどんな風な形でどう泳いだのだろうかと過去に思いを馳せる青年の耳に、チャンダナの歌が届いた。冬の浜辺の哀しい光景を愛で、吹き抜ける冷たい潮風に目を細める女の歌は、けれど嵐の夜に見る燈火の如くにどこか暖かだった。
「骨の砕ける音が耳に残った者が居て、俺自身にとっても禍根となった存在があるんでな……志願して来た」
 ポーラリスが言う。バルバラはどこにとは聞かなかった。ただ、あの日から夜に魘され謝りながらあの子は目を覚ましたよ、ずっと長い事、とだけ言い。
「吟遊詩人失格だね。掛けるべき言葉が見つからないよポーラリス」
 そう、帽子を目深に被り直した。

●大魚の骨は深淵の夢をみる
 骨に心奪われヒユラは佇んでいた。瞬きすら惜しみ、静謐な心で骨を見詰める。それから歩み寄り触れてみれば、悠然と泳ぐ鯨の記憶が流れ込んでくる気がしてヒユラは目を伏せ。手に骨の笛、目はその果てにあるロマンを追って、クラウドは飽きもせず海を見る。
 鯨の骨の内側の道は何処までも延々と続いている様だった。骨の淡い白銀と落ちる影の黒の中を、人の骨との差異を語りながらヨルとアヴィスは歩く。寒さも忘れて煌く様な幸福さを溢れさせるアヴィスを見るヨル。
「大好きなものに囲まれて、なんだか胸があったかなのです……」
 毀れた呟きに、アヴィスが柔らかな笑みを返した。
 両親はワイルドファイアの大地に還ったと長老は言ったけれど、でも自分は骨を見ていない、もしかしたら何処かにいるのかも知れないとナーテュはセイモアに語る。自身の手で妹を埋めた時に思い知った様に、いつか心の底からその死を実感する時が来る。その時まで真実も嘘も気休めも言いたくは無くて、セイモアはただ少女の言葉を聞いていた。
「好きな色って、何ですなぁ〜ん?」
 海を見ていたルーネが暫くの沈黙の後ぽつりと口にした問いに、ユビキタスは黒に見える程深い赤と答えた。
「いのちの色だから。獣も人もその色を通ってこの世に現れるのよ」
 語るユビキタスの顔にルーネは微かな情を見る。いのちの色という言葉を聞き、ストラタムは自身の手を見た。脈動する血管。この血の流れが止まった後も持っていくことができる最後の財産とは何だろうかと、拾った鯨の骨に思いを馳せる。
「鯨さん、お疲れ様でした。貴方の生は終っても、僕たちに感動と道具を残してくれたよ。有難う」
 歩数で計る事が難しい位に大きな鯨の骨へ、モコモコが手向ける鎮魂歌。ピートは鯨に纏わる母の昔語りを思い出す。海の揺り篭に揺られ体に貝やら沢山の傷を持っても小さな瞳には慈しみの灯火が宿り、中でも鯨の王者の白鯨は、海のように深く広い心の持ち主なんだと、ピートは言った。熱心に聴きながら、バーミリオンは未だ深き海の底を往く白鯨を瞼の裏に思い浮かべる。
「生きて泳いでる所も見てみたいなぁ……」
 自然と呟きは毀れ。無心に鎮魂歌を奏でるモコモコを見守りながら、骨に手を沿わせ、この鯨は何を見たろうか、数限りない海と生命を見たのだろうかとタケルは海底に思いを向け。メイファは波音響く砂浜に独り座り、暮れ往く陽の中で淡い橙に染まって燃え立つ骨を見た。
(「こんなに優しいおとに囲まれているから……この子はきっと、泳げなくなっても淋しくない、ね……」)
 海が寄せぬ日は無く、寄せれば返し永久の歌を紡ぐ。
 確かにそれは優しく確かで――違わぬ約束の様に、心を慰めた。


マスター:中原塔子 紹介ページ
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作成日:2006/02/16
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