旧モンスター地域復興〜沼に潜む者



<オープニング>


 旧モンスター地域の中でも、比較的リザードマン国領寄りのとある村。
 願いの言葉・ラグ(a09557)は旅団『三柱の社』の仲間達と共にこの村に立ち寄り、モンスターに関する聞き込みをした。
「モンスターについてか。ひょっとしておまいさん方、冒険者かいの」
 細々と小さな田畑を耕す男の問いに、ラグは一言、そうですと答えると、農夫は目を見開いて驚き、そして冒険者達を村長の家に連れて行く。男が村長と思わしき初老の男性に話しをすると、村長は快く冒険者を家に向かい入れた。家の中には部屋はなく、暖炉と台所、収納棚があるだけの簡素な家だ。
「モンスターについて、うちの村の者にお尋ねになったそうで」
 茶を淹れて差出しつつ、話し出す村長。茶は正直、決して美味いものではなかったが、それでも貴重品なのだろう、村長のカップに入っている液体は無色だった。
「村の近くに沼があり、そこにモンスターがいるのです。
 数日前、村の者が畑を耕しに、ノソリンを引いて沼の側を通りかかった時、沼から何本もの触手のようなものが飛び出て、あっという間にノソリンを沼の中に引き込んだのです。
 村の者はそれを見て急ぎ逃げたお陰で助かりましたが、そのモンスターがいつまでも沼に潜んでいるとは限りません。どうか、居場所がわかっている今のうちに、モンスターを退治願えませんでしょうか」
 席を立って頭を下げる村長に、ラグは頭をお上げ下さいと恐縮して言った。
「わかりました。我々で手を尽くしましょう。モンスターの特徴や、変わった出来事とかはご存知ですか」
「村の者が逃げる途中、何かが水音がして振り返ったのですが、そこには一見誰も何もいなかったそうです。ただ、塗れた地面の側に、おぼろげに人型の、恐らくモンスターが見えたとか。
 あと、ノソリンの件以降、狩猟を生業にする者が、何度か夜に草原で動物の悲鳴を聞いたそうです。動物の量も明らかに減っているらしく。これがモンスターと関係があるかはわかりませんが……」
「成程……」
 これらの情報が何を指しているのか。ラグが思索に更け始めた所で、村長が、数日ゆっくりなさって下さいと寝床の提供を申し出た。部屋の概念が無いこの家を、カーテンで男女の敷居をしただけの簡素なものだが、ラグたちは村長にとって出来うる限りの好意である事を理解し、ありがたく受け取った。

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参加者
緋天の一刀・ルガート(a03470)
蒼海の剣諷・ジェイク(a07389)
気儘な矛先・クリュウ(a07682)
願いの言葉・ラグ(a09557)
エンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)
月笛の音色・エィリス(a26682)
蒼翠弓・ハジ(a26881)
有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)


<リプレイ>

●魔の軌跡
「これくらいあれば大丈夫でしょうか?」
 エンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)は両手に抱えていた小枝を、その場に下ろした。枝は既に集められていたそれの上に、更に山を築く。
 冒険者は手分けをして、調査と準備を行っていた。準備は、今彼女が行っているように小枝を集める事。贅沢を言えば、できるだけ乾燥しているものがいい。沼近辺におちている枝は湿ったものばかりだが、草原に足を踏み入れるとそこそこ乾燥しているものが手に入った。
「そうだな、そのくらいあれば十分だろう」
 周辺の調査に出ていた有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)が、近くの岩棚の上で、手にした羊皮紙を広げる。
 その羊皮紙には、この辺の簡単な地図が、そして地図の中に線とバツ印が、まだ乾ききっていないインクで描かれていた。
「このバツ印の場所に、死体があったのですね」
「ああ。肉食獣が獲物を食べた後のような獣の死体があった。獲物をその場で捕食し、基本的に1頭を食べると戻るらしい」
 引き込まれないように沼から距離を置き、足跡―それはヒトの素足に良く似ていた―を追ったところ、死体の所で足跡は踵を反していた。獲物が小さい場合は満足行かなかったのか、もう一頭を狩っていたようだが、それでも2頭が限度である。
「進路は読めそうですの?」
「特定のどこと指定するには至っていない。だが候補は何箇所かある。沼岸が比較的深めの場所だ。岸まで忍び寄るのに適している所、なのかもしれない」
「ではその候補の場所に枝を撒きますのね」
「そうだな。候補の場所は……」
 マカーブルはペンにインクをつけ、ざっと印を刻んでいった。

●闇夜のエルフ
 踏めば鳴るように小枝を撒き、二手に分かれて待機する冒険者達。緋天の一刀・ルガート(a03470)達は草原側、月下幻想曲・エィリス(a26682)達は沼に近い位置に、予測に基づき潜んでいた。
 そろそろ太陽が地平線に沈みだす頃。
(「そろそろですわね」)
 体臭を抑える液体を塗り、周囲の草を体に擦り付け、フードを目深に被った状態で待機していたエィリスは、より周囲の音や気配に神経を尖らせた。今のところ、怪しい気配はない。
 モンスターが陸に上がるのは夜。沼に引き込まれる危険を避け、張り込んで出てきたところを叩くのが今回の方針である。
 沈黙と共に、陽は地平線の中に消えていく。空が燃える炎の赤を隠すように星空の天幕が追いかける。日が沈むと共に、瞳に映るものから彩が失われゆき、群青の世界が訪れた。
 蒼海の剣諷・ジェイク(a07389)もエィリスと共に周囲を見張っていたが、運悪く空は曇り出し、月の光もあまり大地に注がれずに視界に頼って得られるものは限られていた。視界による探索を諦め、一同は他の感覚に集中する。全員が鎧の継ぎ目に布等をかませるなど消音の工夫をしており、自身が発生する音はあまりない。聴覚から得られる周囲の様子からは、まだ動きは感じられない。
 風と共に草が揺れ擦れる音が周囲に響く。その音の中に足音などが混ざっていないかを、願いの言葉・ラグ(a09557)はじっと耳を澄ました。その隣ではルガートが目を凝らして周囲を見回している。
 他の仲間と異なり、エルフ族であるルガートは、エルフの夜目を使う事ができる。それで見る事ができるのは熱量差のみではあるが、月明かりも不十分な暗い世界での索敵には、それは十分な役割を果たしていた。
 近くの大地に横たわっている2メートル足らずの明るいものが3つ。伏せて待機をしている仲間だ。遠くに四つん這いの光が見える。恐らくは草原の動物だろう。絶対とは言えないが人型であったという話から、モンスターである可能性は極めて低い。沼側に目を向けると、エィリス達であろう光が4つ。他に目立ったものは見当たらない。

 ざばっ。
 沼のどこかで水音、それに続いて枝を折る音がした。エィリスは自分達が張っている場所ではない事を、水音から判断した。もし自分達が接触した場合は、ジェイクがホーリーライトで明かりを灯して合図をするはずだった。エィリスは張り込み付近ではないことを、ハンドサインでルガートに連絡した。
(「何処だ、何処にいる!?」)
 ハンドサインを受けて、予測された複数個所を素早く見渡すルガート。返答は返さない。返しても恐らく見えないからだ。そして、仲間達よりもかなり暗い人型の光源を見つけた。モンスターの大きさが人と同じだとすると、距離は近い。
「ラグ!」
「了解しました」
 光が生まれた。ラグの頭上に白い光の冠が生まれる。その光に映し出された姿は、腕から幾本もの触手を生やし、全身が鱗に覆われた人型で、魚のような頭部を持ち、昆虫の複眼のような、半分はみ出た巨大な目をもち、口にはサメのような鋭い牙を生やしていた。
 ――禍々しい。――それがその姿を見た冒険者共通の感想だった。

●逃さない!
「いきますよ」
 蒼翠弓・ハジ(a26881)は背丈程の大きな弓を構え、射程内にモンスターを捉えると、予めメイフェアから渡された顔料瓶を括り付けた矢を射った。同時にキルドレッドブルーが転移・融合し、矢はモンスターに刺さり、割れた瓶がモンスターを赤く染めると同時に、炎と氷で包む。
 それでもなお、モンスターの身は光と炎の色に溶けようとする。強い保護色の能力を持つらしく、その身が見る見る間に昼の背景然とした色に変わっていくが、炎と染料のおかげで身を隠しきれない。
 ハジと一緒にいたラグ、ルガート、マカーブルの3人がモンスターに接近しつつ、武器に力を宿す。術手袋、巨大剣、大鎌が使い手にとって理想の形に姿を変え、モンスターの目の前で構えられる。身動きができないモンスターに向け、アビリティの矢や斬撃が叩き込まれた。
 モンスターが氷を破り、触手を肉付きがいいラグ目掛けて4〜5本伸ばす。絡みつかれ、儀礼服と鱗を通して感じる鋭い痛み。触手の中に細く鋭い針が仕込まれているのだろう。痛みを感じた場所から徐々に感覚が失われていく。
 触覚やその感覚を振り払い、ラグは懐に潜ませてあった小さなガラス瓶を投げつけた。非常に脆く作られたのか、ガラス瓶はモンスターに当たるだけで砕け、中から香る液体が染料と同じようにかかる。万一見失ったとしても、これで匂いで追う事が出来るだろう。
 染料や香水といった慣れないものに不快感を感じたのか、モンスターは冒険者の攻撃をかわしつつ、身に浴びた液体を洗い流そうと沼に駆け込む。
「まずい!」
 ハジが急ぎ矢を射りるが、安定して矢を当てられる距離から離れた為に矢は虚空を切るのみ。炎が消え、染料がついているにしても上手く溶け込もうとするモンスターに光の色を変えて、見失わないようにしながら、冒険者達は必死にモンスターを追った。
「お待たせしました」
 方天戟の刃が、モンスターの横から大きく空を薙ぐ。白い羽毛のようなものが何枚か舞い、振り下ろした所で武器を止めて気儘な矛先・クリュウ(a07682)が構えなおすと、羽毛の塊が彼を守るかのように漂う。
 不意の一撃を避ける為に一瞬動きを止めたモンスターを、ジェイク、メイフェアが沼へ戻すまいと壁となる。壁の後ろではエィリスがヴィオラを肩に当て、支援の体制をとった。
「今まで人の被害が出ていないのは全く幸運でした。次はそれを運では無くします」
 クリュウの言葉に、仲間は瞳でうなずく。モンスターを囲む冒険者達。戻る事が叶わないと悟ったモンスターは、沼側に立ちはだかる4人に向けて触手を振るう。その攻撃をジェイクは避けたが、メイフェアとエィリス、クリュウの3人が捕らわれる。
「っ! 力が、……入りませんの」
 本数が分散している為に引き寄せる力こそないものの、マヒ性の毒はメイフェアとエィリスを蝕む。マヒのみが目的であったためか、彼らをなでると触手はあっさりと彼女らを解放しようとするが、クリュウは自身に伸びている触手をぐっと掴んだ。クリュウは避けられなかったのではなく、逃さないように受けにいったのだ。
 エンジェルの少女2人の拘束に使っている触手を、マカーブルとルガートの2人がそれぞれ切り離す。身に侵された毒を浄化するべく、ラグを中心に爽やかな風が流れる。その風に触れ、痺れる感覚も通常の感覚に戻った。
「逃がさねえぜ。お返しだ!」
 鞘の中から引き抜かれた両手剣エクリプスの黒き刃が、眩い稲妻を帯びつつ、三日月の如く弧を描いてモンスターを斬った。雷撃がモンスターの身を駆け抜け、触手に仕込まれた毒よろしくモンスターの動きを止める。
 ヴィオラの音色が力となり、触手に打たれた体を癒す。幸い打撃そのものはそれ程ではない為、全員に万全の体調を整えた。何人かに鎧聖降臨を施したメイフェアが槌を上段から守護天使を宿した一撃を振り下ろし、左の肩に衝撃を与える。
「決めますよ!」
「大人しく黄泉路へ立つがいい」
 ハジの矢がモンスターを再び射抜き、冷酷に言い放つマカーブルの達人の一撃とルガートのデストロイブレードが半身を消し去り。クリュウが再びホーリースマッシュを頭上から叩き込むと、モンスターは肉の塊となって絶命した。

●安堵
「これでひとまず、不安な日々を過ごされている村の人達が安心できるようになりましたの」
 重い兜を脱ぎ、額の汗を布で拭ってメイフェアは使命の達成に安堵した。それを受けて、ルガートは自分の想いを吐露する。
「……相変わらず厳しい場所だな。でも、こんな場所でも離れがたい故郷として暮らし続けてる連中がいる。……荒れた土地をすぐに豊かにすることはできねぇけど、せめてモンスターを倒して少しは安心して暮らせるようにしてやらねぇとな。……これで、宿とお茶のせめてもの礼になっただろうか」
 そして、言った後に顔を少し赤らめる。らしくない事を言ってしまったかもしれない、と。
「村人の憂いは確実に除かれた。十分だろう」
 冷静に言うマカーブル。
「それにしても。もう、暫く触手は見たくないな……」
 まさかそんな言葉がクールな彼の口から出るとは思わなかったのか、一同は腹の底から笑い、そして退治の報告をしに村に戻るのだった。


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