【キーゼルの誕生日】青空の下の市場で



<オープニング>


 その日、ストライダーの霊査士・キーゼルは、一枚のビラを眺めている所だった。
 ビラの上部には、大きく『ピチェラの青空市』なんて文字が書いてある。
「……ああ、これかい? 知り合いに貰った物なんだけどね。南の街で青空市が開かれるらしい」
 一体何だろう、とでも言うかのように見つめて来る視線に気付いたキーゼルは、顔を上げると、そう簡単ながらも説明を始めた。

 ――遠くの街で仕入れた名産品を持った行商人、自分で作った品物を抱えた職人、あるいは、家の片隅に置かれた不用品を誰かに譲り渡したいという主婦や老人、更には子供まで……。
 そんな様々な人達が集まって来るのが、ピチェラの街の青空市。
 時には思いがけない掘り出し物に出会える、面白い場所……というのがキーゼルの言だ。
「ちょうど時間もあるし、久しぶりに行ってみようかと思ってね。何か、面白い掘り出し物に出会えるかもしれないし……ああ、良かったら、君達も一緒にどうだい?」
 話していた途中で、キーゼルはふと何かを思いついた顔になると、そう周囲にいた者達に誘いかける。
 一人で行くよりは、その方が賑やかだろうし。互いに見つけた掘り出し物の情報交換なんかも出来るだろうから……と付け加えつつ、キーゼルはもう一度「どうする?」と問うのだった。


 ピチェラの街で、次の青空市が開かれるのは、2月9日。
 それがキーゼルの誕生日だと思い当たった者は、「誕生日なんて祝うような年じゃないけど、まあ折角だし、プレゼント代わりに何か買う事にするかな」とでも考えたのだろうと、推測するのだった。

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参加者
NPC:ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)



<リプレイ>

 2月9日。ピチェラの街には青空が広がっていた。
「おにーちゃん! お誕生日おめでとうっ!」
 現れたキーゼルを出迎えたのは、そう腰へ飛びついて来た天紫蝶・リゼン(a01291)。
「おや、ありがと」
 相変わらずだなと笑いつつ振り返るキーゼルの言葉に、リゼンは彼に久々に会えた事と、朝一番にお祝いが出来た事を、嬉しそうに笑う。
「キーゼルお兄ちゃん、30歳のお誕生日おめでとうございますぅ♪」
 そこに近付いて来たドリアッドの医術士・クレア(a06802)は、キーゼルを見上げて一つ尋ねる。
「クレアは30歳を越えた男の人は『おじちゃん』て呼んでいるんですけど、キーゼルお兄ちゃんて呼ぶのと、キーゼルおじちゃんて呼ぶのと、どっちがいいですか?」
「え? そうだねぇ……ま、どちらでも構わないよ、好きな方で」
 子供特有の無邪気な視線を受け、多少面食らいつつも答えるキーゼル。元々、呼びたいように呼べば良いという性質らしく、その二択もどちらになろうと構わないようだ。
「キーゼルも遂に三十路になったのじゃなぁ……」
 しみじみ呟いた宵咲の狂華・ルビーナ(a00172)は、用意しておいたプレゼントを取り出す。
「折角の誕生日なのじゃからコレをやろう。かの高名な冒険者が愛用したと云う、岩山をも両断するとさえ云われた伝説の巨大剣!
 ……の柄じゃ」
 実に胡散臭い謂れだが、キーゼルの好みには合ったようだ。心からの礼を述べつつ受け取る。
「キーゼルはん、あの辺りから見るのはどうやろ?」
 様子を見計らい、レディ・リーガル(a01921)はキーゼルを促す。
 近く旅に出るつもりのリーガルは、来年の誕生日を祝ってあげられるか判らない。なら、今年は目いっぱい祝ってあげようと、そう考えて、プレゼント探しを兼ねて歩き出す。
「靴なんてどうやろ? キーゼルはん、あちこち出歩くの好きやし」
「じゃあ有難く、良い物を見つけたら頼もうかな」
 言葉を交わしつつ、市の見物へと繰り出すキーゼル。他の冒険者達も歩みを進める中、その一連の光景を見ていた大凶導師・メイム(a09124)は、ふと心の内で感想を漏らす。
(「キーゼルさんは相変わらずもてる……これなら、ホストでも充分生計を立てられたかも知れぬな」)
 どこか感心した顔で大真面目に思いつつ、メイムは自身も散策しようと歩き出す。雰囲気の良さそうな場所を見つけたら、後で密かに誘導しようかと考えながら。
(「キーゼルさんもそういう事を気にした方が良い年頃だと思うのだが……私も、人の事は言えんか」)
 ふと我が身を思い、少し苦い顔になるメイムだった。

「わぁ……すごくいっぱいでおもしろそうだよぅ〜」
 混沌の闇に舞う光の風花・クローネ(a27721)は、ウキウキとした様子で青空市の様子を見回す。今回のお目当てはリュックサック。クローネは愛猫のナーシャを抱きながら、可愛いリュックが無いかと、きょろきょろ見回す。
「たまには、こういう場所も悪くねぇかな」
 乱波・イズティーン(a41520)は呟くと、何となくフラフラするだけというのも良いが、せっかくだから何か……風流そうな掘り出し物を探してみようと、路上に立ち並ぶ店を覗きながら歩く。
「お風邪ですか? ならクローブのお茶はいかがでしょう?」
 その中には、楽風の・ニューラ(a00126)が開く、自家製ハーブティの店もあった。彼女は植物知識を生かしつつ、訪れた人の話に合わせて、調合したハーブティーを渡す。
「なるほど、こうやって適当に空いてるスペースを使って良い訳か」
 そこから程近い場所に空いていたスペースには、朽澄楔・ティキ(a02763)が足を止めて荷物を置く。
 珍しい機会だから、自分も売る側に回ってみようかと考えたティキは、何種類かの植物の種や苗を持参していた。育て方のメモを添えて、それらの品を並べてみると、彼と同様の趣味だと思わしき者達が、興味を持って覗き込んで来る。
「楽しそうな店が色々と並んでるな」
 友人のプレゼント用に良い品が無いかと、青空市を散策していた狼牙の守護神・アールグレイド(a15955)は、実に幅広いバリエーションの店が並ぶ市場の様子に、これでは何を買うか選ぶのが大変そうだと、困ったような笑みを浮かべる。
「そういえば彼女、甘い物がお好きでした……」
 同様に、親しい友人の誕生日が近いからとプレゼントを探していた、綺夜煌星・セロ(a30360)は、食べ物を扱う店が幾つか集まる一角に差し掛かると、そうふと思い出して。お菓子の店を覗くと、焼き菓子の詰め合わせを贈る事に決める。
「あら、これなんて良いかもしれませんね」
 凱風の・アゼル(a00468)は足を止めると、目にしたペーパーナイフを手にする。何かキーゼルのプレゼントになりそうな物を……と探していたアゼルは、いつも静かに読み書きしていそうなイメージがあるし、シンプルだが使いやすそうなこれを、贈る事にしようと決める。
「色々な店が並んでいて、楽しいでござるな」
 ゆったりとした足取りで歩きながら、冷酷なる飄蓬の暗殺兵・エイジ(a16746)は並ぶ店々を覗き込む。店の主に声を掛け、アドバイスを求めつつ、エイジは希望に沿う品が無いかを探しながら、青空の下の市場を歩く。
「髪飾り、いかがですか〜?」
 辺りに響いたのは、不思議の国の白百合姫・ルシェル(a28119)が店から呼びかける声だ。レースの布が敷かれた上には、花のレースをたっぷり使ったヘッドドレスやリボンなど、ルシェル手作りの髪飾りが並び……可愛らしい品を好む人々が、足を止めて手に取った。

「なかなか見つからないか」
 彷徨える龍の器・ヒサギ(a43024)は青空市を散策しながら呟く。衣服や日用品など、生活に密着した品が多い中で、彼が探す防具の類はなかなか見つからない。
 けれど、これだけ賑わっているなら、防具を扱う店も1つや2つはあるだろう。ヒサギは通り掛る者に情報交換を持ちかけつつ、防具探しを続ける。
「ヒメちゃん、あれあれっ」
 そんなヒサギとすれ違いながら小走りで行くのは、辿り着く詩・ルナ(a42229)だ。舞龍姫・ヒメラ(a40969)と一緒に向かうのは、何種類かの動物を並べたお店。
「可愛い子ばっかりやなぁ〜ん♪」
 動物達を見つめ、ヒメラは目を細める。と、そんな彼女に「コンニチハ」と声が降りかかる。一体何だろうと顔を上げると、パチリと目があったその相手は……オウムだ。
「わわ〜!? 凄いのなぁんっ、都会の鳥って喋るんやなぁ〜んっ! うち、知らんかったのなぁんっ」
「違うよー、本当にしゃべってるんじゃないよ?」
 何度も瞬きして、あんぐりと口を開けて驚くヒメラの様子に、ルナは説明してあげながら一緒に鳥達を見つめる。
「うわぁ、青い鳥!」
 二人の近くでは、ドリアッドの吟遊詩人・コアセル(a43796)が、青く綺麗な鳥を見つけて声を上げた。
 この子が気に入った、と貰い受ける事にするコアセルだが……手にした鳥のくちばしに、思いっきり突付かれて、たまらずに涙目になる。
「あ……」
 武具の類を探していた鍛冶屋の重騎士・ノリス(a42975)は、視界に入った品に思わず足を止めた。
 それは剣。波打つ刀身は綺麗で、それなりに実用性もある物のように見えた。
 ノリスは即座に店の主に声をかけると、これが欲しいと交渉を持ちかけて……数分後、それを携えて歩き出す。
「見つかり、ませんね……」
 そんなノリスとすれ違った、大地の永遠と火の刹那・ストラタム(a42014)は浮かない顔で呟く。彼女がずっと、ずっと探していたのは……生死すらわからない姉の姿で。でも、それでも諦められないと歩くストラタムは、とある店先に小さな青い指輪を見つける。
(「……似ています……」)
 姉の指輪に。そう思ったストラタムは、その指輪を購入し……いつか、本当に廻り逢える事を祈りながら、ゆっくりと歩き出す。
「うーん、これなんて良いかな?」
 守り刀になりそうな物が無いか、店を見て回っていた瘋詠緋骨・ズュースカイト(a19010)は、木製の柄をした小さな剣を見つけると、それを購入する。そのまま、腰を下ろせそうな場所を探すと、ズュースカイトは柄を手にし……そこに、守りの風の紋章をと、刻み始めた。

「めずらしいもの、興味ありません?」
 そう小首を傾げつつ、通りかかる人に声をかけているのは、紫嗚の夢・アルネイア(a18137)。足を止めるのが男性ばかりなのは……彼女の露出の高さと、どこか魅惑的な語り口の影響に違いない。
「ここの画材、普通じゃ見られないものも売ってるんですよー!」
 にっこり笑いかけるアルネイアの後ろには、蒼狼よ臆せずに泣け・イコ(a30456)らと一緒に、画材や文具などを持ち寄って開いた店がある。
「この色なんてお勧めだけど、どうかな?」
 商品のすぐ脇では、イコが女性客の相談に乗りながら、愛想よく接客を行っている。
「あ、お嬢さん……絵は、お好きですか?」
 では自分も、と呼び込みに向かった愛犬家・セレ(a32156)は、一点の曇りも無い微笑みと共に、道を行く女性に近付く。……その仕草はどことなく、ナンパのように見えなくもない。
「購入されなくとも……あちらで似顔絵を描いていますから、良かったらどうぞ」
 そう誘いかけたセレが視線を向けた先には、画用紙に向かって似顔絵を描いている、寒い日は鍋と熱燗そして・ツバメ(a32416)の姿がある。彼女は趣味の絵画の腕を生かし、実演販売の真っ最中だ。
「さ、完成どすえ。この似顔絵に使った色鉛筆と水彩絵具が、なんと驚きのこの値段。愛する恋人や可愛いお子様へ、いかがどすか?」
 完成した絵を前に宣伝を忘れないツバメ。流石はチキンレッグという所か。
「……あんまり無茶はするなよ〜」
 そんな客寄せの面々に小さく言葉をかけつつ、荷物運びや在庫整理に専念しているのは、風と焔の放浪者・ディーン(a32427)。何かが売れたら品を補充し、見栄えが良くなるように気を配りながら、陳列具合もチェックする。
「全部売れると良いでしなぁ〜ん」
 ジャングルでかくれんぼ・カシュカシュ(a38621)は、その様子を眺めつつ目を細める。売り切れたら皆と買い物にも行けるはず。きっと楽しいだろうから……その為にもお手伝いを頑張ると、カシュカシュは満面の笑顔で接客を行った。

「キーゼルさん……少しお持ちします、です」
 青空市を巡るキーゼルと共に歩いていた、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、くすくすと笑いながら手を伸ばした。
 箱やら、袋やら。あれやこれやと彼が言う所の『掘り出し物』を買い集めるうち、それは彼一人では抱えきれない程の量になっている。
「……じゃあ、これを頼むよ」
 その申し出にキーゼルが渡したのは、小さなランプが入った包み。荷物の中で最も軽そうなそれを受け取ると、メルヴィルは再び歩くキーゼルの後ろに続く。
「あ、キーゼル〜、いいところにっす♪」
 そんな中、キーゼルの姿を目にした、緑の記憶・リョク(a21145)は大きな声で彼を手招いた。
「誕生日なんすよね? お祝いに特製ブレンド『アオジル』飲ませて差し上げますっす♪」
「………遠慮しておくよ、うん」
 実に爽やかな笑顔で誘うリョクの後ろには『緑翠館』『アオジル』の幟が付いた屋台。その光景に、キーゼルは実に嫌な予感を感じ取ると、明白に「要らん」という顔で返す。
「えー?」
「あ、館長さん。こんにちわ」
 そう遠慮せずに、と更に勧めようとするリョクに脇から声が掛かる。緑翠館の一員でもある、久遠の時を想う者・レラ(a40515)だ。
「いらっしゃいっすよ〜♪」
 レラと、彼女の隣に立つセイレーンの武人・ガイ(a42066)を出迎えたリョクは、二人にもアオジルはどうかと勧めてみる。
「ガイさん、どう?」
「ん……」
 レラの視線を受けたガイは、何か企んでいるのではと、微かに不安に感じながらもグラスを手にし……一口飲んだ次の瞬間。
「………」
「えー、と。大丈……?」
 夫、じゃなさそうね……と、青い顔で俯き黙り込むガイの姿に、レラはひとまず水を差し出す。
「……ああ、キーゼル様」
 その間に屋台を離れたキーゼルに、此岸に咲く緋の華・クスリ(a16757)が気付いて声をかける。彼女は三味線を手に、路上ライブを行っている所だった。
「お誕生日おめでとうございます。一曲贈っても宜しいですか?」
「曲を?」
 じゃあ聞かせて貰おうかな、と足を止めたキーゼルを前に、クスリは弦を弾き始める。
「えっへへー」
 そこに、目当ての品を手に入れ、ご満悦な様子の月葬詠・ツバキ(a25425)が歩いて来ると、キーゼルの姿に気付き、用意していた小瓶を取り出す。
「お誕生日おめでとですよぅーッ!」
 そう笑顔で渡した小瓶の中身は、紫色の金平糖だ。
「へぇ、良いね。ありがと」
 小瓶の中身を日に翳しつつ、キーゼルは目を細めて礼を告げる。
「キーゼルさん、本当に今日はめでたいですね!」
 そこに、今にもスキップしながら踊り出しそうな様子の、超騎士・ヴァイス(a25660)がやって来る。
 超ハイテンションな様子で、ほくほくとした笑顔と共に紡ぐヴァイスの様子から察すると、どうやら彼は余程良い物を手に入れたらしい。
「……そうだね、おめでとう」
 そう推察してのキーゼルの言葉を受けながら、ヴァイスは実に軽い足取りで去る。
「おめでとう! 誕生日にこういう賑やかで楽しい催しがあるのは最高だな!」
 入れ替わるようにやって来た、砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)は、そうキーゼルに言葉をかけると、荷物に目をやり、何を買ったのか問いかける。
「そうだねぇ。置物とか、ランプとか……古いメダルなんかもあったかな。ま、色々さ。そっちは?」
「ん、俺か? 俺は防寒具をな」
 ランドアースも北に行けば冷え込む。……以前、寒さと飢えが理由で盗賊になった村人達がいた事を、デューンは脳裏に浮かべる。あの時には何も出来なかったが、これからは。復興、そこが豊かになるよう力を貸す事ならば、きっと出来るはず……。
 そんな気持ちを胸に、荷物を掲げるデューンに「そっちも見つかって良かったじゃないか」とキーゼルは笑うと、ふと空を見上げる。
「さてと、そろそろ帰るとしようか」
 空は徐々に赤く染まり始めている。賑やかだった青空市も、人の姿はいつしかまばらだ。店の数も一つ、二つと消えて……もうじき、ここは何の変哲も無い、ただの街角に戻るのだろう。
 何も無かったかのように。
「……だからこそ、楽しいんだろうなぁ」
 一日だけ現れた、青空市での時間を楽しんで。冒険者達はまた、いつもの日々へと帰るのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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参加者:36人
作成日:2006/02/19
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