【精力剤の材料探し】熊の肝



<オープニング>


「精力剤の材料もあとふたつ。今回はなかなか手強いのだそうで」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)が薬屋から受け取ったメモを広げて、ゆっくりと読み上げた。
「東の山間に出現するようになった、巨大暴れ熊の肝――ということです。熊の肝は大変健康にいい薬だと広く知られていますが、その暴れ熊のならば、普通のよりも数段効果が高いだろうと薬屋さんは言います」
 巨大というからには、おそらく突然変異なのだろう。シィルは悲しげな顔になる。
「これまでにも何人かの勇敢な人たちがハントに行ったそうですが、ことごとくやられてしまったということで……。単純に地域の安全のためにも、お願いしますね」

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参加者
剣難女難・シリュウ(a01390)
外法蜘蛛・ジュウゾウ(a03184)
唸る豪腕・ログナー(a08611)
闇夜の礫・レイジ(a23690)
前進する想い・キュオン(a26505)
自由の翼・ヨウ(a30238)
翠玉の語り部・ジーマ(a32277)
毒杯・リヴァ(a32814)
桃ノソリンの行かず後家・トロンボーン(a34491)
ボクは飛べないヒトフワリン・アミラッカ(a37460)
祈りの花・セラフィン(a40575)
豪華絢爛疾風怒濤・レイム(a43749)


<リプレイ>


 山へ入る前に、外法蜘蛛・ジュウゾウ(a03184)の提案で冒険者たちは付近の村へ入った。情報収集と、熊の犠牲となった人々の墓参りのためだ。
「あんなのを倒せるのは冒険者以外にはない、そう言って主人は亡くなりました。本当に来てくださるとは、ありがたいことです」
 案内してくれた婦人は目を濡らしながら語った。冒険者たちは全員で墓に手を合わせ、冥福を祈る。沈黙が終わると、闇夜の礫・レイジ(a23690)が尋ねた。
「何か、熊の生態についてはご存知だろうか」
「通常の個体より、縄張り意識が強力なようです。かなり遠く離れていても匂いを嗅ぎ分け、恐ろしい速さで走ってくるとか。そうしたらまず逃げ切れないと」
 答えて、冒険者たちを不安そうに見る。本当に大丈夫なのかと疑うのは無理なかった。
「必ずいい知らせを持って、また来るからねっ」
 黒きぬくもりを抱く白翼・リヴァ(a32814)の言葉に、婦人は頷いて涙を流した。


 山はとにかく広いし、相手も一箇所に止まっているわけではない。探して回るというのは困難だ。そこで囮作戦を取ることにした。婦人の話どおりなら、縄張りへほんの少し入っただけで、熊はその侵入者を許さず飛んでくるはずである。
 勇敢な犠牲者が歩んだという山の道のりを、冒険者たちも辿る。わずかの異音も聞き漏らさぬよう、静かに、だが闘志を燃やして。
 ほどなくして、まるで暴風が木々や草を砕き散らすような――破壊音を聞いた。囮役の剣難女難・シリュウ(a01390)、自由の翼・ヨウ(a30238)、盾地と鉄他と・トロンボーン(a34491)、エルフの武道家・レイム(a43749)は咄嗟に身構えた。
 そうして、件の巨大熊は目の前に躍り出た。あまりにも大きいため、ずいぶん遠くからでも視認出来たのは救いだった。囮の四人は充分に戦闘態勢に入っている。
 ……それにしても大きい。まるで家だ。もともと一般人より大きい熊が巨大化したのだから、こうなると猛獣ではなく超獣というのがふさわしいだろう。
「では、怪我をしないようにやりましょうか」
「はいなぁ〜ん」
 シリュウとトロンボーンは鎧聖降臨を発動して、自分と仲間の防具を大きく変形強化した。
 熊が高速突進を開始する。向かった先はヨウだ。
「はぁ……よくもまぁ、こんだけでかくなったもんだな」
 紙一重で回避するという真似は危なくて出来ない。ヨウは早めに横っ飛びして、着地と同時にウェポン・オーバーロードを発動。長剣に外装を付加し、牽制する。
「無理は禁物、無理は禁物……」
 レイムは自分に言い聞かせ、前衛に立ちながらも積極的に仕掛けはしない。いつ向かってこられても避けられるように腰を落としている。自分たちの役目は、熊の注意を引き付けること。やや離れたところで、仲間たちは絶好の機会を狙っている。
「――俺が動きを止める」
「頼みますよ。そこが勝負所です」
 前進する想い・キュオン(a26505)はいつでも発射できるよう矢をつがえ、唸る豪腕・ログナー(a08611)はウェポン・オーバーロードで篭手を強化する。
 熊はシリュウに前脚を振り上げた。豪腕はシリュウを盾ごと吹き飛ばし、樹木に叩きつけた。だが力を込めた反動で、熊は硬直している。
「……今だよ!」
 リヴァが小さく鋭い声を発した。キュオンがホーミングアローを射た。光る矢が熊の脚に命中。その瞬間を逃さない。樹上に登っていたジュウゾウが粘り蜘蛛糸を広げ――絡ませた。熊は忌々しそうに唸りながら、ひっつく糸を退けようとする。待機していたメンバーが駆けつける。
「――隙だらけだ」
 レイジが音もなく颯爽と接近し、忍びの秘技バッドラックシュートを撃つ。左前脚に不吉な絵柄のカードが食い込んで黒く変色する。侵食する悪しき力に、熊は恐れるように喚いた。
 肝を取るのだから、下手に胴体を傷つけるわけにはいかない。狙いは頭、前脚あるいは後脚に限定されるわけで、意外に厄介なものだ。まだまだ油断は出来ない。
「よーし、全開なぁん!」
 有効打のために自身を高めるのが先決――そう考えたボクは飛べないヒトフワリン・アミラッカ(a37460)がマッスルチャージでパワーを上げる。
「あの巨体の前では気休めかもしれませぬが……」
 孤独を抱く月の雫・セラフィン(a40575)は土塊の下僕を誕生させ、仲間の盾とする。冒険者たちの体勢はここに来て万全となった。
 敵は全山に轟けとばかりに大音声で吼える。イライラが頂点に達したのだ。まだ絡みつく粘り蜘蛛糸に構わず、体を丸めて転がった。さながら鉄球のような一撃がアミラッカの肩にかすった。痺れ。さすがの威力だ。しかし焦る必要はない。傷ついたなら治せばいい。翠玉の語り部・ジーマ(a32277)が歌を紡ぐ。
「我が声と共に響け♪ ……届け、癒しの力よ」
 高らかな凱歌を聞いた冒険者たちは、全身に力が収束するのを感じた。
 戦闘も佳境。キュオンは細かに移動しながら、撃つべき場所を見極める。ややあって、やはり動きを鈍らせるのが重要課題と判断し、電光一閃ライトニングアローを右前脚に射た。ログナーも背後から後脚を狙ってソードラッシュを繰り出す。
 熊が移動するたびに地面に赤い染みが生まれる。だいぶ血が上っているようで、血流が多い。だが未だ元気そうだった。
「さすがに丈夫だね。でもこれならどう?」
 快気放出、リヴァがひとっ飛びして横っ面に斬鉄蹴を見舞った。さしもの巨大生物といえど脳味噌を揺さぶられてはたまらなかった。初めて転倒する。すかさずシリュウがジャンプした。さらに動作停止させんと、急降下しながら稲妻を帯びた鋼の剣を突き刺す。放電音と熊の悲鳴が重なった。
「……あまり苦しませたくはないのですが、冷徹になりましょう」
「早いトコ、二度と起き上がれないようにしないとな」
 ジュウゾウとレイジが太刀を振るい、さらに四肢に裂傷を与える。続いてヨウも先ほど強めた武剣をしっかりと握り、絶望を与えるために熊の視線の真正面から近づく。――ザン。達人の一撃でもって右前脚を切断した。
 苦痛に歪んだ叫びが響く。そして熊は起き上がった。冒険者たちはさらに緊張感を高めた。手負いの獣が危ないのは常識である。普段以上に生への執念に満ちているからだ。
「首を狙うなぁん。これ以上は忍びないなぁん」
 トロンボーンがホーリースマッシュを撃った。首に命中するのと同時に、熊の豪腕が彼女に当たった。護りの天使のおかげでダメージは軽減された。一方熊はさすがに急所への一撃がこたえたらしく、大幅に体がぐらつき始めた。
「そろそろ決着をつけるなぁ〜ん。もう一度倒すなぁん」
 小刻みに動いて翻弄するアミラッカ。横に抜けるのと同時のデストロイブレードが熊のアキレス腱を破壊し、宣言どおりに敵を転倒させた。まだ何があるかわからない。セラフィンは緑の束縛で熊を覆い、ジーマは引き続き治癒の声を広げた。
「さあレイム様、とどめを」
「もし怪我しても治癒は引き受けるよ。思い切り行ってみるといい」
 レイムは感動した。初心者の自分をここまで気にかけてくれるとは。
 彼女は奮い立ち、恐れを吹き飛ばし、一気呵成に距離を詰める。
「……もらったぁーっ!」
 渾身の旋空脚が首に入った。ゴコリと鈍い音がし、確かな手ごたえだった。巨大熊はぐるぐると低い断末魔を残し、だらりと四肢を伸ばす。大きな痙攣が数回続き、数秒もするとパタンと動かなくなった。
 少しだけ休憩を取った後に、肝を抜くためにその場で熊の腹を捌いた。文字通り肝心な作業である。
「血みどろになるから、そういうの嫌いな人は見ない方がいいなぁん」
 トロンボーンが言った。周囲はたちまち血の匂いで充満する。
 気を配った甲斐あり、少しの損傷もない綺麗な内臓が見えた。細々とした血管や神経を丁寧に切り取り、ようやく抜き出すことができた。色艶に優れた、健康そうな肝である。
「……でかいな、やっぱ」
 ヨウが言う通り、肝は両手で抱えられないほどずしっと重い。アミラッカが言った。
「やることはやったし、戻ろうなぁん」
 熊の死骸を埋葬すると冒険者たちは村へ引き返し、無事に熊を退治出来たことを報告した。犠牲者の家族をはじめ、村人たちはただただ感謝して頭を下げた。


 酒場に帰還する。肝を差し出すと、例によって薬屋は必要な量だけ受け取り、余った部分は料理に使おうということになった。ジーマが嬉しそうに竪琴を鳴らした。
「今まで以上に精が付きそうな食事になりそうだね」
 薬屋がこしらえたのは、肝の刺身だった。一口に出来るほどに薄くスライスして大皿に並べられている。血はすべて抜き取られていて、肌色だ。薬味はお好みで、と薬屋は言った。
「……ほう、意外にコクのある味ですね」
「口当たりは実に優しいですね。あの姿からは想像出来ないくらいに」
 シリュウとログナーは唸りながら咀嚼する。
「何か、偉大な生命力そのものを味わう気もするな」
「言いえて妙だね。もともと食べるってことはそういうものだけど、この肝だと余計にそう思うよ」
「うん、ますます元気が出るよっ」
 レイジ、キュオン、リヴァは揃って同じ感想を述べた。小さな自分たちがあの巨大な命の一片を食べるということに、深い感慨が沸いてくるのだった。
「これが勝利の味かあ! すごく美味しいよ。あ、さっきはありがとうね」
「お疲れ様でございました、レイム様」
 レイムとセラフィンは互いをねぎらい合う。喜びがどんどんと沸いてきた。勝利とは何度でも味わえて、決して飽きない美味である。
「……次で材料探しも終わりですか。ここまで来ると、精力剤の完成品が楽しみになってきますが」
 これまで皆勤のジュウゾウは今までの苦労を懐かしむように天井を見上げた。薬屋はにんまりと笑って、冒険者たちを見回す。
「おお、張り切って強力なのを作るから最後の材料も頼むよ」


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