【Dark Card】1、The Magician



<オープニング>


●黒のカード
 一枚目に描かれしは、笑う魔術師。
 気取った会釈にローブが揺れる。
 翳した杖に、闇色灯る。
 彼が笑えば、ヒトが死ぬ。
 力ある彼は、幾多の例に漏れず――唯の災厄に違いなかった。

●討伐依頼
「ある村に、大変危険なモンスターが現れました」
 ヒトの霊査士・ファイナ(a90305)は、カウンター席につき、仕事の話を切り出した冒険者に、真剣な顔でそう告げた。
「どんな?」
「一見すれば術士風の姿をした男性型です。
 彼は、その外見に違わず、『そういった』能力を持っているようですわ」
 ファイナは続ける。
「その上、今回の相手……
 霊査の感じからして、不吉ですわ。
 何と言いましょうか。一度で終わらない予感がいたしますの」
「一度で、終わらない……?」
「イメージですから、多くは言えませんけれど」
 ファイナは、少し苦笑いをしながら頷く。
「分かった。兎に角、受けよう」
「助かりますわ。
 ですが、今回の相手は、相応に危険です。くれぐれも、油断だけはなさいませんように」
 彼女は、言って目を閉じて祈る仕草をする。
「貴方方の冒険に、銀色の加護あらん事を」
 平素より真摯なその響きは、冒険者の身を案じてのモノだろう。
 分かり易い少女の、至極分かり易い意思表示に、彼は一層その気を引き締めたのだった。

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参加者
狩人・シャモット(a00266)
漆黒眼・イゥロス(a05145)
夜鷹の夢・シェリウス(a05299)
鮮紅の・プルル(a07930)
エルフの仙忍・シズク(a17134)
無影・ユーリグ(a20068)
緋色の女郎蜘蛛・ユーロ(a22022)
美しき復讐の華・イズル(a24997)
有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)
錦上添花・セロ(a30360)
時の輪の謡い手・エルシー(a30716)
黒白異端狂想曲・シャリオル(a33960)


<リプレイ>

●吹き荒ぶ風のDark Card
『父さんの敵』
 矢文の声が響き渡る。
 それは、自然の守護者・シャモット(a00266)の放った注意を引く為の牽制の一撃であった。
 されど。
 忌まわしき魔術師は、ヒトの言を理解せぬ。
 いや――理解していたとしても、外道にそれを気に留めるだけの感情は無いか。
 冷徹かつ妖しく立ち上った魔力の渦に、
「破られました――」
 慈の影忍・シズク(a17134)の蜘蛛糸が、ズタズタに切り裂かれた。
「皆! あの能力が来る――注意しろ!」
 空寂の・イゥロス(a05145)の言葉と同時に、ごう、と巻き上がった風が暴れのたうつ。
 歴戦の冒険者と言えども、これに踏みとどまる事は難しい。
 それは――短く、長い戦いの中で彼等が最初に学んだ事実だった。
 魔術師の操る風は、強かに受け手の全身を打ちつける。吹き飛ばし、その場に縫い止める暴虐の風の威力は、鮮やかにして華麗な引き撃ちは、パーティを散々に苦しめている。
「……っ……負けないんだから!」
 彼等は、事前の作戦通りに鮮紅の・プルル(a07930)が展開したエンブレム・フィールドと、
「これも、魔術師らしい計略、詐欺といった所でしょうか?」
 緋色の女郎蜘蛛・ユーロ(a22022)、
「厄介、だな……」
 叩きつけられたうねる烈風を、自ら飛び退く事でやり過ごした有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)、
「ですが、そう簡単には――」
 唇を噛んだ綺夜煌星・セロ(a30360)、
「やっぱり、逆位置の消極的には当てはまりそうもありませんですのね」
 モチーフと思わせるカードを連想した時の輪の謡い手・エルシー(a30716)らによって分担して素早く施された鎧聖の付与、
「……ジーザス! 手が足りやしない」
 更には、無影・ユーリグ(a20068)らによる必死の支援でこれまで戦線を支える事に成功していたが、戦いは決して順調な推移を見せていると呼べるモノでは無かった。
「これ以上、あなたの好きにはさせません」
 黒く麗しい炎を纏う、美しき復讐の華・イズル(a24997)が、展開した霊布から悪魔の炎を作り出す。一直線に放たれたその一撃は、真っ直ぐに魔術師を包み込む。
「……やはり、しぶとい」
 無感情な彼の呟きこそ、現在の状況を示していた。
「ですが、続けるしかありませんわ」
 立ち直って間合いを詰め直し、振り抜かれたユーロの長刀が、風を切り裂く。
 この不可視の刃こそ、魔術師の脇腹辺りを貫くダメージになったが。
 ヒト型を取る彼は、その実当然ヒトではない。ヒトならば、即座の致命傷になり得る数々の攻撃を受けながらも、未だ余り堪えた様子は無い。
 遠く離れた術での攻撃には、持ち前の高い耐性と皮肉にも届くエンブレム・フィールドの恩恵。
 接近する動きには烈風と、触手の槍による二段の防御を構える魔術師は、依然有効打を多く受ける事は無く、悠然と苛烈な攻撃を続けていた。
「魔術師……正位置なら奇抜、好奇心、変化。
 逆位置なら鈍足、悪知恵、保守的……正しく能力に現れてますね」
 黒白異端狂想曲・シャリオル(a33960)は、皮肉に笑う。
 やはりその性質上、攻撃こそが最大の防御と言えるのか――攻勢において、魔術師には隙が無い。誘いに乗らなかった彼が、戦闘場所を狭い路地としたのは、知性に拠らない本能なのだろうか。数と総戦力にこそ勝る冒険者達であったが、遮蔽物と障害物から、作戦通りに扇形を展開する事は必ずしも成功しているとは言えなかった。

 ――――♪

(「間に合えっ!」)
 イゥロス必死の凱歌と、魔術師の次の一撃は一瞬の差で訪れた。
「……っ、死の縁に立たねば生を実感出来ぬと言うのも難儀な性分ではございますけれど……」
 降り注いだ閃光は、辛うじて彼の歌の後。
 防御姿勢の上からでも、大幅に体力を削られた夜鷹の夢・シェリウス(a05299)が呟く。
 額から流れ落ちる朱は、威力の余波に地面から弾き上げられた鋭い石によるものだった。
 グリモアの加護を受けし冒険者をしても――一撃に受けた傷は小さくは無い、という事は。
 続けて受ければ、唯では済まず、油断は即座に敗北に繋がるだろう。
 彼等、十二人の冒険者の戦いは、そんなギリギリの紙一重を続ける戦いに相違なかった。
「災厄ならば相手にとって不足無し……」
 流れ落ちる熱い水滴に構わずに、シェリウスは敵を見据えた。
「全身全霊を用いて、我が生にしがみ付くと致しましょう!」

●魔術師の挑戦
 時刻は、やや遡る。
 魔術師の討伐に赴いた冒険者達十二人は、廃墟となった村の中を歩いていた。
 未だ、死地に魔術師の影は無いが――
 五感を唯々鋭利に研ぎ澄ませるのは、戦いという一事ばかり。
 耐え難い死の薫り、眩暈がする程の血の薫りこそ、戦場にある己を正しく認識させるのだ。
「死臭が漂っておりますわね……」
「……これ以上の被害がでないようにしなければいけませんね」
 冷たい熱を抱いたシェリウスの言葉に、油断無く辺りを見渡しながら、シャモットが頷く。
「村は全滅……
 生き残りは、居ないようですね……」
 イズルの声は、何処か暗鬱と響いた。
 先刻承知の事実でも、言葉にすれば一層の忌避感が生まれてくる事は否めない。
 現場になった村は、酷い有様だった。
 巻き込み、範囲や多数を破壊する事に特化した能力の爪痕は凄絶。
 死体達は、彼等が逃げる暇も無く殺されたのだという事を、言葉以外の状況で語っていた。
 光景の無残さ、無慈悲さは、冒険者と言えどもそう見られる類のモノではない。
 苦しめて殺すという経緯が無いだけ――マシと言えばマシと言えるのかも知れないが、結果が変わらない以上は、かような戯言に意味は無いだろう。
「何の罪もない人たちを殺しちゃうなんてゆるせないよっ! きっちりおしおきしてあげるんだからっ!」
 プルルの一言は、単純ながらも至言だった。
 コレに変わり得る、これ以上の気持ちは無い。一同は、胸を痛ませる光景に頷くばかり。
(「盾になる程度には強度があるといいんですけど……」)
 ユーロは、地形を建物を眺めながら心中で呟いた。
 戦いが開けた場所で行われるならば、それで良いが。場所の選択が自分達の都合通りに展開すると考える事は、危険である。
 場合によっては、射線を塞ぐ障害物を敵とするか味方とするかは心がけ次第であろうから。
「油断は出来ないだろうな」
 マカーブルが言う。
「あの戦場からすらも、生きて帰った」死地に己を置く事が多い彼は、既にある意味、特有の勘を働かせていた。
「嗤う魔術師……か」
 即ち、それは――
(「踊る死神と……どちらが生き残るか試してみようか」)
「敵影確認、『マジシャン』と断定……状況開始、ってな」
「一度では終わらない……か。
 ならばその先を垣間見る為にも、先ずは奴を堕とすとしよう」
 ユーリグの、イゥロスの視線の先、やや狭い路地の向こうに見えた敵影。
 その「嗤う魔術師」が、どんな存在であるかという予感。
(「あぁ、ファイナの心配を杞憂に終わらせてやるためにも、気を引き締めて行くさ」)
 殆ど、必然とすら言える血戦への確信であった。
「貴方が何者かは解りませんが……災厄が連鎖していくというのなら」
 セロの指先が、そっと左腕の腕輪に触れた。
「ひとつひとつ、丁寧に鎖を断ち切っていくしかありません。それが――冒険者である私達の勤めなのですから」
 彼の目にも、誰の目にも迷いは無い。
「敵は大アルカナ……マジシャンですか」
 ゆっくりと、戦いの幕が開く。
「小アルカナを封じし我らが騎士団。アルカナ魔法騎士団リバース・フォース・ダイヤ……シズク参る!」

●血戦
 そして、物語は冒頭へと帰結する。
 十二人の冒険者と、魔術師の戦いは尚熾烈を極めていた。
 その速度を速め、幾重にも固めた防御で紙一重の攻防を続ける冒険者達と、極力得意のアウトレンジによる戦法を続けるも、おあつらえ向きのソニックウェーブやライトニングアローによって体力を削られ始めた魔術師。
 一進一退の攻防は、術攻撃の余りの効果の薄さと、地形効果、踏み込めない冒険者達の攻めあぐねもあって、相当の長時間に及んでいた。
「黒い首吊り道化師の絵札……」
 扇形の右翼側で、傷を受けながらも太刀に外装を付与したシェリウスが、薄く笑む。
「とても良く御似合いですわ」
 放たれた黒いカードが踊る。
 ハングド・マン――或いは、何れ現れる強敵かも知れないが。
 一撃は、魔術師の身体を黒く染める。
「大丈夫ですか? 今回復を……」
 イズルは、癒しの力を紡ぎ、
「行きますわ!」
 ユーロの不可視の刃が、何度目か。的確に魔術師の身体を斬り裂く。
 そして、この一連の攻防が――転機になった。
「何か――来る?」
 イゥロスの言葉が乾いて響く。
 ばつんっ!
 耳障りな音を立てて、地面に描かれた紋章術が弾けとんだ。
 魔力の棘が顔を出す。一人、有効範囲の外に居たシャモットの表情が、引き攣る。
「な――……」
 彼の視界の中の仲間達は、皆その棘に傷付けられていた。



 最早、エンブレム・フィールドの守りは無い。
 魔術師の放った魔力の棘――ダメージの力場は、冒険者達に決断を投げかけていた。先からの長期戦の影響もあって、残された余力は多くは無い。
 術による有効打を放ちやすくなったこの時こそ――ある意味勝負の分かれ目だった。
 倒すしかない。
 その意識は、決戦をまさに血戦へと変えていた。
「……させるか! これで……少し大人しくしろ!」
 イゥロスの黒い鎖が間合いを踊り、
「これでどうです!」
 シズクの気の刃がローブを切り裂く。
「――ッ!」
 防御の力場を生み、回復に努めていたプルルが降り注いだ魔力の雨に吹き飛ばされ、
「ぁ――っ!」
 執拗に拘束を試み、牽制の連撃を放っていたシズクが魔術師の全身から伸びた肉の触手に貫かれる。
 凄絶なまでの猛攻の応酬は、次々と冒険者達を倒れさせていた。
 しかし――それは、同時に魔術師の全身を文字通り「削る」作業でもあったのだった。
「焼き尽くします。それが、相応しい結末というものでしょう?」
 イズルの黒炎が瞬き、シャモットの雷光が間合いを灼(や)く。
 不敵だった魔術師のその姿態からは、刻一刻と余力が失せていた。
 尚も命の削り合いは終わらない。
「生憎ですけど、こちらも詐術はお手の物ですのよ?」
 翼のようなシルエットが間合いを踊る。
 肉薄したユーロが、先刻承知とばかりに迎撃の触手を身を捻って避ける。
 されど、掠っただけで肌を切り裂く威力は、彼女の全身を酷く傷付けていた。
「人々の命を奪った罪、其の命で購って頂きます……!」
 気を吐いたセロの真空刃が、更にユーロを狙った数本の触手を斬り飛ばす。
「勇敢なる者に戦乙女の祝福を!」
 更にユーリグの十字剣が、彼女を指し示す。
 放たれた聖女は、傷付いた彼女を救ったが――
 わんっ!
 空気すら歪ませたクロイクサリは、パーティを戒め、彼等二人を打ち据えた。
「それでも――」
 自らも傷付き、血を流しながらもエルシーは視線を上げた。

 ――――♪

 禍々しい鎖の戒めを、自ら外し――傷を負った仲間達を高らかな歌で癒す。
 戦いは、終わらない。
 舞うように動き、連続する剣技を閃かせ、シャリオルが叫ぶ。
「倒します。絶対に――!」

●風を喰らう
「風が――来る……!」
 鎖の一撃を外されたイゥロスが叫ぶ。
 シェリウスの無音の一撃、ユーロ、イズルの連続攻撃を受けた魔術師は、初めてハッキリと――ダメージの為に後退していた。
 そう、それは恐らく――逃げる為に。
 ごうんっ!
 幾度目の風か、烈風が間合いを吹き荒れる。
 それに立ち向かったのは――マカーブルだった。
「遠くから一人遊びだけでは、面白くないだろう?」
 全身を打ち付ける暴力めいた風を斬り、超重の大鎌を構えた彼が、間合いを走る。
「……漸く、捕らえた」
 最後に双方の優劣を決定付けたのは、意志の力だった。
 生々しい音が、響き渡る。
 鮮やかに間合いを奪った彼の一閃は、敵を凌駕する想いを乗せ――その災いを両断していた。



「汝らが魂に安らぎがあらん事を……」
 祈りの言葉は、ユーリグのモノ。
 村人達を弔い、簡単な鎮魂を済ませた冒険者達は、漸く人心地つく事が出来ていた。
「正位置として語られるは、創造性……遠く及ばぬ意味ではありますが、その言葉を胸にお別れですの……」
「ごきげんよう。旅立ちなさい、数多の業を抱き、死出の旅路へと」
 エルシーの、シェリウスの言葉が、果てた魔術師へと届く。
「そうですね。それは、『全ての始まり』――」
 魔術師のカードが示す一事を、シャリオルは語る。
 霊査士ファイナの言う「一度では終わらないという予感」。
 それが示す事柄、そして忌まわしいDark Cardの一番手。
(「犀は投げられた……と、そう言う事なのだろうか?」)
 イゥロスの問いに答えるモノは、今は無い。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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