【天使の石】久遠の愛



<オープニング>


 昔、愛しい人を亡くして間もない男がいた。
 月も星も一際綺麗に煌く夜。
 宛も無く、失われた光を求めるようにしてひとり山を登った。
 そして途中、中腹に開いた穴から目映い輝きが洩れていることにふと気付く。
 夜空の輝きとは少し違う何かの光が、其の洞穴から洩れ出ているらしい。
 恐る恐る覗いてみると、其処には美しい天使が居た。
 亡くしてしまった恋人の面影を彼女に見、男は名を呼び手を伸ばす。
 天使はにこりと微笑んで、けれど其の侭消えてしまった。
 気付けば空には日が昇り、其処には静かに煌く宝石があった。

 美しくも切ない悲恋の伝説にある宝玉は、その伝説と共に語り継がれ、現在「アンジェリカ・ピエル」と呼ばれている。その地方の言葉で「天使の石」を示した言葉であるらしい。
 「天使の石」は普段、原石の状態において虹色に煌いている。けれど人がひとつの欠片を選び取り加工することで、永久に変わらぬ輝きを定着されることが出来るのだ。選んだ欠片によって加工後の色は変化し、「選ぶ者によって色を変える石」として、婚約指輪や結婚指輪に多く遣われているらしい。即ち、誰かが誰かのためだけに選んだ、他に代わりの無い石、と言う意味を持つ。主に男性から女性へと渡されることが多いらしい。
 但し絶対数は限り無く微小、幾ら職人が必要とされる人へ渡したいと願っていても、今や大富豪でなければ手に入らない幻の石とさえ言われるほどになっていた。

「忘れていたの」
 彼女は少しばかり、焦った口調で切り出した。
「以前依頼にもなった、『天使の石』に関わることなのだけれど……」
 荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は相変わらずの素振りで小首を傾げる。
「……もう直ぐ、ランララ聖花祭でしょう? 恋愛に関わるイベントが近いなら、尚更、需要も増すでしょうし……女の子は、お菓子を用意すれば良いけれど……御返しを用意しておきたい人も、居るでしょうし……何より、あちらも、歓迎してくれるそうだから……もう一度、人を募って行こうかと思って」
 ホーリーライトを遣って夜の坑道を歩くと、虹色にきらきらと煌く洞窟内は酷く美しく照らされるのだ。「天使の石」は熱に弱いため、洞窟内で灯りを燈すことは厳禁とされている。其の為、ホーリーライトのみが美しい洞窟を最大限に楽しめる唯一の手段なのだ。
「夜の坑道を……『冒険者さんを信頼して』開放してくれるらしいから、ホーリーライトを持ち寄って遊んでくれば、良いんじゃないかしら……後、御願いだから、石を勝手に持ち帰ろうとはしないでね……」
 恋人同士で訪れるには格好のスポットでもある。
 美しく煌く洞窟の中を、二人きりで巡ることが出来るのだ。込み合うことの無いように、簡易に受付を設置して入場は順繰りに管理される。
「……『天使の石』のことだけれど……確りとした『理由』を説明出来て、ある程度の財力がある人なら、譲り受けることも出来るかもしれないわ……」
 季節も季節だから、きっと譲り受けることの出来る数も少なくは無いのでは無いか。
 希望的な観測を口にして、霊査士は話を締め括る。

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)



<リプレイ>

●希求の愛
 如何にもな職人肌の女が此方を向いた。
 来たんだね、と恒例になった冒険者の波に苦笑する。
「別に速い者勝ちって訳じゃないんだ、順番にね」
 軽い声で言いながら、椅子に深く座り直す。彼女の横にある机の上には、たった今出来上がったばかりの目映い宝石箱が鎮座していた。
 駆けるようにして職人の前に出たシュウが、想いを告げる切っ掛けとして天使の石が欲しいのだと必死の形相で頼み込む。ポルロも自身を認めてくれる人への想いを残しておきたいのだと職人に言う。二人とも財力面では不安があるらしく、祈るように願いを口にした。
「……渡してあげたいくらいなんだけど」
 職人は緩く息を吐いて、でも想う色が定まっていないようじゃあね、と残念そうに紡いだ。ガルスタの真摯な、愛する女性の為に想いを残したいと言う願いにも、職人は悪いけれどと同じ言葉を返した。永久に変わらぬ輝きに惹かれつつも、限りある時間を大切に過ごすことこそ大切なのかと思い悩みもしていたアティは、理解したように目を伏せる。彼女からの言葉に職人は、何やら一人得心したようだ。
 ミナも職人へ真摯な眼差しを向け、縛る為にでは無く加護を願う為に石が欲しいのだと告げる。想いを寄せ合う者同士でしか手に入れられぬのかとの問いに、職人は片眉を上げて「極論だけども、まぁね」と頷く。
「『天使の石』の伝説を知っているなら、判ってくれると思ってるよ」
 遠慮がちに進み出たウィーが、想いを受け止めて、抱き締めてくれた大切な人が居るのだと口を開く。だから示したいのだ、と。
「天使の石が、悲哀の伝説であるのは知っている。けど、それを覆す位、何があっても守ろうと想う」
 クリストも、我が身への自嘲入り混じった苦笑を浮かべながら、天使の石を渡したい相手が出来たのだと語る。職人は聖花祭やら特務部隊と言う言葉に馴染みが無いようであったが、意図はある程度伝わっただろう。
 結婚指輪を求めているのだとヤスイは言った。代価も心許無く、けれど約束した気持ちに偽りは無いのだ、と。想いを確かな形にしたいのだ、と。寄り添うように立つイグニスも、土下座しかねない勢いで、此れからは優しいもので包んで行って遣りたいのだと想いを告げる。職人はがりがりと頭を掻いた。
「大切な恋人へ、生涯永久に変わらぬ愛を誓う特別な証として」
 アモウはとても幸せそうに目を細め、隣の恋人に空色の瞳を向ける。
「彼への変わらぬ愛を、永遠を誓い合う証として、是非、天使の指輪を贈りたいのです」
 サナも真摯に言葉を紡ぎながら、恋人の顔を見上げた。
 たった一人の彼に出逢えた奇跡と、沢山の愛と幸せを教えてくれた彼への感謝を胸に抱く。
 羨ましいことだねえ、と女は笑った。

●永久の証
「石を、己の誓いの証として、渡したい人が居るのだ」
 イズミは率直に言う。
 永遠の約束を形にする為、誓いを果たす為、約束を護る為、想いに報いる為、必要なのだ、と。
 ガリュードも言葉を選びながら、掛け替えの無い女性に贈りたいのだと語る。指輪の使い道が定まったからこそ、足を運んだのだと言うことは職人にも理解出来たに違いない。
 穢れ無き純白が相応しく思える少女を想えば、護られているのは自分の方だとすら思う。クロコは、汚してしまうことの無いよう、変わらぬ輝きを求めていた。アウィスは愛する妻の為に、有りっ丈の愛と祈りを注ぎたいのだと自らの想いを語る。
 シンイチロウは気になる少女を好きだと思えた時に指輪を贈りたいと言う。其れに対して職人は「好きになってからまたおいで」と笑って返した。
「お願いします……小さな欠片でいいんです……!」
 彼女の声音には切実な響きがあった。滅多に会うことの出来ない男性に、長らく片想いを続けているのだとレイシアは洩らす。護り石として、彼女は天使の石を求めていた。
 流れの収まった頃に現れたグリツィーニエは、少し寂しげに顔を伏せる。彼女の白い指先には、淡い碧で染められた天使の石が煌いていた。御互いに戦場を厭わぬ人間であるから、せめて繋がる絆が欲しいと静かに願う。ヴィオラも恋人から贈られた天使の欠片を想い、自身からも贈り返したいのだと切実な想いを職人に語った。御互いが御互いの為だけに選んだ、永遠の輝きを放つ石。其れも天使の石の価値なのだろう、と女は頷く。
 ヨルは、さり気無い優しさをくれる暖かな人へ天使の石を贈りたいと告げた。
「え」
 首飾りで。
「……」
 職人は眉間に皺を思い切り寄せて沈黙した。
 彼是十分が過ぎた頃、漸く彼女は口を開き、
「……良いよ」
 深く、溜息を吐いた。
 永遠の誓いとして彼女を護る御守りに為ってくれれば、と天使の石を求めたヴィンも「本来はチョーカーを作りたかった」と他意無く洩らしていた。如何する、首飾りを良しとして此方を駄目とは言えまい、と職人は彼に問い掛けるも「でも、指輪にしようと思います」と少年は答える。
 誰かが気を利かせて淹れた茶を啜る職人に、グラースプは丁寧に前回の礼を述べた。
「恥ずかしい話、まだ渡せてないし、現状渡せる日が来るのかもわかんないんだけどね」
 照れたように小さく呟くのを、きっちりと聞いていたらしい職人はにやりと笑う。
「『天使の石』を手に入れたんだ。御利益はバッチリだよ」
 笑顔は妙に邪気が無かった。
 案外、この女は若いのかもしれない。

●久遠の絆
「綺麗だな」
 きらきらと煌く美しい坑道の中を、恋人と歩む。そんな状況に、トワは自然と笑みを零した。カムナも緩く歩みを進め、彼の言葉に頷きを返す。共に歩けることが少し気恥ずかしく、けれど素直に嬉しかった。
「これは……見事なもんだな」
 素直に感動を口にして、ヨウはさり気無く恋人の肩を抱いた。ミリィは少し驚いたように瞬くと、「此れからも一緒よね」と呟き、彼の頬に口付ける。
 ニノンはいつも微笑んで見ていてくれる優しい彼が大好きで、甘えるように指先を絡めた。キュオンも彼女が微笑むほどに楽しく思え、浮かべた笑みも自然と深まる。美しい輝きの中に身を浸しているせいか、普段よりも胸の鼓動が跳ねて仕方なかった。
 フラジィルは相変わらず此処がお気に入りの様子で、楽しげに坑道を歩いていた。ユティルは彼女と共に他愛の無い話をして、時折くすくすと顔を寄せ合い笑みを洩らす。其の後を歩きながら、リューシャは少しばかり俯きがちになる。待ち惚け、と言う単語が頭に浮かんで肩が冷たくなるような想いばかり浮かんでしまう。
 少し大人っぽくなりましたね、とフラジィルの頭を撫でて遣りながらケネスは歯痒さも感じていた。辛さを隠そうとする姿には、とても、胸が痛んだ。ユズリアも天使の石が眠る坑道を歩きながら、ほんのりと寂しげな微笑を浮かべる。唯、親しい人々と共に歩けたことは良い思い出にもなるだろう。
 そしてやる気無さげなティアレスも、オリエに誘われ重い腰を上げたらしい。かつかつと靴音を響かせて、普段と同じように横柄な振る舞いで歩いている。彼女が零した独り言には、短い間を置いた後、「花から花へ贈るとは勿体が無いようにも思うがな」と嘯いた。
 そんな様子を小さく笑みを洩らしながら見遣って、レインは坑道の中を見渡した。貴重な宝石が全ての人に行き渡れば幸せだろうに、とも思う。
 リィリはティアレスの袖を引き、自分が大人になったら、と前置いた。
「天使の石……貰ってくれる?」
 男は目を細め、
「貰うだけなら何時でも」
 唇の端を微かに持ち上げるだけの、微笑で返した。

●天使の石
 煌く坑道を歩きながら、セリオスは彼女を振り返る。何故誘ったかと言う問い掛けの答えを、そっと差し出した。透き通るような銀に輝く、美しい指輪だ。ティエランは酷く驚いた様子で、けれど、
「私は……伝説の女性のように、消えたりしませんから」
 そう言葉を返してくれた。彼は優しく「そうか」と頷き、彼女の身体を抱き寄せる。
 満天の星空を見ているようですね、と頷いてから、
「貴女の放つ輝きに比べては劣りますが、一緒に此処に来れて幸せです」
 ラザナスは彼女の嵌めた指輪に、そして白い手の甲に唇で触れた。
「……もう。馬鹿」
 行き成り何を言うの、とカレンは頬を真っ赤に染める。想いが永遠のものであると当然のように紡ぐ彼の掌に、返すように口付けた。迎えに来てねと言葉を紡げば、貴女が望めば駆け付けましょう、とぴたりと嵌った愛の言葉で返される。
 アスティナとノヴァリスは二人で手を繋ぎ、あの時と同じように坑道を歩いていた。天使の石の輝きは一層美しさを増したように思える。以前彼が少女に想いを告げた辺りで少女は足を止め、凄く嬉しかったのだ、と真っ赤になって告げた。
 屈んでくれるよう袖を引いて願い、背伸びをして、彼の頬に唇を押し当てる。
「……大好き、だよぉ……」
 精一杯の愛情表現に、少年は彼女の銀の髪を優しく撫でた。

 受付位置に用意された椅子へ腰掛け、羊皮紙の束を捲って居た荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)へ一人の影が近付いた。霊査士が顔を上げるのを待って、アオイは口を開く。感謝の意を示す為に、出来れば天使の石の欠片を贈りたく思っていたのだと。
 霊査士は幾度か瞬いて、其れから小首を傾げて、
「……『天使の石』は愛を示すものだと思うわ」
 ほんの少し意地悪く、
「贈ってくれるなら、もう少し、親しくなってからね?」
 蒼い瞳を緩めて言った。
「……縁があったら、此れからも宜しく」
 青年は僅かに意外性も感じながら言葉を返した。霊査士も成長しているのだろう。若しかしたら悪い方に、かもしれないがさて置き。ジェネシスは彼女を光溢れる坑道内に誘う。断る理由も無いと付いて来た彼女に、願うように言葉を向けた。
「皆様を護る為に私は力を尽くしたい。御迷惑を掛けぬよう勤めて行きたく思います」
 霊査士は僅かに目を細め、そう、と答えた。
 期待しているわ、と静かな声音で告げて坑道を進む。

 入り口まで戻って来た彼女を、女職人が待っていた。
 霊査士は覚悟していたのか、少しばかり申し訳無さげに瞳を伏せる。
 女職人は言った。悪気は無いのは判ってる、と。
 霊査士も答えた。けれど行き届かなかったのは此方の手落ちだ、と。
「石は傷付き易い。勝手に持って行かれると、其れだけで困る。坑道から石を削り取ってから、私のところへ来られたって……石が使い物にならなくなっちまう」
「……其れ以前に」
 霊査士は顔を伏せた。
「……許可を得る前に、石を得ようとする方が出たのは、私の言葉が足りなかったせいだわ」
「まぁね」
 職人は軽く笑って頷いた。
「だから、まぁ、今回が最後だ。世話になったね」
 女の明け透けな笑みと、傷の多い差し出された手を見る。
 霊査士は静かに手を重ね、彼女の掌を握り返して、感謝の言葉を述べた。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:44人
作成日:2006/02/13
得票数:恋愛45  ほのぼの3 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。