<リプレイ>
●チョコレート工房は大忙し ウェンディのチョコレート工房は、上を下への大騒ぎだった。 とは言え、例の暴徒が襲撃している訳ではない。 「……コーティング用のチョコの湯煎は済んだ? そこ、焼きが甘いわよ!」 工房の女主人、ウェンディの素早い指示が飛ぶ。 ランララ聖花祭を控えたチョコレート工房は、ウェンディと彼女の部下達が駆け回る光景で非常に慌ただしい。 「話し掛ける余裕はないですね……」 此岸に咲く緋の華・クスリ(a16757)達は、目の前に広がる光景に目を丸くしていた。 「まるで、戦場ですわね……」 碧洋の翔剣士・レイナ(a37725)もパティシエ達が駆け回る姿を珍しそうに眺めている。 そのうち、一段落したのだろう。 「お待たせしました〜♪」 ウェンディがはにかみながら冒険者の前にやってきた。先程までの、鬼気迫るような職人の顔は消えている。 「暴徒が向かってるのは知ってるわよね?」 「はい……」 落花狼藉・ロゼッタ(a39418)の質問に、ウェンディは暗い表情で俯いていた。 「折角のランララ聖花祭ですのに、恋人達の思い出を壊す訳にはいきません。でも……男の人達の気持ちも分からないではありません」 「……どうしてですの?」 蒼天の歌姫・アイゼル(a43527)の言葉に、ウェンディは照れ笑いを浮かべながら、 「お恥ずかしながら、私もお菓子作りに熱中しすぎて、恋人がいないんです。出来たとしても、忙しくて……」 言って、後ろを振り返る。そこには、相変わらず忙しそうに駆け回る部下達の姿があった。 注文が殺到するために、当日までこの状態が続くらしい。 「大変ですね。でも、男心は分からなくもないですが……可憐な女性の経営する工房を襲うなど……言語道断です!」 何やらいきり立っているのは、蒼白き月の破片・アルレット(a43517)である。 だが、単に追い返すだけでは、彼等も懲りないだろう。 「出来れば、チョコレートを渡して大人しくなってもらいたいんだけど……」 言いながら、たれ・マモ(a00315)は頭を抱えた。残念ながら、彼が声をかけたサクラ役の女の子達には、ことごとく断られてしまったのだ。彼女達も、ランララ聖花祭は忙しいのだろう。 「まあ、それは冒険者の女の子達に頑張ってもらうとして……問題はチョコレートなんだけど」 「でしたら、ウチのチョコレートを使って下さい。ある程度なら都合がつきますから」 「いいんですか?」 祝福されし思い出・ティア(a34311)の言葉に、ウェンディは大きく頷き、 「……はい、勿論です! それに、新しいお客さんになるかも知れないですし」 意外にちゃっかりしているウェンディ嬢であった。
そんな訳で、冒険者達はウェンディ・ブランドのチョコレートを手に、暴徒を待ち受ける。 「それにしても……ちょっと美味しそうかも」 カラフルな包装紙とリボンで綺麗にラッピングされたチョコレートを見やりながら、幸せを抱きしめる笑顔の妖精・アンディ(a04272)が呟いていた。 思わず、手が包みに伸びそうになる。 「今は我慢だよ」 「……むー、残念」 影法師・シキヤ(a40468)が注意すると、アンディは仕方なくチョコレートを諦めた。目の前のチョコレートは惜しいが、今は暴徒を鎮圧するのが先決である。 それに、あとでいくらでも味わうことが出来るのだから。 「さて、来たようだぞ」 暗夜の半身・トルティア(a32514)の言葉に、皆が森の外に続く小道に目を向けていた。その奥から、まるでアンデッドの群れが沸き出すように、大勢の男達が現れる。 「ギブ・ミー・チョコレート……」 「……ギブ・ミー・チョコレート」 『ギブ・ミー・チョコレート!!』 まるで、示し合わせたかのように、口々に何やら呪文のような言葉を唱える男達。その姿は、まさしくランララの亡者と呼んで差し支えない。 いや、まあ。 「何だか……ちょっと恐いですね」 苦笑しつつも、ティアは粘り蜘蛛糸の準備を開始する。暴徒とはいえ、相手は一般人だ。無傷で捕らえるなら、アビリティも気を遣わねばなるまい。 向かい来る暴徒に、粘り蜘蛛糸が放たれる。他の仲間も、粘り蜘蛛糸や眠りの歌で暴徒を無力化していた。 「ギブ・ミー・チョコって……うわっ!?」 こっそり暴徒に紛れて合い言葉を唱えながら、眠りの歌を奏でていたアルレットが粘り蜘蛛糸に絡め取られそうになり、慌てて逃れている。放った本人を見やり、 「おや、誰かと思えばアルレットだったか」 「トルティアさん、酷いですよ……」 そんなやりとりをしている間にも、暴徒の何人かは恐るべき執念で粘り蜘蛛糸を振りほどき、 『ギブ・ミー・チョコレート』 と、工房目指して突き進んでいた。 「何というか、本気で不気味な光景なんですけど……!?」 前後不覚に陥った負け犬の遠吠えをまざまざと見せ付けられて、クスリが思わず呻いている。何というか、これだけの執念をもうちょっと別のところに活かせないのかと思うのだが。 「お気持ちは分かりますわ……ですが、人を困らせたなら相応の報いがございますのよ?」 歩みを止めない男を当て身で気絶させながら、レイナは言う。 それでも、激しく抵抗する者にはロゼッタの幻惑の剣舞が襲い掛かっていた。 「少し大人しくしていてね」 手早く縛り上げると、ウィンクを飛ばして次の標的に取り掛かる。 「よっしゃあ、ランララの負け犬ども! 俺の歌を聴けぇ! ……じゃなかった。みなさん、聞いて下さい!」 一瞬、人格が豹変したかのようなアイゼルに、アルレットは目をぱちくりさせているが、アイゼルは構わずに青いロングドレスを翻しながら眠りの歌を奏で始めた。 さすがに、冒険者10人を相手にしては、一般人は対抗出来ない。 やがて、動きを封じられた彼等を縛り上げ、暴徒は鎮圧されたのだった。
●召しませ、至高のチョコレート とりあえず、彼等の暴動は収まったものの、男達に反省の色はない。 「我々が何をしたと言うんだ!?」 「ええい、離せ。人前で公然とイチャイチャするカップルに目にもの見せてくれる!」 「我等の合い言葉は一つ」 『ギブ・ミー・チョコレート!!』 「何だか分かんないけど、女々しいねぇ、あんたら」 抗議の言葉をわめき立てる男達に、トルティアの一喝が投げ付けられた。 途端に、彼等は身を竦ませる。 「いいかな? この工房の主人であるウェンディさんは、自分が恋人を作るのすら投げ出して、恋人達のためにチョコレートを作っているんだ」 「……そうですわ。彼女の努力を無駄にするのは許せません」 マモと、ティアの言葉に男達に動揺が広がっていく。 「騙されるな! 我等の信念を妨げる者に同情してどうする?」 「しかし、なぁ……」 「ここまで大事になるとは思わなかったし」 さすがに、やりすぎだと。彼等の中にも反省の表情を浮かべる者も出始めた。 「ええい、怯むな。我等、心は一つ。ギブ・ミー・チョコレート! ……て、俺だけかよ!? 負け犬と呼ばれて悔しくないのか、君達は?」 「ふむ……どうやら、扇動していたのはキミ一人のようだが、どうしてこんな事をしたんだ?」 喉元に短剣を突き付けながら、シキヤは青年に詰め寄る。まだ若い、道を踏み外すような人物には見えないのだが。 そんなことをやっていると、外の様子が気になったのかウェンディが出て来た。 青年の姿を見て、驚いたような表情を浮かべる。 「ケインさん、どうして貴方が!?」 「お知り合い……ですか?」 ウェンディの言葉に、アルレットが訪ねていた。どうやら、ただならぬ関係のようだが。 「ええ、お得意様の一人です。いつもお店に顔を出してくれるんですが……それなのに、どうして?」 「ふっ、答えは簡単さ。ランララ聖花祭に君を誘って断られた、それは仕方ない。仕事に打ち込む君の姿は何よりも素敵だ……だけど、だけど……」 「何だか、茶番のような気がしてきた」 二人の様子から状況を察し、マモが思わず呟いていた。おそらく、ケインと呼ばれた青年はウェンディ嬢に一方的な思いを寄せていたのだろう。 それは、分かるのだが。 「でも、だったらどうして?」 「それは、簡単さ。君の作ったチョコレートを他の人達に食べられたくなかったから……て、君達、何だか目が恐いよ!?」 冒険者や仲間の男達に睨まれ、青年は身を竦ませていた。 要するに、そう言うことらしい。 何ともはや、はた迷惑な事件である。 「えっと……」 「いや、この際それは置いておき、だ……」 何か言おうとしたアイゼルを制止し、トルティアは言う。 「私達やウェンディはともかくとして、少なくとも、彼等は黙っちゃいないようだよ」 「よくも、俺達を利用してくれたな」 「と言うか、どさくさに紛れて負け犬とか言われた気がしたんだが」 「……覚悟は出来ているだろうな?」 彼女が指し示す先には、冒険者すら止められそうにないほどの、怒り心頭の男達の姿があった。
なんだかんだで、ケインが軽くボコボコにされたあと、冒険者が男達にチョコレートを渡して何とかその場は丸く収まった。 チョコレートが予定外の使われ方をしていたが、それはそれで仕方がない。 「それでは、チョコレート菓子作りをはじめましょうか」 既に商品作りは一段落し、工房にはウェンディと冒険者の姿だけがあった。 工房の片隅に転がっている包帯だらけのケインはさておき、ウェンディの言葉で料理開始である。 「まずは、チョコレートのブロックを湯煎で溶かしてですね……」 ウェンディに教えられながら、冒険者達は思い思いのチョコレート菓子を形作っていく。 「これ、ホントに美味しいよ!」 指先ですくい上げたチョコレートを舐めながら、アンディが感激の言葉を漏らしていた。 チョコレートは、原料のカカオのみならず、配合するスパイスや滑らかな口溶けなど、様々な要因に味が左右される、非常にデリケートな食べ物なのだ。だからこそ、人を惹き付けて止まない魅惑の味になるのだろう。 特に、ウェンディ・ブランドのチョコレートはバランスが完璧なのである。 「この甘さと口溶け、絶妙ですわね」 アイゼルも味見しながら、思わず呟いていた。 大人向けのビターチョコレート、子供向けのミルクチョコレートなど色々あるが、どれも文句の付け所がない。丁寧に丁寧に、愛情を込めて作ったのが伝わってくる。 「手を加えるのが勿体ないですね……」 ティアもウェンディのチョコレートに感激しきりであった。 「でも、やっぱり手作りのチョコレートには適いませんね。もっと精進しませんと」 ウェンディの謙遜の言葉も漏れるが、彼女はもっともっとチョコレートを極めたいらしい。 どうやら、彼女に恋の季節が訪れるのは、当分先のようである。 そんなこんなで、彼等のお菓子作りは終わり、チョコレートの香りと甘い思い出を胸に、彼等は静かに家路につくのだった――。

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参加者:10人
作成日:2006/02/21
得票数:恋愛4
ほのぼの1
コメディ5
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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