<リプレイ>
● ザシャアッ! 景気のいい効果音を立てて冒険者たちは塔の前に並び、高き頂上を見上げた。 「ついに最上階……この塔に棲まう怪物との付き合いも終わりますね」 「長かったようで短い……ってか」 蒼浄の牙・ソルディン(a00668)と風色の灰猫・シェイキクス(a00223)は微笑んでいる。もはやこの塔には愛着も湧いていた。 「最後に残った秘酒……なんだろう?」 未成年だから飲めないが、わくわくという効果音が出そうな蒼き疾風の弓士・リャン(a40065)。葡萄酒、ウイスキー、焼酎、スパークリングワイン――酒の代表的な種類はそれなりに出揃っている。予想もつかなかった。見るだけで楽しいだろう。 興奮を押さえ、一行は塔へ入った。扉を開け、フロアを歩き、階段へ。冷静になりながら闘志を燃やし、ゆっくりと5階まで登っていく。 ――敵は待ち構えていた。淡い青色をした液体の塊が休むようにして柱に寄りかかっている。獲物が来たことを喜んでいるのか、水面が不気味に震え出した。 ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)が無言のまま矢をつがえる。これまでの戦いで常に先手を撃ってきた彼だが、今回ばかりはいささか不安を感じている。――液体に矢を射ても効果があるものか。だが自分に出来るのは弓矢での攻撃だけだ。不安は掻き消し、全力でホーミングアローを放った。モンスターはブルンと体を揺らして横っ飛びに回避する。矢は軌道を変えて難なく追跡し、背中に食い込んだ。 モンスターがべしゃりと音を立てて着地する。まるでこたえていないようだった。 「ならこいつはどうだ?」 シェイキクスが武器を振るってリングスラッシャーを繰り出す。鋭い円盤はわずかながら液体の一部を弾き飛ばした。モンスターはそれを意にも介していないようで、竜翼の聖女・シノーディア(a00874)に向かって跳躍する。液体の塊が降ってくる、奇妙すぎる光景だった。 「っと……。捕らえられることだけは避けませんとね」 シノーディアは後退しつつ黒炎覚醒する。蒸発しない液体はない。炎は有効打のひとつと思われた。 「しっかし、顔がない敵ってのは、まったくダメージが掴めないのが厄介だよなあ」 それでも攻撃あるのみ。一気に突っかけ、緋天の一刀・ルガート(a03470)は気合絶頂の大上段デストロイブレードを撃つ。と、モンスターはみょーんと縦長に伸び、斬撃をたくみにやりすごした。豪快な衝撃は床を砕いたが、避けられてしまっては意味がない。 「不定形だとああいう防御もあるんだね。だったら――」 召喚獣キルドレッドブルーと融合したレディーハチェット・イルマ(a36060)の魔氷が敵を襲う。ピキリと液体の半分が固まった。直後に緋の剣士・アルフリード(a00819)が肉薄する。 「ナイスだよ、イルマさん!」 薔薇の剣戟が二度三度と氷結した部分を砕く。花びらと氷が同時に舞って、戦場を一瞬華やかにさせた。いける。このヘンテコなモンスター、決して攻略の難しい相手ではない――。 ソルディンがソニックウェーブを放った。が、モンスターも負けず水滴を飛ばす。衝撃波は敵を切り飛ばしたが、ソルディンも肩に痛烈な痛みを負った。まるで弾丸だった。もし目にでも当たったら十中九まで失明してしまうだろう。 「いつでも回復できるように備えておいてくれ」 終末誘う言霊遣い・スフェラ(a17718)が紫優想笑・ルー(a17874)に言って、真っ向から斬りに向かう。力任せの薙ぎ払いが大きな音を立てて表面水を吹き飛ばす。 「今のところはやや優勢ですね。この調子でいければいいのですが」 ルーはソルディンを癒しつつ、敵の動きを見極める。このままで終わるとは思えない。ノソリンに咲く一輪の双風使い・ルシア(a35455)は右拳に力を集中させた。 「効きにくそうだけど……ええい!」 液体にもこの技は有効となりうるのか。疑問に思いながら破鎧掌に行った。掌が触れた瞬間、敵の体が後方に飛ぶ。 間を置かずリャンが追撃のライトニングアローを見舞う。電撃を通さない液体はない。ビリビリと放電音が断続的に響き、敵の体を明滅させた。 ――その時だ。モンスターの体が薄く真っ平らになって冒険者たちの足元に広がったのは。浜に打ち寄せる波のごとく穏やかに前衛メンバーに接近する。これは危険だと直感した。 「いけない、避けてください!」 華麗なる翔剣士・リリィ(a01132)はライクアフェザーで回避するが、ルガートとスフェラの脚が捕まった。するとモンスターはゴムのように元通りになって、自らの体でふたりを覆いつくそうとする。必死に脱出しようとするが、脚が水に浸かっている――すなわち抵抗を受けて動きづらい。逃げられない! 次の間には、戦士ふたりを閉じ込めたモンスターが冒険者を見下ろしていた。目はないからその表現は正しくないかもしれないが、そのような余裕に満ちた佇まいだった。だがうろたえている場合ではない。即座に打開策を編み出し、実行しなければならない。 決断を下したのはジースリーだった。仲間は皆驚いた。誤射の危険が高いというのに矢を向けたのだ。 しかし間もなくその真意を知ることになる。放たれた矢には、革のロープが括り付けられていた。これを敵に突き刺すことで命綱と化す。 矢が敵の内側に入った。卓越したコントロールでふたりとも傷つけない。瞬間、冒険者たちは協力してロープを引っ張る。ルガートとスフェラも、ロープを力いっぱい掴み――ズルリ。とうとう液体から抜き出た。 「だ、大丈夫か?」 慌てるシェイキクス。ふたりはにわかにふらついていた。それもそのはずで、何とモンスターの正体は酒であった。すぐに助け出されたからよかったものの、急性アルコール中毒になっていてもおかしくなかった。 とにかく反撃開始である。シェイキクスとシノーディアが、雷の矢と三つ首の黒炎を同時撃ちする。黄、黒、不気味なほどに色がシェイクされて、凄まじい蒸発音がした。 「ぬー、お返しはちゃんとしないとな」 研ぎ澄まされた集中力がルガートを素面に戻す。力を限界まで溜め、剣をふるって竜巻を起こす。未完成の大技レイジングサイクロンがモンスターを柱に叩きつけた。 「やるね。あたしらもさっきのを!」 「了解!」 イルマの魔氷の後を追って、アルフリードとソルディンが鋭利な円盤を生み出し、投げつけた。リングスラッシャーが凍った部分を破壊する。スフェラは舌を噛んで意識を鮮明にした。 「正直、もう近づきたくはないが……そういうわけにもいかないよな」 「援護します。どうぞ思い切って」 ルーが言った。スフェラはその言葉通りに堂々接近し、闘気を最大に発する。デストロイブレードが敵を両断した。片方は消し飛び、もう片方は再度スフェラに覆いかぶさろうとする。そこへルーのニードルスピアがつるべ撃って吹っ飛ばした。 「もうすぐ……もうすぐ」 勝利がそこに。ルシアがタックル気味に低い姿勢で進む。半分になった体を惜しまず、敵は滴を飛ばした。岩をも砕く液体弾丸を腕に食らいながらも、ルシアは歯を食いしばって――今また破鎧掌を打ち出した。敵は大きく波打ち、パンと弾けた。 「貫け……ッッ!」 まだ手を緩めはしないと、リャンが貫き通す矢を浴びせる。闇色の軌跡が敵の中心を貫通し、穴を開けた。穴はもう戻らない。 「私たちの……勝ちです!」 走るリリィの姿は3体。避けようとするモンスター。だが遅い。ミラージュアタックの破壊力は液体を完膚なきまでに四散せしめた――。
「これで、終わったのですね」 と、シノーディア。静かになった戦場。皆、不思議と寂しい気がした。 冒険者たちはさっさと最後の酒が眠る蔵の扉を開いた。休憩などしなかった。何しろだだ濡れになった床からアルコール臭が立ち上っている。こんな敵のせいで今から酔うわけにはいかない。楽しい夜が待っているのだから。
● 『おめでとう! 秘酒の塔完全攻略』 そんな仰々しくもありがたい垂れ幕が提げられた酒場に帰ってきた。とうに大勢の客たちで賑わっている。毎度毎度酒を、そして見事に帰還してくる冒険者たちを待っていた常連たち。 さて締めくくりの酒は――ビールだった。珍しい長期熟成ビール。ラベルにそう書いてあるだけでまだ中身は確かめてはいないが、フレッシュなものとは一味違う、味の奥深さがきっとある。――とにかく、酒の中でも一番大衆的なこのビールこそ、終わりにふさわしいといえるではないか。 「乾杯の音頭は俺に取らせてくれ。今まではおとなしく飲んでいるだけだったが、最後くらいは騒ぎたい」 スフェラが酒場の中央に立った。皆がグラスを掲げ持つ。 ――乾杯! 今、全員がひとつになった! 一気にグラスを空けた! 「う……うおおおおおお! 美味すぎる!」 シェイキクスはほとんど叫んだ。ソルディンはあまりのことに震えが来た。 「これに負けない酒に、これ以後お目にかかれるものだろうか?」 瓶はいくらでもある。客たちはもう我慢できず、競争するように飲み合った。何しろビール、もともと飲みやすい代物。入る者はいくらでも入った。 「恐るべし、だね、長期熟成ビール」 ドンチャン騒ぎを眺めるアルフリード。美酒にはここまでの魔力があるのだと思い知った。 「冒険者の道筋……。ええ、決して色褪せないものでしょう。今夜、この人々の間でずっと語り継がれるわ」 シノーディアは敵を倒し、石段をゆっくりと下り、入口を出て、名残惜しみながら塔の姿に別れを告げたことを思い返す。ジースリーも隅でおとなしくやっているが、浮かんでくる激闘の数々と共に在った仲間たちを記憶に刻もうとしていた。 「よーし、お酒の席には踊りが付きものよね」 酒が飲めない未成年のルシアは踊って場に華を添える。弾む胸、太腿。ピチピチな肉体の舞いに客から歓声が飛んだ。 「あー、羨ましいよー!」 リャンは何で今10代なのだろうと思わずにいられない。嘆かわしかった。 「悲しいか、そうか。あんたの分まで飲んでやるからなー」 イルマは早くも泣いていた。泣きながら笑っていた。 「あたしは今……ッッ! 猛烈に感動しているよ! ありがとうよみんな、こんなあたしと付き合ってくれて!」 「わかるわかる。俺は今、感無量という言葉を全身で味わっているぜ……! 何て気持ちのいい夜だろう!」 「本当ですね。つい飲みすぎたくなってしまいますよ」 「……まあ、無理せずに飲みすぎるとしましょうか」 ルガート、リリィ、ルーの三人はイルマを囲んで一緒にとことん笑った。 何時間か経った。外を行く人々は、まだやってるよと微笑み混じりに行き過ぎる。 誰もが、あんまりにも愉快で愉快で時間を忘れた。気がついた時には日付が変わっていたが、構わないでまだまだ続けた。心ゆくまで、飲み明かした。
――以下は後日談になる。 あの塔には新たに酒を納めて、後々のための美酒を造ろうということになった。なぜって? またいつか、未来の冒険者たちが秘酒を発掘するために。

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参加者:12人
作成日:2006/02/19
得票数:冒険活劇9
ほのぼの1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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