<リプレイ>
●湖の畔で その日のロパス湖は、とても静かだった。 湖に張った氷の下に巨大魚が潜み、獲物が来るのを待っているとは思えないほど……。 (「氷を切り取ろうとして、一ヵ所で動き回っている相手を狙うのね。合理的だわ」) そんなロパス湖を眺めながら、重拳の反逆者・アルシー(a02403)は感心した様子で頷く。獲物を逃さないように、狙いを定めて飛び掛かる……それはアルシーが知る動物に関する知識の数々と照らし合わせても、とても合理的な動きだと思えたからだ。 (「そうなると、囮にかからず直接、私達を襲って来る可能性もあるわね」) 警戒を緩めないようにしないと、と自戒しつつアルシーがちらりと振り返ったのは、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)が組み立てているテントの方だった。 この季節の寒さは侮れない。罠を仕掛けるなら、相手がそれにかかるまでの間、寒さをしのげる場所があった方が良いだろうと、メルヴィルは防寒具を準備するだけでなく、テントも持参したのだ。 「えと、もう少ししたらお湯が沸くと思いますから、そうしたら、お茶を淹れます、です」 風除けにとテントを張り終えたメルヴィルは、火を焚いて鍋を乗せ、今度は暖を取りながらお湯を沸かし始める。 「ありがとうございます。……夏の楽しみが無くならないように、頑張りましょうね」 「そうだね。珍しい物には興味があるし……一度くらい、食べてみたいものですな」 火の傍に寄りながら、幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)は他の冒険者達に笑いかける。力を求める者・ニック(a00270)は彼女の言葉に頷くと、ここまで運んで来たロープを広げ、作業を始める。 「三つ繋げれば十分でしょうか」 冬の釣り人、といった格好をした千変・ギネット(a02508)は、そのロープとロープの端をしっかりと結んで頑丈に繋ぎ、ロープを一本の長い物へと変えていく。一方でニックは、周囲に生えている中で最も丈夫そうな巨木を選ぶと、その幹にロープの先端をしっかりと結び、どれだけ引いても外れない事を確認する。 「向こうは……」 「私がやろう」 反対側の先端は、鴉羽舞う銀なる十字架・クリスティナ(a00280)が調達した鎌の柄を結んで、がっちりと固定する。 (「たまには……こういう力仕事も良いわね」) ロープの準備を手伝っていた沈黙の緑・セフィル(a04211)は、準備に目処がついたのを見ると、周囲の土を用いて土塊の下僕を召喚し、その下僕に、鎌を持って湖中に潜るよう命じる。 巨大魚を倒す為の策として冒険者達が考えたのは、土塊の下僕を囮……いわば餌として利用する『釣り』を行うというものだった。巨大魚を釣り上げる為に、釣竿としてロープ、釣り針として鎌を用いた、とても大掛かりな仕掛けだ。 そして、巨大魚が下僕に食らいついたら……ロープを全力で引いて巨大魚を湖上に引き上げ、そして倒そうというのである。 「うまくいくと良いですね」 下僕が湖の淵の近くにあった氷の割れ目から湖中に入って行くのを見届けると、冒険者達は湖の様子を注意深く見守りながら、そこに変化が現れるのを待つ。 だが、湖の様子は相変わらず静かで……やがて時間が過ぎるうちに、下僕の方が時間切れで、元の土へと還ってしまう。 冒険者達は数分おきに下僕の消えたロープを引き上げ、そして再び下僕を湖中に向かわせる行為を繰り返しながら、じっと巨大魚がかかるのを待った。
●巨大魚の行方 湖に異変が現れたのは、冒険者達がそろそろ二十体目になろうかという下僕を、湖中に向かわせた、その直後だった。 「ロープが……」 ぐい、とロープが引かれたかと思うと、たるんでいた部分が見る間に湖中へと引き込まれていく。 この時が来るのをジッと待っていたニックは、すぐさま立ち上がるとロープに手にかけ、力を込める。 「土塊くん、手伝って下さい」 だが、ニック一人の力だけでは、巨大魚は引き上げる事は出来ない。 それを見たシャンナは土塊の下僕を召喚すると、ニックを手伝ってロープを引くように命じる。同じ様にセフィルも下僕を召喚すると、作業の補佐に回らせる。 「く……」 「頭だわ」 五体ほどの下僕達の力を借りて、ようやく巨大魚を少しずつ引き上げる事だ出来……やがて、湖中から暗い影が現れる。 鎌を喰らい、口元から血を流しながら、憎々しげに真正面……ロープとそれを引くニックや、周囲にいる他の冒険者達を睨む、巨大な魚の頭部が……。 「――やっ!」 巨大魚が湖上に現れたのを確認すると、弓を構えながら待機していたシャンナは、その姿に目がけて影縫いの矢を放つ。弧を描いて飛んだ矢は、寸分違わず巨大魚の影を射抜く。が……。 「駄目だわ!」 巨大魚は、その直後に矢の効果から逃れると、そのまま冒険者達に向かって飛び掛かって来る。 最も巨大魚と近い場所にいたアルシーは、眠りの歌を使う為に巨大魚に近付こうとしていたメルヴィルを背に庇いながら受身を取ると、痛みに耐えながらも巨大魚の体を弾き返す。 「く……」 「ブラックフレイム!」 前に進み出たクリスティナは、その動きを少しでも阻害しようと、尾ひれに向けてブラックフレイムを放つ。 その黒き炎の蛇は、直撃とはいかなかったものの巨大魚の尾ひれを掠めて飛び去る。それと同時に、ジュッと何かが焦げるような音と共に、巨大魚の口から悲鳴が上がる。 更に、その隙を逃さずセフィルが気高き銀狼で巨大魚を組み伏せようと攻撃を仕掛ける……が、巨大魚の抵抗は激しく、銀狼達は巨大魚へは噛み付いたものの、組み伏せる事までは叶わず、そのまま姿を消した。 「大丈夫ですか?」 ギネットはアルシーに近寄ると、癒しの水滴で彼女が負った痛手を癒す。彼女が負った傷は、さほど深いものでは無かったらしく、癒しの水滴を飲み干したアルシーの体力は、すぐに全快する。 その間に、メルヴィルが歌い続けていた眠りの歌の効果があらわれ、巨大魚はゆるやかに、深い眠りの中へと落ちていった。 「よし……」 ニックは巨大魚を起こさないように注意しつつ、下僕達と共に速やかに巨大魚を地上へと引き上げる。 「この時を待ってたわ。……さあ、大人しく料理されなさい!」 今の今まで、ずっとそれを待ち構えていた琥珀瞳の獣・リエル(a05292)は、満面の笑みを浮かべながら、巨大魚へと近付いて行く。 そして、リエルは愛用の武器……魔神の包丁を握り締めると、電刃衝によって光る刃先を、渾身の力を込めて巨大魚の腹へと叩き込んだ。 「お肉は……せっかく新鮮なんだから、美味しい刺身で食べるのが良いわね」 うん、と一つ頷くと、リエルは眠りから覚めたものの、今度は麻痺してしまい動けずにいる巨大魚の体を、生きたまま捌き始める。手早く動き魚を捌いていく間に、巨大魚の体からは大量に血が流れ出し、その目からは、いつしか生を示す光が失われていく。 「ああ……眼球って、栄養値が高いのよね。これは、煮込んで食べましょ」 だがリエルは、もはや巨大魚の生死には興味が無いようだ。その瞳すら包丁で綺麗に抜き取ると、手早く持参した調味料や魚肉と共に鍋に放り込み、テント近くで焚かれていた火を利用して煮込む。 「骨まっで愛して〜食べてあっげ〜る〜わ〜♪」 ベキバキという音を交えながら、鼻歌交じりで巨大魚退治……もとい巨大魚の調理を続けていくリエル。 「……あれはもう、彼女に任せてしまって良さそうだな」 嬉々としたリエルの姿を眺めつつ、クリスティナが呟いた言葉に、他の冒険者達は深く頷いた。
●美味しく食べましょう リエルが腕によりをかけた、巨大魚の刺身と目玉煮、それに骨の炙り焼きが出来上がった頃。 巨大魚を退治した事を聞いた村人達は、早速湖に足を運ぶと、中断していた氷の切り取りと、その氷を洞窟へと運び込む、一連の作業を再開していた。 「お嬢ちゃん達、助かるよ」 その言葉に、気にしないで下さいと言わんばかりに首を振ると、セフィルが下僕を召喚し、その作業を手伝わせる。 といっても、所詮は下僕。数分しか持たない仮初の命だ。セフィルが召喚できる最後の下僕が、元の土へと還ったあとは、セフィル自らが氷の塊を抱え、洞窟へと運び込む必要があった。 「お上手ですね〜」 一方ではシャンナが、氷に割れ目を入れて切り出す作業を眺めながら感心している。 彼女はそれに加えて、食用ではなく保冷用として利用される氷の背に、花を飾ってみたら綺麗ではないかと提案してみたが、話によると、この氷は全て食用として用いられるらしく、それについては断念せざるを得なかった。 「そういえば、氷菓を少し味見できないかな?」 「あ……出来れば、持ち帰れると良いんですけど……」 村人達に尋ねるニックに続いて、シャンナも問いかけると、村人達は一人分ずつで良いならと、季節外れな氷菓子の準備に入るのだった。
「……ごめんなさい」 メルヴィルは、今や元の影も形も無くなった巨大魚にそっと詫びの言葉を囁くと、食べてみてと勧めるリエルの言葉に促されながら、おそるおそると、その刺身へ手を伸ばす。 「ふむ……こんな物でしょうか」 私は何でも食べるとキッパリ言い放ちつつ、刺身を口に運んだギネットは、その味を検分している。格段に美味しいと声を上げる程の物ではないが、かといって不味い訳でもなく……まぁ要するに、普通に食べる事が出来る、普通の味だった。 「毒とかが無いといいけど」 「まあ、即効性の物ではないようだから、大丈夫だろう」 ギネットが次々と刺身を食べる様子を見ながら、クリスティナはアルシーの言葉に頷くと、毒見は済んだと言わんばかりに刺身へ口をつける。 「んー、良かった良かった。目玉もお勧めだから食べてね」 そう言いながらリエルも手を伸ばすが……いかんせん、元は巨大魚。十人もいない冒険者達で食べるには、その量は些か……もとい、かなり多かった。 「村の人達は食べる気がしないって言ってるし……」 「では皆で持ち帰りましょう」 ギネットは残っていた刺身を適当に振り分けると、自ら一番量の多い物を選び、それを包むと荷の中に放り込んだ。
「で……これは、キーゼルさんへのお土産です。ちょっと溶けちゃいましたけど……」 酒場に戻ったシャンナは、持ち帰った氷菓子の容器をキーゼルに差し出した。中身は、刻んだ氷に苺の味付けがされた氷菓子だ。移動の途中で少し溶けてしまった為、シャーベット状になってしまっているが……。 「わざわざ? 悪いね、ありがとう」 キーゼルは容器に手に取ると、これ以上溶けないうちにとスプーンに手を伸ばす。一口運ぶと、口全体にひんやりとした感触が広がり、舌先に甘さが広がる。 「うん、美味しいよ。……ただ、この季節には、ちょっと冷たいかな」 そう言って、首のマフラーを巻き直すキーゼルに、シャンナは、じゃあ暖かい季節になったら、今度は一緒に食べに行きましょうねと笑いかけるのだった。

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参加者:8人
作成日:2004/01/22
得票数:冒険活劇4
戦闘3
ほのぼの7
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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