【詩人の日記】2冊目



<オープニング>


「詩人の日記の二冊目は、東方に住む資産家の手に渡ってしまったようです」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)は複雑そうな面持ちで言う。
「その人はいわゆるコレクターです。何しろ資産家ですから、いたって普通の取引で入手したようです。それを責めることは出来ません。しかし――本題はここからです」
 シィルは続ける。
「取引終了した次の日の夜、強盗が現れたそうです。その時は番犬が活躍して辛くも撃退できたそうですが……どうもタイミングが怪しすぎるんですよね。闇商人と強盗がグルになっているんじゃないかと思います」
 売ったあと、再び手元に戻すために強盗に回収させる。本当だとしたら、あまりにずる賢い。
「今回は資産家の邸宅に行って、強盗を退治してください。これが上手くいけば、お礼として日記を返してもらえるかもしれませんね。タダでは絶対に返してはくれないでしょうし」

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参加者
カルシスの鬼姫・シュゼット(a02935)
蒼金猫・シュリ(a08233)
唸る豪腕・ログナー(a08611)
ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)
蒼き旅人・デューン(a19559)
佰花繚嵐・カエサル(a22041)
蒼月を抱きしめる涼風・アンジェリカ(a22292)
静かな大地・ソイル(a27309)
自由の翼・ヨウ(a30238)
竜匠・フォウ(a33546)
愁雪の武踊妃・サツキ(a40837)
光望みし青金石・ラーズ(a43027)


<リプレイ>


 街に入るとすぐ、遠くからでも一際大きなその邸宅を確認することが出来た。冒険者は小高く延びた尖塔を目印にしながら道を歩いていき、やがて事件の舞台である資産家宅に辿り着いた。
「剛健な建物ですね」
 唸る豪腕・ログナー(a08611)は感心するように見上げた。丈夫そうな黒い門が行く手を遮っている。訪問者はまず脇の小屋にいる警備員と話をつけなければいけないようだった。
「ああ、話は聞いております。どうぞ」
 訪問の理由を説明すると、警備員は快く冒険者たちを通した。噴水だの花畑だのがある長い長い庭を通って邸宅に入る。エントランスでしばらく待つと、キラキラの服を着こなした、やや太目の男がやって来た。彼が主人だ。
「強盗が来たと聞いたので警護に来ました。強盗を追い払った後、お話があるのですがお時間は大丈夫ですか?」
 灰色の追跡者・シュリ(a08233)が言った。主人は一瞬眉をひそめる。
「使用人が勝手に酒場に依頼したようでな、私のあずかり知らないことでいささか困っている。そちらも何の報酬が貰いたいのかは知らんが……まあせっかくだから強盗は捕まえてもらいたい。ああ、話はその後だ」
 言い終えないうちに主人は不機嫌そうに去ってしまう。色々と心労があるのだろうと思った。
「さ、使用人さんと相談しあって配置を決めよう」
 復讐姫・シュゼット(a02935)の言葉に一同頷いた。


 夜空に月が覗く頃。不気味なほど周囲一体は静まり返っており、眠っていた。
 屋敷の入口で警護するのは、ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)、蒼月を抱きしめる涼風・アンジェリカ(a22292)、静かな大地・ソイル(a27309)、そしてシュリの4人。月光だけが明かりの中、じっと闇を睨む。
「私たちはご主人様を守る為に来ました。ちょっとだけ場所を貸してくださいね」
 アンジェリカは獣達の歌で番犬をなだめている。番犬は邪魔するなよと言いたげに一吠えした。
 強盗が真正面からの侵入を試みるとはあまり考えられないが、油断は禁物だ――そう思ったまさにその時、軽い、だが速い駆け足の音が鳴り近づいてきた。
 ひとり、いや3人。闇にまぎれるための黒いタイツだと何とか判明する。ゴーグルもしている。
 最初に向かっていったのは番犬だった。が、侵入者は何かを地面に投げつけて爆発させた。途端に番犬は悲鳴のような鳴き声を出して転げた。冒険者4人にも刺激臭が漂ってくる。どうやら催涙効果のある代物らしい。
 狙いを分散させるため敵3人は素早く散っていた。左側の男がナイフを持ってジュダスに襲いかかる。
「犬対策はしてきたようだが――俺たちはそうはいかん!」
 紅蓮の咆哮が夜空に響き渡り、カチコチに動かなくさせる。
「ごめんなさい、しばらく静かにしていてくださいね?」
 アンジェリカもまた眠りの歌で攻撃を届かせぬまま返り討ちにしていた。
 別のひとりが窓に達しようとしていた。その勢いのままぶち破って入る算段である。しかしそれは急激な脚の痛みで失敗する。
「諦めろ」
 ハイドインシャドウで姿を消していたソイルが細身剣で突き刺したのだ。お見事、とシュリが拍手してソイルからロープを受け取り、倒れた強盗の腕と脚を縛っていく。
「……やはり陽動なのでしょうか?」
 ジュダスが耳を澄ます。裏がにわかにざわついているようだった。


「来ました!」
 ミスティックブルー・デューン(a19559)が大声を張り上げる。邸宅の裏手から走り寄ってきた黒タイツの数は、表の倍以上の7人だった。ほとんど無音、手馴れた犯罪者の動きである。
「多いなあ……。でもやるしか! デューン、束縛よろしく!」
 武道家の動きについていける一般人などいない。シュゼットがあっさりとふん捕まえて殴ってまずひとり気絶させる。デューンは落ち着いて緑の束縛を生じさせる。二人目の動きを封じ込めた。
 が、実力で勝るとはいっても、数の違いはどうにもならない。こっちを倒せばあっちは逃がすことになる。
「ぇ、えと……ごめんなさい。御用、です」
 愁雪の武踊妃・サツキ(a40837)が熾烈な取っ組み合いの末に、三人目を地面に押さえつけた。だがその間に裏の扉を蹴破られた。窓を割られた。
 4人も侵入を許してしまった。あとは中の仲間たちを信じて、引き続きここに張り込むしかない。また何人か、時間差で来ることもありえるのだ。
「しかし、仲間の誰かが辿り着けばいいみたいな作戦ですね……」
 デューンが言った。意外にも敵は強固な連携と信頼とで結ばれているのかもしれなかった。


 裏から入った強盗たちは館内を知り尽くしているかのようにスムーズに走る。主人に日記を売った闇商人から構造を知らされているのだ。
 一方、内部警護班は各自散らばって強盗の殲滅に当たる。
「強盗は必ずここに来るはずです」
「だよな。目的が例のブツなんだから」
 ログナーはハイドインシャドウで隠れ、この虚無に捧ぐ供物となれ・カエサル(a22041)はサーベルに手をかける。詩人の日記は彼らの目前、資産家の部屋にあるのだ。もちろん打ち倒す自信はあるが、出来れば強盗がここに辿り着く前に、仲間の誰かが捕らえてほしいと思った。
 自由の翼・ヨウ(a30238)は1階のフロアにいた。ここに来ないに越したことはない、と考えていた矢先、研ぎ澄ました聴覚が複数の足音を捉える。見れば強盗が横一列になって通路から素早く躍り出てくる。
「……やれやれ」
 ヨウが構えると、真ん中の男が懐から取り出した玉を床にぶつけた。表で番犬を無効化した催涙弾だ。目が沁みる! だが口は無事だ。冷静になり眠りの歌を歌うと、ひとつだけ人の倒れる音を聞いた。残りは階段を駆け上がってしまっている。
「む?」
「来たか?」
 階下の騒ぎが耳に届いた。光望みし青金石・ラーズ(a43027)、竜匠・フォウ(a33546)のふたりは貴重な品を置いた部屋の付近に待機していたが、階段まで素早く走る。
 登ってくる強盗を確認した直後、いきなり鋭利なナイフを投げつけられた。
「! まったく、こっちはか弱い青少年だぞ。少しは加減しろ」
 ラーズが杖で叩き落とす。フォウは危うく目に当たりそうになるのをすんでで避けると、落ち着いて歌って眠りに落とす。フォウが舌打ちする。
「しまった、抜けられた……!」
 ふたり逃してしまった。慌てて後を追う。
 敵は一切の無駄なく、叩き込まれたルートの通りに二階の回廊を駆け巡った。多くの仲間を失ったが、まもなく目当ての主人の部屋。
 ――しかし。
「くっ! ここにもいたのか」
 そこには悠然と構える冒険者カエサルがいる。もはや戻れはしない。全力で行く手を切り開くのみだった。強盗たちは揃ってナイフを突き出しに来る。2対1ならどうにかなると考えて。
「? もうひとりだと?」
 急激に出現するリザードマンに驚き、動きが鈍った。ハイドインシャドウを解いたログナー、そしてカエサルがチャンスを逃さずに一気に粘り蜘蛛糸を広げる。そうして最後の強盗は捕縛された。
 絶対に自分では動けないように縛られ、ゴーグルも引っぺがされた強盗たちが、1階のエントランスにまとめられた。集結した冒険者たちと、無事捕縛の報を受けた主人が侵入者を見下ろす。
「お前は先日の商人と共にいた男ではないか。売った後で強奪する――まさか本当だったとは」
 主人が強盗を指差し、わなわなと震えた。男はそっぽを向いた。
「くそ……こうまで強いガードがいるとは」
 並みのガードならば突破できる自信はあったのだろう。冒険者が相手では、さすがに分が悪かったわけだ。
「ふん、俺たちを簡単にあしらうとは」
「はいはい、御託はいいからちょっと黙ってろ」
 さらにロープを締め上げて黙らせるラーズ。シュゼットが予定通りに尋問する。
「さて……単刀直入に聞こう。君たちの後ろにいるであろう人物のこと、聞かせてもらおうか。喋れば何もしないけど?」
 連中は口をつぐんだ。身包み剥いで木に吊るすと脅したが、何も言わない。脅しでないことを証明するために、何人かで手分けして外に連れ出した。
「ところで、連中が売ったその日記ですが……」
「悪質な者たちの手による盗品だ。はっきり言えば……危険」
 デューンとフォウが主人に言った。交渉は難航するだろうと思われたが、意外にも早い決着がついた。
「何か後ろに危ないのが蠢いているらしいな。手放したほうが安全のためかもしれん。……出所の怪しい物に手を出すべきではなかったな。損は授業料としよう」
 主人は苦々しい顔をしながら、詩人の日記をタダで返してくれたのだった。確かに詩人の署名がある本物だった。
 結局強盗たちは何も言わずじまいだった。どんな拷問をしても口を割りそうになかった。仕方なくその後の処理は館の使用人に任せ、冒険者たちは帰還の途に着いた。


「お待たせした。確認してくれ」
 今回はソイルが代表して日記の二冊目を渡す。学者は椅子から転げ落ちるほど喜んだ。ダメかもしれない、と心のどこかでは思っていたのだろう。
「また見させてもらっていいですか?」
 サツキが聞く。学者はOKして、手渡した。
「あ、中身は見ないですけど触りたいな。何だか感慨深くて」
 フォウがくたびれた表紙を撫でると、こみ上げる嬉しさを感じた。悪から取り戻したという達成感だった。
「しかし、たいした情報は得られませんでしたわね」
「ただ乱暴でずる賢い連中とは違うのかもな」
 腕を組むシュリとカエサル。今後も苦労は避けられないだろうと覚悟した。
「まあ、ひとまず今日のところは休みましょうか。見張りなんて疲れることをした訳ですし」
 ジュダスが言った。そう、やる時はやって休むときは休む。それが充実した冒険者の正しい在り方なのだから。


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作成日:2006/02/21
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