<リプレイ>
清楚な佇まいに高貴さすら感じさせる美貌――。柔らかな微笑みを湛え、安らぎを求めし森の守り人・リーゼ(a04066)は言葉を紡いだ。 「かつてこの地は栄え、安らぎに満ちていたそうですね……。変わり果てたこの場所を優しい光で照らすあの月だけが変わらない……彼等がここに現れ留まる気持ちが解る気がしますね」 索漠たる眺望がこの世の果てまでも続いているかのようだった。霊査士が指定した丘の周囲に見られたものは、緑を失い、乾ききったひびだらけの赤土と、月影に浮かびあがる漆黒の暗渠、そして、地平の彼方まで垂れ込んだ闇ばかり――。 彼は忸怩たる思いを胸に抱いていた。三角頭巾の下からのぞく、澄んだ青い瞳を丘の頂点へと据えたまま、この子の七つのお祝いに・ヨイヤミ(a12048)は、ひとり拳を握りしめる。 琥珀の髪に、紫がかった明るい臙脂の双眸。黄金の嫉妬盤・ナシャ(a21210)は月を見ている。青ざめているが、清澄な白光を間断なく降らせる夜の顔役だ。何事かを彼は仲間たちに告げ、ワルプルギスの唄と名づけられた白木蓮の木杖を、暗闇の一点へと差し向ける。宙に紋章が描かれた。滴り落ちるかのような輝きが湛えられた光の水面から、銀の光によって構成された気高い姿の獣が現れ、主が杖で示した包囲へと、風のごとく丘を馳せる。 銀の狼は闇へと消えた。だが、その直後のことだった。丘を見つめていたすべての冒険者たちが、忽然と舞いあがった灰色の靄と、その内奥からゆらりゆらりと現れる巨大な人影に、目を奪われる。 「紫……髑髏って普通白いよな……不気味ー」 半身を冴えた白銀に、半身を暁光を思わせる金の波動に包まれて、へたれ黒犬王子・レイ(a25187)はそう独り言を口にした。茫洋たる海原を見つめるがごとく、彼の灰の瞳は暗闇を彷徨うが、その視界はしっかりとある一点を見つめているのだった。それは、紫の髑髏が手にする澄んだ球体――もうひとりの冒険者の変わり果てた姿である。 冒険者たちは赤土の坂道を登った。灰の帳から現れ、それを身に封じた巨人は、丘の頂点に定まったまま動かない。腕を広げた姿は、月から降る銀の光に貫かれる十字架さながらであった。さらに、その身に異変が起こる。赤黒い魔炎が、たゆたう衣の足下から噴きあがり、瞬く間に胴を駆けあがって、髑髏の虚ろな眼窩を魔炎で満たしてしまったのである。 闇色の聖衣をまとうその少女は、左手に黒い大きな鍵を握りしめていた。深淵の水晶・フューリー(a36535)は鍵を視線の高さにまで掲げると、手首をひねった。と、同時に唇から言葉が漏れる。 「……ゲート・オープン……コード『サンクチュアリ』」 細い足首を包み込む長靴の底、乾いた土がひびわれる丘の表面に、仄かな光によって記述された、巨大な紋章が浮かびあがった。それは、円環をなす冒険者たちを足下から包み込んだ。 「水晶を持った髑髏の術士……か。随分と薄気味悪いモンスターだな」 「水晶と髑髏、両方拘束できるとラッキーだけど」 鼻の下を指先でこすり、軽い笑いを残すと、赤雷・ハロルド(a12289)は相棒の傍らから駆けだし、暗闇の胴を持つ魔物の正面に立った。砕華の名を持つ槌を頭上に旋回させ、風を渦巻かせる。やがて、それは、猛々しいまでの威力を秘めた、熾烈な螺旋の風へと変わった。 相棒の技が、巨大な魔物と澄んだ魔物を同時に捉えている。天藍顔色閃耀・リオネル(a12301)は息を飲み込んだ後、『青空の月』と銘打たれた爪――蒼昊皎如――を輝かせる左手を、闇に瞬く月のある空へと突き立てた。指先から伸ばされた糸は、髑髏の胴には吸いこまれて消えてしまったが、水晶の表面には粘り着き曇らせてしまう。 全身に白銀をまとい、また、背後に従える召喚獣にすらわが身と同じ銀の輝きをまとわせた男。彼は名を、銀の剣・ヨハン(a21564)といった。アメジストの輝く、精緻な細工の施されたシルバーソードを手に、彼は空を見上げ、言い放った。 「髑髏は地中で静かに眠っているのがふさわしいのです」 水晶は魔物の手にあり、剣の及ぶものではない。そこで、ヨハンが繰りだした技は、ハロルドが展開させたものと同様、禍々しいまでの膂力を秘めて渦巻く風であった。 魔物の巨躯が揺れる。だが、それは、激しい風に巻かれたからではなかった。水晶を支える腕とは逆の左腕が空へと向かい、袖口から現れた黒い指先が乾いた音を鳴らす。その瞬間、不吉を告げる囁き声があたりを包み込み、魔物の体躯から異様なまでの数に上る、黒い針の群が涌いていた。 「夜はいいですねぇ、勘が冴えます」 全身に炎の舌先を這わせた姿で、黒包帯の怪人・ソベル(a40744)は魔物が放った黒い群の襲撃をかわした。虚空へと彷徨わせた指先から、漆黒の闇夜を思わせる包帯をたなびかせる。すでに心の底から邪竜の奢りを立ちあがらせ、術の力を高めていた彼は、魔物が放ったものと同質の、小さな針による襲撃を敵に浴びせかけた。 肌を穿たれた仲間たちを救うべく、リーゼの歌声が丘に響く。ヨイヤミは指先に念の薄刃を宿したまま、魔物がまとい、闇のごとき体躯を含ませる外套の合わせ目を見つめ、無造作に右手を振り切った。飛燕は胴に突き立った。実体がないのではない。髑髏の胴は、確かに実在する――。 「隙、みーっけ!!」 黒曜石の刀身に朧な光を走らせて、レイは楽しげな叫びとともに、風の刃を解き放つ斬撃を、魔物へと見舞った。ひう、と風を裂いた衝撃は、紫の髑髏を捉え、槌が大理石を打ったかのような高い音を響かせる。 円陣の一角から何者かの影が浮かびあがる。それは、緋色の弓を構える姿の、銀の髪をした少年の輪郭だった。 「術士タイプのモンスターとの戦いって、ホントは得意じゃないんだけど……敵の選り好みなんてしていられないからな」 そう呟いた少年の名は、銀月を抱く輝石の守護剣・アス(a21807)。彼は魔物による黒い針の傷を、その身に浮かべてはいない。気配を断ち、闇に影となって身を潜めていたからだ。緋血弓の張りつめた弦が鳴る。射られた矢は、無数の荊を鏃に生やしたものだった。緩やかな弧を描いて宙を渡ったその矢は、巨人の掌に座す水晶の、ほぼ中央を貫いた。 「外見と言い、現れ方と言い、勿論その戦闘力と言い…………凄く、嫌な感じだ」 黒い鱗で包まれた、リザードマンらしい縦長の顔を左右に振る。一輪の花を護る巨龍・カイル(a10226)は不信か、それとも、不安とも呼ぶべき感情を、ただ振り払った。鮮やかな足の運び、流麗な腕の所作によって、愛用する槍『闇を裂く龍牙』に円の残像を描かせた彼に、臆するところは何もない。澄んだ体躯に白いひび割れを浮かべる水晶の魔物へ、彼は穂先から飛びたって闇夜を渡る、疾風のごとき衝撃波を叩きこんだ。 突然だった。艶やかな面を曇らせる糸の呪縛から解き放たれた水晶の丸みに、赤黒い唇、揺らめく頬、暗闇の眼下を抱く、異形の顔が浮かびあがった。それは水晶の曲面から離れ、空中に顕在化するなり、瞬く間に全容を膨れあがらせ、魔の力で満たされた魔炎の塊となった。 「闇色のマントを纏い水晶を手に立つ姿……古の術士の妄執の化身か……」 銀煌の死神獣・セティール(a00762)は囁いた。水晶から放たれた柱状の魔炎を浴び、肩に禍々しい傷跡を晒し、魔炎の舌先によって皮膚を焼かれながらも、彼は左手をナシャへと掲げる。すでにリーゼには施されていた鎧聖の守りを付与するためだった。まだ、自身には使用していない。 黒い鍵を持つ少女――フューリーのたおやかな肢体から、仄かな癒しの輝きが発せられる。ヨイヤミは巨躯の術士から再び発せられた、黒い雨のごとき針の掃射に身を貫かれながらも、歪な絵柄の浮かぶカードを放って、清らかな光を湛える水晶の表面に不吉な靄を浮かべようと試みる。じぶじぶと滲みでるようにして、黒い何かが水晶に浮かびあがった。 滑らかな杖にまるで少女のような指先を絡ませ、ナシャはかつてふたりであった異形を見上げる。彼は仄かな光をその胴から発していた。彼は想うのだった。人間の頃はどんな関係だったんだろ? 二人とも凄い邪竜導師だったのかな……。 まるで凍りついた樹木がそこにあるようだ――。セティールは目前にそびえたつ魔物の巨躯を見上げるたび、そのような感慨に襲われた。敵は根を張ったかのようにその場に留まり、ただ、月の光に差されるままに外衣を翻し、黒い針の雨を吹きつけてきた。 レイが周囲に浮かべた環状の召喚物は、紫の髑髏があたりへと噴出される針によって即座に破壊される。すべてを打ち据える驟雨に対して、衝撃を帯びた環はあまりに脆弱なのだ。 銀の手套で護られた指先から、赤い滴りが滲んだ。針に腕を貫かれていたのだ。壮麗なシルバーソードで空を掻き、ヨハンは螺旋を描いて吹き荒れる烈風のごとき闘気を展開させた。渦巻く風は、水晶と紫の髑髏を包み込み、その身を引き裂く――。ハロルドが追随した。宙を掻ききるかのような風を巻き上げて、二体の魔物をその裡に起き、身を歪めるほどの衝撃をもたらす。 だが、その直後――。身を強張らせたふたりの元へ、紫の髑髏から涌きだした黒い針の群が向かい、さらに、水晶の面から、憎悪を浮かべた紅蓮の顔が浮きあがった。リーゼの歌は間に合わなかった。清らかな歌声によって、ハロルドはその身の呪縛から解放された。けれど……水晶から撃ちだされた魔炎の塊を一身に浴びたヨハンは、地に伏せたまま四肢を震わせもしない。 耀う泡沫を身にまとう聖女を宙に浮かべると、ソベルは前方を指差した。そこには、肩で息をするセティールの姿がある。水晶の放つ魔炎を二度も浴び、どくどくと血を流したままの赤黒い傷口が開いたままだった。 強張らせた指先に気を収束させ、リオネルは煌めく糸の束を放射した。扇状に広まった瞬きは、水晶を捉えることはできなかったが、巨躯の術士を絡めとることに成功した。癒しの力を含んだ、優美な輝きの輪を広げるナシャ。その傍らから静かに歩みだし、フューリーは手にする鍵を掲げる。唇から扉を開くための符合が発せられた。 「……ゲート・オープン……コード『ブレス』」 幻の木の葉たちは、風に触れ合う音はたてずに、けれど、渦巻くようにして宙を駆け抜けて、巨躯の術士が掌に置く、水晶の魔物を取り巻いた。ヨイヤミの右手が振り抜かれ、名状しがたい何かが描かれた紙片が、透けた躯に白い亀裂を走らせる。カイルは槍の穂先で空を切り裂き、澄んだ音色を水晶から響かせた。風の刃で刻み、透明な薄片を散らしたのだ。 震える腕で緋色の弓を支え、矢羽根を頬の位置にまで引く。 「……当たれっ!!」 アスの発した矢は、鏃に無数の刺を生やしたもの。それが水晶の魔物の中心を捉えると、全身に蔓延っていた亀裂が白い濁りとなって広がった。そして、裂け目から魔炎がわずかに噴いたかと思うと――球形の魔物は粉々に砕け、眷族の掌から赤槌の地面へと煌めきながら降ったのだった。 ビロードのように艶やかな、深緑の生地で仕立てられた衣装は、イナンナ家に伝わる正装である。片腕を掲げた紫の髑髏から吹きつけられる黒い雨を、リーゼはかろうじて回避した。すりむいて血の滲んだ掌はそのまま、ルーンスタッフをしっかりと握りしめて、ドリアッドの少女は高らかに歌う。丘の頂上にあって、今宵は一度たりとも途切れたことのない調べ――。 「ああ、一気に、畳み掛けるぞっ……」 瑠璃色の光を発する薔薇をあたりに散らし、漆黒をまとった姿で、カイルは巨人の足下から飛びたった。突きだされた槍の穂先は、紫の骸骨を支える胸部を次々に貫いた。足の裏で魔物の体躯を蹴った少年は、肉体から最後の一刺しで固定された槍を引き抜き、その拍子で背から土へと落ちたが、口の端には笑みを浮かべてさえいた。会心の感触が柄に伝っていたからだ。 ナシャとフューリーの身体から、次々と温かな光彩を含む、癒しの輪が広まってゆく。紫の髑髏を囲む冒険者たちの傷は、ほぼ完全に癒され、武具を手にする横顔にもかすかな笑みが残るようになった。口の縁に柔らかな線を浮かべ、アスは黒いカードを投擲した。骸骨の平らな額に黒い染みが浮かびあがる。黒い布きれを巻きつけたソベルが、両手をおどろおどろしい形にもたげて、不穏な音を足下から空へと向かわせた。艶やかな光沢の針の群が、微細な穴を黒い躯に穿ってゆく。 敵の膝下にまで踏み込み、セティールは毀牙という名の鎌を振り抜いた。白銀の弧月を思わせる刃に、あまりにも無防備に膝の裏側を裂かれた魔物は、そのまま片足を失い――それは赤土の亀裂へと染み込んで消えた――体勢を傾かせる。 黒い驟雨が降り、彼らの視界を朱に染めた。 「ありったけの力でぶっ放すぜ!!」 瞬秒の跳躍から右足で孤を描いた彼は、闇色をした魔物の胴部に浅からぬ裂傷を刻んだ。 蹴りを放ち終えたハロルドの姿を、その身を影へと同化し、魔物の後方へと回り込んでいたリオネルは、巨人の片足の向こう側に認めていた。両腕を広げた魔物は、前方に並び立つ冒険者たちを抱え込むかのように見えたが、リオネルにも、そして、彼の動きに追随したヨイヤミにも気づいていない。土を蹴り、飛びたったリオネルの蒼昊皎如が、肩胛骨の下を深々と裂いた。ヨイヤミは左側に青と赤の武具を向かわせ、波打つ外套を切断した。闇のような肉体が露出する。 受けてみな――。心の裡で愛刀の名を囁き、レイは右腕を振り抜いた。黒い刀身が反り返る美しい曲刀は、宙に暗い孤を浮かべ、その線と酷似した姿の衝撃は、音もなく空を駆け抜けて、髑髏の頸部へと飛び込んだ。 頭部を失った巨躯は後方へとふらつき、忽然と現れた灰の帳のなかへと倒れこんで、その姿を霧消させた。ただ、暗闇だけを湛えた暗い眼窩や、先端の尖った歯の並ぶ髑髏だけが、空から降る月影のさなかで残滓となった。 体躯が消え去り、心の裡で安堵の声を呟いたのも束の間、ヨハンは痛む身体からの睡魔という要求と戦いながら、赤土を深く掘り進んだ。穴の底に、頭部だけとなった亡骸と、砕け散った透明な死体を並べる。頭を左右に振り、彼は言う。 「古代の都市に縁のある偉大な術者だったのでしょうか?」 「世が世なら……貴方たちと共に戦う日があった知れませんですね」 銀の弦が連なるハープを手に、穴の淵に佇むリーゼ。その白い指先が弦を撫でて奏でられた音色は、深い畏敬と哀悼を語り、月の瞬く空へと昇ってゆく。 彼が掌にこっそりと忍ばせた髑髏の欠片、それは、ただの骨である。ただし、色彩は奇妙な紫だった。ナシャは背後に漂う漆黒の外套に、「さあ行こう、閨」と囁いた。歩まなければならない。世界のどこかに秘められたまま、輝きの時を待つ欠片たちを、この掌ですくいあげるために――。

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参加者:12人
作成日:2006/02/20
得票数:戦闘12
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冒険結果:成功!
重傷者:銀の剣・ヨハン(a21564)
死亡者:なし
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