<リプレイ>
● 「お。見えてきたなぁ〜ん」 前を行く餌・ジン(a08625)の言葉に目をこらしてみれば、なるほど確かに川の流れが。 シラクスとの距離はいかほどか。チキンレッグの忍び・ピナタン(a44156)は考える。 冒険者の足で一時間近く駆け通しだ。服装は、皆出来る限りの軽装を心がけている。しかしこれはシラクスも同じく。スタートはほぼ同じだった。シラクスの走るのはそこそこ踏み固められた道、冒険者が行くのは道無き道。 罠や襲撃を警戒しつつ等、その他各種条件に違いはあるが、まずシラクスの方が先と言うことはあるまい。 とはいえ、前を行くジンと永遠の愛の探求者・フラレ(a42669)に比べて、ピナタンはそれほど一般人に比べて体力的に勝っているとは言えない。というか冒険者に成り立ての、今回が初依頼だ。 それ故にかなり気合いが入っている。 (「初めてのこの依頼を成功させて、人の役にたってこそ、ほんとうの冒険者になれる」) そんな熱い思いは胸に秘め、ひたすら走っているのだが、まだ前の二人ほどの体力がない。全力でついて行っているが、どちらかというとピナタンに合わせて走っているという方が近い。シラクスとの差に、それほど余裕はないだろう。 「急いでせき止めている奴らを探しましょう」 フラレの言に従い、一旦迂回して上流へ出る。道から離れれば離れるほど、植物が茂っていて見通しが悪い。 なるほど、さっきまでとかなり水量が違う。どこかでせき止めているのは間違いないようだ。 「! あそこだ。ここからは静かに行くなぁ〜ん」 ジンの指す方向を見ると、百メートルほど向こう、繁みで見えづらいが、間違いなく人がいる。さらに近づいてみると、そこそこ大がかりに川をせき止めているのがわかった。 「ちょっとした水門並ですね」 「まぁ、一時的にでも川の水量を増やそうっていうんですから、あれくらいの設備が必要なんでしょうね」 ピナタンとフラレが頷きあう。 距離はもうあと五十メートルほど。ここからは、見つからないよう細心の注意を払わねば。
「お。合図だぜ」 「だな。ようやく開放されるぜ」 簡易水門の上に腰を下ろし、下流の見張りからの合図を今か今かと待っていた男達は、待望の合図に待ってましたと腰を上げた。 「そうは」 「いかないな」 誰何の声をあげる間もなく、背後から気配もなく忍び寄っていたジンの粘り蜘蛛糸によって、次々と絡め取られていく。 さらにはフラレの眠りの歌で夢の世界へ。 「いっちょあがり、っと。後はまかせたなぁ〜ん」 シラクスを影からサポートするため、後の処理を二人に任せて駆け出そうとするジンに、ピナタンは疑問に思っていたことを聞いてみた。 「ジンさんって、ヒトノソリンじゃないのに、どうして『なぁ〜ん』てつくんですか?」 「え゛っ。……ついてた?」 どうやら普段から言っているわけではないらしい。しかも無意識だったようだ。 「まいったな……前の依頼の名残でな。あんがとさん」 風のように走り去るジンを見送りつつ、眠りこけているならず者たちを持ってきたロープで縛り上げるピナタンとフラレだった。
● 冒険者には、それぞれ器というか、容量とでもいうべきものがある。どの冒険者も、その器に収まりきるだけのアビリティしか、一度に使いこなすことはできない。アビリティを活性化する、というのは、器にアビリティを注ぎ込むようなもの、かもしれない。 「あああ〜! 紅蓮の咆哮……は活性化するのを忘れてしまいました!」 ガーン、という効果音を背中に背負う蒼月華・チョウブ(a30426)は、要するにそういうことである。彼の場合、奥義の域まで極めたデストロイブレードを活性化すると、他のアビリティは活性化できなくなる。 「ええぃ、男がそれくらいのことでうじうじしておるのではない」 長身痩躯、馬面に無精髭と揃った爆ぜる剣・テッセン(a44094)が、鬱陶しいと怒鳴りつける。器用に、数十メートル先で岩を手に下を覗き込んでる男達に気づかれないよう、小声で。 「じゃ、俺の出番かな」 フォローよろしく、と言い置いて、前進する想い・キュオン(a26505)は前方の男達へと駆けていく。 「なんだてうえあろわぁおおおぉぉぉおお!!??」 足音に気づいて男達が振り返ろうとしたときには、キュオンの掌から延びた粘着性の糸が絡みつき、身動きできなくなっていた。 身動きのとれなくなった男達を、手際よく荒縄で縛り上げて、 「さて。あと三十分といったところですわね」 月寒江清・レム(a35189)の台詞に、全員がここからが本番、と気合いを入れ直す。 シラクスがたどり着く前に、この見事にオーバーハングした崖を崩し、登りやすくしなくてはならないのだ。 「にしても、よくもまぁこれだけ頑張ったものだなおい」 テッセンが呆れるのも無理はない、というくらい見事なオーバーハングだ。 「ハァッ!」 力強い気合いの声と共に、崖の先端部分が爆発し、ガラガラと崩れていく。 「芸術的なまでに登りやすい崖にして見せますよ!」 開いた口が塞がらない、悪漢共の視線の先で、チョウブが元気よく言い放った。
「――こんなものかしらね」 レムの台詞に、「うむ」「ですね」と仲間達からも同意の声が返る。 「しくしくしく。徹夜で頑張ったのによぅ……」 号泣する悪漢。 チョウブのデストロイブレードで大ざっぱに崩し、レムの爆砕拳とテッセンの大地斬で微調整された崖は見事なまでに削り取られ、しかも要所要所に手がかりとなる蔦を配してある親切設計。 これなら子供でも、とは言わないが、相当登りやすいのは間違いない。 「あとは、シラクス様が無事通過するのを見届けて……」 レムの視線がギロリと悪漢共へ向けられる。 「……そろそろ帰っても良いですか?」 「仕える相手を間違った我が身を恨むのだな」 うんうん、と頷きながら、ぽんぽんと悪漢共の肩を叩くテッセン。自分たちの運命を悲観して、男達の顔から血の気が引いた。
● 「……結構暇だな」 ぼそっと呟いた白銀の翔星・リエン(a21315)の一言は、結構その場の三人の総意だったと思われる。 ドラゴンズゲートと村との中間地点辺りに庵があったため、村の方から行けばより早くたどりつける、という案こそ実現できなかったものの、逆に気が急いてしまったため、一気に走り抜けた。花嫁から大体の場所を聞いていたのもあって、あっさりと変装して待ちかまえていた悪漢共を発見、周囲に人がいないことを確認し、成敗。 ここまでで二時間程度。異常に速いようにも思えるが、何せシラクスとは違って崖を登るのにも仲間の手助けは得られるし、そもそも身体能力にも差があるし。 普通に考えると、シラクスが通りかかるまで、まだ二時間くらいはあるハズだ。 そんなわけで、 「確かになぁ……」 「そうだねぇ……」 白き花を守り抜く桜・リヴェル(a35508)と奏葬煉火・レンカ(a39426)も一緒に、暇だなぁと呟くことおよそ二時間。変な格好のままで待ちぼうけである。 その間に、捕らえた悪漢共を尋問したりもしてみたのだが、特にこれと言って新しい事実とかも出てくるわけもなく。 怪物に変装して二時間ボーッとしているというのは、意外と恥ずかしかったのだが、十分もしていれば慣れた。誰に見られるわけでもなし。 レンカは覆面の上から仮面を被り、黒マントを被っている。 リヴェルは、頭頂部の尖った覆面。 覆面というのはけっこう暑い。 ちょっと脱いでおこうかなと考えたところで、遠くから足音が聞こえてきた。 「お、来た来た。皆上手くやったみたいだな」 ようやく出番だ、と全員立ち上がった。 繁みの影に潜んで、タイミングを計りシラクスの前へ飛び出る。 「さぁ、会場へたどり着きたければ、俺たちを倒してからいきな!」 それっぽい台詞をはくリエンに、「何を!」とシラクスが殴りかかる。もちろん、シラクスは村人の誰かの変装だと思っているので、殴る拳にはそれほど力は入っていない。 依頼の話を聞いたときに言われたとおり、儀式みたいなものなのだ。 その辺り、派手にやられてあげようと思っていた三人は、ちょっと思惑が外れて最初とまどったが、すぐに要領を飲み込む。 「うわぁ! やーらーれーたー」 それなりに棒読みで倒されるリエン。 「やられた〜! お、お前なら……きっと嫁さんを幸せに出来る! ……が、頑張れ、よ」 聞いてる方が恥ずかしくなるような捨て台詞を残してやられていくリヴェル。 「あ〜れ〜」 最初っから成り行き任せで、死に方もテキトーなレンカ。 三者三様の死にっぷり。 「ありがとう! みんな」 と、三人を村人の変装だと信じて疑わないシラクスは儀式参加への感謝の言葉を残し、たったかたったか走っていった。 むくり、と身を起こす三人。 「っし、これでオーケー、と」 「後は、おしおきね」 三人の視線が、草むらの影に転がされてる悪漢共に向けられる。
● 正午の鐘が響き渡ると同時に、二人の結婚式が始まった。 十分余裕を持って到着したシラクスは村人皆に歓迎され、今は服も着替え、立派な花婿として式の主役を務めている。 「うむ、いいねぇ。いつか俺も……」 「俺も、式を挙げるときには、こうやって皆に祝福してもらいたいもんだな」 それぞれの想い人を胸に、未来を夢想する若者、リエンとリヴェル。 そんな華やかな表舞台の裏側で。 「知ってるか? 人の恋路を邪魔する者は、ノソリンに蹴られて死んじまえ、ってぇ言葉があるんだが」 テッセンがイーダに向かってすごむ。 村の穀物倉庫裏に連行された、イーダと道々捕らえられた悪漢たち。ぐるりと取り囲む冒険者。うわ。正義の味方っぽくない。 「男らしくないよねぇ」 「はっきり言って、見苦しいです」 「うぅ……」 ざっくりと容赦なく急所を抉るレンカにチョウブ。 「今度変な気ぃ起こしたら……」 突然、テッセンの手近の木が倒れる。居合い切りだ。鋭利な切り口は、とても瞬時に抜刀して切ったものとは思えない鮮やかさ。 「お前さんの首と胴がこうなるぜ」 「気をつけてね〜」 にこりと笑顔で、イーダの顎をぎしぎしと音がしそうなくらい掴んでのレンカの忠告に、首を振れないので視線を激しく上下に動かすイーダ。
「たぁッ!」 レムの身体が華麗に宙を舞う。 その手が目指すは、花嫁の投げたブーケ。 一般人では競う術もなく、あからさまに他の女性達よりも数十センチは高く跳んだ彼女が、ブーケを手にするのは当たり前とも言えよう。というか民を護る冒険者としてどうなのかそれは。 「レ、レムさん……ステキすぎます」 なぜか遠く離れた場所から遠眼鏡で式を眺めて感動に涙していたフラレが、ブーケをキャッチするレムの姿に鼻血を吹いていた。ナゼ?

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参加者:10人
作成日:2006/02/27
得票数:ほのぼの5
コメディ9
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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