≪護楓の盾カムライ≫ミヨシの戦い 〜伏兵



<オープニング>


●奪回作戦
 会談の後、城下町の宿に身を寄せた護楓の盾カムライは、大部屋を借り切って護衛士達を集めていた。スミツの王・レイオウから受けた任を果たすべく、ミヨシの町の奪還を行う事となったからだ。
「スミツの国の中でも城下町に次いで大きく栄えたミヨシの町は、今年に入ってから鬼の侵攻によって奪われています。スミツの国のほぼ中央で、国境線での防衛線の文字通り生命線としての働きをしていたミヨシの町を奪われて以降、そこを中心にして周囲の村々を襲う事で侵略範囲を広げているそうです」
 組まれた円陣の中央で広げられた地図。その地図の真ん中には、ほぼ真四角に近い形に描かれた町らしき物がある。護衛士達に向けてエルフの霊査士・コノヱ(a90236)は指し示すと、そこがミヨシの町だと告げた。
 地図を確認すると、町の周辺には目立った地形が記載されてはいない。恐らくは平坦な地形なのだろう。そして、その外から覆うようにして、林などが書き記されている。
「ミヨシの町は緩やかな丘陵地帯の中央に位置しており、移動にそれ程の負担はありません。丘陵地帯の一部には森や林などが存在しますが、町周辺はモンスターなどの襲撃を早々に知るためか、見通しよく整備されています」
 町の側に立つ者からすれば、敵の発見に大きな労をかける事の無い、守りやすい地形だ。だが、護楓の盾カムライはこの町の奪還を行わなくてはならない。町を攻める側に立つのだから、考えもなく早々に相手に発見されて先手を打たれるような真似は避けたい所だ。
「その町を更に覆うのが町の外に作られた石積みの外壁です。正方形に仕切られた外壁の角にはそれぞれ物見櫓が備えられ、東西南北の四方に門が構えられております。恐らく町を手中にした鬼はミヨシの町で物資等を蓄え、自らの補給線として確保した後に更なる侵攻を行うでしょう」
「ミヨシの町の人達って……今はやっぱり」
「……あまり考えたくはありませんが、お世辞にも良い状況とは言えないようです」
 ミヨシの住人が気になった銀煌氷刃・セツナ(a27644)がコノヱに問うと、彼女は悲しげな顔を見せる。
 鬼の占領下となったミヨシの町の住人が、今どのような処遇を受けているか。この場に居る護衛士達が知るには、偵察をするなり、突破するなりして実際に足を踏み入れなければ分からない。ただ1つ、霊査だけがその定理を覆せるだけの力だ。
「霊査を行ったのですが……町の中では住民の方々が蓄えた食糧などを根こそぎ奪っているようです。他にも自らの欲望を満足させる為に暴れまわる鬼達の姿が見えました」
「やりたい放題……なのですね」
 霊査の結果を耳にした緑の地平・アーヴ(a20021)もまた、町の住民が受けているだろう責め苦を思い返すと、表情を悲痛なものへと変える。だが、彼らがここに居るのは鬼によって繰り返される破壊と略奪の連鎖を食い止める為だ。
「鬼の数は少なく見ても20を下回る事は無いでしょう。その上……守り易く、攻め難し。それがレイオウ様から伝えられたミヨシの町の特徴です。これらの情報から、どのような作戦を考え、選び取っていくのかが勝利へと繋がる鍵となるでしょう」
 そう言って静かに吐息を漏らすコノヱ。けれど、鬼の手中に納められてしまったミヨシの町を開放する為には、まだそれだけでは不足だ。どうにかして、鬼の気勢を殺げる策を形にした上で掛からねばならない。万が一にも失敗は許されないのだ。
「鬼達はミヨシの町の物見櫓をそのまま利用して、外敵への警戒を行っています。昼夜を問わず警戒を続けているようですが、どうやら日の出と日没の頃を目処に交代を行っているようですね。もし虚を突かれるのであれば、そのどちらかを狙うべきかと」
「攻めるのは構わんが、どれだけの戦力を投入するかも問題だろう。少な過ぎては奪還出来んぞ? 無論、多くを投入するにしても馬鹿正直に真正面からと言う訳にもいくまい」
 コノヱの提案に宿望の黒騎士・トール(a90101)が具申する。確かにカムライとしてどれだけの護衛士が戦力として動く事が出来るのか。その問題は考えて然るべき内容だ。
「そう、ですね……あまり時間をかけられる状況ではありませんので、短期決戦を望むのが妥当かと」
「確かにな。現状で既に拠点となる町を押さえられ、周辺に被害が出始めている。早急にこちらの出血を食い止めるべきだ」
 コノヱの意見を聞いて、トールは愉快気に笑みを浮かべて見せた。彼が思っていたよりも、その内容が彼の好みに沿っていたからかも知れない。
「短期決戦となれば、当然多少の無茶をする事になる。状況を考えれば、レイオウの心情も分からなくは無い。早々にケリをつけて一気にサギミヤにいい加減巻き返しを図りたいと考えているのは、先の会談で分かっているしな」
「もう少し中の情報が欲しいと言えば欲しいのですが、これ以上の情報を得るのに時間をかけてしまうと……町の方たちに掛かる負担も大きくなる面がありますので」
 一方でコノヱは複雑な表情を浮かべていた。情報と時間、どちらも得られればそれに越した事は無い、だが、どちらかしか選べないのならば、状況と照らし合わせた上で判断をしなければならないのだ。



●伏兵
「こちらでは強襲された方々が誘き寄せた鬼達を排除してもらう事になります。排除が第1の目的、終了後は直ちに町の奪還へと向かってください」
「妾達は待ち伏せで良いのじゃろ?」
 藤楓仙女・サユキ(a26342)の質問にコノヱは首を縦に頷いて答えた。
「皆さんの役目は強襲後に誘き出された鬼達の横合いから奇襲し、敵の戦力を大きく削る事です。奇襲が成功すれば、あちらも対応までの間に生じる隙をつく事が出来るでしょうから」
「それを平らげた後に、町に突入ですか。しかし、これだけの規模なら指揮をする鬼が居るでしょう。そちらはどうしますか」
 町を手中に納められるだけの頭数があるのならば、それを率いる個体があるだろうと、施術師・ユディエト(a14304)が指摘する。鬼はモンスターなどとは違って、他国の冒険者のように自らの判断を持って行動出来る存在だ。その懸念は当然と言えた。

「強襲される側もある程度、織り込んだ上で考えてくださるとは思いますが……そのような存在が居ましたら、積極的に排除して下さい。指揮系統が途絶する事で相手の士気が下げられるかも知れませんから」
 個体ごとの強さは確かに特筆すべき点がある。以前分水嶺で相対した個体は、容易にイヨシキの武士達を屠って見せた。最低でもそれと同様程度には考えておくべきだろう。
「町の周辺に身を隠せる場所はほぼありません。警備の為に整えられたその先にある林などなら何とか、と言った所でしょうね」
 伏兵として身を潜めるには、ミヨシの町周辺の地形情報を出来る限り読み込む必要があるだろう。また、強襲に向かう者達よりも伏兵に立つ頭数は多い。数の有利不利を良く考えて、行動を考えるべきと思われる。
「見つけられないようにする工夫も必要かも知れませんね……」
 待つが故の苦労や辛さ。そんな事を脳裏に浮かべるコノヱだった。

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参加者
銀煌の死神獣・セティール(a00762)
紅獅子姫・ラミア(a01420)
カレーな王子様・ロスト(a04950)
愛を紡ぐ・シャム(a14352)
風竜の舞姫・セラ(a17990)
ぽちたますたー・ミルッヒ(a18262)
葬姫・ツバキ(a20015)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
星彩幻女・ティル(a24900)
ごはんが大好き・キララ(a25679)


<リプレイ>

●身を潜めて
 先程まで共に居た仲間達は訪れる夕闇の中、身につけた黒い外套などを頼りにしてミヨシの町へと向かった。彼らの向かった東門に程近い林の中には、鬼を誘き寄せてくるだろう彼らを待つ、赤き詩人・シャム(a14352)達の姿があった。彼女らもまた、目立ち難くするべく黒など、周囲に合わせて溶け込むべく工夫を凝らしている。
「何だか楓華の王様って、皆、同じ事言うのね……」
 そんな条件を付けられずとも、苦しんでいる人が居れば何処にでも行ってやるなどと、シャムは取り決めた地点に辿り着くまでの間、胸中で思っていた。確かに苦しんでいる者を救うと言う点で考えたならば、護楓の盾カムライに属する護衛士達の大半は同意するだろう。

 けれども、先のレイオウを始めとした楓華の土地で王となった者が条件を与えるのは、その点とは別に理由がある。
 楓華の国が同盟諸国と友好を結んだ事実を踏まえた上で彼らが条件を与えるのは、護楓の盾カムライと言う存在に対して信用出来るか否かを判断する為だ。素性からして他国の武士――冒険者で、楓華列島では類を見ない多種族混成を許すグリモアを有していると言う。その時点で彼らが多少なりとも懐疑的になるのは致し方ない事と言える。
 そもそもスミツに関して言うならば、セトゥーナへと渡ったその当初から、あまり良い印象を与えられなかった事を忘れてはならないだろう。
 彼女の思いも間違いではないが、彼らの考えもまた、間違ってはいないのだ。

「合図を見逃さぬようにしないとな……」
 獲物に黒布を巻いて光の反射を抑えた、銀煌の死神獣・セティール(a00762)が注意深く仲間達の消えた方角を見やる。既に彼らの姿は見えず、互いに取り決めた合図が出ない限りは状況を知る術はない。
「……どうやら動き始めたみたいだな」
「本当か」
 別れる前にライから預かっていた武器が姿を消した事をカレーな王子様・ロスト(a04950)が告げると、紅獅子姫・ラミア(a01420)が険しい瞳で尋ねる。ロストが預かっていた武器が消えたという事は、これから彼らが東門を攻めると言う事だ。
 その直後、二度、三度とミヨシの町の方角から轟音が響いた。最後の破砕音が聞こえた後、闇の中に一つだけぽっかりと光の点が生じたのを、黒焔の執行者・レグルス(a20725)はその瞳で認めた。
「やれやれ、もうおっ始まったのかよ……」
 全く持って今回は責任重大だぜ、と肩を竦めておどけるレグルス。だが、その様子とは裏腹に内心では焦りを抱いていた。今回の成否によってはスミツのグリモアが同盟に加わる。渡って早々に課せられた物事の大きさにだ。
「いき……ましょ」
 そんなレグルスを促すように葬姫・ツバキ(a20015)が闇の中で立ち上がる。既に仲間達が動いている以上、時間を無駄には出来ない。彼女の言葉に頷いて、ごはんが大好き・キララ(a25679)と純碧の癒師・ミルッヒ(a18262)もまた腰を上げた。
「頑張って町の人を助けに行くのにゃ!」
「……そうね、助けてあげないと……ね」
 少しでも町の人間を助けたいと声を上げるキララにミルッヒは胸の内にある鬼に対する恐怖を抑えつけながら静かに頷く。その傍らにはポチとタマの姿があった。
「じゃ、私達は向こうで」
 挟撃の体勢を整える為に風竜の舞姫・セラ(a17990)が腰を低く離れると、星彩幻女・ティル(a24900)もまた、彼女の後を追うようにして夜の闇の中へと姿を消した。


●高く響く
 囮役を引き受けた彼らが町から引き離した鬼の総数は、軽く見ても二十を越える。其々の手には剣、弓、宝珠と明らかに多種に渡る獲物が握られており、時に爆発、時に焔の一撃を加えられ。こちらへと駆ける仲間達は追い縋る鬼を相手に、正に命懸けで誘き寄せる役目を着実に果たしていた。
「まだだ……」
「うん……!」
 連続する剣撃を始めとした戦いの音が徐々に近づいてくる。闇の中で仲間の灯した光を頼りに様子を窺うラミアに、キララがはっきりとした声で頷く。
「大分近くなってきたね」
「そうね、そろそろ支度しとかないと」
 一方で身を潜めていたセラやシャムもまた、仲間達の接近に意識を向けていた。中でもロストはセティールの合図に集中していた。
 今だ、と見たセティールが吐息を吹き込むと、彼の咥えた隠笛の音は普通に辺りに響き渡った。その一瞬、鬼の群は立ち止まり、彼が姿を隠した辺りへと目を向け、
「罠だ!」
 ――叫ぶ。それに呼応した鬼の射手達は、笛の音が聞こえた方角目掛けて次々と矢を放った。風切り音を伴って闇の中へと消えた刹那、次々と爆発音が鳴り響く。
「……くそっ!」
「ち、治療を……!」
 爆風に撒かれたミルッヒが七色の光を纏う宝珠を振るい、光の波をラミア達に向けて解き放つ。グリモアの加護もあって然程ではない一撃であっても、それを立て続けに重ねられてはさしもの加護も力及ぶとは言い難い。武人であるセティールは兎も角として、術者であるミルッヒに到っては召喚獣を活性化していなければ倒れ伏していただろう。
「っく……このままでは!」
「大丈夫か」
 不意打つ筈が逆に不意打たれた形となり、ラミアは癒しきれずに残る肩の傷を押さえた。まだそれ程ではないが、また立て続けにともなれば、深手を追う事は免れない。
 鬼達は今まで追っていたライ達とは別に、セティールらの潜む辺りへ向いた。待ち伏せていた敵を駆逐する為に。
 だが、鬼達はそれ以上足を進める事は出来なかった。
「手前ぇらにこれ以上好き勝手させるかよ!」
 二手に分かれて身を潜めていたレグルスが背後から姿を現す。
「闇の深淵より出でし封縛、我は汝に訃報を告げる者――」
 詠唱と共に素早く魔杖を振るう事で無数の鎖を鬼に向けて射出した。生きた蛇の如く襲い掛かった鎖は、背を向けていた鬼達の一部に絡みつくと、そのまま自由を奪う。
「……待ち伏せか!」
「無事な奴はあの男を殺せ!!」
 殺気孕んだ声が折り重なって上がる。その只中に、僅かな不協和音が混じった。
「……舞い狂いなさい……闇に身を委ねながら……!」
 鈴の音の様な声音が聞こえた直後、彼らがナパームアローを向けた辺りからも鎖が放たれたのだ。ギャリギャリと耳障りな金属音が連続で耳に届くと共に、徐々に鬼達は手足を束縛されていく。
「まだまだ……!」
「封じてみせるわ!」
 殿を駆っていたライが振り向き様に蜘蛛糸を解き放ち、それに重ねるようにティルもまた、放った。二人の放った網の様に広がる粘り蜘蛛糸が鬼達の頭上に振り被ると、その多くが動きを止める。
 四人が其々に放った束縛の術は、誘き寄せた鬼の大半はその身の自由を奪った。無論、彼らの呪縛から逃れた鬼達も居るが、その数は相対するラミア達と比べて約半分。
「この糞どもが……!」
「殺す、殺すぞ!」
「何処の奴か知らんが、刃向かった事を後悔させてやる!」
 徐々に禍々しい闘気が残った鬼から立ち上る。だが、黒い闘衣を身に着けたラミアが鬼の進む先に一歩前に踏み出て拳を握り、
「……お前達の様な外道は、何処に居ても変わらぬらしいな」
 強い意志を篭めた瞳を向けながら構えをとった。


●掃討
 囮役の仲間達を先に進めさせる為に、セティール達は残った鬼達を挟み込むようにして襲い掛かった。既に強化していた大鎌を振るい、斬撃を放つ。
「これで一つ!」
 巨大な刃が正面の鬼の首を寸断するのを手応えで確認した彼は、逃さず次の相手へと視線を向ける。その後ろではシャムが高らかに歌声を上げる事で、先程暗黒縛鎖を用いたレグルスの異常を回復させていた。一方ではシャムと同様にミルッヒが歌う事でツバキの状態を回復させる。
「すまねぇ!」
「……次、いく……わ」
 戦線に其々復帰した二人は予め纏っていた黒炎を手に翳し、縛鎖から逃れた個体に向けて撃ち出した。
「一気に畳み掛けるのにゃ!」
 鬼達が体勢を立て直す前にと、銀氷と赤黒い炎を纏ったキララが太刀を振るう。炎と氷、二つの力を纏った一撃に、相対した鬼達は驚いた様子を見せる。
「何だ、こいつらの力は……」
「けっ……なんかけったいな化物連れてやがって!」
 セティールやティルの身を護る鳥モドキ、シャムやセラ達と繋がる少女の姿を見た鬼達が憎々しげに声を上げる。
「化物って……どっちがにゃーんっ!」
 鬼に化物扱いされて切なくなったキララが、目の前の鬼に薔薇の剣戟を放つ。光を伴って五度目の斬撃が命中すると、薔薇の花が生じると同時に正面の鬼が倒れ伏した。
「う、うー……もう、化物じゃないにょ……」
 嘆くキララの後ろから、彼女の支援をするべく悪魔の如き異形を模った黒炎が宙を舞った。炎の主は、黒炎を身に纏う事で自身の力を底上げたセラである。
「封じてても気を抜いてたらやられちゃうんだからね!」
 透き通った霊布を手にした彼女が注意すると、キララは更に小さく縮こまった。
「この野郎、邪魔なんだよっ!」
 戦場で動けなくなった鬼に向けて、ロストが斬鉄蹴を放つ。眩い弧を描いて命中する蹴りは鬼の肩を断ち割ると噴水の様に血液を撒き散らせる。
「……これなら、いける!」
 感じられた手応えから、目の前に居る鬼が自分の力量よりも下だと見たロストは、悪戯を思いついた子供の様な笑みを作り、更なる相手を求めた。動けなくなっている鬼を減らすべく闘うロストとは別に、束縛を回避した鬼と相対するのはラミアだ。
「噂通り、力だけは類を見ぬ強さだな……!」
 彼女が拳を交えて感じたのは、鬼と言う固体が主に力に秀でていると言う事実だ。彼女が施した護りの力もあってか、綿毛の様に鬼の斬撃を易々とかわす。寧ろそのかわした直後、的確に斬鉄蹴を敵の足元に叩き込む事で相手の機動力を殺ぐ。
「ぐぅっ!?」
 聞き苦しい呻き声を漏らして鬼が頽れる。その様子にラミアは相対する鬼が噂よりも脆い印象を受けた。それと同時にある一つの不安が心に湧き上がる。
「まさかな」
 それは今自分達が相対する鬼は、彼らの中でもそれ程の強さを持っている訳ではないのではないか、という根拠の無い物だ。しかし彼女自身、鬼とまともに組み合う事が初めてで、比べられるだけの経験は持ち合わせていない。
「今は……」
 この場に居る鬼達を討って、早々にミヨシの町へと向かった仲間達と合流するべきだ。その答えに僅かな時の間に辿り着いたラミアは、仲間と剣を交える鬼へと襲い掛かるのだった。


●町
 引き受けた鬼の群を何とか一掃出来たティル達は破壊された東門へと辿り着いた。中に入ると辺りには多くの鬼と、極僅かだが町民らしきヒトの骸が散乱しているのが見て取れる。焚かれた篝火に照らされた骸は、炎の赤か、それとも血の赤なのかが分からぬ程に赤く染められていた。
「何て酷い……」
 町に入って開口一番、ティルは目に飛び込んだ惨状に嘆きの声を漏らす。どことなく故郷に似た景観を持つこの土地が、鬼と言う異形に苛まれている事実に心を痛めていた。
 討たねば、と心に強く、誓うかのように思う。しかし、そんな彼女の心中など、鬼が知る由はない。
「死ねぇーーッ!!」
 彼女の姿を捉えた鬼の一体が手にした戦斧を大きく振り上げて、ティルの頭上へと振り下ろそうとする。しかし、
「慈悲の聖槍っ!」
 彼女と同じくエンジェルであるミルッヒがいち早く気付き、光り輝く槍を打ち放った。槍に貫かれた鬼は手傷を負っていたのか、そのまま倒れて動かなくなる。
「……ごめん」
「いいの」
 咄嗟に反応出来なかった事に謝辞の言葉を述べたティルにミルッヒは柔らかな笑みで答えた。彼女の傍らではポチとタマの二人がくっついており、早く住民を助けに行こうとせがんでいる。
「それじゃ、俺達は町の人を避難させてくるよ」
「わたしもですにゃ」
 炎に照らされてロストやキララの煤けた顔が露になる。彼らは先程の戦闘の激しさに頭からつま先まで余さず汚れていた。
「早くしないと避難出来なくなっちゃうからね」
 セラもまた、凄惨とも言える場に似合わない微笑を見せた。彼女もやはり煤けている。だが、まだもう暫くその汚れを落とせるような状況を向かえる事は難しいだろう。何故かと言えば、
「ちょっと避難は諦めた方が良いかも知れねぇな、こりゃ」
 その身に黒炎を纏ったレグルスが警戒の声を発する。彼の目線の更に先――町の中央付近だろうか。そこで鬼と剣を交えているライやアレス達の姿が見える。
 しかしそれより手前、門の周辺にはまだ鬼達の姿が残っていたのである。

 そもそも、このミヨシの町はスミツの城下町に続いて栄えている大きな町だ。その点に付いては事前にコノヱから伝えられていた筈だ。大きな町で生活を営む住人ともなれば、百人程度では済まない。
 コノヱが告げたのは短期決戦による鬼の排除であり、住民の避難誘導では無い。居場所も分からぬそれだけの数の住人を、たかが十人にも満たない数の冒険者が戦闘中、どの様にして避難を促す事が出来るだろうか。その答えは、勿論不可である。

「こりゃあもうひと踏ん張りしないとダメかねぇ」
 元よりその積りのシャムが不敵な笑みを零す。だが、彼女が残すアビリティは既に残り少ない。癒しの術はある物の、それ以外が欠けていた。
「仕方ない、のかな。やっぱり」
「……」
 セラの言葉に無言でツバキは頷くと、二人はほぼ同時にその身を黒炎で包み込んだ。その様子に鬼達は僅かにたじろいた様子を見せた後、改めて手に獲物を握り直す。
「トコラヒに向かった皆に負けられないからね……!」
 言葉にする事で硬く決意を結んだセラが、異形を模った黒炎を解き放つ。自分達を取り囲む鬼の一体に命中すると、その身が一気に黒い炎に包まれる。


「……どういう事?」
 あれから二十分程経過したろうか。東門の付近で戦う最中、セラ達は鬼達の様子が一変した事を知った。町の中央にいた鬼達がどんどんと北門へと向かっていくのだ。彼女達と切り結んでいた鬼達も、踵を返してそちらへと逃げ去っていく。
「こんなに好き勝手して……逃げるのは無責任だよ!」
 その背に珍しく怒気を孕んだ声音のセラと共に、レグルスやツバキが黒炎を放つ事で、数体は阻止することが出来た。だがそれ以外の多くは一目散に姿を消した。恐らくは先に先行していた仲間達が、統率役の鬼を倒したのだろう。
 鬼達が完全に姿を消した事を確認すると、護衛士達は町の家々を少しずつ訪ねまわった。先程の戦いで命を落とした者、家に閉じこもる事で類を逃れた者と様々であったが、幸運にもミヨシの町での人的被害は極僅かに止められた事に、ミルッヒ達は安堵の息を吐いた。

 そうして、護楓の盾カムライはレイオウに課せられた条件であったミヨシの町の解放を成し遂げた。この後、レイオウは兵を挙げてミヨシの町からその先――奪われた領土を奪還しつつ、サギミヤへの反撃を開始する事を告げたのだった。


マスター:石動幸 紹介ページ
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