豊穣の祈り



<オープニング>


●羊よ羊、私の羊
 ママ・ホルン。
 夜闇の天鵞絨の毛皮を持つ私の大切な可愛い羊。
 ノソリンの半分程もある大きな体と犬の様に賢い頭。
 毎年、毎年、健康な仔を孕み、タリスカーの村に実りを齎す。

 ララ――ン ロロ――ン ララ――ン

 シープベルの音も軽やかに、雪に覆われた牧草地を悠然と歩くママ・ホルン。
 艶やかな腹の豊かな丸みの中には2頭の仔。
 きっとママに似た、とっても大きくて綺麗な仔達なのだろうと村人達は噂する。

 名前はもう決めている、チターとリングリング。
 片方は新しい家族と実り齎すモノとして群れの中へ。
 片方は豊穣への祈りと草原の供物として火の中へ。

 ママ・ホルンの腹は艶々と命を秘めて大きくなり。
 密やかな祭りの季節はもう直ぐそこまで来ていた。

●豊穣の祈り
「そのママ・ホルンという羊が行方不明になってしまったらしいの。賢い羊だから今までそんな事は無かったそうなのだけれど。臨月だからと、依頼人のコルノさんがとても心配していらしたわ」

 鋼の色の目、濃い灰色から薄墨を経て薄灰に変わる斑色の髪をした羊飼いの霊査士・ユビキタス(a90291)は、羊飼いの石投げ遊び――ペジタ――に使われる、文様の彫り込まれた綺麗な石を1つ卓の上に置いた。

「ママ・ホルンと羊達と、コルノさんが住むタリスカーの村は、見渡す限り雪降り積もる牧草地の続く高原台地にあるの。高原台地は時折深く落ち窪んで、木々を茂らせブルーグレイの森を成している」

 ユビキタスはひたりと石の上に人差し指を乗せ、周囲で話を聞いている冒険者達へ情の薄い瞳を向けると、ママ・ホルンはねと続ける。

「ママ・ホルンはその内の一つに落ちてしまったみたいだわ。足を折ってしまって動けないのね。仔が生まれそうで、寒くて痛くて、とても焦っているのが良く分かるわ。それから、脅威が迫ってる。森の木々に紛れて、50匹からの大きな狼アンデッドが迫っているの。ママ・ホルンの血と命の匂いに引かれて森をやって来る」

 ユビキタスは言いながら小石が入っている小袋の紐を引き抜き、これが森のある窪地と言って輪を作り小石の傍らに置いた。

「ママ・ホルンは殆ど崖と言ってもいい急な斜面の根元にいるわ。周囲は高い木々に囲まれている」

 更に霊査士は、ママ・ホルンを示す石を基点として、正面と右左に狼アンデッド達の群を意味する小石を置いた。

「森はね、葉が落ちているとは言え、木々は密生していて見通しが悪いから気を付けて。きっとあなた達が行く頃には子供が生まれしまうから、コルノさんも行くと言っているわ。年若い犬ストライダーのお嬢さん。必ず、守ってあげてね」

 それから、とユビキタスは言葉を継ぐ。

「タリスカーの村には、羊に双子の仔が生まれると、片方を草原へと捧げる風習があるの。小さな白木の櫓を組んで片方を火にくべて、年若いいのちが草原へ満ちて豊穣を齎すようにと祈り、その子羊を皆で食べる」

 本当にささやかだけれど、深い意味を持つ祭りなのよと、霊査士は言う。そして、生まれて直ぐに屠られ死ぬ定めの子羊を見る様に、情の所在を感じさせない鋼色の双眸を小石から冒険者達へと移した。

「無事に羊を助ける事が出来たら、ぜひ冒険者の皆さんにも参加して欲しいと言われたわ。何かを願ったり、祈ったりするには良い夜なのでしょうね。私は願ったり祈ったりはしないけれど、行くつもり」

 きっと良く晴れて、星の美しい夜だろうから、とユビキタスは言い、ゆっくりと物憂い笑みを深めるのだった。

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参加者
朱陰の皓月・カガリ(a01401)
角担ぎ・ギバ(a27654)
花色飴細工・ナーテュ(a31267)
月痕・ユーイェン(a35010)
追放するもの・ハムラビ(a36669)
紡がれた蒼の軌跡・コチョウ(a41285)
黒麒・クロ(a41958)
優曇華・ソウジロウ(a43401)
清廉なる誓い・エリクシル(a43450)
世界地図は血の跡・ハートレス(a43758)


<リプレイ>

●呼び声
「さすがは高原、空気が冷たいですね」
 清冽な小川の流れを思わせて青色が層を成す蒼穹の下、想いを抱きそして紡ぐモノ・コチョウ(a41285)はマントの前を掻き寄せた。言葉と共に吐き出した息は遠目にも分かる程に白く、高原の寒さを物語る。薄雲が漂うだけの空。遮られる事無く陽光が降り注ぎ、雪原に銀をさざめかせる。陽に晒されて柔らかくなった雪の表をざくざく踏む音。紛れて聞えた鳴き声に、朱陰の皓月・カガリ(a01401)は周囲を見渡し、急に下る崖の一点を指差した。
 命綱を腰に断崖を伝って、清廉なる誓い・エリクシル(a43450)は窪地へと降り立つ。また聞えた鳴き声の源を探る様に見遣ると、降り積もる雪に埋もれてママ・ホルンと既に生まれた2匹の仔羊がいた。周囲の地面は血と降り積もった雪で赤と白の斑成を成しており、ホルンはぴくりとも動かない。エリクシルが血の気が引くのを感じたその時、全ての冒険者が窪地に降り立つのを待たず、ブルーグレイの森が不吉にざわめいた。鳥が次々に飛び立つ。様々な物を準備してから出立した為か、雪深い道で足を取られる者もいて予想外に時間が掛かった為か――けれど間に合わない距離ではない。
 冒険者たちは雪を蹴り、一斉に駆け出した。

●死した狼達の群れ
 雪を掻き立て低木を圧し折って狼アンデッドが迫る。密生した森の音と動きに注視していた黒麒・クロ(a41958)の目線の先で、茂みが2つに割れた。
「行かせない……」
 逸早く配置に辿り付いたクロは殆ど雪上を横滑りする様にして勢いを殺すと、同時に練り上げた気の刃を放った。茂みから出た所で横合いから飛燕連撃に屠られ、横倒しになった狼の足が虚しく宙を掻く。
「――ッ!!」
 全速でママ・ホルンと狼を結ぶ直線の真ん中に位置取った角担ぎ・ギバ(a27654)が星が刻まれし術手袋、夜鷹を纏う手を翳す。張り詰めた呪力と内在するエゴが鎖と化して現出する。音も無く宙を翔る暗き鎖は、密生する木の陰から、また茂みを突き破って次々と現れる狼を絡め取り、次々と絞め殺した。反動で麻痺したギバを背に、ユーイェンが身を楽器と変えて歌う。身を癒し心を鼓舞して高らかに凱歌が響いた。ギバは歌の力と幸運によって己を縛る見えぬ鎖が解けた事を知る。
 森を風が吹きぬける。呼気する森の風は冷たく、雪に冷やされて一層鋭く身に突き刺さる。翻るストールを手に絡ませてソウジロウが理の力を呼んだ。痛みを感じる程に集中した意識から生み出される紋章陣。光が立ち風を切り裂いて乱舞した。貫かれ、腐れた腸を真白の雪に散らして伏せる狼達。しかし雪の積もる低木の下や太い樹木の幹、根が生む段差の陰にいる狼までは捉える事が出来ない。
「狼は死しても、その狩猟の仕方は体で覚えているというところか……」
 低い体勢から喉元目掛けて飛び掛って来る狼。機を併せて強く踏み込み、二振りの斧を流れる様に振りぬいて、追放するもの・ハムラビ(a36669)は、毛が抜け腐れた肉の露出する頭蓋を割り、喉を切り裂く。がらんどうの頭蓋の中に目玉が減り込み裂かれた喉からは腐汁が滴った。至近距離まで肉薄した狼の一撃をかわして、背に刃を叩き込むクロ。背骨が折れて断たれた狼の体は前足だけで数歩進んでそのまま動かなくなる。
 全ての生き物は母なる大地から生まれ、またその腕に還る。
 命は巡り巡って誰かの誰かの糧になり、命を繋いで――。
「だが死者にやるほど命は余っちゃいねぇ! 森の兄さんたちにはママの代わりに俺等と遊んで貰うぜ……!」
 夜魔犬・ハートレス(a43758)が挑み掛かる狼の胸に鋭い掌底の一撃を叩き込む。声も無く弾かれて幹に叩き付けられた狼アンデッドの体と新たに現れた狼へ、ギバの放った鎖が絡み付いた。風が吹く。宵闇色の長衣がはためく音と、ユーイェンの歌が聞える。花色飴細工・ナーテュ(a31267)が振るう斧に2度目の死を与えられ、折り重なって倒れている狼アンデッド達。ブルーグレイの森をざわめかせる最後の一頭が、茂みを突き破って現れ、何の躊躇いも無く死体を踏んで少女の小さな体を組み伏せんと飛び掛って来た。ただ、2度目の死を。2度と動かぬ様に。寒気を裂いて振り下ろされた兜割の一撃は、狼の鼻面から頚椎を断ち割り背骨に沿って切り開く。左右にばしゃりと体が落ちて、そして森に冬の静寂が戻った。もう森から何が現れる事も無い。
 張り詰めていた緊張の糸がふつりと途切れ震えだした手を、抑える様に空いた手で握り込むソウジロウ。
「……今頃になって手は震えてるし、膝は笑ってますし……駄目ですねぇ」
 剣の収めたハムラビは、苦く笑う青年の肩を労う様に軽く叩いて、促す様にママ・ホルンの方を見遣る。その手の重さと暖かさに、ソウジロウは淡く笑みを零した。

●いのち
 言葉を詰まらせて急ぎ駆け寄ったエリクシルが癒しの水滴を振り掛ける。痛みが引いた為かママ・ホルンがメェと鳴く。
「もう大丈夫、皆が貴方達を守ってくれましたから……ね」
 見せても怯える様子は無く、毛布を掛けながらコチョウは優しく語り掛ける。赤ちゃんは、痛くない、だけど寒い、お腹空いた、赤ちゃんは赤ちゃんは――母羊は獣の歌に応えて一心不乱に鳴く。カガリは仔羊を毛布に包み、コルノに言われるまま一所懸命に体を擦っていた。擦りながらカガリが歌えば、光が湧いて柔らかな毛布の如くに周囲を包む。
「赤ちゃん、命を産むんは大変な事やもんな……歌の上手下手は関係ないさかい安心してな」
 渇きと空腹を癒す歌に、ホルンは短く切られた尻尾を満ち足りた風に振る。
「ママ・ホルンさん、それから新しい命……チターさんにリングリングさん。温かな香りに包まれて、少ししたら落ち着きますよ――」
 コルノの膝に頭を摺り寄せるママ・ホルンの首筋を柔らかく撫ぜるコチョウ。手にした香草から香が立つ。母羊が落ちたと思しき崖の上を見上げるエリクシル。
(「ママ・ホルンはどうしてこんな場所に来てしまったのでしょう?」)
 酒場でこの依頼の話を聞いた時から、気になっていた事。消えぬ問い。歌に乗せて切り出せば、ママ・ホルンはただ、何処までも行けそうだったから、と答えた。
「ママの言葉、分かるの?」
 コルノが問う。エリクシルが頷くと、母羊の乳を求めて鳴くリングリングを撫ぜながら、少女はありがとうと伝えて欲しいと言った。恵みをありがとう。命をありがとう。沢山のありがとうを、ただその一言に込めて。ごめんなさいとは言わない。それが牧畜の民の矜持だった。
「……ママ・ホルンさんは、大好き……と言っておりましたわ」
 エリクシルの一言を聞いて、カガリは思う。
(「狼もうちらもママにとっては変わらんのかな……と思ってたけど――」)
 もし同じであれば羊は全て逃げ去って、後には誰も残らない。殺す者と殺されるもの、恵まれる者と恵むもの。羊はその大いなる循環に身を委ね、全てを羊らしい大らかさで受け入れている様だった。
「小さいんはほんまかわええなぁ……」
 チターを撫でるカガリ。
 祝福する様に、3匹の額に触れて祈りを捧げるユーイェン。
 チターとママ・ホルンが同時に小さくメェェと鳴いた。

●豊穣の祈り
 夕闇迫る高地の雪原。淡く透き通る勿忘草色から深藍へと色を変える空に、星々が一つ、一つと現れる。皺深い翁の手に二弦琴。男が叩く太鼓の重厚な響きに女が奏でる横笛の音が寄り添い、音色はまるで樽の中で眠る深く甘い酒の様だ。
 クロはその全てを受け止めて、すごいな……と感嘆の余りに息を呑む。
 白木で組まれた小さな櫓の上には仰向けにされたリングリング。大任をまかされた緊張も露に祭祀の短剣の骨の柄を握り締めるコルノは、深い一呼吸の後、思い切って首元に切っ先を差し込んだ。そのまま刃を腹まで引き下げると、傷口に手を差し入れて心臓に繋がる血管を千切る。一瞬だった。それだけで、鳴いていたリングリングは事切れた。
 全部で40人にも満たない村人達が意味を成さない音の連なりを歌い上げ、そして冒険者達が真摯な眼差しで見守る前で、櫓に火が放たれる。橙色の炎は瞬く間にリングリングの小さな体を飲み込んで、巻き上がる炎が夜天の底を焦がした。
 歌が高まる。雪原に暖かなにおいが広がって行く。
(「これが、いのちのにおい……」)
 そして祈りの匂い。願いの匂い。クロには今までの記憶が無い。祈る事も願う事もまだ思いつかない。ただ――考える。ああ、この日を忘れないようにしようと。
 ひっそりとした祈りの夜の事……巡る命の事を。
(「片方は大地に供され、片方は生きていく……違うように見えるけど、巡る先は同じだろうな……どんな命も何時かは地にかえるんだから」)
 立ち昇り風に乗って命巡る世界へと漂って行く煙を仰いで、クロは思いを深め。
(「生まれて間もないこの羊がこの土地に恵みをもたらすという事なのだろうか……豊穣が得られればこの贄の仔羊も報われるのであろうか?」)
 歌声に合わせてオカリナを吹きながら、ハムラビもまた立ち昇る煙を見る。霊査士は年若いいのちを草原へと捧げて豊穣を祈るのだと言っていたから、きっとそういう事なのだろう。ハムラビの常には厳しい青の双眸の中で炎が踊る。
(「豊穣が得られなくとも羊の所為ではないだろうが、願わくばこの死が無駄にならぬ事を……」)
 背から草原の果てへと風が吹きぬける。ハムラビの長い長い蒼髪を焔の如くに靡かせた。
 雪面を彩る櫓の炎と篝火に過去の自身を見る。ある祭りでは感謝を表す為に天を仰いで謳い、地を踏んで舞っていた。旅芸人として華を添え、代わりに喜びを少しだけ分けて貰って。姿形は変っても、底に流れる心は同じなのだろうかとユーイェンは思い、それから雪面に刻まれた足跡と血の痕を見つけた。
 追ってみれば足跡はユビキタスのもので、血は彼女の足の罅割れや皸から流れ出ていた。癒しを拒否し、霊査士は足の痛みには慣れている、幼い頃からこうだったからと薄く笑う。ユーイェンの胸にふと疑問が湧いた。祈る事も願う事もしない言った霊査士。ならば何故。
「何を想いに来たのです――?」
「命とは何かを思い出す為に」
 夜の様な男の双眸を見詰め返し、鋼の様な声音で霊査士はそう言った。

 焼けた仔羊の肋骨を受け取るカガリ。触れて撫で、名を呼び温もりを感じた仔羊が今は肉となって手の内にある。殺し合いではなくとも、皆他の誰かの命を受け取る事で生きていて。
(「日々生活が厳しい環境下なら、なおさら願い祈りすがる気持ちもあるんやろな……」)
 命を結んで行く大切な祭り。繋いで結ばれていく分、日々の恵みと糧を大切に生きて行かなければならないのだろう……感謝を込めて肉を齧れば、暖か肉汁が口腔に溢れた。
 羊達とコルノ達は、大好きとありがとうで結ばれている。
 生き別れた兄に再会できる事を……そう祈りたい所だけれど今回は――受け取った骨付き肉の片端を握り締め、エリクシルはそっと目を伏せる。
「……幼い命に幸あらん事を。……幼い魂に感謝と、穏やかなる眠りを」
 ありがとう――肉片に唇を沿わせて一気に噛み切るエリクシル。柔らかな肉を噛み砕く。
「初めて肉を、食べたんです」
 こんなに美味しい物なんですね、と眦に涙の雫を留めてソウジロウが言う。本当は泣いたりしてはいけないんですよね、きっと――涙を拭ってもう一口、肉を食べた。ママ・ホルン。生きる定めの仔と死ぬ定めの仔。沢山の感謝を胸に、ソウジロウは肉を飲み込んで。
「……一生、忘れません」
 そうぽつりと付け足した。
「そうね」
 共に祭祀を見ていたユビキタスは物憂く笑い、割った骨の髄を啜る。
「ユビキタスさんは願ったり祈ったり……しないんですか?」
 私は今まで祈る事がお仕事だったんですけどね。そう、困惑した風に問うソウジロウに、私は祈る事にも願う事にも意味を見出せないもの、全ては成るように成るだけだと、そう思うからと霊査士は答える。
「ユビキタスさん、貴女は……その内に、どんなにか深い……深淵を覗き見た時のような……憂いを抱いて……いらっしゃるのですね……」
 手にした書物を繰る手を止めて、コチョウが焔の影踊るユビキタスの横顔を見遣る。貴女の憂いが何時か溶ける様にと祈るコチョウの言葉を背に、ユビキタスは静かに炎が投げ掛ける光の輪から離れて歩み去った。

 ソウジロウが豊穣と捧げられた仔の安寧の為に舞い、裸足のユーイェンは大地に触れ大地を感じて喜びと共に踊る。炎が投げかける光に照らし出さた即席の舞台に、対極の、けれど奇妙な調和を奏でて男達が舞う。徐々に高まって行く祭祀独特の静かな熱気を遠巻きに見ていた霊査士の傍らに、湯気の立つ椀が差し出された。
「食べるか?」
 余計な世話かも知れんがな……と付け足すハートレスの手から椀を受け取り、ありがとう、新鮮な内臓の汁物は好きよ、とユビキタスは微かに笑みを深める。
「遠くから見ているだけなのね」
「俺の居た所にもこんな風習はあったが、マジに参加するのは、ダりぃ……」
 ガキの頃は理解できんで、嫌がって泣いたりもしたもんだがなぁ……と、椀から汁を啜って白い息を吐くハートレス。
「命は巡り巡って誰かの命に……か。ふん、当たり前だが……悪い風習じゃねぇ……」
「ええ」
 内臓を口にする。ぎゅっと詰まった血の味は今、地に零された命の味。忘れられない、忘れてはいけない生きる意味そのものの味だった。

 雪面にマントを引いて、仰向けに横たわる。肉の欠片を惜しむ様に味わいながら、ギバは星空を見上げる。
「火にくべられた仔羊は、何処へ行くのだろう……」
「タリスカーの村と草原に豊かな実りに、きっと宿るなぁ〜ん。命はそうやって繋がっていくって教わったのなぁ〜ん」
 共に寝転んで星を見ていたナーテュは、そう言うや起き上がり、果ても無く広がり夜闇に融けて行く雪原の彼方に向かって叫んだ。
「ありがとうなのなぁ〜ん。とっても美味しかったのなぁ〜ん」
 飛び起きたギバに笑い掛けるナーテュ。
「ナーテュ達が生きていくのには、命を食べなきゃいけないのなぁん。だから食べる時には、たくさんたくさん感謝しなきゃいけないなぁん」
 確かに美味しかったなあとギバは手にした骨を見る。
 それからにっと、笑った。
「ありがとう、おいしかったデス――ッ!!」
 雪原に、少女2人の声が響く。
 雪に吸い取られてまた静寂が返る。
 体の中でも響いて消えて行く叫びの余韻を感じながら背から倒れたギバは、夜の空に漂う藍色の雲を見付けてぽつりと呟いた。
「きっと暫く、空に羊みたいな雲を見つける度に、リングリングを思い出すんだろうなあ……」
 なぁ〜ん、とナーテュが答える。
 祭りの楽の音。
 歌人達の歌詞無きハミング。
 2人は踊り手達が大地を踏み締める音を聞きながら目を伏せて、今日得、死した時に巡るであろう命に思いを馳せるのだった。


マスター:中原塔子 紹介ページ
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