<リプレイ>
……ただで済まない予感はしていたのだ。唐突に山登りをすると言い出した時から。 何か面白い物を見付けた顔で光と闇の魔法少女・ミント(a31336)が走り出した時から……
有り体に言って、其れは狼だった。 ふさふさした毛に覆われ、犬と呼ぶには少し精悍に過ぎる顔立ち、大柄な体躯。そして、牙。 此処は山である。街中ではない。狼が棲んでいようと何ら不思議は無いし、珍しくも無い。 だが、其の狼には愛嬌が在った。ある一点において。 鋭い眼差し、尖った牙。身体の大半が其れ等可愛さから懸け離れた部位から成っていようと、其の一点だけで全てを引っ繰り返してしまっている。 そう、頭に何故か咲いている、一輪の花が。 其の狼は、此方をチラリと一瞥しただけで悠然と歩み去って行こうとする。 勿論、追った。脚は既に駆け出し始めていた。 こんな珍しい物を見逃す積もりなぞ、無かった。
「全く……悪気は無いとは言え、いい加減わたくしの姉としてもっとしっかりして欲しいものだわ」 不思議黒翔剣士・ミスティア(a32543)が溜息を吐くのも無理は無い。ミントは自分の好奇心の為、皆は突然走り出したミントを追い掛けた為、其の結果。 谷間の道、狼達はあれよあれよと集まり、何時の間にか挟まれていたのは自分達だった。追い掛け回す、と言う行為を敵対的と取ったらしく、彼等は一様に低く唸り口元から牙を覗かせる。何らかの争いは避けられそうに無い。 「狼どもに囲まれてしまうとは、不覚。……ぬぅ、しかも斯様に頭に花を生やしているとは珍妙な」 倒さねば進めぬとあらば仕方が無い、狼の餌に成るは以ての外と猫を愛でる司書・コハク(a39685) が物が憑いていると言うサーベルを抜き放つ。 「是非あの花は手に入れて調べるですッ! 皆さん成るべく無事な花が残るよう御願いするです!」 今回の諸々の元凶のミントではあるが、そんな事なぞ露も気にする様子は無い。あの狼の頭に咲く花への好奇心で彼女の中は一杯の様だ。 「ミント姉さん相変わらずの好奇心ですぅ。まぁ、それはともかく〜ルミナぁ」 ぼんやり小天使・ルナ(a39457)の声に応え、背に控えていた彼女のミレナリィドールが其の青き拘束具を彼女の身体へ結び付ける。其れは一瞬、瞬きする間も無い。戦闘状態へ姿を変えた。 「あらあらまぁまぁ折角のピクニックですのに、いけない子ねぇ」 本人は困っている積もりなのだが、傍目からはそうは見えない口調で、夢護る理の担い手・レノア(a32778) も、手にする扇を開く。其れはぐるりと円らかに広がり、幾条もの幾何学模様が仄かに光を放った。 「丁度八人ですから、四人四人で前後に当りましょうか」 にこりと笑う堕天の蛇遣・アスクレピオス(a33656) の手の中で、宝珠にあしらわれた蛇に影が揺らめいていく。 其の場に張り詰めた空気がよりピリピリした物に変って行く……変化を敏感に感じたのか、其の奇妙な狼の群れも、地を蹴った。
――バサリ。 緑に染め抜かれた外套が翻り、爪が、牙がふわりと往なされる。 「ごめんなさい、一匹たりとも後ろに通す訳にはいかないんです――」 蛍石の護り手・シーマリネィア(a39304)は其の言葉通り狼達の前に立つと、手しにた蛮刀を振るった。使い込まれた、其れは彼女の手足の様に狼を打つ。背に纏うダークネスクロークと相俟って正に壁の如く。低く落された腰に、滑らぬ様と靴に荒縄を巻き油断無く盾と刃を構える彼女は、幾度と無く飛び掛かる爪や牙にも小揺るぎもしない。 「せめて楽に……ダメ、花が傷を塞いでしまう……」 頭上に守護の天使を浮べ、狙い違わず刃は狼を捕らえるも……狼の頭に咲く花が振るえ発した光の帯が、見る間に傷を塞いでいく。流石に、瞬時に完治させる程の力は無く……痛みは完全に塞がるまで止む事も無いだろう。 花が只頭に咲いているだけでは無いと言う事に気付いた時、シーマリネィアは花を先んじて狙い打ったのだが――狼は其の悉くを庇った。そして、花は即座に狼に癒しを……其の繰り返し。 「しかしそれにしてもぉ、回復するは何て珍しいですねぇ、持って帰って薬になるかどうか調べてみたいですぅ」 後方、回復役を決め込んでいるルナはそんな花達の様子にじっと目を凝らす。実際、花が回復をするだけで狼達の方は特殊な力を持っている訳では為さそうだ。戦いが始まって直ぐにミントが鎧聖降臨にて、皆の鎧強度を底上げしていた事もあり、此方には目立って傷を負った者は居ない。 「あらあらまぁまぁ……動いたら駄目ですわよ?」 隣に立つレノアがにっこり微笑むと、其の身の内から無数の鎖が飛び出し狼達を、縛り上げていく。身動きさえ封じてしまえば、花を狙う事も容易かろうと言う事だ。逐一回復されてしまうのは中々に厄介、早めに対処するに越した事は無い。 「――むむッ、バッドステータスに抗する力も備えておるのか。侮れんのう……」 狼達が縛られたのを之幸いとコハクが花を斬り落そうとすると、又もや花が光の帯を発し……其の光に触れた鎖がパキン、パキンと千切れ、戒めは解かれて仕舞った。自由に成った狼達は、素早く体勢を立て直す。コハクも之には二の足を踏まざるを得ない。 「こんな事もぉ出来るのですかぁ。ますますぅ薬に成りそうなぁ気がしますよぅ。それは其れとしてぇ病気の元はぁ早めに治しますぅ、癒しの聖女」 「ふぅ、ルナちゃんありがとうですの〜♪ もう……動いては駄目と言っていますのに」 自らが放ったエゴの鎖の代償の麻痺を治してもらい、レノアが狼達に困った様な視線を向ける。 「……花達の回復は、完璧と言う事はないはずです……やはり、一体ずつに集中したり、束縛を狙って行かないと」 「確かに。シーマリネィア殿の言う通り、じゃな。これはちと長期戦を考えて置かねば成らないのう」 やれやれ……と、コハクが再び二振りのサーベルを構え、キッとした視線を狼達に向けた。
場面は谷に向って転回し、此方は四人四人で分けた方の他方。ミント達の方。 「ミント様可愛ひ〜ペンギンです〜♪」 「コラッ、ティファさん!? 今はそんな事している場合じゃないです! あの花を採取するのです〜!」 ペンギンとメイドがじゃれ合っていた。 メイド、とは、子供純愛メイド・ティファ(a34944)の事。 ペンギン、とは、ミントの事。 戦いが始まって直ぐに、皆へ鎧聖降臨を掛けて行ったミントだが、何故か……自分のをペンギンのキグルミ姿に変化させていた。本人は気分的に滑らない積もりらしい。 まぁ、変化するのは防具だけなので、羽の無い翼の先には両手に猫手袋、そして太く長いノソリンの尾を引き摺ったある種、見た目新手の生物に成っていたりするのだが。 「ちょっと! 二人とも、遊んで無いでこっち手伝って下さいまし!」 流石に、ミスティアが怒鳴る。幾体もリングスラッシャーを喚んではおいたので、手数として不足している訳ではないが、かと言って遊んでいて良いと言う訳では無い。 「まぁまぁ、狼達の攻撃力自体は大した事が無いのですから。それにしても……見事な共生関係ですね。外傷の治癒や強力な精神力を与える変わりに、差し詰め酔う分を頂くと言った所でしょうか。実に興味深い」 アスクレピオスが軽く宥める様に取り持つも、彼の視線は先程から狼達、いや其の頭に咲く花へ向けられていた。この、珍妙だが、決して無駄ではない二者の姿に、彼の知的好奇心が擽られているのだろう。 「本当、捕まえたと思っても花の力なのか容易く逃れてくれるのですから、ミントさんじゃありませんが持ち帰ってみたくも成るものですね」 手から放つ蜘蛛糸も、一旦絡めとりはするものの花の力で直ぐに抜け出してしまう。其の様子に彼は逆に笑みが零れるくらいの心持だ。 「あー! ミスティア様を傷付けようだなんて許せないです!!」 ハッ、と我に返ったティファが、愛用の愛の力で強くなると言う(と彼女は主張する)双頭剣を振り回し、花咲き狼の群れへ突っ込んで行く。 「ふぅ、大変な目に遭いましたです。さて、私も攻撃に参加なのですよ!」 ペンギンキグルミをよいしょと立ち上がらせ、ミントの周りに黒い炎が渦巻き始める。其れを手に集め――撃ち出す。 「氷炎行くです! 氷と炎のコラボレーションなのです!」 彼女の声に応え、黒き炎に纏わり付いた、紅蓮と氷が狼を捕らえ、凍り付かせ、燃やし尽くそうと灼熱の舌を伸ばすが―― 「――やはり簡単には燃えてくれないですか」 宿主を燃やされまいとする、花の光のヴェールに、氷は砕け炎は吹き散らされてしまう。 「何、ミントさん焦らず参りましょう。折角珍しい物があるのですから、誤って駄目にしてしまっては勿体無い。それに大丈夫ですよ、この戦い」 ニコリと、アスクレピオスが言う。 「そうです、狼如きにわたくし達が遅れを取るなんてありませんわ! 例え回復させる花を頭に咲かせて居ようと! ほらティファさんッ、そちら回りましたわよ!」 「はひ〜〜!」
戦いが始まって幾分か経ち、場は終盤の様相を呈して来た。先のアスクレピオスやミスティアの言葉に偽りは無く、地力で勝る冒険者達は一頭、又一頭と狼を仕留めて行き、残るは全体を合わせても数頭に成る。 「――しめた、よし狙い通りじゃ!」 コハクのサーベルが狼の頭上を掠め、花を斬り飛ばした。 「よぉし、シーマリネィアさん一撃でぇお願いしますぅ、ディバインチャージ」 「……はいッ! 狼さん……ごめんなさい……ッ!」 ルナの援護を受け、シーマリネィアの刃が狼を裂く。花の援護を失った狼に其れを耐えるだけの力は無く、どうと倒れ……又一頭動かなくなった。 「漸く数が減ってきましたわねぇ、そろそろおしまいかしら?」 手にした扇を揺らしながらレノアが言う。之ぐらいに成ってくると、背後を振り返る余裕も出来ていた。 「ミスティア、ナイスです! よーしマジカルマジックハンドで採取なのですよ♪」 「わたしくに掛かれば狼なんてこの通りですわ!」 見ると、ミスティアの鞭が目にも止まらぬ速さで五連撃狼に叩き込まれた所の様だ。ミントがいそいそとポーチから道具を取り出している。 「やったー! やりましたぁ! ミント様、お花を無事に狼を倒しましたよー! ミント様ー?」 「残念ですが、ミントさんはミスティアさんが倒された方に行ってますね……。ではこちらは僕が回収しておきますね」 「ええ〜……ッ」 ティファはミントに良い所を見せたかったのだが。明らかに落胆する彼女に苦笑しつつ、アスクレピオスが、百度の御酒を詰めた水筒に素手で触らぬ様慎重に花を収めて行った。百度では既に御酒では無い気がするが其れは気にしては行けない事らしい。 「ほら、ぶーたれておりませんで次に参りますわよティファ!」 「はッ、はひ!」 「一ッ! 二ッ! 三ッ! 四ッ! ――ラストぉッ! よし、わしの方も一丁上がりじゃ」 ミスティアがティファをどやし、其の先ではコハクの双剣が見事に狼に五条の閃いている。 「うふふ、そろそろ片付けをしなくっちゃね」 「ですぅ、もうそろそろぉまた登り始めれますねぇ」 レノアが扇を畳み、ルナは其の巨大な注射器を収めた。 丁度、ミスティアとティファの手により最後の一頭が倒れた所だった。
「……ふー、一時はどうなる事かと思ったです」 「誰かさんの好奇心のおかげでそうなったのだと思うのですけどもね」 再び山を登り初めて幾刻か。歩きながらそんな事を宣ったミントに、ミスティアが嘆息する。 「けれど、たまには珍しい物を見れる事もあるのね。さて、山頂まではどれくらいかしら?」 「――皆さん、見てください!」 少し前を歩いていたシーマリネィアが大きな声を上げた。 シーマリネィアが立つ所、皆が何だ何だと駆け寄ると其処は、一気に視界が開けていた。 「頂上ぉ、付いたですぅ〜♪」 ルナがうーんと背伸びをする、近くに視界を遮る物は何も無い。遠くにはさいはて山脈の違う峰が薄青く見えていた。 「……綺麗ですね。山肌があんなに白く光って……山登りは初めてでしたが、登った甲斐がありました……」 海育ちで山からの風景を見た事が無いシーマリネィアにとって、眼下にあらゆる物が小さく見える景色は、さぞかし新鮮に映ったであろう。 「全く然り。いやー、絶景かな、絶景かな」 コハクがカラカラと笑う。綺麗な風景を目にするとこの言葉をつい言ってしまう。ある種の癖の様にも考えられるが、不思議とどうしても口を衝いてしまうのだ。 「はひ……もう頂上、ですか……」 皆が清々しい気持ちに浸っている中、少し元気の無い声でティファが言う。まぁ、道中シュミレーションと言う名の遭難時の妄想をしていたのに、狼達以来何も問題無く頂上に着けてしまって残念がっているだけではあるが。公認でミント様やミスティア様にあれやこれや出来たのに、と。 「さて皆さん、折角頂上に着いたのですから、御飯に致しましょう♪」 御弁当はたっぷり用意してあるからとレノアが皆に声を掛ける。只の山登りの筈が、思わぬ所で余計な運動が入ったので皆の御腹は既にペコペコだった。
「随分珍しい物も手に入りましたし、今回の山登りは実に有意義でしたよ。誘って下さって有難うございます」 御弁当を食べながらアスクレピオスが主催者である姉妹に礼を言う。 「いえいえ! 誰も行った事が無い山脈があるならば登ってみなければならないのですから!」 「何ですのその反射の様な。ですから姉としてしっかりして欲しいと」 「やっぱり……小さな子は可愛いですわ〜♪」 そんな様子を見てレノアは小さく漏らすのであった。特上の笑みを添えて。
此処に、ミント一行の頂上征服は達成された。

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参加者:8人
作成日:2006/03/27
得票数:冒険活劇7
ほのぼの1
コメディ3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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