<リプレイ>
●秘める祈り 煉瓦造りのこじんまりとしたホテルに、冒険者たちは足を運んだ。溢れていると言う終夜灯を引き取る為なのだが、ロビーに足を踏み入れると思わず声が洩れる。 「わぁ、これが終夜灯かぁ……すっごい綺麗」 アレンは目を輝かせて辺りを見渡した。色取り取りの燈火が美しい細工の中から染み出している。柔らかく暖かな光に照らされた古風な室内を見、セレは幸せそうな笑みを零した。 「月明かりとはまた違う、暖かな紅い灯……美しいですね」 感嘆に息を吐きながら、アヴィスも部屋へ足を踏み入れる。ウィスは早速アロマキャンドルを探して目を走らせた。ファオは安らかな春眠をくれるだろう優しい香りに手を伸ばす。キリルは愛しい恋人への手頃な贈り物は無いか、とランプたちに近付いた。折角の素敵な終夜灯なのだから、と贈り物として引き取りたいと願う冒険者は多いようだ。 アーカードゥも日頃の感謝を示す為に、と明かりを覗き込む。ニールは子猫の模様が刻まれたランプを見付け、贈りたい相手の顔と照らし合わせる。コハクは天使の微笑みにある女性の面影を見て、其れと決めた。ユグドラシルも大切に想う人へ贈る為、確りとしたつくりの可愛らしい品を探している。蝶のレリーフが刻まれた品を見付け、ギィは優しく微笑した。此れならば彼女に相応しい。 「……何、なんだろうね」 桜色に見える火へ指先を翳しながら、シアは小さく呟いた。白く淡い輝きは己が尊敬している人物を思わせる。ルーシェンも悩んでいるのか、幼い子供が好みそうなランプを取り上げては棚に戻していた。サルミナも端の方で好みの品を探している。チーロはそんな冒険者たちの頭の上からランプを覗き、清閑としたロビーの雰囲気に緊張を隠せない。 チャンドラが持ち上げたのはクロッカスの透かし彫りが施された終夜灯。乳白色の柔らかな色合いが、不規則な生活を送っている彼の心を慰めてくれればと祈る。終夜灯を見定めながらストラタムは、この燈火が孤独な夜を終わらせる絆の証になることを願った。 「綺麗なものがお部屋にあると、ちゃんと戻ってこようって思いません?」 何故終夜灯を求めたかとの問い掛けに、コーリアは微笑んで答える。小さくとも「帰る理由」があることの幸福を、彼女は確りと理解していた。 一方でウィオラは硝子製の終夜灯に目星をつけている。ルシアは可愛らしい品が見付かるようにと辺りを見回す。レグナは荷物持ちをしながら、楽しげな二人を見守っていた。
●乞い願うもの 高い棚の上から洩れる柔らかな朱色の光。悪夢など振り払ってくれるだろう優しさにフィーは手を伸ばす。届かず苦戦していると、フォルテが軽々と取り上げてくれた。照れと悔しさの入り混じった顔をする彼女に、彼はランプを手渡してやる。 風情ある場の煌く空気に、クッカードは満足げな笑みを零した。コココ。女主人と骨董屋相手に土産物を手渡し、礼に則った言葉を交わす。共に此処を訪れたカレンも、話を聞きながら好みのランプを選んでいた。後頭部に突き刺さるような何かを感じて振り返ると、今夜の宿を予約しているラザナスが居た。彼の浮かべている笑顔は、不思議なくらい清々しい。原因に心当たりがある彼女としては、思わず汗を浮かべるしか無かった。 終夜灯に照らされながら、アティは可愛らしいランプをひとつ持ち上げる。幻想的な美しさの中に立つ愛する女性に見惚れながらも、ガルスタはキャンドルを手に取った。そんな友人の姿を目に留めつつも邪魔はせず、テンユウは好みの品を物色している。 ノリスは水晶を模したランプの、ほんのりと藍色に染まった様に魅せられた。見初める品を定め出す冒険者が多い中、腕を組んで悩んでいたセッカも漸く求める品を見つけ出す。幼い頃の思い出を擽る、少女が彫られた美しい終夜灯だ。 大喜びでランプの間を歩くアディドラを、はらはらしながらニトレーティアが見守っている。万一にも転んでしまっては大変だ。カナメとハルヒは顔を寄せ合い、意匠が対になっているランプをひとつずつ取り上げ、満足げに視線を交わす。 そして、皆の嬉しそうな様子を見守っていたセーラが気を惹かれたのは、良く言えば慎ましやかな、悪く言えば目立たないランプだった。知人の姿が多く見えることに内心で安堵しながら、グリーシャも敬慕する人物に相応しいだろう品を求めている。フィシャンも銀に輝くランプを大切そうに抱え上げた。 終夜灯の煌きに目を細め、ネミンはそっと胸元のブローチに視線を落とす。寄り添うアーシュにぎゅっと抱き付いた。彼は少し驚いたように瞬いてから、笑顔で顔を寄せて来る。額がこつん、と軽く触れた。 チャンダナは彼のように、希望のグリモアのように、光を与えてくれる灯火が好きだった。リューシャは目移りしながらも、最終的には桜模様が浮かび上がる可愛らしいランプに心を決める。冒険者たちが取り上げるごとに数を減らしながらも、十分な明るさで持って輝き続ける終夜の明かり。クリュウは知らず詰めていた息を吐き、元の持ち主のことを思った。
●紅の燈し火 暗闇の中に燈された唯一の光。ぼんやりと思い浮かべた景色を振り払い、グラースプは立ち上がる。其の少し後ろをついて歩いているクララは、声を掛けたそうに口を開いたり、手を伸ばしたりしては引っ込めていた。 ロビーの端には黒皮の柔らかなソファがあり、年代を感じさせるような木の机があり、やはり備え付けの終夜灯もある。此度の礼にとジェネシスはヴァイオリンを数度奏で、ルワは詩を毀れる紅涙・ティアレス(a90167)に捧ぐ。凛々たる金、壮々なる深紅、麗しき情景を韻律とて胸に刻まん――鏤められた美辞麗句。男で済まんな、と言う彼の言葉には「全くだ」と笑みと共に返された。 得意だと言うエルスに紅茶を淹れさせ受け取ると、飲む前に「美味いよ」と彼は言う。如何にもティアレスが好みそうなランプたちだとアリスが呟くと、彼は無言で彼女の頭を軽く一度、ぽん、と叩いた。 「ところでティアレスさんは、どのランプを選ぶおつもりですか?」 にこっと微笑んでナオが問うと、男は口を噤んだ。何やら持ち帰るつもりが無かったらしい。折角だからひとつくらい選ぶべきか、と妙に真剣に考え始める。其処に遣って来たラティメリアも終夜灯が欲しいのだが火が得意では無いから、と探すのを手伝ってくれないかと願い出る。ユティルも少し慌てながら、ひとりで選ぶのは寂しいから、良ければ一緒にランプを選んでくれないかと申し出た。言い訳するように言葉を紡ぐ彼女にティアレスは薄く笑って、「まあ、適当にな」と適当な承諾をする。 「ティアレスさん、お酒飲みに行きませんか〜?」 ランプを選び終えた頃、ミナから掛けられた声に彼は眉根を寄せた。 「……貴様、今更敬称やら敬語を遣ったところで過去が消えるとでも思うのか?」 普段通り話せ、などと辛口に返答しながら元より其のつもりであったのか地階へ向かう。途中で声を掛けて来たオリエの誘いにも、「構わん」とだけの答えを返した。思わず苦笑したビャクヤが少しからかうように、 「幻想的な明かりの中でも輝きを失わないその秘訣は?」 と問うと、 「単純だ。我の方が況して一層、輝いて見えるからであろう」 にやり、と笑って返された。
●今宵も、終わらぬ夜に 濃紫のロングドレスを着込んだレインは、あの日と同じ椅子に腰掛けて、あの日と同じようにグラスを軽く掲げて見せる。地階のバーには既に何人かが訪れていた。 遣って来たティアレスに気付いたユーリィカが、此処を紹介してくれた礼に好みのカクテルでも奢ろうと声を掛ける。其れは有難い、と男は紅の瞳を細めて答えた。イドゥナの誘いにも軽い了承で返し、彼が見初めたと言うランプの話を聞く。眺めて想いに耽る程度の品と聞けば、珍しいな、と驚いたように言葉返した。 シイノは手に入れたランプの縁を指先でなぞりながら、心地良さげに目を閉じる。好ましい落ち着いた空気を持つ人と共に酒を飲み交わす時間は、何物にも代え難い愛しさがある。ユージンは柔らかな微笑を浮かべて、眠り入った友人を見る。 「此方に御見えだったとは」 想い人の姿を目蓋に追いながら、静かにグラスを傾けていたヨナタンは掛けられた声に顔を上げた。見れば終夜灯を抱えるタケルの姿。彼は青年の邪魔をせぬよう挨拶にのみ留め、持ち主を定めながら煌く明かりに目を遣り「(これだけの明かりを集めた方は、どんな思いで灯を燈していたのでしょうねぇ……)」と感慨に耽った。 ホテルの一室で食事をしていたソリッドは、子供部屋に終夜灯を置くのも良いかもしれない、と呟いた。久し振りの二人きりの時間に、思いも寄らぬ発言を聞いたアリエノールは思わずくすりと笑みを零す。気が早過ぎるか、と彼は照れたように頬を掻いた。 其の隣室には桃色の優しい光が満ちている。自分のランプを飽きもせずに見詰めながら、とても綺麗ね、とミルッヒが呟いた。二言三言呟きながら、すぅ、と安らかに寝入ってしまうのをアオイは微笑んで見守っている。少女の髪を優しく撫でた。 隣室では二人の少女がベッドの上に寝転がっている。優しい終夜灯が煌く部屋は、まるで夢の中にあるかのようにも思えてしまう。ずっと話していたいとばかりにリィリは楽しげに言葉を紡ぐ。睡魔が訪れる頃、若しかしたら死んだ母親に会えるだろうか、と小さな期待を胸にセリアは緩く瞳を閉じた。 其の隣室の扉は今閉められたばかり。部屋の中ではニノンが淹れてくれた紅茶を飲みながら交わした歓談の跡が残っている。彼女も、とても楽しげだったユズリアも、夜が更けると溶けるように眠ってしまう。流石に年頃の女性とホテルに宿泊は出来まいと、ケネスは紳士の気遣いを見せて本を片手にロビーへ向かった。 其の頃、向かいの部屋の住み人も飽きること無く本のページを手繰っている。枕元に置かれた終夜灯の土台には、黒曜石が煌いていた。安らかに静かに流れる夜のひと時は愛しく、アレクサンドラは其の美しさに惹かれ続ける。 角の部屋に鍵を掛けたのはシュシュだった。琥珀の塊を繰り抜いた終夜灯は、火を燈せば何処か優しく甘い香りまでも漂わせる。閉じ込められた葉が、古い古い森の記憶を手に届く場所へ運んでくれるかのようで頬が緩んだ。 せめて夢だけは安らかに。 そう願って、布団を被る。 紅灯に照らされた夜は、未だ長く、終わりを知らずに続いていた。

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参加者:74人
作成日:2006/02/26
得票数:恋愛5
ほのぼの58
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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