【ランドアース名作劇場】アラン爺と魔法のランプ



<オープニング>


●うさんくさいお話
「……と、言う訳でお仕事が入っていますわ」
 結局は、そこに行き着くのか。
 妹君も、やはり何処かで見たような物言いをする。
 そんなどうでもいい事はさて置いて。彼女がその次を言おうとした瞬間に、「彼」は立ち上がっていた。
「わしの仕事じゃ、若いの」
 それは、この季節だというのに、実に肌寒そうな千一夜風の衣装に身を纏った男性。白い口髭とターバンが印象的な彼は、浅黒い肌といい声色、物腰といい、余り年齢を感じさせない人物だった。
「……では、細かい事は依頼人――そのアラン氏の方からお願いしますわ」
 一瞬、言葉を取られてムッとしたような顔をしたヒトの霊査士・ファイナ(a90305)だったが、それも一瞬の事。我関せずとばかりに、視線を外す。
「で?」
「仕事は、ここから南西の方角にある洞窟の奥からランプを持ち帰る事じゃ」
「……ランプ?」
 素っ頓狂な台詞である。
「左様。何でも三つ願い事を叶えてくれると言われておる」
「は、はぁ……」
 無論、断じて絶対に間違っても有り得ないだろう。
「胡散臭い髭の男に路地裏で聞いたのじゃ」
「胡散臭いって……」
 勿論、アラン氏も相当胡散臭い。
「兎に角、洞窟には巨大な蛇が居てのう。
 わしはこの通り足も悪いし、自分で取りには行けないのじゃ」
「……」
 彼の足は、一見スゲーピンピンしていそうである。
「そのランプが願いっていうのは、えーと」
 老人の夢を砕くのも、若者としてどうかという所か。冒険者は言葉を選びながらそれを告げるが……
「お主らの気にする事ではない。兎に角わしの仕事は以上じゃ」
 アラン氏は一歩も引く様子は無い。
 冒険者達は、ファイナが一瞬で引き下がったのは何故かを今更思い知る。
「ああ、楽しみじゃのう」
 じーさん、ヒトの話聞いてない。
 受けるとも言っていないのに、既にはしゃぎモードであった。

マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
 YAMIDEITEIです。
 はしごシリーズ。
 以下詳細。

●依頼達成条件
 ・洞窟の奥にあるランプを持ち帰る事

●アラン爺
 ヒトの話を聞かない困ったじーさん。

●洞窟
 南西にある洞窟。
 結構深く、枝分かれが複雑。
 蝙蝠や蛇が住み着いています。
 守護者ばりに変異した巨大な蛇が奥にはいます。

●ランプ
 アラン氏は胡散臭い髭の男から、「何でも願いが叶う魔法のランプ」であると説明を受けたようですが、唯の古いランプです。ファイナの霊査によると、「一応、洞窟の奥には存在している」との事。

 勿論、お笑い依頼です。
 宜しければ御参加下さいマセ。

参加者
宵咲の狂華・ルビーナ(a00172)
ねこまっしぐら・ユギ(a04644)
銀嶺の死神・シリウス(a05192)
時を統べる大天使・ラファエル(a17941)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
時の輪の謡い手・エルシー(a30716)
白き金剛石のヒト・ミヤクサ(a33619)
殺戮人形・ファウン(a38545)
戦場を駆ける紅の斬撃・バァン(a41524)
闇纏狂奏・ガーランド(a44725)


<リプレイ>

●千と一夜のお嬢様
「そういえば、レグルスさま?
 アランさまや、ファイナさまの千一夜風のお召し物素敵だと思いませんか?」
「ふ、ふぅーん」
「とっても、素敵ですのー♪」
「へぇー!」
 攻防は、時の輪の謡い手・エルシー(a30716)と黒焔の執行者・レグルス(a20725)によるもの。
(「良いからこっち見るな、無言の圧力かけるな……」)
 どっちが敗色濃厚かは、言うまでも無い事実であるが。
 ふにゅん
「ふむふむ、やはり老い先短い年寄りの頼みは断れんのぅ?」
 若い女の声が、重厚な口調を紡ぐ。
 しかして、その挙動は実に怪しかった。
「な、ななななななななぜ――ひょ、ひょっとしておかしな趣味でも――」
 七十七、びぃ。
「む? それを気にしたら負けなのじゃ。
 ――この御時世、情報とは財宝にも勝るだけの価値があると言う事じゃよ♪」
 涙目で後ずさるファイナを楽しそうに眺めながら、宵咲の狂華・ルビーナ(a00172)は笑った。何も魔法のランプに頼らずとも、財宝は案外落ちてくるモノだ。
 長年の経験と勘、彼女の目利きは正確だ。壁屋の主人は、この情報をどれ位評価するだろうか?
 それはそれで、猫目の姉上殿が「何故、アタシはスルーですくぁ!」と憤慨する所でありそうだが。揉んだら揉んできそうな性質が問題なのであろう、きっと。
「既に匙は投げられた、だな」
 誤字に非ずな心境を一言に示したのは、ロリエン事務処理官・シリウス(a05192)。
 依頼人は好き勝手を言った挙句、勝手に全開の期待を寄せて帰ってしまった。
「ファイナの(精神疲労軽減の)為に、さっさと片付けてくるか」
「……」
「どうした?」
「い、いいえ! 何でも!」
「そうか。では、行ってくる」
 居心地悪そうな彼女の頭に軽く手を置いて、彼は踵を返す。
 広い背中が、悠然と「私ってば、天然タラシですが何か?」と語っていた。
「(胡散臭い)秘宝のランプを私達の手に。
 そして、アランお爺さんのお願い事を期待です」
 こっち見て、光の輪を浮かべた桃風・ミヤクサ(a33619)。
 物語は、無闇やたらな千一夜。
 果たして洞窟には、オニが出るか蛇が出るか――いや、蛇が出るんでしょうけど。

●南西の洞窟
「沢山いるのぅ……」
 ルビーナが、洞窟の蝙蝠達を追い払い、
「右よし、左よし、上もよし」
 ミヤクサが、通路の奥を覗き込む。
 果たしてその大洞穴は、薄暗い路地裏で胡散臭い髭の男が言っていた通り(←説明的)、吹き抜ける風、巻き上げる砂の丘を乗り越えた先――南西の砂地に隠れるように存在していた。
「む、ファイナ殿の云われた通り、深い上に複雑ですな」
 戦場を駆ける紅の斬撃・バァン(a41524)が手元の羊皮紙に、又一つの情報を刻み込む。
「行けども行けども、蛇や蝙蝠ばかり。これは中々大変ですな」
 彼の尻尾はへたりと垂れていた。
 相当の奥行きがあるのか、既に洞窟に入って数十分が経つが、一向に通路は終わりを見せない。
 入り口から差し込んでいた光も、既に届かなくなっており、幾重にも分かれた道は、探索を続ける一行に面倒を与えていた。
 尤も、些か気が滅入る事を除いては――マッピングを買って出たバァンと、些か過剰な程に灯り対策を持ち込んだ冒険者達にとっては、想定内も想定内、全く問題になる事では無かったのだが。
「それにしても――おじーちゃんたら、あんなに元気そうなのに」
 視界の先には枝分かれの通路。試しに立てた棒を倒してどちらに行こうかと思案しつつ、足が悪いと言う依頼人アランの面白キャラを思い出して、砂漠に降りつもる・ユギ(a04644)。
「ま、信憑性は……だけど、そこまで必死なお願いとか興味あるよね」
「うむ、まぁ、それはそうだが――魔法のランプと言う位だ。見てみる価値はありそうだ」
 単純に品物に興味が沸いたのか、時を統べる大天使・ラファエル(a17941)が言う。
「真実である事は、まず無かろうとは思うのだが」
「ええ、実在するならば私も興味がありますけどね」
 滅詠・ガーランド(a44725)が頷く。
 グリモアの加護の下、幾多の奇跡を体現する冒険者だからこそ、良く分かる。
 都合よく何の願いをも叶えてくれるような品物が、あっさりとこんな近所の洞窟に眠っている位ならば、誰も苦労はしない。戦争も、人死にも、全ての悲しい争いさえも――それで止める事が叶うならば、どんなに素晴らしい事だろう。
(「それにしても、依頼人のアラン氏は随分熱心にランプを所望の様ですが……彼には亡くなった恋人でも居るのでしょうか?」)
 何処からやって来た発想なのかはさて置いて。
「それにしても、ここ……妙な罠とか無いだろうな?」
 話を聞く限り、罠の類があるという情報は無かったが――
「ええ……ランプを、手に取った瞬間、洞窟が崩れたら……生き埋め、とか」
 レグルスに続き、やけに具体的に殺戮人形・ファウン(a38545)が言う。
 洞窟の岩壁は、割としっかりしていて、不安なイメージは無いのだが……
「ですの。巻き込まれると亡くなった姉さまの『こっちへ来てはいけない』とか仰っている声が」
 エルシーの言葉も又、妙に具体性を伴っていた。
 まさか、霊査で見えない重大情報が、そんなに沢山あろう筈は無いけれども。
「……まぁ、濫りに衝撃は与えない方が良さそうですね……」
 ファウンは、岩壁を軽く叩いて呟いた。
(「それにしても何とも妙な翁ですな。本気で願いが叶うと考えているとは思えませぬ。依頼は洞窟からランプを持ち帰る、となっておりまするが……その後本当は何を致す気なのやら」)
 バァンの危惧(?)は杞憂か、どうか。
 冒険者の直観を甘く見る事は宜しくない。
 そう難しい仕事でも無いだろうが……イメージがイメージである。
 ならば、気を入れてかかる方が、正解というモノだろうから。
「ランプの魔神は、黒髪の美しい少女という噂も耳にします」
 ガーランドは言う。
 ……うん、まぁ、それはそれとして。やっぱ皆、大好きですね?

●やっぱ蛇でしょう
 ガーランドが、
「洞窟内は足元も不確かですから……転ばない様に注意しないとハぶっ!!」
 あーあ、だったり何かしたり何かしつつ。
「……な、泣いてなど居ませんよ!? 目に…目にゴミが入っただけですっ」
 多少の紆余曲折を経ながら、一行は奥へ奥へと進んでいた――



 目の前に現れたのは、巨大な蛇。
 そのサイズたるや、普通のモノとは比較にもならない。幅広の洞窟、その通路を埋めるかのように巨体をもたげる財宝の守護者は、侵入者である冒険者一行を見据えていた。
 こうなれば、最早言う事も多くはあるまい。
 ランプに到る道、その最大の障害を実力を以って排除するばかりであった。
「出おったな」
 ルビーナは、鎧聖の付与を纏い得物を構えて前に出る。
「おにゃのこは妾が守るっ!」と言わんばかりの重騎士は、勇ましい。
 その彼女に、シリウスが続く。
「仕事の時間だ」
 端的な一言に続き、指がパチンと高く鳴った。
 彼の支援に動作を速めた一行は、今一斉に巨大蛇へと向かっていく。



「あまり離れると、ダメですよー」
 ミヤクサの放った回復の力が、暴れ回る蛇に手傷を負った味方を癒す。
 冒険者による連続攻撃にも、巨大蛇は未だ倒れない。
「これでどうっ!?」
 存外に高い体力を誇るそれに、ユギの放った黒いカードが突き刺さる。
 その巨体の一部を黒く染めたその一撃は、蛇に呪いの枷を押し付けた。描かれたそのカードの示す意味の通り、容易な破滅を導く為に。
「どんどんいくのっ」
 彼女の言葉に応えて、
「取りあえず……退いて頂きますなのっ!」
 黒炎纏ったエルシーが、針の雨を巨体へ向け、
「ま、そういう事だ。老い先短い(か、どうかは知れねぇが)じじいの頼み位――な?」
 同じく身に溜めた黒炎を、悪魔の顎に形作りレグルスが放つ。
 攻勢は止まらない。
「さぁ! 一気に行きますよ!」
 ラファエルが次々と作り出した空気の刃が辺りを旋回する。
 その肌を幾度も切り裂かれ、巨大蛇は怒りの様相を見せたが……分散する的と、連続攻撃に思う通りには動けない。
「チャンスですね」
 十分なスペースに包囲形を敷いた冒険者達は次第に巨大蛇を追い詰め始めていた。
「……この程度」
 尻尾の一撃を、軽く避けたファウンの身体が宙に踊る。
「……その身体の、大きさこそが、弱点……」
 身体の後ろから旋回するように繰り出された鋭い蹴撃は、光の弧を描き蛇を激しく斬り裂いた。
「行きますぞ、ガーランド殿!」
「はいっ!」
 同じ初依頼同士の二人が、息の合った連携を見せる。
「蛇などにやられておっては武士としてやっていけませぬ!」
 バァンのチェインシュートが、敵胴部に突き刺さり、続いてガーランドの放った七色の光が、蛇の巨体を打ち据える。
「宝物には守護者が付き物だと聞きます。我々の求めるランプが、こんな大蛇が護るに値するだけの価値があるものだと……信じたいですね」
 高らかに響いたファンファーレは、戦いの勝利を告げるかのよう。
「乾坤一擲、一撃必殺――なのじゃっ!」
 聖気を纏ったルビーナが強引に間合いを詰め、強烈無比な斬撃を振り下ろす。
「目障りだ」
 弱りきった蛇に引導を渡したのは――
「――Death is my Dancing partner……」
 ――空間に大輪の薔薇を咲かせた、シリウスの華麗な剣技だった。

●アラン爺と魔法のランプ
 眼前で真鍮の金色が、鈍く輝いていた。
 ランプを手に取っても、洞窟が崩れる事は無い。
(「……主が欲しい。私の能力を必要としてくれる、主が……」)
 遅れて気付いた願いは、ファウンのモノ。
 願いの叶うランプ等が本当にあったならば、やはりそれはどんなに――



 ――そして、酒場。
「おお、でかしたぞ。若いの共」
 南西の洞窟から持ち帰られた古いランプは、最高の笑顔を浮かべるアラン爺の目の前にあった。
 確かに、些か薄汚れてはいるものの、価値のありそうな古物である。好きな人間は、好きなのかも知れないが――
「やっぱり、『あ、ぶぅ〜ら♪かったぁ〜♪ぶぅ〜ら♪』ですか?」
 楽しそうにミヤクサ。
「……随分古めかしいランプの様ですが、このランプが本当に『魔法のランプ』なんですか?」
 ガーランドが問う。
 大はしゃぎするじーさんは、早合点しているのかそれを確かめもしないで小躍りをしていた。
「と、言われておるな」
「言われて……?」
「常識的に考えて、ランプが願い事を叶えてくれる訳ないわい」
 そう言えば、このじーさんそれ自体に関しては何処か冷めた節であった。
「……さすれば、一体何故に……?」
 バァンの疑問は、一同の代弁であった。
 こうなれば非常に馬鹿馬鹿しい落ちが推測されるのは事実ではあるが、彼が何故ランプを求めたのかは当然気になる所であった。
「決まっておる」
 じーさんは胸を張り、やおら鼻の穴を膨らめて……
「若いの! 分からぬか、このランプの機能美が!」
 ……凄まじいテンションで何やら語り出した。
「口から、この取っ手にかけてのライン。程よく時代を感じさせる色合いに、無骨な実用性!
 この艶かしさと言ったら、このアラン。枯れて久しいと言えども、つい欲情を覚える事を禁じ得んッ!」
 十分、十五分と。演説は激しく続いた。
 当然、そういう趣味を持たない全ての人間を置き去りにして、そう。
 ……つまり、何だ。要約すると。
 彼は、何処かで見た事のあるような、良くいる(?)無機物フェチであるらしい。
「ふむ、確かにこれ程のモノなら……噂に偽りがあろうと、骨董品として価値がありそうだ」
「分かるか、若いの!」
「か、顔をそんなに近づけないでッ!」
 目利きも無いのに不用意な発言をしたラファエルが、じーさんのがぶり寄りに圧倒されている。
「まぁ、何だ」
 レグルスは嘆息して、尚も語り続けるじーさんを盛大にスルーしつつ呟いた。
「本物だったなら、『三つじゃなくて無限大叶えろ』とか言ってみてえな」
「ですの。もし叶うなら、わたくしは――」

 ――ひとーつ
 ずっとレグルスさまとご一緒居られますように

 ――ふたーつ
 やっぱりレグルスさまとご一緒に居られますように

 ――みーっつ
 どうしてもレグルスさまとご一緒に居られますように

「……ッ!」
 御馳走様。
「そもそも。人間その気になれば願いなどいくらでも叶えられる。
 たった三つの欠陥品に頼らずとも、な」
 半ば、じーさんの嗜好も予測していたのかカウンターの中で済ました顔をするファイナに、シリウスは僅かに笑って呟いた。
「名言ですわね」
 思う所でもあったのか、珍しくお嬢様の唇から褒め言葉が漏れる。
「そう、願いなど叶えてもらうものでなくて自力で叶えるものなのじゃ」
 ふにゅん
「ま、また――!?」
 喧騒に満ちた酒場は、今日もやはり平和だった。



「それはそうと」
「む?」
「おじーちゃんの願いって、もし叶うとしたら何だったの?」
 ユギが、興味本位で問う。
「そんなモノ決まっておる」
 じーさんは、無駄に自信たっぷりに言い放つ。
「我が家のナターシャやアケミやジョセフィーヌやカタリナを擬人化してまぢんでハアハア」
 名前付きで恋人扱いなのは、この手の連中のデフォルトなのか。
「もう、おじーちゃんたらっ♪」
 いい感じに病みながら俗っぽいじーさんの頭が、ユギのデコピンで高速にぶれた。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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作成日:2006/03/08
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