昔、飼っていた猫



<オープニング>


 依頼者のため用意されたトレイのうえには、白い湯気を尖った唇から噴くポットがあり、その真下には、白い皿に生前と並べられた焼き菓子の姿があった。穏やかな笑みを浮かべ、給仕の青年に浅い会釈を向けると、薄明の霊査士・ベベウは踵を返し、部屋の隅に置かれた丸いテーブルへと歩んでいった。
 まだ年若い母親に連れられた少女は、ベベウの瞳をじいと見つめた。
「どうぞ、召し上がってください」
 ベベウは紅い茶を母親のカップで注いでやりながら、視線を少女の瞳からテーブルの焼き菓子へと移した。そこへ、白くて細い腕が伸ばされてくる。その時だった。青年の眉宇がかすかにではあるが傾き、灰の瞳が少女の手首に浮かぶ赤黒い傷跡を見つめる。母親の手が伸ばされ、上着の袖が甲を隠すように引かれる……。
(「あれは、打擲の跡……。細い棒きれで打たれたのか……」)
 心中の思いは秘したまま、ベベウは依頼者に尋ねた。
「さて、どのような依頼でお越しなのです?」
 依頼者の名は、ヴィクトリア・ウッズ。若くして、村の長を務めるという女性だった。その娘は、エリザベス。皆からはリズと呼ばれているという。父親は早くに亡くなり、ふたりで暮らしているとのことだった。
 会うなり自分のことを気に入ってくれたリズに、ベベウは父のない子の寂しさを感じ取っていた。リスの形をした焼き菓子に皿のうえでの宙返りを披露させ、少女に笑いを起こさせる。やや青白い顔をして疲れた感じはあったが、ヴィクトリアも感じのいい笑い声をあげた。
 打擲の主は、彼女ではないのだろうか――ベベウがそう感じた直後のことだった。家畜が放牧される丘に現れた、巨大な姿の獣について、ヴィクトリアが退治を願うと告げた瞬間、リズが金切り声をあげた。
「殺しちゃだめぇっ!」
 母の顔色も変わっていた。血の気の失せた表情となり、膝のうえに重ねられた拳が震えているのをベベウは見た。だが、ヴィクトリアは気持ちを静めたようだ。紅茶を含んだ後、ベベウに謝罪し、リズの髪を撫でる。
「この子は……あの獣が、死んでしまった飼い猫が大人になったものと信じているんです……」
「名前はなんというのです?」
「…………アルバートよ」
 と、少女は言った。真っ赤にした顔を俯かせて、エプロンドレスのリボンを指に巻きつけている。
(「父を物心もつかぬ時期に亡くし……猫もみまかってしまったか……。この娘は、大切な存在をふたつも同時に……いや、かけがえのない存在を同時に失ってしまった……。牧場に現れた山猫に重ねる面影は、きっとひとつではない……」)
 霊視を行いましょう――青年はそう言って、目蓋を閉じた。
 
「巨躯をもてあますようにして、その山猫は、人里にほど近い森に身を潜めているはずです。この獣に、悪さを行わせてはなりません。村人たちはもちろん、家畜の一匹たりとも傷つけさせてはならない」
 不可解な霊査士の言葉に、同業者たちは首を傾げるばかりだった。だが、ベベウは平然とした様子で言葉を繰る。
「倒すべき相手は、森の奥に潜んでいる。数は……おそらく百をくだりはしますまい。古の墓地より甦った亡者たちを討ち、彼らを再び永久の眠りへとつかせていただきたいのです」
 そうすれば、山猫も緑の内奥へと帰り、元の住処での誰にも知られぬ密かな暮らしを取り戻すことができるだろう。
「叶うなら、エリザベスに山猫との別れを告げさせてやりたいのです……無理なお願いでしょうか……。ヴィクトリアを苦しめる過去の想い出と、リズは決別しなければならないのです」

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参加者
剣難女難・シリュウ(a01390)
黄金の林檎姫・ルゥル(a14115)
燈導・ソエル(a16489)
桜奏・チェリート(a16606)
輝銀の胡蝶・ミク(a18077)
銀嘴の鵬雛・ギンナ(a18115)
征嵐の牙・ガリュード(a25874)
前進する想い・キュオン(a26505)
光翼の槍・ウィル(a27628)
蒼の誓剣・セレネ(a35779)
終焉の・ラスト(a42554)
紅夜に舞う漆黒の狗・ヤガミ(a42631)


<リプレイ>

●皆の思い
 くたびれた輪郭の帽子をかぶった長躯の男は、頭の周囲で波打つつばを折り曲げた人差し指で支えて、明るい紫色をした瞳の視界を確保していた。剣難女難・シリュウ(a01390)である。
(「山猫との別れですか……小さな子供にとっては辛いことです。が、悲しみを乗り越えるためにも、助けてさしあげたい……」)
 幼い頃から、泥や血糊にまみれる死地を生き場所と定めてきた彼にとって、リズという名の少女が新たな一歩を、その棒のようにほっそりとした足で踏みだすことは、掛け値なく重要なことに思えた。だが、征嵐の牙・ガリュード(a25874)は思いを胸に秘したまま沈黙を貫いている。少女に気づかせるのは、自分の役目ではないと感じていた。
 父と愛猫アルバートを失ったリズの心、その傷口からもたらされる痛みはいかほどか……黄金の林檎姫・ルゥル(a14115)は春の夜明けを思わせる、仄かに暖かく優しい微笑みを湛えていたが、その心には凍てつく疼きを秘めていた。柔らかな少女の髪に指先を這わせ、にっこりと微笑みかけると、リズは背伸びをし、小さな手でルゥルの髪を梳いてくれた。
 つぶらな薄紅の薔薇を思わせる衣をまとい、桜奏・チェリート(a16606)は襟元に巻きつけられたマフラーの、柔らかな線に白い指先を巻きつけ、リズとルゥルが織りなす優しい風景を見守っていた。冷たい風に触れられて、衣の裾からのぞいた足に視線を落とした彼女は、しゃがみこんで長靴の紐を結わえ直した。そして、そうしたときに、チェリートは気づいた。リズを見つめるヴィクトリアの、優しさに溢れた瞳の美しさと、かすれていて震える唇の不安に……。
(「山猫さんに違う面影を重ねてるのは、リズさんだけじゃないのかも、ですね……」)
 冷たい指先が絡められて、チェリートは驚いた。彼女の傍らに歩みでて、その思いに気づき、手を差しのべていたのは、蒼の舞剣・セレネ(a35779)だった。もう片方の手で、金の細工にはめられた紅玉の首飾りに触れながら、清澄なコバルトブルーの髪をしたセイレーンは、かすかに首を振った。
 そっと手を伸ばして、半白の美しいブロンドの髪を、小さな肩の線に沿って伝わらせる少女は、チェリートの手を両手で包み込むようにして取った。何故かは、輝銀の胡蝶・ミク(a18077)自身にもわからなかった。だが、チェリートの指先に力がこめられ、微笑みかけられたとき、彼女は胸を締めつけていた何かが、冬の残滓によるものではないのだと理解した。母と子を見つめて、ミクはただ想う――。
(「きっと……本当はヴィクトリアさんも……リズさんと気持ちは同じ……。大切な人を亡くした悲しみに……大人も子供も……関係はなく……。ふたりの枷を外す……私に……そのお手伝いが……できれば……」)
 
●大きなアルバートを探して
 白昼堂々と現れることに、彼自身は欠片もやぶさかではなかったのだが、その容姿はどこか雲の切れ間からのぞいた月の面を想起させるものであり、紅夜に舞う漆黒の狗・ヤガミ(a42631)の出自もまた、空に浮かぶ満ち欠けする円にまつわるものなのだった。
 朽ちた枝を踏み潰し、内部に潜んでいた虫たちにのろのろとした逃走を強いつつも、彼らは静謐と土の香りとにまみれた深い森を、心密かに楽しみながら、されど確かな足取りで歩んでいた。歌声で獣へと問いかけ、ヤガミは後方に続く仲間たちに肯いてみせる。うろから首だけを突きだした齧歯類の青年によれば、彼はこの世のものとは思えない姿を二度か三度も目にしていた。丘のように巨大な姿の、青灰色の猫を見たというのである。
 大きな円に、複数の小さな円が寄りそう――泥濘に大きな足跡を認めてからは、大きな身体をもてあますように大樹の根元に寝そべる山猫を見いだすまで、さして多くの時間は必要とならなかった。
(「リズさんとのお約束……果たさなければ……」)
 心の裡で呟いたセレネの動きは素早かった。左右の耳を互い違いに傾けて、首をもたげた山猫が立ちあがるよりも早く、村と獣との間に入りこみ、その行く手を限定した。
 つぶらな唇から白い吐息を漏らすと、ミクは意を決したように歩みはじめて、明るい光を宿す真黒の瞳で、長い尾のある獣を見つめながら、かすかにかすれた声音での問いかける歌を、あたりを過ぎる風にのせた。武器は持っていないこと、森には危険な死者たちがいること、自分の仲間たちが退治に向かっていること……。
 瞬きもせずに、山猫は怯えた様子で冒険者たちを見つめていた。後ろ足に力がこめられ、腰と尾の位置が高くなる。山猫の翡翠のような瞳には、野蛮さと高貴さと、そして、怯えだけが震えていた。
 指先から朝露のように煌めく何かをなびかせて、ルゥルは長い尾を追ったが、しなやかに樹木の合間を馳せる山猫は、粘り着く糸の端をするりとかわし、緑の内奥へと飛び込んでしまった。
 
●淡緑の木々と薄灰の人波
「それにしても、アンデッドの群れとはね。彼女たちは、ある意味においては幸運ね」
 皮膚を刻まんと差しだされた、歪な形で強張った複数の指先から、漆黒が薄い青灰色のレースによって縁取られた、華美でありながらも神秘を湛えるドレスの裾をはためかせて逃れると、その少女は古びた書物を紐解いた。
(「あのふたりは今頃どうしているのかしら。失ったモノの面影を別のモノに重ねて胸を痛める、あのふたりは――」)
 終焉呼ぶ無限の闇・ラスト(a42554)の記憶は失われていた。自身の胸が針で刺されたように痛むことに、彼女は気づいていたが、そのあまりの空虚さがあらゆる理解を瓦解させてしまう。羊皮紙の滑らかさを感じていた指先が、魔導書から離れて、黒百合の散らされた髪の一房を肩の裏側へと払う――その仕草の合間に、彼女の周囲からは無数の黒い何かが湧きあがり、蠢く灰の身体を次々と貫いていた。
 長い手足を宙に翻して、武道家の少年はまるで踊るように戦った。光の軌跡を引いた左足が、赤い天鵞絨の切れ端をまとう死者の体躯を両断した。彼が言う。
「他の子に死んだ猫を投影してしまうのは仕方ないかもしれないけど。それじゃあ、死んだ子はどうなっちゃうのかって考えないと、ね」
 湿った足音をたてながら、死者の行列は彼や仲間の元へと迫ってくる。金と銀の輪に守られた右手をちらりと見て、空翼・ソエル(a16489)は口元を綻ばせた。青空のような明るさが少年の強みであり、魅力でもあった。しなやかな鋼が振りきられたように、ソエルの足が空をさらう。また一体、亡者がその体躯から悪しき膂力を失い、永久に眠る亡骸へと帰された。
「猫は……幸せだった時代の象徴なのかもな。取り戻せば、その頃に帰れると思っている。いや、願っているのかもしれない……」
 重厚な作りのウォーランスで空を撫で斬り、その怒濤を思わせる圧力によって複数の人影を、見るも無惨な破片へと変えながら、ガリュードは呟いた。彼の口元には、まだあの自嘲気味な笑みがうっすらと残されている。血肉を渇望するかのように、黒い鉤爪の生える何十という指先が伸ばされたが、ガリュードは不愉快そうに肩を震わせるだけだった。痛みはあったが傷は浅い。リズの過去と自らの少年時代に思いを馳せながらも、ウォーランスによって彼は迷いのない軌跡を宙に刻みつけ、またしても多くの死者を葬送した。
(「……わかんねぇなぁ……」)
 目前に複数の死者が迫っているにも関わらず、玲瓏な光を帯びた双眸を細めたまま、前進する想い・キュオン(a26505)は小首を傾げていた。母と子のすれ違う思いに、彼は違和感を抱かずにはいられなかった。朽ちかけた腕が頭上へと振り下ろされたが、青年の背後から翻った闇色の外套がその行く手を阻んだ。もう一体のアンデッドが突きだした指先は、キュオンの肩を切り裂いたが、彼の掌中に精製した稲妻の力を帯びた矢の射出を遮るには到らなかった。至近距離から発せられた矢により、その亡者は胴体の中央に大きな風穴を穿たれた。
 少女のような面影を、その穏やかな顔容に浮かべる少年は、冴え冴えとした輝きを宿す白い穂先のある槍を手にしている。死者の群を発見するのは、もうこれで何度目となっていたのだろう――巫女巫女ランサー・ウィル(a27628)は翼の意匠が刻印された穂先を一瞥するなり、槍で空を一閃した。そして、言う。
「殲滅開始します」
 流れる水を思わせる速やかさと確かさで、ウィルは白い穂先を操り、波打つ軌跡を中空に記した。神々しい光の刃が新たに生えた槍は、濡れて重たい死者の銅をわけもなく両断し、土に落下した頭蓋に鈍い音をたてさせた。それは、五度も続いた。
「森を騒がす亡者どもめ! なんで墓から出てきた! おねんねするといい! つーかさせる!」
 並々ならぬ生気を惜しげも発散させて、銀嘴の鵬雛・ギンナ(a18115)の戦いぶりはまるで賑やかな市のようだった。耀う黄金の紋章を浮かべたライトストライカーを振りあげて、背伸びをした少女は、頭上で傾いていた長躯の死者の頭部を叩き潰した。葉擦れの音に気づいて、彼女は勢いよく振り返った。
 そこには、翡翠の瞳を丸まると見開いて驚愕する、山猫の顔があった。
「うお、ネコでけー!? なに食ってデカくなったんだろーな?……触ったらマズイか?……ごめ、ごめんって!」
 闘気をこめた剣によって一体の亡者を粉砕すると、ガリュードは元気な少女が知らせてくれた方角へと振り返り、優美な尾を持つ獣を見つめた。傷つけねばならないか、それとも、何かを感じてここにまでやって来たか――。次に見開かれたのは、ガリュードの瞳だった。のびやかな跳躍で肉体を躍動させた山猫が、死者の列へと飛び込み、一体の身体を真横に引き裂いてしまったのである。
 続いて亡者の群へと身を躍らせたのはルゥルだった。山猫を追い、森の内奥へと辿り着いた少女は、白銀の外套を背後に浮遊させる姿で左足を振り抜いた。灰銀の弧が宙に瞬いて消える。生への妄執を吹き消された亡骸が土に横たわっていた。
「安らかに眠ってください。もう貴方たちが苦しむことはない」
 光の翼の生えた穂先を翻し、ウィルが波濤を思わせる軌跡を宙に浮かべる。巨大な翼を思わせる影を宙に羽ばたかせて、シリュウは黒輝真剛鋼剣を振り抜いた。板の屋根に雨垂れが続くように音をたてながら、体躯を両断された亡骸たちは倒れ、森の土にまみれた。
「おねんねしてな」
 そう呟いたキュオンの千楽から放たれた矢は、魔炎の灯火に弧を描かせながら緑のあたりを横切り、灰の隊列へと飛び込んだ。膨れあがった魔炎が消えるなり、ソエルが身を躍らせる。せせらぎの飛び石を選ぶように、少年は左足だけで跳ねながら、もう片方の足での蹴りを連続させた。骨の破片となった亡骸へ、ソエルは静かな抑揚で伝えた。
「どうか安らかな眠りを得て。もう二度とここへ迷い込まないようにね」
 薄く結ばれた唇の両端に、冷酷ながらも美しい笑みを含ませ、ラストが死者に宣告する。その天へと向かう手の平のすぐ上には、滴り落ちるかのような銀の光によって構築された、輝きの槍が静止している。
「……目障りよ。速やかに地の底へと還りなさい」
 すべての死者が静謐に横たわり――あるいは、人としての輪郭を失って崩れ落ちると、件の山猫は途端に大人しくなった。セレネが眠りの歌を紡いでやると、大きなあくびを終えるなり、樹木の根本へふらふらと歩んで、そこで丸くなった。手の平に清冽な光の水面を煌めかせて、ミクは眠る獣の腹部へと水滴を垂らした。傷が洗い流されて、綿のように白い毛並みが柔らかさを取り戻す。ふかふかとした毛へと触れ、指の合間に伝わる心地よさにうっとりとしながら、チェリートはその見に穏やかな春の陽射しにも似た輝きを含ませる姿となり、古い子守歌を唇から紡いだのだった。
 眠る山猫の喉が心地いい音をたてる。無事に狩りを成功させ、腹が満たされた夢でも見ているのだろう。
 
●別れと絆
 ふたりを森の内奥へと案内したのはヤガミだった。
(「エリザベスが過去と決別するのは、強制ではなく己の意思でなければダメだろう」)
 少女に目配せをして、彼はある樹木の根本を指差した。そこには、幸せそうに眠る山猫の姿があった。
 仲間に連れられて猫の元へと向かう少女の背から、セレネは視線を母親の横顔へと移した。青白い頬をしたヴィクトリアと同じ光景――山猫におそるおそる触れる少女――を見つめながら、セレネは言った。
「子供には親しか頼る人がいないんです。でも親が悩んでいる様子を子供は敏感に感じますわ。わたくしたちは今を生きていますが、それは過去を忘れようとすることではありませんわ。辛いことを糧とすることだと思います」
 少女に対し、ギンナが得意げだ。
「リズもネコ好きなのな? なら飼ってみることをオススメする! まぁ、ギンナんトコの猫のフェアリィの可愛さにはかなわねーだろうけどな!」
 鈴のような声で笑った後、リズは猫の腹に両手を埋めた。
 ソエルは親しみを率直さで表しながら、少女に語りかけた。
「死んだ猫のことを考えなくなったら……その子は本当にどこにもいなくなるよ。それって、ただ死ぬよりも悲しいことだとは思わない?」
 少女は戸惑っていた。リズは顔をあげて、黒い帽子の影になった顔を見つめた。山猫が目覚めた場合を考え、そばにいたシリュウだった。途端に身体を硬直させた長躯の男の代わりに、ルゥルが優しくリズに語りかける。
「生きているわたしたちは、前を向いて歩いて行かなきゃいけないんだもん。いなくなってしまった人たちのこと、忘れなくていいの、心の片隅に、大事に大事に、思い出としてしまっておいて……ね?」
「隣にいる大切な人を大事にしてあげて。君にはまだ家族がいるのだから」
 少女の隣にしゃがみこんでウィルは言った。彼に続いて、それまでは静かに佇むばかりだったラストまでが口を開く。
「貴女は独りじゃないのよ、リズ。貴女には、お母さんがいるでしょう?」
(「亡くなった、お父様とアルバートちゃんが……暖かく見守ってくださっているはず……どうかふたりが、手を取り合って前に進めますように……」)
 ミクの祈りが通じたのだろうか。リズは何かに気づいたようだった。夢見るような瞳に、決然たる勇気のような光が宿ったのだ。眠る山猫から目を離し、少女は顔をあげて振り返る――。
 母を見つめる子の肩を抱いて、チェリートは小さな耳をくすぐるように魔法の言葉を贈った。
「アルバートさんをぎゅってしたらぽかぽか幸せになってたですよね? お母さんをぎゅってしてあげたら、お母さんもぎゅってしてくれるの。猫さんを守りたいと思ったよに、お母さんを守ってあげて」
 肯きもせずに、リズは駆けだしていた。
 その先には、両手を広げるヴィクトリアの姿があった。


マスター:水原曜 紹介ページ
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